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DX戦略立案書
CC-DIVフレームワークでつかむデジタル経営変革の考え方
The Digital Transformation Playbook
Rethink Your Business for the Digital Age
デビッド ロジャース(著)、笠原 英一(翻訳)
出版社:白桃書房 (2021/1/8)
Amazon.co.jp:DX戦略立案書
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組織は、顧客・競争・データ・革新・価値の5領域で、これまでとは異なる志向が求められている!
あなたの戦略思考は、本書によってグレード・アップされるのである。
関連書籍
2024年07月18日 デビッド・ロジャース『THE DIGITAL TRANSFORMATION ROADMAP』東洋経済新報社
2023年10月01日 モハン・スブラマニアム『デジタル競争戦略』ダイヤモンド社 (2023/8/30)
2022年12月24日 ポール・レインワンド 『ビヨンド・デジタル』ダイヤモンド社 (2022/11/30)
2022年04月18日 内田 和成『イノベーションの競争戦略』東洋経済新報社 (2022/4/8)
2022年04月09日 福原 正大『日本企業のポテンシャルを解き放つ DX×3P経営』英治出版 (2022/1/11)
2021年11月13日 黒川 通彦『マッキンゼーが解き明かす 生き残るためのDX』日経BP (2021/8/21)
2021年09月03日 カロリン・フランケンバーガー『DX ナビゲーター』翔泳社 (2021/7/20)
2021年08月03日 ジーノ・ウィックマン『TRACTION トラクション』ビジネス教育出版社 (2020/12/10)
2021年06月05日 石角 友愛『いまこそ知りたいDX戦略』ディスカヴァー (2021/4/23)
本書は、ビジネススクールのトップ校の一つであるコロンビア大学経営大学院教授で、ブランド及びデジタル戦略の分野におけるグローバル・リーダーの一人である著者が、顧客市場(Customers)・競合他社(Competitors)・データ(Data)・革新性(Innovation)・顧客価値(Value)の5つの要素(CC─DIV)において、組織がこれまでとは異なる思考が求められていることを解説した一冊です。
デジタル経営の実務分野で世界的な権威である著者が、10年に及ぶ研究と教育、コンサルティングの実績に基づいて体系的に整理していますので、ビジネスリーダーの方々が、これまでの諸前提を越えた行動を起こし、新たな価値創造へ向かう戦略を考えていくうえで大変参考になります。
本書は7章と結論で構成されており、デジタル経営変革を推進していくうえでは、単に正しい戦略を実践していくだけではなく、その戦略を機能させることにも取り組む必要があることを解説しています。
第1章では、デジタル経営変革に関する5つの領域(顧客・競合・データ・革新・価値)の全体像を概観し、それぞれの領域から戦略立案書を構成する戦略的テーマを導きだしています。
第2~6章は、5つの領域それぞれを詳細に解説し、戦略ドメインの各領域において、これまでのルールがデジタル技術によってどのように変化しているかを解説しながら、既存企業がデジタル経営変革していくうえでのフレームワークを紹介しています。
- ・第2章では、顧客ネットワークについて、あらゆる業界で顧客との関係が、なぜ、どのように変わりつつあるか、マスメディア時代の企業にとっての課題は何かを探り、顧客のネットワーク化された行動と動機づけを理解するための枠組みを紹介しています。
- ・第3章では、製品だけでなくプラットフォーム構築について、競争と企業間の関係における力学の変化とプラットフォーム・ビジネスにどのような影響を与えるかについて探り、戦略計画のための2つのツールを紹介しています。
- ・第4章では、データの資産化について、ビジネスにおけるデータの役割の変化とそれが企業リーダーに与える課題について、さらに必要なデータを企業はどこで見つけ、どのようにして新しい価値の源泉とするかを考察し、戦略的アイデアをつくるツールを紹介しています。
- ・第5章では、スピーディな実験による革新について、実験がイノベーションの発生をどのように変化させ、デジタル技術による実験が必要不可欠であり、それを実現するための組織のあり方について考察しながら、2つの戦略計画ツールを紹介しています。
- ・第6章では、価値提案の時代への適応について、企業が自社の価値提案をどう変化させ、必要になる前に先回りして変化させるべき要因や失敗要因、企業の組織上の壁について考察しながら、戦略プランニングのツールを紹介しています。
第7章では、破壊がデジタル時代においてどのように展開されるかを検証しています。
- ・事業破壊そのもの、そして破壊とデジタル経営変革の5領域との関係について検討し、2つの戦略ツールを紹介しています。
- ・新しい脅威が真に自社事業に対して破壊的試練なのかどうかを見極め、破壊に直面した際に全貌を明らかにして既存企業が取り得る6つの対応方法を提示しています。
最後の結論では、新しい戦略的な考え方を採用していくために、組織が解決していかなければならない要素について解説しています。
- ・デジタル世界の実現に適合できなかった企業は、なぜ組織として変化に追随できなかったのかを検証しています。
- ・そのうえで、自社がどの程度準備ができているかの状況(即応性)を診断するための質問からなる自己診断ツールを提示しています。
本書を形作っており、全体の基盤となっている中心的なインサイトがある。
"デジタル経営改革とは、技術に関するものではない。それは、戦略と新しい思考の仕方そのものである。"という考え方だ。
デジタル時代に向けて変革するためには、ITのインフラよりも、戦略思考のアップ・グレードが求められるのである。
チーフ・インフォメーション・オフィサー(CIO)の伝統的な役割は、技術を活用してプロセスを最適化し、リスクを低減し、既存の事業を改善することであったのに対して、新たに出現しつつあるチーフ・デジタル・オフィサー(CDO)の役割は、より戦略的だ。
技術を活用して、中核となる事業そのものを再考し、改革することが求められている。
デジタル経営変革における5つの要素(CC─DIV)
『DX戦略立案書』白桃書房 (2021)を参考にしてATY-Japanで作成
顧客(Customers)=顧客ネットワークを活用する
デジタル時代においては、マス・マーケットという言葉よりも、顧客ネットワークという言葉によって説明される世界に移行している。
顧客はお互いが絶えずつながっており、それぞれが影響を与え合っており、企業の評判やブランドをも形作っている。
デジタル・ツールの活用によって、製品を発見し、評価し、購入し、使用する方法が変わってきたし、ブランドと価値観を共有し、交流し、つながりを保つ方法も変わってきている。
顧客を販売のターゲットとして見るべきではないし、相互につながっている顧客は最高のフォーカス・グループであり、ブランドの擁護者であり、イノベーションのパートナーであると認識する必要がある。
顧客ネットワークを活用する。
顧客が新たなデジタル体験に入ることを促す反復パターンが5つある。
- ・接続:顧客はデジタル・データやコンテンツ、相互作用に可能な限り迅速に、簡単にそして柔軟に接続したいと考えている。
- ・参加:顧客は感覚的で双方向で、かつニーズに合ったデジタル・コンテンツに参加したいと考えている。
- ・適応:顧客は情報、製品、サービスの幅広い集合体の中から選択し、自分なりに修正を加えて、経験をカスタマイズしたいと考えている。
- ・統合:顧客は自らの経験やアイデア、意見をテキストや画像、ソーシャルリンクを通じて互いに共有し、つながりたいと考えている。
- ・協働:社会的動物である人間は、誰かと一緒に何かを成し遂げたいと考えるようにできているため、顧客はオープン・プラットフォームを通じて、共通プロジェクトや目標のために協働しようとする。
効果的な顧客戦略を創造するためには、戦略的資産としての顧客、再考されたマーケティング・ファネル、購買までのデジタル・パス、5つの核となる顧客ネットワーク行動(接続、参加、適応、結合、協働)などを理解しておく必要がある。
組織の課題を解決する。
- ・企業内部の顧客ネットワークに力を与える。
そのためには、企業文化を変革し、効果的な社員ネットワークを育てる。
- ・新たなスキルを加えて、古い習慣と入れ替える。
特に、マーケティング、広報、営業、サービスなどの顧客と直接接する部門では、新たなスキルを習得しなければならない。
- ・縦割りサイロの橋渡しをする。
部門のお互いの文化、予算、優先順位の違いを超えて効果的に協働し、顧客の全体験を企業とそのブランドに統合する必要がある。
競合(Competition)=プラットフォームを構築する
他社とどのように競争し、協力するかということである。
今日の世界では、まったく異なった業界から非対称的な競合他社が最大の強敵となるような方向、業界の境界線が流動的になるような方向に向かっている。
デジタルによる仲介業者の中抜きが、パートナーシップとサプライ・チェーンをひっくり返している。
デジタル技術が、競合や顧客との相互作用を促進することで大きな価値を創造し、獲得できるようにするプラットフォーム型のビジネスモデルにパワーを供給している。
最終的には、競争の場所が変わり、相互に影響を与え合う企業間での手綱さばきの競争になりつつあり、まったく異なるビジネスモデルの企業同士が顧客に価値を創出するためにより大きなテコを探し始めている。
プラットフォームとは、2つまたはそれ以上の異なるタイプの顧客の直接的な相互作用を促進することで価値をつくり出す事業のことで、3つのキーポイントがある。
- ・異なるタイプの顧客
異なる立ち位置の人々を一堂に集わせることで、それぞれが異なる役割を果たし、さまざまな価値が享受されるところにプラットフォーム独自のダイナミックスが生まれる。
- ・直接的相互作用
2つかそれ以上の立ち位置の人々が、一定の独自性を保ちつつ、直接やり取りする機会を持つことがプラットフォームによって可能となる。
- ・促進
相互作用はプラットフォーム・ビジネスによって命令されるものではないが、プラットフォーム経由で行われ、プラットフォームによって促進される。
製品だけではなくプラットフォームを構築する。
効果的なプラットフォーム・ビジネス・モデルを構築するということは、競争関係にある事業を束ねることができるような信頼される仲介者になることを意味し、他の企業がその上に製品を構築できるような事業体をつくることが求められる。
また、結節点としてだけではなく顧客価値の多くがパートナーによってつくり出されるような事業体をつくることを意味したり、伝統的な事業とプラットフォーム・ビジネス・モデルの両方の良いところを組み合わせることを意味したりする場合もある。
自社をめぐるあらゆる企業間の関係は、競争と協働が複雑に織りなされた関係であると捉え直す。
企業は、直接の競合他社と協働することの価値、自社とまったく似たところのない非対称的競合からもたらされる脅威、パートナー企業との関係におけるテコの力を持つことの重要性を理解する必要がある。
そして、さまざまな異なった参加者を一堂に集め、新たな価値の創造を促進するデジタル・プラットフォーム・モデルの力も理解する必要がある。
デジタル時代における競争戦略を開発するためには、直接的・間接的なネットワーク効果、企業間の競争と協力、仲介と中抜きのダイナミックス、競争のバリュー・トレインなどの原理を理解する必要がある。
組織の課題を解決する。
- ・中間流域の役割変化
主力のチャネルとの協働とそれを飛び越えた展開という二つの選択肢「チャネル・コンフリクト」を確認し、適切に境界線を引く。
- ・競争のメンタリティ
競争を単なるゼロ・サムのスポーツ競技会のようなものと捉えず、戦う場所と戦わない場所とをわきまえた、ダイナミックな生態系を構築する。
- ・開放性
外部の異なった関係者に高い独自性を認めながら、独自の価値をプラットフォームに提供させることで成長させる。
データ(Data)=データを資産に変える
企業がデータをどのように生み出し、管理し、活用するかということである。
今日では、データの氾濫に直面しており、あらゆる会話や相互作用におけるプロセスからデータが生み出されており、その量はこれまでとは比べ物にならないくらい大きくなっている。
ビッグデータ・ツールによって、企業は新たな予測をしたり、新しい価値の源泉を解き明かしたりすることができるようになってきた。
データは、最も多くの注意を必要とする顧客を特定することができ、それが価値創出につながるだけでなく、顧客に対するコミュニケーションをパーソナライズする際にも活用できる。
データは特定の部門に閉じ込めるものではなく、すべての部門にとっての活力源であり、時間をかけて開発され、展開されるべき戦略的資産になりつつある。
データは、企業がどのように活動し、市場で差別化し、新しい価値を創出していくかを決めるために必要不可欠なもとなっている。
データを資産に変える。
長期的な事業価値を生むためには、正しいデータを集めることと、データを効果的に適用することの両方が求められる。
データ資産の構築は、データ・パートナーとの協働から始めることが効果的である。
優れたデータ戦略を策定するためには、データ価値創出のための4つのテンプレート(インサイト、ターゲティング、パーソナライゼーション、コンテクスト)、ビッグデータの新たな源泉と分析能力、セキュリティとプライバシーに関するリスクなどを理解することから始める。
データを事業価値に変える4つのテンプレート
- ・インサイト
これまで見えなかった関係、パターン、影響力を明らかにすることで、顧客データは企業に巨大な価値をもたらす。
- ・ターゲティング
標的市場を絞り込み、自社ビジネスに最もふさわしい顧客を特定することで、顧客とあらゆる相互作用を通して得られるデータを、さらに良い結果を導き出すのに役立てることができる。
- ・パーソナライゼーション
顧客それぞれが、意味があり、価値があると感じられるよう個別に扱い、メッセージング、オファー、価格設定、サービスを個々の顧客ニーズに合わせたものにすれば、企業は提供する価値を高めることができる。
- ・コンテクスト
参照の枠組み(基準座標)を提供し、特定顧客の行動や結果が、母集団とどう違っているかを説明するものであり、これによって企業にも顧客にも新しい価値を生み出すことができる。
組織の課題を解決する。
- ・データのスキルセットを社内に埋め込む
業務におけるデータ活用法を社員に啓蒙し、データと分析的思考を重んじる企業文化を構築する。
- ・縦割り組織の橋渡し
データ能力が成熟するにつれて、各事業部門のマネージャーのデータに関する判断力を高める努力をしながら、データ解析は集権化する。
- ・パートナーとのデータ共有
サプライヤー、ディストリビューター、メディア・チャネルなどと、全ての重要な事業提携においてデータを共有する。
- ・サイバー・セキュリティ、プライバシー、消費者態度
顧客との透明性のある価値交換に基づき、自分のデータが収集されていること、それによるメリットを顧客が確認できるようにする。
『DX戦略立案書』白桃書房 (2021)を参考にしてATY-Japanで作成
革新(Innovation)=スピーディな実験で革新を起こす
企業が、新たなアイデアを開発して、検証し、市場に導入するプロセスである。
今日では、イノベーションに関しては、デジタル技術を活用することで、これまでとは異なるアプローチが可能となり、素早い実験を通して継続的な学習をすることができるようになってきた。
この新たなアプローチは、注意深い実験と生存に必要な最小限の機能を持つプロトタイプ(MVP:Minimum Viable Prototypes)に重点的に取り組むものであり、その結果、コストを最小限に抑え、学習効果を最大限に引き出すことができる。
時間を節約し、失敗コストを削減し、組織的な学習を改善するプロセスを通して、製品を開発することができる。
実験の7つの原則
- ・早い段階で学ぶ。
プロセスの早い時点で学習するために、イノベーションの取り組みの初めの段階で実験をする。
- ・素早くかつ反復的に進める。
迅速な学習を組織の習慣にすることができれば、それ自体が競争優位の源泉となり、そのためのインフラも必要である。
- ・解決策にではなく、課題に惚れ込む。
顧客の問題の説明を課することによって、顧客価値に焦点を置いたプロセスへ踏み出すことになる。
- ・信頼できるフィードバックを得る。
信頼性の担保は、誰に聞くかということから始まり、顧客に対して何を提示するかがポイントになる。
- ・現時点で重要なことを測定する。
イノベーションの成功を測るのに最も重要な指標を一つに絞るとともに、それ以外の指標に関するデータも集める。
- ・前提を検証する。
前提を見極めてテストする方法を示し、そのプロセスをあらゆる新規プロジェクトの発展マイルストーンと結びつける。
- ・スマートに失敗する。
失敗した検証結果から学んだこと、その学びを戦略変更に活用したかを確認し、それらを社内で共有する。
スピーディな実験でイノベーションを起こす。
実験には革新的なアイデアの前提に関する厳格なテストを加えるだけでなく、試験的なパイロットテストを注意しながら実施していくことに加え、賢く失敗することを奨励することも学ぶ必要がある。
収斂型と発散型の二つの実験を理解し、結果を市場に展開するためのMVPとイノベーションを拡大するための4つの経路(MVPの段階的公開/一斉公開、完成品の段階的公開/一斉公開)を理解する必要がある。
組織の課題を解決する。
- ・検証と学習の企業文化をつくる。
社員全体に、検証と学習の文化を浸透させることができれば、間違った判断を下しやすい経営陣の傾向を補うことができる。
- ・意思決定せずに率いる。
実験主導型組織のリーダーシップは、必ずしも組織のために大きな意思決定をすることではなく、正しい問いかけをすることである。
- ・全員を関与させる。
イノベーションを活用して社員の士気と文化的団結力を高め、新たな成長機会を社員が中心となってつくっていくことであり、そのためには社内全員を訓練し、日常業務で常時実験手法を取らせることである。
- ・計画的に失敗して祝う。
「漸進的なイノベーションばかりを目指す」「学習の喪失」「損の上塗り」というリスクを避けるために、あらかじめ失敗することを計画の一部に織り込み、失敗プロジェクトを祝う機会を経営陣がつくる。
価値(Value)=価値提案を時代に適応させる。
企業が顧客に提供する価値、価値提案(value proposition)である。
デジタル時代においては、変わらない一つの価値提案に依存し続けることは、他社からの競争を誘発することであり、最終的には新規の競合他社によって破壊されてしまうことにもなりかねない。
変化する事業環境における対応方法は、顧客に対する価値提案を拡張し、改善するための手段として技術に目を配りながら、絶え間なく進化する方針をとることである。
新しい機会をつかみ、下降しつつある優位性の源泉からは撤退し、変曲点の前に早めに時代適応していくことに注力すべきである。
価値提案を時代に適応させる。
現在のビジネスモデルを超えたところに集中し、新たな技術によって機会やニーズが形作られた際に、どうしたら最高の価値を顧客に提供できるかということに焦点を合わせて学習していくことが必要である。
事業の継続的な再構成には、新しい顧客開発や現在の製品に関する新たな用途開発が含まれ、顧客が急速に変化するということを予期しながら新しい製品群を積極的に開発する。
顧客がロイヤル顧客でいてくれている間に、その顧客に対して新たな価値の提供方法を実験することも有効である。
価値提案を積極的に時代に適応させていくためには、市場価値に関するキー・コンセプト(製品、顧客、使用事例、使用目的、価値提案)、衰退する市場から抜け出す3ルート(既存の価値で新たな顧客開発、既存顧客に新たな価値開発、新たな価値と新たな顧客開発)に加え、新たに発生する脅威と機会を認識して進化に向けた次の段階に統合するための本質的なステップを理解する必要がある。
組織の課題を解決する。
- ・献身的なリーダーシップによる熱意と専従の必要性
新たなサービスに向けた革新的アイデアの実現を担う人物を任命し、その任期も中長期的にする。
- ・人材と資金の資源配分
特定の一時的優位性からもう一つの一時的優位にビジネスを適応させていくのに合わせて行うプロセスとして、資産、人材、能力の「継続的再配置」を実施する。
- ・近視眼的にならないようにする。
企業は、自分の目線ではなく顧客目線で考えることが必要であり、そのためには傾聴すべき顧客を見つけ、傾聴する。
戦略計画ツール
戦略的アイデア創出ツール
戦略的事象に関するさまざまな側面を探索することを通して、定義された課題に対して新たなソリューションを生み出すツール
顧客ネットワーク戦略ジェネレーター
ネットワーク化された顧客を呼び込み、参加させ、顧客とともに価値創出することを目指す新たな戦略を策定するツール
データ・バリュー・ジェネレーター
データに関する取り組みの新たな戦略オプションを生み出すために、データに関して新しい戦略的な考えを創出することを目的としたツール
戦略マップ
既存のビジネス・モデルや戦略を分析したり、新たなものを計画・探索したりするために用いられる視覚的ツール
プラットフォーム・ビジネス・モデルマップ
プラットフォームに不可欠な主体が誰かを見定めたうえで、さまざまな顧客間のどこでプラットフォームによる価値の創造と交換が行われているかを認識できるように設計された解析・ビジュアル化ツール
競争のバリュー・トレイン
企業とそのビジネス・パートナー、直接の競合他社、非対称的な競合他社との間における競争状況やそれらの活用事例を分析するためのツール
破壊的ビジネス・モデル・マップ
新しいチャレンジャーが既存の産業やビジネスにとって破壊的脅威となるかどうかを明らかにするツール
戦略的意思決定ツール
カギとなる戦略意思決定に活用できる一般的な戦略オプションの集合体を評価・選択するための評価基準ツール
破壊的レスポンス・プランナー
破壊的挑戦が、今後どのように展開され、どう対応するのがベストな選択肢かを見極めるツール
戦略立案ツール
特定のビジネスの文脈や課題に対して、適応した戦略計画を立案するために用いられる段階的な計画策定プロセス・手法
収斂型実験法
選択肢を減らそうとする学習(仮説検証)に適しており、明確に規定された問いに対する答えを一つに絞り込む実験方法
発散型実験法
選択肢を探索し、インサイトを生み出し、一斉に複数の問いかけをし、実験がうまくいけば新たな問いがまたそこから生まれ、次の反復ステージでその問いが探索されるような学習(仮説探索)に適した実験方法
価値提案計画/バリュー・プロポジション・ロードマップ
顧客に対する価値提案を評価して、顧客適応していく際に使うことができるツール
デジタル経営改革は、技術というより、戦略にかかわるものである。
ITの構造をアップ・グレードする必要はあるかもしれないが、より重要なアップ・グレード対象は、あなたの戦略思考である。
デジタル時代に繁栄する企業とは、適切な戦略マインド・セットと適切なリーダーシップのスキル・セットを組み合わせることのできる企業である。
彼らは、デジタル時代における戦略の基本を理解して、新たな製品、サービス、ブランド、そしてビジネス・モデルを作りこんでいく。
規模にかかわらず、デジタル時代に成功する企業は、新たな機会を追求するための組織的な敏捷性を維持しながら、スタート・アップ企業らしい要素(インキュベーションと学習するスキル)と大企業らしい要素(インテグレーションのスキル)のバランスを取ることのできる企業である。
まとめ(私見)
本書は、ビジネススクールのトップ校の一つであるコロンビア大学経営大学院教授で、ブランド及びデジタル戦略の分野におけるグローバル・リーダーの一人である著者が、顧客市場(Customers)・競合他社(Competitors)・データ(Data)・革新性(Innovation)・顧客価値(Value)の5つの要素(CC─DIV)において、組織がこれまでとは異なる思考が求められていることを解説した一冊です。
著者が10年に及ぶ研究と教育、コンサルティングの実績に基づいて体系的に整理していますので、ビジネスリーダーの方々が、これまでの諸前提を越えた行動を起こし、新たな価値創造へ向かう戦略を考えていくうえで大変参考になります。
本書には、インターネット時代以前に設立された既存企業のケースを多数紹介し、そのケースを通して、それぞれの企業の戦略がさまざまな産業にどのように展開されてきたかについて記述しています。
そして、9種類の戦略計画ツールを紹介していますので、自社に当てはめて議論していくこともできます。
この戦略計画ツールは、著者がこれまで実施したワークショップの参加者から得られたフィードバックに基づいて開発したフレームワークで、少し概念的ではありますが、どこで、どのように活用できるかをケースと関連付けて解説していますので、特に既存の企業がデジタル経営変革を追求していくうえで、また組織的変化という重要な課題に取り組むうえで、ガイドとなります。
なお、原書となる「The Digital Transformation Playbook Rethink your business for the digital age」は2016年に発売され、コロンビア・ビジネス・スクールを始めとしたトップビジネススクールのDXの教科書として活用されているようです。
デジタルトランスフォーメーション(DX)関連の他の書籍では、戦略や組織及びリーダーシップの視点から考察しているのが多いのに対し、本書はデジタル時代における変化や対応策を5つの要素の視点から掘り下げ、そのうえで組織課題の解決策を提言している点が特徴となります。
また、事業破壊を定義し、ジョセフ・シュンペーターの「創造的破壊」やクレイトン・クリステンセンの「破壊的イノベーション」を今日の市場で見られる新たな破壊の力学を考慮したものに応用して、主に既存企業は破壊に対して迎え撃つことができること、そのための対応策を提示しています。
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、AIやビッグデータなどの新しい技術を、今までのように小手先の手段として導入するという考え方ではなく、それらを最大限に活用し、市場の革命的な変化に対応していくために、企業固有の風土や業務プロセスなど、企業のあり方からゼロベースで見直し、新しい価値創造へと向かい、新しいビジネスモデルを確立することが根底にあります。
そこで、顧客市場・競合他社・データ・革新性・顧客価値の5つの要素に対象領域として、それぞれの要素を詳細に掘り下げるとともに、デジタル経営変革を推進するための戦略立案書を構成するうえで、どのようにかみ合って機能していくのかを説明しています。
なお、デジタル経営変革は、技術というより、戦略に関わるものであるとして、ITの構造をアップグレードする必要性ではなく、戦略思考をアップグレードすることがより重要であるとしています。
そのためには、デジタル・リーダーには、事業そのものを再考し、改革する能力が求められ、従来から存在する主要な前提を疑ってみることを提言しています。
そして、顧客・競合・データ・革新・価値の5つの要素において、組織上の課題をあげて具体的な対応策を示しています。
デジタル時代においては、新たなルールによって価値を提供するチャレンジャーは、既存企業とっての脅威となります。
しかし、既存のビジネスを破壊するチャレンジャーは、「顧客にもたらす価値」と「人材、パートナー、資産、プロセスなどの価値ネットワーク」のビジネスモデルの2つの側面で大きな差異を持つ必要があります。
いかに驚異的なものであっても、すべてのイノベーションが必ずしも既存企業の破壊者であるとは限りません。
既存企業が採用することによって、市場環境に適応したり、多角化したり、顧客に新しい価値を提供する戦略もあります。
そのためには、既存企業も「判断の適切性と行動の速さによる敏捷性」という組織アジリティを高めることが重要となります。
既存企業には、豊富な経営資源をもとにチャレンジャーに対応することもできますが、それがアジリティを高めていくうえでの障壁にもなります。
新しい戦略の種まきと育成(インキュベーション)から、組織構造に最善のものを統合的に織り込む(インテグレーション)への移行、この二種類の管理方法を習得することも必要となります。
これは、探索と深化の「両利きの経営」に結びつくものでもあります。
主に既存企業がDXを推進する際、顧客・競合・データ・革新・価値の5つの要素から戦略を考え、そして破壊への対応策を考えていくうえでの視点や手順の参考になる一冊です。
目次
訳者まえがき
1 デジタル経営変革に関する5つの領域:顧客、競争、データ、革新、価値
デジタルに関する盲点を克服する
デジタルが変化させている5つの戦略領域
デジタル経営改革のためのプレイブック(戦略立案書)
自分自身のデジタル経営改革をスタートさせる
本書の各章に関するガイド
2 顧客ネットワークを活用する
顧客について再考する
顧客ネットワークのパラダイム
マーケティング・ファネルと購入経路
5つの顧客ネットワーク行動
ツール:顧客ネットワーク戦略ジェネレーター
顧客ネットワークにおける組織の課題
3 製品だけでなくプラットフォームを構築する
競争について再考する
プラットフォームの勃興
プラットフォームのビジネス・モデルとは何か
プラットフォームの競争上の効用
プラットフォーム間の競争
ツール:プラットフォーム・ビジネス・モデルマップ
競争地図に起きつつある変化
ツール:競争のバリュー・トレイン
競争における組織上の課題
4 データを資産に変える
データについて再考する
無形資産としてのデータ
どんな企業もデータ戦略は必須
ビッグ・データのインパクト
必要なデータをどこで見つけるか
顧客データを事業価値に変える4つのテンプレート
ツール:データ・バリュー・ジェネレーター
データに関する組織的課題
5 スピーディな実験で革新を起こす
イノベーションを通して株価プレミアムを高める:イントゥイットの物語
実験とは学びのこと
2種類の実験
実験の7つの原則
ツール:収斂型実験法
ツール:発散型実験法
イノベーションを拡張する4つの経路
イノベーションにおける組織の課題
6 価値提案を時代に適応させる
価値の再考:あなたはどんな商売をしているのか
縮小する市場から抜け出す3ルート
必要性に迫られる前に刷新しよう
市場価値の5つのコンセプト
ツール:価値提案計画(バリュー・プロポジション・ロードマップ)
価値提案を時代に適応していく際の組織的な課題
7 破壊的なビジネス・モデルを使いこなす
破壊の定義
デジタル時代の破壊
破壊理論
破壊のビジネス・モデル理論
デジタル型破壊者:iPhone、Netflix、ワービー・パーカー
ビジネス・モデル破壊理論における3つの変数
ツール:破壊的ビジネス・モデル・マップ
ツール:破壊的レスポンス・プランナー(破壊に対する対応策プランナー)
破壊を超えて
結論
自己診断:デジタル経営改革にむけて準備ができているか?
戦略立案のためのツール
参考
DX戦略立案書 - 白桃書房 経営・会計を中心とした社会科学系出版社
David Rogers on The Digital Transformation Playbook
関係する書籍
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両極化時代のデジタル経営
ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図デロイト トーマツ グループ(著)
出版社:ダイヤモンド社 (2020/8/6)
Amazon.co.jp:両極化時代のデジタル経営 -
ジェラルド・C・ケイン、アン・グエン・フィリップス、ジョナサン・R・コパルスキー、ガース・R・アンドラス(著)、三谷 慶一郎、船木 春重、渡辺 郁弥(監修)
出版社:NTT出版 (2020/10/31)
Amazon.co.jp:DX経営戦略 -
イノベーションの攻略書
ビジネスモデルを創出する組織とスキルのつくり方テンダイ・ヴィキ、ダン・トマ、エスター・ゴンス(著)、渡邊 哲(翻訳)
出版社:翔泳社(2019/11/6)
Amazon.co.jp:イノベーションの攻略書 -
Why Digital Matters? ~"なぜ"デジタルなのか~
村田聡一郎/SAPジャパン(監修)、プレジデント経営企画研究会(編集)
出版社:プレジデント社(2018/12/13)
Amazon.co.jp:Why Digital Matters? ~"なぜ"デジタルなのか~ -
マイケル・ウェイド(著)、ジェイムズ・マコーレー(著)、アンディ・ノロニャ(著)、根来 龍之・武藤 陽生(翻訳)
出版社:日本経済新聞出版社(2019/8/23)
Amazon.co.jp:DX実行戦略 デジタルで稼ぐ組織をつくる
DX戦略立案書(The Digital Transformation Playbook)
-
DX戦略立案書
CC-DIVフレームワークでつかむデジタル経営変革の考え方デビッド ロジャース(著)、笠原 英一(翻訳)
出版社:白桃書房 (2021/1/8)
Amazon.co.jp:DX戦略立案書
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