「イノベーションの父」と呼ばれるシュンペーターの3つの主著を、他の主な経済学者との関係から概観

「イノベーションの父」と呼ばれるシュンペーターの3つの主著を、他の主な経済学者との関係から概観

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シュンペーターと主な経済学派

ヨーゼフ・アロイス・シュンペーター(1883-1950、オーストリア)は、今から100年前に「イノベーション」という概念を初めて世に問いました。

そして、「創造的破壊」「新結合」「アントレプレナー(企業者)」といった言葉も生み出し、「景気循環」や「コンドラチェフの波」をイノベーションの概念から再説明しています。

そこで、他の主な経済学者の思想との関係から、シュンペーターの3つの主著を個人的な視点から俯瞰します。

シュンペーターと他の主な経済学者

ヨーゼフ・アロイス・シュンペーター(1883-1950、オーストリア)が生まれたのは、近代経済学の父アダム・スミス(1723-1790、イギリス、古典派経済学)の亡くなって93年後の1883年です。

その年は、共産主義経済を唱えたカール・マルクス(1818-1883、ドイツ)が亡くなった年であり、マクロ経済学の創始者ジョン・メイナード・ケインズ(1883-1946、イギリス)が生まれた年です。

アダム・スミス以降の18世紀から19世紀に欠けて生産力は伸びたものの、資本主義は、恐慌や失業、貧富の差の拡大などの社会問題を引き起こしました。

そして、これらの社会問題を解決する方法として、マルクスは社会主義を、ケインズは修正資本主義を唱えました。

シュンペーターは、着目点は違うものの資本主義経済の発展を洞察し、一方アダム・スミスやケインズとは一線を置いていました。

また、マルクスとシュンペーターは、資本主義の発展を動態的に分析している点では同じですが、資本主義の本質に関しては異なります。

  • ・マルクスは、労働者を搾取することによって余剰価値を獲得しようとすることとしたのに対し、シュンペーターはイノベーションこそが資本主義の本質的な力であるとしています。
  • ・両者ともに資本主義はやがてダイナミズムを失い次の時代が来ることを予測していますが、マルクスは革命による社会主義(そして共産主義)を唱えましたが、シュンペーターは資本主義の発展形として自然に社会主義へ移行するとしています。

一方、アダム・スミスを源流とする資本主義は成功があだとなって崩壊すると予言し、ケインズの修正資本主義も一過性にすぎず、むしろ資本主義の衰退を加速させたと弾劾しています。

シュンペーターが第1の主著『経済発展の理論』(1912年)を発表した当時の経済学はミクロ経済学的アプローチが盛んでした。

古典派経済学の軌道を踏襲したアルフレッド・マーシャル(1842-1924、イギリス、新古典派経済学)に対して、コーリン・グラント・クラーク(1905-1989、イギリス)は静態論の理論構造を示し、そして静態と動態とを厳密に区別しました。

クラークは、人びと、資本、生産方法、生産組織、需要の5つの条件が一定の場合に静態的均衡が発生し、その均衡を支配する法則を考察することが静態論であるとしました。

しかし、現実の社会では5つの条件のいずれかの変動から均衡の攪乱が生じるとして、静態的均衡状態からいかに攪乱されて新しい均衡状態に移行するか、これらを研究することが動態論の対象であるとしていました。

シュンペーターの3つの主著(その背景)

シュンペーターの思想をどれかの学派に含めることは難しく、その思想は経済学の領域だけではなく、経済学史といった領域に広げていったと言えます。

シュンペーターは、処女作『理論経済の本質と主要内容』(1908年)で「均衡」を大前提としたアダム・スミス以来の経済学に異議を唱えました。

そして、第1の主著『経済発展の理論』(1912年)を発表して、イノベーションこそが進化の原動力で経済を動態的に発展させていくと説きました。

シュンペーターの経済発展の理論は、以下の3つに要約できると考えています。

  • ・経済発展は内生的な過程であり、企業者がその活動の中心的な役割を果たす。
  • ・均衡の攪乱は企業者の新結合によって引き起こされ、これが経済発展の本質を構成する。
  • ・銀行は信用創造という形で、生産手段の購入に必要な購買力を企業者に貸与する。

続いて、第2の主著『景気循環の理論』(1939年)、第3の主著『資本主義・社会主義・民主主義』(1942年)を発表し、経済発展の理論を詳細に論じています。

第2の主著『景気循環の理論』(1939年)では、経済を波動として捉えて動態的発展を長い時間軸で検証し、第3の主著『資本主義・社会主義・民主主義』(1942年)では、3つの社会経済モデルを取り上げながら新しい未来を拓く必要があることを論じています。

『経済発展の理論』を理論的なベースとして、統計的な説明と歴史的な説明を加えたものですが、その手法には多くの批判がありました。

好況・景気後退・不況・回復期といった4つの局面で景気循環を考察し、チキン循環、ジュグラー循環、コンドラチェフ循環という3種類の循環の重ね合わせとして資本主義社会の歴史を分析しました。

第3の主著『資本主義・社会主義・民主主義』(1942年)では、「資本主義はその成功ゆえに滅ぶ」としています。

それは、世界大恐慌の影響が大きく、資本主義に対する悲観的な見方が広まった時代でもありましたが、シュンペーターは企業者精神の衰退が主要因としています。

シュンペーターは、企業者は個人的な才能に負うものとしていますが、大企業が企業者の機能を組織内部に取り込むことで日常業務化し、合理的な管理が経営を機械化させてしまい、企業者が個人の才能を発揮する場が失われるというものです。

シュンペーターと他の主な経済学者の発表(1880年代~1950年代)

シュンペーターと主な経済学者の発表

シュンペーターが生きた時代は、第一次世界大戦(1914年~1918年)、世界大恐慌(1929年~1930年代半ば)、そして第二次世界大戦(1939年~1945年)があり、個々の人や国にとって激動の時代でした。

そして、政治や経済の思想にも影響することになりました。

1883年 マルクス 没
    シュンペーター(オーストリア)とケインズ(イギリス) 生

1890年 マーシャル『経済学原理』需要と供給の理論(限界費用と生産費用)

1908年 シュンペーター『理論経済の本質と主要内容』

1912年 シュンペーター『経済発展の理論』

1914年 第一次世界大戦 開戦

1918年 第一次世界大戦 終結

1921~1930年 ケインズ
1921年『確率論』、1923年『貨幣改革論』、1926年『自由放任の終わり』、1930年『貨幣論』

1929年~1930年代半ば 世界大恐慌

1933年 ハイエク『貨幣理論と景気循環』

1936年 ケインズ『雇用・利子および貨幣の一般理論』

1939年 シュンペーター『景気循環の理論』

1939年 第二次世界大戦 開戦

1941年 ハイエク『資本の純粋理論』

1941年 クラーク ペティ=クラークの法則
    (産業分類、第一次から第二次・第三次産業へと就業人口や国民所得比率がシフト)

1942年 シュンペーター『資本主義・社会主義・民主主義』

1944年 ハイエク『奴隷への道』

1945年 第二次世界大戦 終結

1946年 ケインズ 没

1948年 ハイエク『個人主義と経済秩序』

1950年 シュンペーター 没

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