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最新プラットフォーム戦略(Match makers)
The New Economics of Multisided Platforms
デヴィッド・S・エヴァンス(著)、リチャード・シュマレンジー(著)、平野敦士カール(翻訳)
出版社:朝日新聞出版(2018/5/7)
Amazon.co.jp:最新プラットフォーム戦略
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世界の時価総額ランキングトップ5に共通するのは、すべて“プラットフォーム戦略"
世界を支配する経営戦略!
関連書籍
2019年04月30日 ロール・クレア・レイエ『プラットフォーマー 勝者の法則』日本経済新聞出版社(2019/3/21)
2018年12月05日 ジェフリー・パーカー『プラットフォーム・レボリューション』ダイヤモンド社(2018/8/23)
本書は、経営学者でありビジネスアドバイザーであるデヴィッド・S・エヴァンス氏と、マサチューセッツ工科大学名誉教授のリチャード・シュマレンジー氏が、今や世界の時価総額のトップを占めているプラットフォーム企業の成功事例や失敗事例を紹介しながら、「プラットフォーム戦略をどのように構築すべきか」を具体的に解説した一冊です。
アマゾン、グーグル(ユーチューブ)、マイクロソフト、アリババ、フェイスブック、ツイッターなどの有名企業の他に、ショッピングモール、オープンテーブル(OpenTable)、Mペサ(M-Pesa)、フリートカード(Fleet Card)、アップルペイ(Apple Pay)、ブライトコーブ(Brightcove)、ネットフリックス(Netflix)などの数多くのプラットフォーム企業、中にはネット企業だけではなくリアル企業の身近な事例を紹介しながら解説されていますので、戦略内容を理解するのに役立ちます。
企業戦略を研究されている方々にとっては、マッチメイカーが世界経済を変容させ、古い業界を破壊・刷新するプロセスが明らかになり、近年のビジネスモデルの動向に関する理解が深まります。
企業で戦略を推進している経営者やリーダーの方々にとっては、「良いものをつくれば売れる」という発想からの脱却、中長期な視点からの戦略採用、他社との連携を前提とした戦略など、今後のビジネス戦略の方向性を考えていく上で大変参考になります。
本書は3つのPARTで構成されており、企業事例を示しながらプラットフォーム戦略について具体的に解説しています。
- ・PART1では、マルチサイドプラットフォームの新しい経済学を俯瞰し、古代に起源を持つビジネスモデルが現代的なテクノロジーによって加速しているのを示しています。
- ・PART2では、マッチメイカーがビジネスを構築し、起爆し、経営する上で不可欠な主要概念を掘り下げています。
- ・PART3では、今日加速したマルチサイドプラットフォームビジネスが、古い業界を破壊し、新たな業界を創造し、既存ビジネスが生き残るために自らを再定義するよう仕向ける様を解説しています。
伝統的な企業の経営理論をマッチメイカーに当てはめるという過ちの発見は、タイムリーかつ、おそらくは不可避であった。
経済学者がこのブレークスルー的発見を成し遂げた時、マッチメイカーのビジネスモデルは爆発的に広がった。
ソフトウェア、ウェブサイト、モバイルブロードバンドといったテクノロジーのマッチアップが、マッチメイカーの起業コストを下げ、そのビジネスモデルのパワーと到達距離を膨大に拡張したのだ。
しかし、マッチメイカーを真に理解しようとするなら、長きにわたって存在してきたマルチサイドプラットフォームの基本的類型を把握する必要がある。
我々を魅了するのは、今日宣伝されるあらゆる「新しい」ビジネスモデルが、過去のビジネスと顕著な共通点を持っているという点だ。
プラットフォーム戦略
プラットフォーム戦略とは、関係する企業やグループをプラットフォームという「場」にのせることにより、新しい事業のエコシステム(生態系)を構築する経営戦略です。
プラットフォーム戦略を考える際には、自らが製品やサービスをつくって売るのではなく、誰と誰をマッチングすると世の中の人は喜ぶのだろうかを考える。
- ・「何をつくって売ろうか」ではなく
- ・「どんな場をつくろうか」という発想の転換が必要である。
プラットフォーム戦略の成功と失敗の原因のひとつは、「出会うことの難しさや不便さ」であるフリクション(friction)の大きさにある。
フリクションがなければプラットフォームは成功しないし、フリクションが大きな市場であればあるほどプラットフォームが享受できる利益のパイは大きく、参加している企業への配分も大きくなり、プラットフォームはますます拡大し成功していく。
プラットフォーム戦略の最も難しい課題は、「ニワトリと卵問題」への解決である。
「魅力的な製品やサービスが多く集まるから参加者が増える」vs「参加者が多いから魅力的な製品やサービスが集まってくる」
いかに迅速に解決して、資金がショートしないうちにクリティカルマスといわれる規模に起爆・成長・維持できるかが成否を分ける。
マルチサイドプラットフォームとマッチメイカー
マルチサイドプラットフォームとは、2つ以上の異なるグループがお互いを見つけて交流するのを支援する物理的又は仮想の「場」を運営するビジネスである。
- ・従来のシングルサイドのビジネスの主眼は、いかに参加者を呼び寄せ、利益が出る条件で販売するかにあった。
- ・一方、マルチサイドプラットフォームの場合は、2かそれ以上の種類のタイプの参加者を呼び寄せ、相互に魅力的な条件で売買することを可能にすることで、そのインプットは通常参加者そのものである。
- ・マルチサイドプラットフォームは、それぞれのサイドに、別のサイドの参加者とマッチングすることで利益を得る、十分な数の参加者を確保しなければならないし、その市場は「分厚く」なければならない。
- ・但し、参加者の数を増やすだけではではなく、別の参加者からみて交流したいと思わせる上質な参加者を獲得する必要がある。
マッチメイカーとは、2つ以上の異なる種類の参加者がお互いを見つけ、お互いが便益のある交流を行うように支援するビジネスである。
マッチメイキングは、仲人ということではなく、よい取引相手を見つけるというものである。
- ・伝統的な製造業は、原材料を買い入れて製品をつくり、それを顧客に売る。
- ・しかし、マッチメイカーが扱う「原材料」とは、相互に結びつくものを助ける様々な顧客グループであり、何も買い入れるものはない。
- ・マッチメイカーがそれぞれの顧客に売る「製品」に該当するのは、他の顧客グループへのアクセス経路である。
- ・古典的な経済モデルでは、マッチメイカーが扱う各顧客グループの需要が、別の顧客グループの需要に依拠しているという事実を捉えることができない。
マッチメイカーにとっての価格設定は伝統的ビジネスよりも複雑で、全サイドのメンバーをつなぎ止め、各サイドのメンバー同士をつなげ、交流させるために、メンバーの興味関心をバランスしなければならない。
どの様なビジネスにデザインするかは、複数のグループ間の興味関心のトレードオフを考慮する必要があり、参加者間のバランスを調整する視点が必要である。
参加者の間に作用する直接/間接ネットワーク効果が増加可能となるようにデザインし、リアルとバーチャルな場を運営する。
適切なルールを設計し、参加者同士の交流について配慮していけば、ポジティブなネットワーク外部性を直接的・間接的に誘導することができる。
たった一つの印象が他の人に影響を及ぼすという「協調問題」に適切に対処し、各サイドの参加者を十分に確保していく必要がある。
解決策としての4つの戦略
新たな参加者の数が、参加を止める既存参加者の数よりも多くなる点がクリティカルマスであり、マルチサイドプラットフォームがクリティカルマスに達し、自律的に成長する段階に入ることを「起爆」と言う。
プラットフォームを使い続けたい、他の人にも合流したいと思う存在として、複数の参加者群とが均衡している点が「クリティカルマス・フロンティア」であり、そこに到達するまでの踏破する戦略を採らなければならない。
マルチプラットフォームは、クリティカルマス到達のために様々な戦略を採用し、その途上においては入念な価格戦略を維持することが必要である。
主な戦略として、「ジグザグ戦略」「ツーステップ戦略」の他に、「ナロー&ディープ戦略(狭く深く戦略)」「リアル連動」の4つがある。
そして、クリティカルマスへの動きを監視して、起爆できるようにプラットフォームのデザインを微調整し、精査していくことが必要である。
ジグザグ戦略
プラットフォームが同時に異なるサイドの参加者を増やす戦術を採るという起爆戦略である。
まず一つのグループの参加を促進し、次に別のグループに働きかけ、ポジティブなフィードバックができるようにプロセスを続ける。
実際には、全てのグループに対して同時に参加させるようにするが、その努力は一様ではなく相対的になる。
ツーステップ戦略
重要な一つのグループの参加を確保した後に、最初のグループにアクセスできることを誘因に、他のグループの参加を確保する起爆戦略である。
この戦略は、広告収入型のプラットフォームでうまく機能する。
人々の注目を集めるために様々なコンテンツをエサとして利用し、十分な注目を集めることができたら既に高度に完成した広告市場に向けて売る。
従来「常識」と思われていた理論の誤り
「ネットワーク効果」「ウィナーテイクスオール(勝者総取り)」「ファーストムーバ―アドバンテージ(先行者利益)」といった従来「常識」と思われていた理論は、マルチサイドの世界においては誤りであることを指摘しています。
1970年代初頭に「ネットワーク効果」が注目され、そして「ファーストムーバ―アドバンテージ」への言及は1990年代初頭に急増し、1995年を境に爆発的な増加を見せたとしています。
「ネットワーク効果」で、最初のスタートで頭ひとつ抜ければ市場シェア競争の勝者となり、「先行者利益」を得ることができ、結果として「勝者が総取りする」ことになるという理論です。
そのため、ネットワーク効果による大きな規模は魅力的であり、一人勝ちするためには早くスタートして、リードすることが必要であることとしていました。
しかし、この理論は、一種類(ワンサイド)の顧客を想定するシンプルな市場では成り立つかもしれないが、複数の異なる顧客群を扱う複雑なマルチサイドの世界においては成り立たないとしています。
直接ネットワーク効果と間接ネットワーク効果
直接ネットワーク効果とは、あるネットワークにおいて、グループに新しい参加者を受け入れた際の影響のこと。
より多くの参加者がネットワークに接続することにより、リーチや相互交流がしやすくなり、同じグループの既存の参加者にとって価値が高くなり、正の直接ネットワーク効果が発生する。
間接ネットワーク効果とは、あるタイプの参加者がネットワークに加わることで、別のタイプの参加者に影響を与えること。
ポジティブな間接ネットワーク効果は別のタイプの参加者が受ける価値を高め、ネガティブな間接ネットワーク効果は価値を減らす。
マッチメイカーが一つの顧客グループに提供する価値が、異なる顧客グループのメンバー数に依存する時、ネットワーク効果は間接的となる。
例えば、ソニーのベータ規格と他企業軍のVHS規格の争いで、VHS規格が勝利した勝因は、
- ・より多くのユーザを獲得したことではなく
- ・消費者とコンテンツプロバイダーの両方を獲得できたことにあるとしています。
消費者はVHS規格のビデオデッキを購入し、コンテンツプロバイダーは見合うソフトを提供するといった、補完的、間接的ネットワーク効果が働いたことによります。
なお、間接ネットワーク効果の及ぶ程度は業界によって異なり、多くのマッチメイカー型ビジネスにおいては、参加者はプラットフォームを容易に変更できます。
マッチメイカーとマルチサイドプラットフォームの質問
マッチメイカーの起業家に対する6つの質問
1.フリクション(出会うことの難しさや不便さ)は何か、どのくらい大きいか、解決することで誰が得をするか?
2.プラットフォームのデザインはフリクションを減らすか、全サイドの参加者の関心のバランスは良いか?
他の新規加入者よりも良いか?
3.起爆問題はどのくらい難しいか?
起業家はクリティカルマスを達成する手堅い計画を持っているか?
4.プラットフォームが起爆点にたどり着き、成長してお金を生み出すような価格か?
5.マッチメイカーは、より広いエコシステムの他の人とどの様に協調するか?
関連するリスクに直面するか?リスクがあればうまく対処できるか?
6.起業家はマーケットの反応に応じて、素早くデザインや起爆戦略を修正する準備ができているか?
どのようにしてマルチサイドプラットフォームが動いているか
1.誰がプラットフォームに参加しているのか、どの様にして価値をつくり出しているか?
2.プラットフォームは、参加者間での交流を促すために、どの様に設計されているのか?
3.参加者のバランスを取るために、どの様に価格を設定しているか?
4.プラットフォームは、助長サイドを持っているのか?
5.ルールや基準を設定しているのか、それらはプラットフォームの価値創造に影響しているのか?
6.プラットフォームは、価値を届ける力を高めるために、まわりのエコシステム全体をどの様に活用しているか?
25年前、マルチサイドプラットフォームは経済において重要なプレイヤーだった。
しかし中心にはいなかった。
ビジネスを研究する人、実行する人誰もがこの特殊なビジネスモデルについて深い知見を持っていなかった。
しかし、それは終わった。
マッチメイカーは多くの先進国経済においてきわめて重要な参加者だ。そして多くの開発途上国で成長を促進している。
また、電気や電報のように、来たる数十年の間産業を襲う創造的破壊の嵐の背後に存在するのだ。少なくとも。
まとめ(私見)
本書は、マルチサイドプラットフォームの新しい経済理論、伝統的なビジネスとの相違点、成功したビジネスが行っている戦略など、多くのケースを例示しながら解説しています。
特に、プラットフォーム戦略の成功と失敗、成功させるための取組みについては、大変参考になります。
さらに、伝統的な企業の経営理論では現在のプラットフォーム戦略に適用することができないことを指摘し、プラットフォーム戦略をどの様に構築していくべきかを理論的に記述していますので、一読をお薦めします。
かつて日本企業は、取引先の要求に柔軟に応え、品質を高めることで「強み」を発揮し、グローバルへも展開してきました。
そこには、「系列」や「自前主義」、長年を経て独自に最適化された産業構造が根底にあり、そのことが、仕事のやり方を変革し、他社と連携した新たなビジネスモデルを構築していく際に、場合によっては足かせになってしまっているのかもしれません。
また、変革しようとしても、社内や取引先の理解が得られない、失敗を恐れるなど、経営側が躊躇している状況も垣間見えます。
そのような状況の中で、本書に出てくる米国企業に加え、独特の国家情勢を背景にした中国企業が、プラットフォーム戦略で急激に伸び、世界の時価総額企業の上位を占めるようになってきました。
本書では、「6つのターボ化テクノロジー」により、コスト削減、スピード加速、接続領域の拡大が、マッチメイカービジネスにイノベーションをもたらしたとしています。
また、マッチメイカーは最近のものではなく、紀元前300年ごろのアテネの両替商、現代のシッピングモールや情報誌とも共通性があるとしています。
そして近年、多くの製品やサービスがモジュール型(組み合せ型)のアプローチに移行してきたことが、プラットフォームを加速した要因のひとつであると考えています。
日本企業は、インテグラル型(すり合わせ型)のアプローチで、高品質・高付加価値を実現して競争力をつけてきましたので、今後の戦略の方向性がカギを握ることになりそうです。
日本は歴史の中でも「場」をつくることには長けているし、日本企業の実力からすると、経営者が適切に舵取りをしていければ、決して負けることはないと信じています。
目次
PART 1 経済学とテクノロジー
第1章 8時に4人の席を
~マッチメイカーはいかにしてレストラン予約のフリクションを取り除いたか
第2章 「とにかく多くの人にリーチ」の誤謬
第3章 ターボ化
~マッチメイカーを爆発的に成長させたテクノロジー
第4章 フリクションの戦士たち
~マルチサイドプラットフォームはいかにして取引コストを発見・低減することで価値を創造するか
PART2 マッチメイカーの構築、起爆、運営
第5章 起爆か、不発か
第6章 長距離輸送~価格バランスが導く価値と収益
第7章 城壁を超えて~プラットフォームとエコシステム
第8章 インテリアデザイン
~活動と価値を最大化するプラットフォームの構築
第9章 偽物と詐欺師
~プラットフォーム参加者の悪い行動を統治する
第10章 消える か 燃えるか
PART3 創造、破壊、変革
第11章 現金の移動
第12章 行方不明
第13章 考えているより遅く早く
参考
関係する書籍
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プラットフォーム革命
経済を支配するビジネスモデルはどう機能し、どう作られるのかアレックス・モザド、ニコラス・L・ジョンソン(著)、藤原朝子(翻訳)
出版社:英治出版(2018/2/7)
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最新プラットフォーム戦略(Match makers)
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最新プラットフォーム戦略(Match makers)
デヴィッド・S・エヴァンス(著)、リチャード・シュマレンジー(著)、平野敦士カール(翻訳)
出版社:朝日新聞出版(2018/5/7)
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