シュンペーター思想を『経済発展の理論』『景気循環の理論』『資本主義・社会主義・民主主義』から整理

シュンペーター思想を『経済発展の理論』『景気循環の理論』『資本主義・社会主義・民主主義』から整理

このページ内の目次

シュンペーターの3つの主著

シュンペーターの3つの主著

シュンペーターは、処女作『理論経済の本質と主要内容』(1908年)で、「均衡」を大前提としたアダム・スミス以来の経済学に異議を唱え、静学としてのワルラス一般均衡理論の意義を解説しました。

そして、第1の主著『経済発展の理論』(1912年)では、新結合の遂行(イノベーション)こそが進化の原動力で経済を動態的に発展させていくと説き、発展のメカニズムを論じました。

第2の主著『景気循環の理論』(1939年)では、経済を波動として捉えて動態的発展を長い時間軸で検証し、第3の主著『資本主義・社会主義・民主主義』(1942年)では、3つの社会経済モデルを取り上げながら新しい未来を拓く必要があることを論じています。

そこで、シュンペーターの3つの主著をもとにして、その思想を個人的な視点から簡単に整理します。

第1の主著『経済発展の理論』(1912年)

第1の主著『経済発展の理論』(1912年)では、新結合の遂行(イノベーション)こそが進化の原動力で、経済を動態的に発展させていくと説きました。

シュンペーターの経済発展の理論は、以下の3つに要約できると考えています。

  • ・経済発展は内生的な過程であり、企業者(アントレプレナー)がその活動の中心的な役割を果たす。
  • ・均衡の攪乱は、企業者の新結合によって引き起こされ、これが経済発展の本質を構成する。
  • ・銀行家は、信用創造という形で、生産手段の購入に必要な購買力を企業者に貸与する。
新結合の遂行(イノベーションの5類型)

生産するということは、利用しうる物や力を結合することであり、生産物および生産方法の変更とは、物や力の結合を変更すことである。

旧結合から漸次に小さな歩みを通じて、連続的な対応によって新結合に到達される限りにおいては、新現象でもなければ発展でもない。

新結合が非連続的にのみ現れることで、発展に特有な現象が成立する。

新結合には、5つの類型がある。

  • ・1.新し財貨の生産(プロダクト・イノベーション)
  • ・2.新しい生産方式の導入(プロセス・イノベーション)
  • ・3.新しい販路の開拓(マーケット・イノベーション)
  • ・4.原材料あるいは半製品の新しい供給源の獲得(サプライチェーン・イノベーション)
  • ・5.新しい組織の実現(組織イノベーション)

イノベーションは技術に限定されるものではなく、事業創造を意味する、企業の自発的な営みであるとしています。

「革命」ではなく「発展」である。

  • ・イノベーションは「ゼロからの創造」ではなく、今あるものを新しく組み合わせる「新結合」である。
  • ・発展なしには企業者利潤はなく、企業者利潤なしには発展はない。

企業者によって新結合が成功されたとなると、多くの他の模倣者の出現を容易にする環境がつくり出され、結果として企業者が群生的に出現する。

新結合は冒険であって、多くの生産者にとっては不可能なものであるが、もし誰かが事業を設立してうまく運べば、生産物単価をより安価に生産することができる。

  • ・初めのうちは従来の価格で継続するため、企業者は利潤を獲得することができる。
  • ・企業者利潤は、事業経営における収入と支出との差額である。
  • ・支出とは、企業者が生産のために直接あるいは間接に費やすすべての費用である。
    企業者の固有の労働用役に対する賃金、土地に対する適当な地代、危険プレミアムである。
  • ・企業者利潤の一部は、新結合の遂行を可能にした銀行信用に対して利子として支払われる。

しかし、模倣者が増えると市場には新製品が氾濫し、新製品の価格は次第に下落し、企業者の利潤も徐々に消滅していく。

企業者の利潤は、経済の動態的発展における新結合の報酬であり、一時的に存在するものである。

企業者が新結合の主体

新結合を遂行する主体は、先見性と独走性に富み、決断力と実行力などの能力を兼ね備えた企業者(アントレプレナー)である。

完全競争的均衡状態(循環的流れの静態経済)において経常的に生産活動を営んでいる生産者は、「企業者」ではなく「単なる業主」である。

企業者は発明を把握し、新結合を通じて経済的意義を与え、新しい企業を設立することによって新結合を遂行する。

企業者は、新結合の遂行を自らの機能とし、その遂行にあたって能動的要素となるような経済主体のことである。

企業者は収穫逓減に向かってしまう状況には満足せず、新結合の遂行をもたらす。

  • ・新結合の遂行によって生産性を飛躍的に高めることができれば、投入コストあたりの生産量も増加させることができる。
  • ・収穫逓増(動態的な経済学)
    生産性を飛躍的に高めることができれば、投入コストあたりの生産量も増加させることができる(知識やネットワークなど)。
  • ・収穫逓減(静態的な経済学)
    生産量が増え続けてある点を過ぎると、逆に製品を多く作るためのコストが増大する(通常の農業や工業など)。

経済は、人間の主体的な行動によってつくり上げていくものである。

  • ・「外からの抵抗(社会環境)」と「内なる抵抗」といった「慣性の法則」を克服しなければならない。
  • ・人間の類型には、「静態的」類型と「動態的」類型がある。
    「動態的」な人間は拘束や抵抗に屈することなく、自分の信じる道を切り開くタイプで、この「行動の人」こそがイノベーションを実践するアントレプレナーである。
  • ・動態は非楽観主義の行動様式によって特徴づけられる。
    企業者が新結合を遂行する動機は、私的帝国をつくろうとする意思、勝利者意志・成功獲得意欲、創造・実現・能力発揮することへの満足である。
銀行家による信用創造

新結合を遂行するためには、貨幣あるいは貨幣代替物についての信用を求め、これによって必要な生産手段を購入しなければならない。

銀行家は、企業者が実現するであろう将来の生産物を手がかりとして、購買力を貸す。

  • ・リスクを背負う資本家から銀行を通じて「信用」を勝ち取り、この「信用」こそが企業者が未来を創造するための最大の手元になる。
  • ・資本主義経済は貨幣を必要とするが、企業者は貨幣を持っていないため銀行家からの信用貸出を受けることで事業を実現する。
  • ・銀行家が提供する信用創造という機能は極めて高度な役割で、イノベーションにとって欠くことのできない重要な役割である。

第2の主著『景気循環の理論』(1939年)

景気循環論とシュンペーターの主張

第1の主著『経済発展の理論』(1912年)では、「静態」と「動態」に基づく循環過程を理論化したうえで、企業者の存在、信用創造や企業者利潤を基にして、経済がどのように動くかを論じています。

第2の主著『景気循環の理論』(1939年)は、第1の主著『経済発展の理論』を理論ベースとして、統計的および歴史的視点から説明を加え、経済を波動として捉えて動態的発展を長い時間軸で検証しています。

好況・景気後退・不況・回復期といった4つの局面で景気循環を考察し、チキン循環・ジュグラー循環・コンドラチェフ循環という3種類の循環の重ね合わせとして資本主義社会の歴史を分析しています。

新結合の遂行が景気循環を創出

新結合は、あるときに一斉に出現する。

  • ・企業者が新結合を成功させると、模倣者が続々と現れる。
  • ・それによって、需要自体が大きく押し上げられ、ますます多くのイノベーションが生まれ、新結合は群生して世界を一変させる。

それによって、社会全体の経済活動が活性化され好況の波を生み出すが、これもやがて供給過剰状態となる。

  • ・競争が激化する結果、企業者の先行利益は減退し、市場全体の稼ぐ力も衰える(景気後退局面)。
  • ・こうして、動態的に勢いづいていた経済は静態状態に戻っていき、経済活動は沈滞から完全な無風状態に陥る。

すると、静態的な状態を打破すべく、次世代の企業者が新結合の遂行をしかけ、景気は再度好況サイクルに転換する。

経済は、攪乱されたときには均衡を取り戻そうとする(反応装置:均衡に向かおうとする経済の習性)。

  • ・均衡の攪乱:イノベーションにより、均衡状態が崩れる。
  • ・反動:「均衡の攪乱」に対して、「攪乱された均衡の回復」をもたらす力が働く。

景気循環は、チキン循環・ジュグラー循環・コンドラチェフ循環という3つの循環の波が重なり合って起こる。

  • ・チキン循環:ジョセフ・A・チキン(米)、1923年
    約3年の周期の循環(短期波動)、在庫投資のサイクル
  • ・ジュグラー循環:クレマン・ジュグラー(仏)、1860年
    約10年の周期の循環(中期波動)、設備投資のサイクル
  • ・クズネッツ循環:サイモン・クズネッツ(米)、1930年
    約20年の周期の循環、建設投資のサイクル(建設需要に起因)
  • ・コンドラチェフ循環:ニコライ・ドミートリエヴィチ・コンドラチエフ(露)、1925年
    約50年の周期の循環(長期波動)、技術革新のサイクル
コンドラチェフ循環(長期波動)の説明

イノベーションという概念によって、コンドラチェフ循環(長期波動)を説明しようと試みる。

新結合の遂行が不況という均衡状態を破り、経済を好況に向かわせる。

  • ・第1波(1780年代末から1840年代)
    蒸気機関との結合、産業革命およびその浸透
  • ・第2波(1840年代から1890年代)
    重化学工業との結合、鉄道建設・鉄鋼
  • ・第3波(1890年代から1920年代)
    石油や電力との結合、電気・化学・自動車

シュンペーターの没後

  • ・第4波(20世紀後半から21世紀)
    IOTやAIとの結合、エレクトロニクス・原子力・航空宇宙
  • ・第5波(現在)
    デジタルやバイオ技術との結合、ライフサイエンス・人口知能・ロボットなど

第3の主著『資本主義・社会主義・民主主義』(1942年)

第3の主著『資本主義・社会主義・民主主義』(1942年)では、「資本主義はその成功ゆえに滅ぶ」と説いています。

シュンペーターは、資本主義を大きな景気循環の中で考え、その循環は永遠に続くとは考えていませんでした。

「創造的破壊」の繰り返しによって資本主義が成熟していくと限界を迎え、社会主義をもたらすというものです。

また、世界大恐慌の影響が大きく、資本主義に対する悲観的な見方が広まった時代でもありましたが、シュンペーターは企業者精神の衰退が主要因としています。

企業者は個人的な才能に負うものとしていますが、大企業が企業者の機能を組織内部に取り込むことで日常業務化し、合理的な管理が経営を機械化させてしまい、企業者が個人の才能を発揮する場が失われるというものです。

さらに、以下の要因も指摘しています。

  • ・資本主義体制において政治を担っていたのは旧体制の貴族階級で、経済自由主義に好意を持ち、促進する政策をとっていた。
    しかし、資本主義の成果を享受したのは統治能力のない資本家階級で、彼らが貴族階級を没落させた。
  • ・資本主義の成功は、生活水準を向上し、教育も普及して知識階級が形成され、資本主義に敵対的・批判的になった。
資本主義崩壊の要因は官僚化

経済発展は、新たな効率的な方法が生み出されれば、同時に古い非効率的な方法は駆逐されていくという、一連の新陳代謝である。

この「創造的破壊」の過程こそが、資本主義の本質を示す事実である。

資本主義はまさに成功ゆえに、システムを支える社会制度が揺らぎ、崩壊を迫られる状況が、社会主義への移行を強く示唆する状況が「必然的」に訪れる。

資本主義の企業は、その功績によって進歩を自動化する傾向があり、結果的に自らの存在を不要にする傾向がある。

巨大装置が経済発展、特に総生産の長期的な拡大を促す最大の動力装置になり、大企業では企業者の姿が消え、企業者独自の利害関係も姿を消してしまう。

人は本能的に不確実性と危険を減らす傾向があるため、より安定を主張する社会主義国家的な思想に傾き、この傾向が国家と結びつくことによって官僚化してしまう。

そして、福祉や社会保障による保護が拡大し、企業の国有化も進められることになり、そこでは競争を生み出す企業者は追いやられる。

社会主義

  • ・中央の権威が生産手段と生産自体を管理する制度、あるいは経済問題が民間の問題ではなく、公的な領域にある制度である。
  • ・国(公共)が資本を持ち、平等主義を前提としている。
    (資本主義経済は民間が資本を持ち、市場原理と競争原理を前提としている)

民主主義

  • ・民主主義の首相は、手綱を握るだけで精一杯で先行きを自分で決められない騎手、もしくは自分の部隊を命令通りに動かくことばかりに気をとられ、戦略は場当たり的という将軍に譬えられるかもしれない。
  • ・そもそも民主主義を、正義や価値観として振りかざすべきではない。
  • ・権力獲得の過程に、競争という原理を導入するひとつの方法と見るべきである。
  • ・民主主義は、最大多数の最大幸福を追求する「功利(実利)主義」と同じく、合意形成の手段に過ぎないという割り切りが必要である。

シュンペーターの議論の背景には、社会主義国家の台頭と民主主義の没落が議論されていたようです。

シュンペーターの民主主義論は、資本主義と民主主義とを切り離し、自由や平等という理念ではなく、代表を選出する制度として定義しています。

責任感を持った伝統的な指導者階級による、国家の視点に基づく指導であると理解していたが、アメリカの民主主義は、投票獲得能力に優れた者を選出するシステムと映っていたようです。

  • ・民主主義的方法とは、政治決定に到達するために、個々人が人民の投票を獲得するための競争的闘争を行うことにより決定力を得るような制度的装置である。
  • ・古典的民主主義学説から現れる公益は存在せず、現実の有権者は公益の発見よりも消費者としての姿勢が強いため、責任感や論理的判断力、思考水準を低下させる傾向がある。
  • ・社会の種類や道徳的理想などではなく、一つの政治的方法であり、立法や行政における制度的枠組みである。
  • ・それを機能するためには、「政治家の高度な資質」「政治決断の有効範囲の限定」「官僚制の確立」「国民の民主的自制」といった条件が必要である。

ヨーゼフ・アロイス・シュンペーター(1883-1950、オーストリア)は、20世紀前半を代表する経済学者のひとりで、イノベーションの概念を初めて世に示したことで「イノベーションの父」と呼ばれています。

シュンペーターの経済発展論の核は、「新結合」と「企業者」、「銀行家による信用創造」となります。

そして、経済を波動として捉えて動態的発展を長い時間軸で検証しました。

さらに、資本主義を大きな景気循環の中で考え、その循環は永遠に続くとは考えず、「資本主義はその成功ゆえに滅ぶ」と主張しました。

「新結合の遂行(イノベーションの5類型)」や「企業者精神」、「創造的破壊は外部環境の変化ではなく企業内部のイノベーションである」など、現在の経営を考えるうえで参考になる概念を示しています。

参考:シュンペーターの3つの主著を概観(当サイト)

トップに戻る

関連記事

前へ

「イノベーションの父」と呼ばれるシュンペーターの3つの主著を、他の主な経済学者との関係から概観

次へ

ハイプ・サイクル(ガートナー)2022年版、25の先進テクノロジを3つの包括的なトレンドに分類

Page Top