書籍 コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略 | フィリップ・コトラー

書籍 コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略 | フィリップ・コトラー

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コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略

フィリップ・コトラー(著)、ヘルマワン・カルタジャヤ(著)、イワン・セティアワン(著)、恩藏直人(監修)
出版社:朝日新聞出版 (2022/4/20)
Amazon.co.jp:コトラーのマーケティング5.0

  • 大変革期の今こそ「5.0」の出番だ!

    「3.0」の人間中心の原則を「4.0」の5Aモデルに基づきテクノロジーの力で実現させる最新戦略の書。

本書は、フィリップ・コトラー名誉教授らが、コロナ禍で急速に進んだデジタル化に対応するためのマーケティング戦略を伝授した一冊です。

製品中心の「マーケティング1.0」と消費者志向の「マーケティング2.0」に続き、「マーケティング3.0」の人間中心という要素と「マーケティング4.0」のテクノロジーによるエンパワーメントという要素を含んだものを「マーケティング5.0」として、近年の先進テクノロジーを活用したマーケティングの方向性を論じています。

デジタル空間、リアル社会、そのいずれもで顧客体験の満足度を上げていくにはどうすればよいのかを具体的に示していますので、マーケターの方々が、人間の知能と先進(デジタル)技術の力とのバランスのとれた共生に基づいたマーケティング戦略を立案していくうえで大変参考になります。

本書は4部12章で構成されており、先進テクノロジーの支援を受けた人間中心のマーケティングを実現していくための新戦略と新戦術を提言しています。

第1部は、テクノロジーとマーケティングとの関りを整理しています。

  • ・第1章では、マーケティング1.0から3.0、そして4.0の特徴を示したうえで、マーケティング5.0を定義し、構成する五つの要素の全体像と関連性を解説しています。

第2部は、デジタル世界でマーケターが直面する三つの課題をあげ、それぞれの課題に対するマーケティングのあり方を示しています。

  • ・第2章は一つ目の課題「世代間ギャップ」で、五つの世代の特徴やライフステージを紹介しながら、マーケティングとの関係について整理しています。
  • ・第3章は二つ目の課題「富の二極化」で、雇用・思想・ライフスタイル・市場といった二極化した社会の現状を紐解いたうえで、包摂的でサステナブルなマーケティングの重要性を説いています。
  • ・第4章は三つ目の課題「デジタル・ディバイド」で、デジタル・ディバイドは依然存在しているとして、デジタルの危険性と可能性を整理し、マーケティング5.0における企業が取り組むべき方向性を示しています。

第3部は、企業がマーケティング5.0を展開するに当って留意すべき事項を整理し、テクノロジーの支援を受けたマーケティングの新戦略を示しています。

  • ・第5章では、COVID-19の影響に加え、産業別のデジタル化準備度を4象限で示し、顧客をデジタル・チャネルに移行させる戦略、デジタルリーダーシップを強化する戦略について詳細に解説しています。
  • ・第6章では、先進的なテクノロジーが成熟してきたなかで、AI(人工知能)、NLP(自然言語処理)、センサー技術、ロボティクス、MR(複合現実)、IoTとブロックチェーンの六つのネクスト・テクノロジーをマーケティングに応用することの重要性を説いています。
  • ・第7章では、認知・訴求・調査・行動・推奨の5Aから成るカスタマー・ジャーニーにおいて、さまざまなタッチポイントで人間とマシンが補完し合った、新しい顧客体験を提案しています。

第4部は、マーケティング5.0の五つの構成要素(二つの「規律」と三つの「アプリケーション」)について、それぞれ章を独立して詳細に解説しています。

  • ・第8章は規律の一つ目「データドリブン・マーケティング」で、ビッグデータの登場はセグメンテーションとターゲティングの様相を一変させたとして、データドリブン・マーケティングの重要性を説き、その構築ステップを示しています。
  • ・第9章はアプリケーションの一つ目「予測マーケティング」で、マーケティング活動結果を予測することによって先手を打つことができるとして、顧客・製品・ブランドの管理への応用を紹介し、回帰分析、協調フィルタリング、ニューラル・ネットワークを使用した予測マーケティング・モデルの構築を解説しています。
  • ・第10章はアプリケーションの二つ目「コンテクスチュアル・マーケティング」で、IoTやAIなどは長期的には人間の状況認識を再現することになるとして、そのメカニズムを明らかにしたうえで、カスタムメイドのマーケティングを実行する三段階を解説しています。
  • ・第11章はアプリケーションの三つ目「拡張マーケティング」で、顧客が企業とコミュニケーションをとる方法である顧客インターフェースを示し、デジタル技術を使ってどのようにして現場に力を与えるべきかを説いています。
  • ・第12章は規律の二つ目「アジャイル・マーケティング」で、製品ライフサイクルの短縮に伴って顧客体験も短期間化する状況において、顧客の変化に対する企業の俊敏性が重要になってくることを示し、その構築ステップを解説しています。

われわれは本書で、マーケティング5.0を高次の戦略的視点から探求する。

高度なマーテックを利用するノウハウをある程度取り上げはするが、本書は技術書ではない。

われわれの基本理念は、「技術は戦略に従うべきだ」である。

したがって、マーケティング5.0のコンセプトはツールを問わない。

企業は市場で入手できるいかなる支援ハードウェアや支援ソフトウェアを使ってでも、マーケティング5.0を実行できる。

ただし、それらの企業には、さまざまなマーケティング上の使用例に適切な技術を使う戦略をどのように設計すべきかを理解しているマーケターが存在していなければならない。

マーケティング5.0

マーケティング5.0

『コトラーのマーケティング5.0』を参考にしてATY-Japanで作成

マーケティング5.0とは、人間を模倣した技術を使って、カスタマー・ジャーニーの全行程で価値を生み出し、伝え、提供し、高めることである。

カスタマー・ジャーニーの全行程のうち、マシンと人間はそれぞれどこに適していて、どこで最大の価値を提供できるかを明らかにすることを中心に展開される。

マーケティング3.0の人間中心という要素とマーケティング4.0のテクノロジーによるエンパワーメント(力の付与)という要素の両方を含んでいる。

世代間ギャップ、富の二極化、デジタル・ディバイドという三つの課題を背景に登場する。

  • ・世代間ギャップ
    五つの世代が存在し、決定を下す年配層と若い管理職や顧客との間でデジタルへの精通が断絶している。
    ベビーブーム世代:1946年から1964年生まれ
    X世代:1965年から1980年生まれ
    Y世代:1981年から1996年生まれ
    Z世代:1997年から2009年生まれ
    アルファ世代:2010年から2025年生まれ
  • ・富の二極化
    慢性的な不平等と不均衡な配分という、市場が二極化してきているなかで、上流層か下流層のどちらかにターゲットを移さざるを得なくなってきている。
  • ・デジタル・ディバイド
    デジタル化がもたらす可能性を信じている人びとそうでない人びととのデジタル・ディバイドは依然として存在している。

マーケターの能力を模倣することを目指したネクスト・テクノロジーがあり、それらの組み合わせがマーケティング5.0の現実を可能にする要因となる。

ネクスト・テクノロジー
AI(人工知能)、NLP(自然言語処理)、センサー技術、ロボティクス、MR(複合現実、AR:拡張現実、VR:仮想現実)、IoTとブロックチェーン

テクノロジーはマーケティングを強化する。

  • ・ビッグデータを使って、より情報に基づいた決定を下す。
  • ・マーケティング戦略・戦術の結果を予測する。
  • ・文脈に合ったデジタル体験を物理的世界に持ち込む。
  • ・現場のマーケターの価値提供能力を拡張する。
  • ・マーケティングの実行をスピードアップする。

Z世代とアルファ世代の登場でマーケティングはもう一度進化するときであり、マーケターは人間の生活を高めるためにネクスト・テクノロジーを導入し続ける必要がある。

  • ・人類にプラスの変化をもたらし、人間の生活の質を向上させる。
  • ・人間の生活のあらゆる面で技術の進歩をさらに推し進める。

マーケティング5.0の時代には、Z世代とアルファ世代の信頼を得られる企業が競争に打ち勝つことができる。

  • ・次の10年には、X世代が、マーケティングの世界でリーダー的ポジションを占めるようになる。
    X世代は、さまざまなライフステージでマーケティング1.0から4.0を採用してきた唯一の世代である。
  • ・Y世代の中間管理職に支えられて、X世代はZ世代とアルファ世代に対応するマーケティング戦略の先頭に立つ世代になる。
五つの構成要素

マーケティング5.0は、相互に関連した三つの「アプロケーション」を軸にしているが、これらの使い方は組織の二つの「規律」をベースにしている。

三つのアプリケーションを実行するためには、企業は「データドリブン能力」を構築することから始める必要があり、実行の成功を左右するのは実行する際の「組織の俊敏性」である。

規律1.データドリブン・マーケティング

  • ・企業内外のさまざまな情報源からデータを集めて分析する。
  • ・マーケティング決定を促進し、最適化するためにデータエコシステムを構築する。

規律2.アジャイル・マーケティング

  • ・分散型、部署横断型のチームを使って、製品やマーケティング・キャンペーンのコンセプトをつくり、設計、開発、検証を迅速に行う。
  • ・マーケティング5.0の実行を成功させるためには、絶えず変化している市場に対処するための組織の俊敏性を習得しなければならない。

アプロケーション1.予測マーケティング

  • ・機械学習機能を備えた予測分析ツールを構築、使用するなどして、マーケティング活動の結果を開始前に予測するプロセスである。
  • ・企業は、市場がどのように反応するかを予測し、先手を打って市場に働きかけることができる。

アプロケーション2.コンテクスチュアル・マーケティング

  • ・顧客を識別し、プロファイリングしたうえで、物理的空間でセンサーやデジタル・インターフェースを活用して、顧客にパーソナライズしたインタラクションを提供する。
  • ・マーケターが顧客の状況に応じて、リアルタイムでワン・トゥ・ワン・マーケティングを行えるようにすることができる。

アプロケーション3.拡張マーケティング

  • ・顧客に対するマーケターの生産性向上のために、チャットボットやバーチャル店員など、人間を模倣した技術を利用する。
  • ・デジタル・インターフェースのスピードと利便性を、人間中心のタッチポイントの温かみや共感と合体させることができる。

マーケティングの進化

マーケティングの進化

『コトラーのマーケティング5.0』を参考にしてATY-Japanで作成

マーケティング1.0:1950~70年代

  • ・製品中心のマーケティング
  • ・主として裕福なベビーブーム世代とその親たちへの対応
  • ・主な目的:顧客のマインド内で最高の価値をつくり出す、完璧な製品・サービスを創出(顧客満足)
  • ・製品開発とライフサイクル管理、4P(製品、価格、流通、プロモーション)

マーケティング2.0:1980~2000年代

  • ・顧客中心のマーケティング
  • ・後期ベビーブーム世代とX世代の節約姿勢
  • ・セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングを理解することを軸に展開
  • ・顧客との長期的なリレーションシップ構築(顧客満足から顧客維持へ移行)

マーケティング3.0:2000~20年代

  • ・人間中心のマーケティング
  • ・Y世代:プラスの社会的・環境的影響をもたらす製品やサービスや文化を生み出すよう要求への対応
  • ・倫理的で、社会的責任を果たすマーケティング慣行をビジネスモデルへ組み込み

マーケティング4.0:2010年代以降

  • ・デジタル世界におけるマーケティング、デジタル化が人間中心へ加速
  • ・デジタル経済に引き寄せられたY世代(ある程度のZ世代)
  • ・オムニ・チャネル・アプローチ
    カスタマージャーニーの全行程でハイブリッドのタッチポイント

マーケティング5.0は、マーケティング3.0の人間中心という原則とマーケティング4.0のテクノロジーの力を踏まえたものである。

全体的な顧客体験の中で価値を生み出し、伝え、提供し、高めるために、人間を模倣した技術を活用することと定義される。

マーケティング5.0は、カスタマー・ジャーニーマップを作成し、マーケティング・テクノロジーがどこで価値を加えて、マーケターのパフォーマンスを高めることができるかを特定することから始まる。

まとめ(私見)

本書は、「マーケティング3.0」の人間中心という要素と「マーケティング4.0」のテクノロジーによるエンパワーメント(力の付与)という要素の両方を含んだものを「マーケティング5.0」として、これからのマーケティング戦略の方向を示した一冊です。

先進的なテクノロジーを有効活用してカスタマー・ジャーニーの全行程で価値を生み出すために、マシンと人間はそれぞれどこに適していて、どこで最大の価値を提供できるかを考えていくうえでのガイドとなります。

そして、五つの世代の特徴に加え、マーケティング1.0から4.0との関係についてもわかりやすく整理していますので、マーケティングの歴史や今後の動向について理解することができます。

本書では、デジタル世界で直面する課題として、世代間ギャップ、富の二極化、デジタル・ディバイドの現状を示し、その対応策をマーケティング視点から紐解いています。

そして、テクノロジー支援マーケティングのための新戦略を示し、マーケティング・テクノロジーを活用した新戦術として、マーケティング5.0の五つの構成要素について具体的に解説しています。

本書で紹介しているネクスト・テクノロジーは、AI(人工知能)、NLP(自然言語処理)、センサー技術、ロボティクス、MR(複合現実、AR:拡張現実、VR:仮想現実)、IoTとブロックチェーンをあげていますが、すでにマーケティングで活用、または顧客として利用したこともあるかもしれませんし、活用シーンをある程度想像できるかもしれません。

これらのネクスト・テクノロジーをマーケティングに応用することで、5Aからなるカスタマー・ジャーニーにおいて新たな顧客体験を生み出していけるのかを、マーケティング理論に結びつけて具体的に示しています。

原著『Marketing 5.0 Technology for Humanity』が出版されたのは2021年2月ですが、あげているネクスト・テクノロジーは、現在は実用段階になりつつ、これから本格化していくと想定されますので、マーケティング戦略を考えていくうえでのガイドになります。

なお、マーケティング5.0を推し進めていくうえでは、まずはデータドリブンでなければならず、市場の変化に迅速に対応していくためにはアジャイル(俊敏性)が必要であるとしています。

このデータドリブンとアジャイルは、マーケティング5.0の五つの構成要素のうちの規律であり、残りの三つのアプロケーション(予測、コンテクスチュアル、拡張)を使いこなしていくうえで欠かせない要素となっています。

デジタル・トランスフォーメーション(DX)においてもデータドリブンやアジャイルの重要性は言われていますが、本書はデジタル技術をマーケティング思考や計画および実践に結びつけています。

そして、一貫した本書の主張は、「技術は戦略に従うべきであり、人間とマシンはそれぞれの得意分野を補完し合う関係で、心からのつながりを築くことができるのはマシンは人間に取って変わることはできない」ということだと思います。

デジタル技術はますます進化し、人間を模倣するような領域までくるのかもしれません。

デジタル技術を適切に活用すれば、顧客とのタッチポイントの中で今まで以上の高品質な対応もできるし、新たなサービス創出や業務効率化もできるはずです。

しかも、顧客単位で個別の対応、セグメント・オブ・ワンも実現できるかもしれません。

そのためには、人間とマシンとの役割を理解した適切な分担、デジタルから得られるデータの迅速な分析と判断など、それらを実現するマーケティング戦略を立案し、実行することが必要です。

本書は、先進的なデジタル技術を有効活用して、人間中心のマーケティングを実行していくうえでのガイドとなる一冊です。

目次

第1部 序論

第1章 マーケティング5.0へようこそ
   人間のためのテクノロジー

第2部 デジタル世界でマーケターが直面する課題

第2章 世代間ギャップ
   ベビーブーム世代とX、Y、Z及びアルファの各世代に対するマーケティング

第3章 富の二極化
   社会のために包摂性とサステナビリティを生み出す

第4章 デジタル・ディバイド
   テクノロジーをパーソナルに、ソーシャルに、そしてエクスペリエンシャルにする

第3部 テクノロジー支援マーケティングのための新戦略

第5章 デジタル化への準備度が高い組織
   すべての組織に合う戦略はない

第6章 ネクスト・テクノロジー
   人間のようなテクノロジーが離陸する時だ

第7章 新しい顧客体験
   マシンはクルーだが人間は温かい

第4部 マーケティング・テクノロジー活用の新戦術

第8章 データドリブン・マーケティング
   よりよいターゲティングのためにデータエコシステムを構築する

第9章 予測マーケティング
   先を見越した行動で市場需要を予測する

第10章 コンテクスチュアル・マーケティング
   パーソナライズされた感覚体験をつくる

第11章 拡張マーケティング
   テクノロジーを活用したヒューマン・インタラクションを提供する

第12章 アジャイル・マーケティング
   迅速かつ大規模に業務を実行する

解説 早稲田大学商学学術院教授 恩藏直人

参考

書籍:コトラーのマーケティング5.0 朝日新聞出版

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    出版社:朝日新聞出版(2020/4/20)
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    フィリップ・コトラー、ヘルマワン・カルタジャヤ、イワン・セティアワン(著)、恩藏直人(監修)、藤井清美 (翻訳)
    出版社:朝日新聞出版(2017/8/21)
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