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儲けの科学 The B2B Marketing
庭山 一郎(著)
出版社:日経BP (2024/3/15)
Amazon.co.jp:儲けの科学 The B2B Marketing
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売れるサービスを開発し、営業生産性を劇的に引き上げたオーケストレーションの技法
物語を読むようにB2Bマーケティングの全体像が学べる1冊
関連書籍
2024年11月06日 川上 エリカ『レベニューオペレーション(RevOps)の教科書』翔泳社 (2024/9/25)
2024年06月25日 今井 晶也『The Intelligent Sales』翔泳社 (2024/4/25)
本書は、データベースマーケティングのコンサルティングやインターネット事業など数多くのマーケティングプロジェクトを手がけている著者が、マーケティングとセールスの生産性を上げる方法を「儲けの科学」として、B2B企業のマーケティング強化策について具体的に解説した一冊です。
現在求められているマーケティングとセールスの全体像を俯瞰していますので、マーケティング部門や営業部門だけでなく経営層の方々にとって、B2Bにおけるマーケティング戦略を構築し、全社で連携し、売上に貢献できるように組み立て直すうえで大変参考になります。
本書は5部18章で構成しており、マーケティングとセールスで構成される「売り上げをつくる」仕組みを網羅的に、具体的に、わかりやすく解説しています。
第1部では、日本のB2Bマーケティングの現状を俯瞰しています。
- ・B2Bマーケティングにおいては、テクノロジーや学問的な「科学」と、表現をつかさどるクリエイティブな世界の「感性」とのバランスが重要であるとして、業績とマーケティングの関係、組織構造の「縦糸」に加えたマーケティングの「横糸」を経営者が認識することの重要性を説いています。
- ・日本企業は、オペレーション(部分最適)は強いが戦略が欠落しているとして、B2Bマーケティングの基本的なフレームワークやプロダクトポートフォーリオマネジメント(PPM)を紹介しています。
- ・勝てる市場を定義してフィットさせることが重要であるとして、マーケティング活動の基準となるSTP(Segmentation:市場の細分化、Targeting:勝てる市場の定義、Positioning:どの面に当ててポジションを摂るか)を紹介しています。
第2部では、日本企業が3つの革命に乗り遅れた実態を示しています。
- ・B2Bマーケティングの歴史を紐解いたうえで、日本企業はパイプラインでのマネジメント「デマンド革命」と、MA(Marketing Automation)といった「マーケティングテクノロジー革命」の2つの革命に乗り遅れ、今や「ジェネレーティブAI革命」にも乗り遅れようとしている実態を明らかにしています。
- ・日本企業が弱いのはマーケティングだけであるとして、ものづくり部門・マーケティング部門・営業部門の連携が急務であり、そのマーケティング・オーケストレーションを指揮するのがCMO(Chief Marketing Officer)であり、マーケティング戦略を構築し、その活動を連携して売上に貢献できるように組み立て直すことを提言しています。
- ・日本のMAは能力の5%しか使われていないという実態を明らかにしたうえで、向上のためには3S(Strategy:戦略、Structure:組織、System:システム)を理解することが大前提であることを提言しています。
第3部では、営業をリスペクトして、フロントラインを再構築する方法を示しています。
- ・営業の生産性の構造を明らかにし、生産性を上げるための方法として、世界標準となっている「売り上げの4分割」、モノ売りからコト売りへの転換方法、営業パーソンや組織を強化・改善すること(セールスイネーブルメント)について解説しています。
- ・日本のものづくりは市場を見ていないと警告し、「顧客にどんな価値を提供しているのか」という広義のMD(マーチャンダイジング)思考の必要性を明らかにして、PMF(Product Market Fit)という概念とそれを実現する「ホールプロダクト」というアプローチを紹介しています。
- ・著者が使用している「ホールファネル」を紹介し、販売の生産性を上げるための方程式と管理指標を詳細に解説しています。
第4部では、B2B企業が投資すべきマーケティングナレッジについて解説しています。
- ・B2Bマーケティングの全体像を表す「Dov-STP-M-D」を詳細に解説しています。
Dov(Definition of Value:価値の定義・再定義、STP(Segmentation:市場の細分化・Targeting:勝てる市場の定義・Positioning:どの面を当ててポジションを摂るか)、M(Marketing Mix:提供側視点の4Pと顧客側視点の4C)、D(Demand Generation:デマンドセンター)
- ・B2Bの本流となった経営戦略のABM(Account Based Marketing)を詳細に解説し、最近使われている4つの「ABX」の「X」部分が何を指すのかを紐解いています。
- ・販売代理店活用のノウハウであるPRM(Partner Relationship Management)の6要素について解説し、日本と世界の代理店戦略の違いを示したうえで、日本企業が大至急取り組むべきであることを提言しています。
第5部では、マーケティング・オーケストレーションを戦略の柱にするための方法を示しています。
- ・マーケティング偏差値が全社的に大切な理由を示し、マーケティングレベルを偏差値でチェックして上げるヒントとなる、偏差値60以上の企業の「展示会選定会議」や「来期の事業部予算会議」の様子(会話)を詳細に紹介しています。
- ・B2B企業においてマーケティングがうまく機能していない要因の一つは人と組織の問題にあるとして、CMOのミッションと5つのジョブ定義を明らかにし、SRO(Chief Revenue Officer:最高収益責任者)への統合を提言しています。
- ・マーケティング部門を新設する際や社内から人選する際の注意点、一流マーケターのキャリアパスを示し、たどり着いた答えとして「マーケティング・オーケストレーション」という経営戦略を紹介しています。
マーケティングは戦略であり、企業文化であり、科学です。
小手先のテクニックでも、広告キャンペーンでも、単なるブランディングでもありません。
企業の中心にしっかり据えて「ナレッジ」と「人材」に継続して投資すべきものです。
マーケティングが強い企業に進化するためには、マーケティング部門だけでなく、経営層、営業部門、ものづくり部門がマーケティングの基礎を学び、共通言語としてしなければなりません。
これが理解されていことが原因で、マーケティングに取り組んだ多くの日本企業が行き詰まっています。
私は、日本のB2B企業が元気になる唯一の道は、全体最適の「マーケティング・オーケストレーション」に取り組むことだと考えています。
B2Bマーケティング
マーケティングとは、市場とその中の顧客を創造し、顧客との関係を維持し、拡大することである。
マーケティングの本質は市場とのコミュニケーション(会話)であり、ダイアローグ(対話)である。
B2Bマーケティングは、テクノロジーや学問的な「科学」と、表現をつかさどるクリエイティブな世界の「感性」でできている。
- ・B2Bマーケティングは、科学70%:感性30%のバランスで、B2Cマーケティングはそれが逆である。
- ・B2Cマーケティングは、少し「感性」に寄っていて、感性は心に訴える。
B2B企業の場合、何かを購入したり採用したりするのは、目的ではなく手段である。
- ・B2Cでは、購入や所有が目的になる場合が多い。
- ・B2Bの場合は、稟議でロジカルに経済合理性を説明する必要があるため、購入や保有は目的にはならないし、最初に企業の課題やリスクがある。
B2B分野のマーケティング手法のABM(Account Based Marketing)とは、全社の顧客情報を統合し、マーケティングと営業の連携によって、定義されたターゲットアカウントからの売り上げ最大化を目指す戦略的マーケティングである。
ある製品を買う顧客をできるだけ多く見つけることではなく、ある顧客のために、できるだけ多くの製品を見つけることである。
B2Bの場合、製品でもサービスでも高い専門性を求められることが多く、そのために誰にとっても良い商材などは存在しない。
ホールファネルと購買ピラミッドにおけるリード
『儲けの科学』を参考にしてATY-Japanで作成
マーケティング・オーケストレーション
「マーケティング・オーケストレーション」の定義
ビジネスのアイデアを、市場が最も価値を感じる形で製品・サービス化し、あらゆるリソース・ナレッジ・データ・テクノロジーを組み合わせ、全体最適で調和させながら、顧客を創造し、維持・拡大する経営戦略
マーケティング・オーケストレーションは経営戦略である。
研究・開発、設計、生産技術などのものづくりから、ブランディング、デマンド、そしてセールスや販売代理店のマネジメント、海外の現地法人やその代理店までの、すべてのマーケティング&セールス活動を全体最適で調和連携させ、最良のハーモニーを奏でることを指している。
長い歴史を持ち、多くの事業所、部門、関連企業、そして製品、サービス、技術が幾重にも折り重なる日本企業の場合、オーケストレーションでなければ顧客に頼られず、競合優位性を発揮することはできない。
マーケティング戦略の中には、事業ごとのターゲット市場の定義や、ポジショニング、そして具体策としての製品・サービス開発や、追加すべき新機能、販売組織の再構築設計、ブランディング戦略、そしてデマンドジェネレーションの詳細まで書かれていなければならない。
それを書くのが、CMO(chief marketing officer:マーケティング担当役員)の最重要ミッションである。
CEOは作曲家、編曲と指揮はCMO
企業における主旋律となる「経営戦略」を書く作曲家はCEOであり、多くの場合「中期経営計画」にまとめられ、これがすべての基準になる。
この経営戦略を、製品・サービス開発、多くのマーケティング活動、セールスの各パートの特性を踏まえて、最良の調和を引き出せるように編曲されたものが「マーケティング戦略」であり、その編曲者がCMOである。
さらにCMOは、指揮者としてリハーサルを繰り返し、テンポや強弱を各パートに伝え、思い描いたハーモニーになるように仕上げていかなければならない。
マーケティングとはその言葉通り市場(マーケット)との対話です。
市場は絶えず変化し、時には劇的に変わってしまいます。
だからこそ市場の変化に対して常に注意を払い、変化を見逃さず、チャンスを逃がさず、競合の動きの意味を理解する必要があります。
そのセンサーの役割はマーケティングなのです。
マーケティング部門を強化することは、未来の解像度を上げることです。
クリアに見えればいくらでも手が打てます。
その最強のマーケティング組織はオーケストラによく似ているのです。
さぁ、マーケティング・オーケストレーションの旅に出発しましょう。
まとめ(私見)
本書は、マーケティングとセールスの生産性を上げる方法を「儲けの科学」として、B2B企業のマーケティングの強化策について具体的に解説した一冊です。
ものづくりに至っては日本は未だに世界一であるが、生産性が悪いのはマーケティングとセールスで構成される「売り上げをつくる」仕組みであるとして、それを網羅的に、具体的に、わかりやすく解説しています。
現在求められているマーケティングとセールスの全体像を俯瞰していますので、マーケティング部門や営業部門だけでなく経営層の方々にとって、B2Bにおけるマーケティング戦略を構築し、全社で連携し、売上に貢献できるように組み立て直すうえで大変参考になります。
なお本書は、B2Bマーケティングの管理手法をテクニカル(ハウツー)調で記述しているのではなく、著者の経験や手法を物語調で記述していますので、B2Bマーケティングを端的に学びたいという方には少し遠回りのように感じるかもしれません。
しかし、マーケティングの現在を俯瞰し、日本企業が革命に乗り遅れている最前線を紐解き、そのフロントラインを再構築する方法を解説しています。
そして、B2B企業が投資すべきマーケティングナレッジ、マーケティング・オーケストレーションという考えを戦略の柱にするための方法を体系立てて解説しています。
そのうえで、具体的な管理指標、背景にある経営戦略やマーケティングに関する理論に加え、40年にわたる著者の豊富な経験を各解説の中で紹介していますので、B2Bマーケティングの全体像を理解できるだけでなく、自社の課題を認識しているのであれば該当部分を読み込めば解決策を見出せます。
また、マーケティングの専門用語や3文字英語などが随所に出てきますが、著者がていねいに解説してくれていますので、理解しやすくなっています。
マーケティングの重要性、それが自社の弱点であることは、多くの経営者は理解しているとして、それがどのくらい世界から遅れているのか、どんな要素が足りていないのか、具体的にどこをどのように強化すべきなのかを、詳細に示しています。
日本企業は、組織構造の「縦糸」に加え、マーケティングの「横糸」を経営者が認識することが重要であり、縦糸に対して横糸で紡いで調和させる「オーケストレーション」が必要であるとしています。
経営層やものづくり(研究開発・設計・生産技術)部門、営業部門も含めた全社のマーケティング偏差値が高い企業の方が、ビジネスチャンスを見つける能力が高く、脅威への対応力も高いので、相対的に稼ぐ力が高い。
さらに、営業部門の人数を増やさずに受注を増やすために「営業生産性を引き上げている」という結果も出ていると、本書は主張しています。
マーケティングは戦略であり、自由度を認めてはいけないし、その理解の徹底は必要不可欠です。
ただ知っているだけでなく、理解し、腹落ちし、企業文化にまでなっていないと、マーケティングの強い企業にはなれないことを教えてくれています。
B2B企業においてマーケティングを経営戦略の中心に据えて、全体最適のマーケティング&セールスの再編に取り組むうえで大変参考になる一冊です。
目次
はじめに
序章 私はなぜマーケティングと恋に落ちたのか
第1部 日本のB2Bマーケティングの“今”を俯瞰する
第1章 科学と感性のB2Bマーケティング
第2章 業績とマーケティングナレッジの関係
第3章 オペレーションでは勝てない、戦略の重要性
第4章 STPが苦手だから売れない市場で苦戦する
第2部 3つの革命に乗り遅れた日本企業のフロントライン
第5章 歴史、そして乗り遅れた2つの革命とAIの衝撃
第6章 営業利益を15%伸ばした営業に寄り添うアラインメント
第7章 導入したMAがメール配信にしか使われない理由
第3部 営業をリスペクトしてフロントラインを再構築する
第8章 営業に寄り添う営業生産性の正しい向上法
第9章 ものづくりにこそマーケティングナレッジを
第10章 売り上げの方程式とホールファネル
第4部 B2B企業が投資すべきマーケティングナレッジとは
第11章 DoV-STP-M-Dという基本フレームワークを理解する
第12章 デマンドセンターからMOps、RevOpsへの急激な進化
第13章 B2Bの本流となった経営戦略「ABM」
第14章 日本企業が大至急取り組むべきPRM
第5部 マーケティング・オーケストレーションを戦略の柱に
第15章 成果はマーケティング偏差値で決まっていた
第16章 CMOに求められる要件と、CROの役割
第17章 マーケターをどう選び、どう育成するのか
第18章 たどり着いた答えはマーケティング・オーケストレーション
終章:オーケストレーションで未来を切り開け
参考
儲けの科学 The B2B Marketing(ザ・B2Bマーケティング) | 日経BOOKプラス
B2Bマーケティング専業のシンフォニーマーケティング株式会社
儲けの科学 ─The B2B Marketing─|シンフォニーマーケティング
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