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MAKERS 21世紀の産業革命が始まる
クリス・アンダーソン(著)、関 美和(翻訳)
出版社:NHK出版(2012/10/23)
Amazon.co.jp:MAKERS─21世紀の産業革命が始まる
21世紀の産業革命が始まる
『ロングテール』『フリー』はデジタルなビットの世界での出来事だった。
今、デジタル経済の何倍もあるリアルなもの作りの世界で、デジタルを動力にした新しい産業革命が始まった!
本書は、『ワイアード』US版編集長であり、ベストセラー『ロングテール』『フリー』の著者でもあるクリス・アンダーソン氏の新著で、次のパラダイムシフトを描いた一冊です。
なお著者は、ラジコン飛行機の製造キットと部品を製造販売するオープンなハードウェア企業、3Dロボティクスを立ち上げて数億ドル企業へと成長させ、自らもメイカーズを実践されおり、本書が未来の想像ではなく現実的な話として説得力を強めています。
本書は、コンサルティングファームや調査会社が大量のデータを駆使して未来を予測した話しではなく、既に起こっている事例や著者の経験を紹介しながら近未来(想定10年後)の姿を語っています。
10年後といえば、先日当サイトでもご紹介した『ワーク・シフト(WORK SHIFT)孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>』が2025年を想定しているのと時期が合い、グローバル化の中での「個人のあり方や働き方」「産業構造」と通じるものがあると感じました。
21世紀の製造業は、アイデアとラップトップさえあれば誰もが自宅で始められる。ウェブの世界で起こったツールの民主化が、もの作りの世界でも始まったのだ。
メイカーズ(モノ作る人々)の革命が、世界の産業構造を再び変える!
メイカームーブメントの特徴
1.デジタルDIY
デスクトップのデジタル工作機械を使って、モノをデザインし、試作すること。
2.それらのデザインをオンラインコミュニティで当たり前に共有し、仲間と協力する。
3.デザインファイルが標準化されること。
誰でも自分のデザインを製造業者に送り、欲しい数だけ作ってもらうことができるし、自宅でも家庭用のツールで手軽に製造できる。
モノのロングテール
- ・物質的なモノの品揃えが限られていたのは、20世紀特有のボトルネックがあったから。
ボトルネック:①大量生産に見合うこと、②大量流通に見合うこと、③消費者の目にとまること
- ・本当のウェブ革命は、豊富な品揃えから品物が選べるようになったことではなく、自分たちが自分のためにモノを製造し、それを他の人たちも利用できるようになったことにある。
- ・世界中の工場が開かれつつあり、デジタルなデザインとクレジットカードさえあれば、だれにでもウェブベースのオンデマンド製造サービスが提供されはじめた。
- ・より多くの人が、より多くの場所で、より多くの小さなニッチに注目し、より多くのイノベーションを起こす。
少量のニッチ商品を製造する企業がより多く生まれ、その企業の総和がモノ作りの世界を再形成する。
ヒトのロングテール
- ・資格や経歴を持つ人々に限らず、技能とアイデアと人助けの時間がある様々な分野の多くの人材がいる。
上司の命令よりも自分の情熱に従いたいプロ、隠れた能力を持った何かに貢献できるアマチュア。
- ・人は教育や経験にかかわらず、ウェブで能力を証明することができる。
また、グループを作り、「本業」かどうかに関係なく、企業の外で協力することが可能になる。
非公式の組織には、組織的には地理的な制約はほとんどない。
- ・ビル・ジョイの法則:いちばん優秀な奴らはたいていよそにいる。
会社は取引コストを優先しているので、最も優秀な人材とは一緒に仕事ができない。だから会社が雇える人材としか一緒に働けない。
本書の概念を、「基本的なバリューチェーン」を使って私なりに整理すると、以下の通りとなります。
基本的なバリューチェーン
デザイン・設計 ⇒ 部材調達、加工・組立 ⇒ 配送 ⇒ 小売
これまで(20世紀型)
製造メーカー
- ①市場のニーズや需要を確認し、商品をデザイン・設計する。
- ②設計に基づいて、必要な材料や部品を調達し、加工または組立をして完成品をつくる。
卸、物流
- ③製造メーカーでつくられた商品を集荷し、物流倉庫に一時保管・混載するなどして小売に配送する。
小売
- ④店頭やバックヤードの限られたスペースを考慮して、売れそうな商品を仕入れて販売する。
- ⑤消費者は、店頭に行って、並べられた商品の中から好みの商品を選んで購入する。
本書の概念(21世紀)
- ・技術が進歩し、自宅にはネットにつながれたPCの他に、高性能な3Dプリンタ、コンパクトな加工機械がある。
- ・欲しい商品が思い浮かんだら、デザイン・設計から組立(場合により加工)までの全てを自分で行うことができるようになる。
- ・この時代の産業組織モデルは、「ゆるやかに結びついた小さな部分」の周辺に築かれ、社会はより小規模に、バーチャルになる。
個人(または小規模企業やマイクロ起業家)
- ①自分の欲しい商品、またはユニークな商品アイデアが浮かぶと、自宅のPCなどで構想を描き、自宅の3Dプリンタで試作品をつり、CADで設計する。
- ②設計した商品に必要な材料や部品をつくることができる製造企業を、世界中からネットで探して発注する。
- ③自宅に届けられた材料や部品を、必要により自分で加工し、完成品として組み立てる。
- ④さらに、希望する人がいれば、販売することもできる。
ウェブ上で同じような嗜好を持つコミュニティに属した人たちが協力してアイデアを具体化し、それぞれの強みを活かして商品をつくり、世界中の人たちに販売する。
事業資金は、ロケットハブ(RocketHub)やクラウドファンダー(Croudfunder)やローンチト(Launcht)などの「クラウドファンディング」で調達する。
製造メーカーの特徴=最高のハードウェア企業+最高のソフトウェア企業
- ・核となるスキルと経験を有し、価格と品質で競争できる。
厳しい品質管理、効率的な在庫管理、サプライチェーン・マネジメント
- ・ウェブ企業のスキルを有する。
製品回りにコミュニティを育てることで、新製品をより速く、より安く、より上手くデザインできる。
- ・グローバルでオープンなサプライチェーンの中で、どんな規模の買い手にも開放し、試作品をフル生産に移すことを可能にする。
20世型から21世紀型に移行している気配
20世紀型では、
- ・規模の最大化。経済合理性を志向し、高品質の製品を大量生産する。
- ・失敗は許されないので、イノベーションのコストも上昇している。
- ・大量生産のために、大規模な工場(土地)と大量の従業員が必要であるが、人件費などの間接費を抑える必要があった。
- ・それを可能にするために、中国をはじめとする単価の安い新興国に製造企業が移っていった。
- ・その結果、新興国の製造企業の周辺には部品製造企業も隣接し、地域全体がひとつの製造ラインのような集積地なっているところもある。
- ・しかし近年は、新興国の人件費は高騰している。
輸送コストを考慮すると完成品に占める間接費の割合は、先進国で製造する場合と大きな違いはなくなってきた。
それに対し、
- ・ニッチ及び個別の小ロット商品(1万個単位の市場)となると、数量は少なく、必ずしも大きな製造設備は必要としない。
- ・さらに製造工程の多くが個人に移っていくと、調達コストやリードタイムの面で近隣に製造企業があった方が効率的である。
- ・ロボットが製造できる製品になると、人件費などが安い場所に移動するメリットは失われるし、そうした製品はますます増えてくる。
- ・製品開発面では、メイカームーブメントは安い労働力よりもイノベーションを促す文化に有利に働く。
協創やコミュニティによる開発を大切にする社会が勝つ。
- ・製造面では、オートメーションの拡大により、欧米とアジアは同じ土俵で戦うようになり、サプライチェーンにかかる間接コストの増大は調達の見直しにつながる。
ロングテール(20世紀)
- ・小売店では、商品を置くには物理的な制約がある。
- ・ネットを使えば、世界中の商品の中から、ニッチな商品でも自分が欲しい商品を探し出して、直接購入することができる。
- ・リアルの店舗では限られた商品を多く売ろうするが、ニッチな商品は個々の購入者は少ないが、商品アイテムを全て合わせると大きな市場となる。
商業的なウェブモデル
- ・参入障壁が低く、イノベーションは速く、起業家精神の高いモデル。
- ・オートメーションのおかげで、製造業に占める人件費の割合は小さくなっていく。
「デスクトップ」と「工作機械」が結びついたとき、それまで大企業のものだった製造の手段を個人が持つようになり、ビットの世界で起きてきた革命がアトムの世界で起きるのです。
本書の論調は、「もの作り大国アメリカ」の健在(復活)の道筋を説いているとも思える部分もあります。
しかし、これこそ日本の中小企業、特に製造業の「出番」だと考えます。
日本の製造業は、モノ作りにおいて高い技術を持った中小企業が多くあります。
しかし、企業の立地による制約、過去からの取り引きの中で組み込まれた下請け構造など、様々な課題を抱えている企業も少くありません。
これまで、市場環境の変化、海外企業や大企業との競合などに対しても、産業集積や企業団地、組合組織や緩やか連携(相互技術補完)などを通して、根気強く対応してきました。
本書で語られている環境が現実のものとなれば、世界の企業や個人を相手に、独自の強みを活かした製品や部品を提供することも、製造を請け負うこともできるようになります。
一方、大企業も普及品などを製造することで存続していくでしょうが、電機業界をはじめとする「単品量産モデル」のままでは、新興国企業との価格競争の中で苦戦を強いられることでしょう。
また、法規制や安全規格などを担保しなければいけない製品においては、大企業も重要な役割を担うことになると考えています。
例えば、自動車などの大型製品や、人件費の割合が比較的低い高付加価値製品、特殊製品などは、20世紀の時代から先進国でも製造されていますし、今後も変わらないのかもしれません。
余談ですが、
本書を読み進めていくうちに、子供のころを思い出しました。
本書でも事例として紹介されていますが、子供のころはレゴで独自の建物や乗り物を組み立てたり、プラモデルやラジコンでは余り部材を利用して改造したりペイントしたりして、時間を忘れて夢中になっていました。
最近では、家具などではセットを購入して自宅で組み立てる楽しみを味わうこともできますし、希望者が一定人数集まれば独自仕様の商品をつくってくれるキャンペーンなどもあります。
それが今後、様々なものを自宅で独自に設計し、必要な部材を調達して組み立てることができるようになれば、多少の追加費用を支払っても満足するのではないでしょうか。
参考
TED関連ページ
Speakers Chris Anderson (Wired): Editor-in-chief of WIRED
本書関連サイト(NHK出版)
Maker Faire、2012年12月1~2日開催、日本科学未来館(東京都江東区青海)
世界最大のDIYの祭典。家族で楽しめる、発明と創造と役に立つ情報がいっぱいの展示会であり、Makerムーブメントのお祭り。
ワーク・シフト(WORK SHIFT)孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>
リンダ・グラットン(著)、池村 千秋(翻訳)
出版社:プレジデント社(2012/7/28)
MAKERS 21世紀の産業革命が始まる
クリス・アンダーソン(著)、関 美和(翻訳)
出版社:NHK出版(2012/10/23)
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