書籍 DX経営戦略 成熟したデジタル組織をめざして/ジェラルド・C・ケイン(著)

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DX経営戦略 成熟したデジタル組織をめざして
The Technology Fallacy: How People Are the Real Key to Digital Transformation

ジェラルド・C・ケイン、アン・グエン・フィリップス、ジョナサン・R・コパルスキー、ガース・R・アンドラス(著)、三谷 慶一郎、船木 春重、渡辺 郁弥(監修)
出版社:NTT出版 (2020/10/31)
Amazon.co.jp:DX経営戦略

 

DX経営戦略 成熟したデジタル組織をめざして

DXはテクノロジーだけでは実現しない!
DXの鍵は、テクノロジーではなく、人と組織にある!

デロイト×MITスローンマネジメントによるファクトにもとづいたデジタル組織論

 

 

本書は、経験豊富な研究者とコンサルタントで構成する著者らが、企業がディスラプションにどのように対処すべきかを、膨大な調査に裏付けられた明確かな提言として示した一冊です。

著者ら4名は、デジタルディスラプションを何十年にもわたって研究してきた方に加え、長年企業のデジタルディスラプションへの対応をコンサルティングしてきた方とで構成しています。

『MITスローン・マネジメント・レビュー』誌とデロイトが連携して実施した、「テクノロジーが企業経営をどのように変えたか」に関する4年間(4年間で16,000人以上、各年の回答3,700~4,800件)の調査結果に基づいて、経験豊富な著者らそれぞれの視点から考察を加えています。

企業がデジタルディスラプションにどのように対応していくべきかの実践可能な対処法を提言していますので、ビジネスリーダーの方々が、自身の組織の方向性を考えていくうえで大変参考になります。

 

本書は3部15章で構成されており、いかにしてディスラプションに対処し、適応し、ディスラプションを特徴とする世界と時代に繁栄できるかについて、膨大な調査結果を随所で示しながら述べています。

第1部では、デジタルディスラプションの現象と企業の対応策について整理し、変わりゆく環境に企業は適応すべきと提言しています。
デジタルディスラプションは基本的に人間に関する問題であり、リーダーは不確実で急速に変わりゆく未来の環境で戦略を練る必要があり、企業も絶えず成熟する必要があるとしています。

  • ・第1章では、ほとんどのリーダーや社員もディスラプションが起きていることを知っていながら、行動を起こしていない状況であることを指摘しています。
  • ・第2章では、デジタルディスラプションは主に人間についての問題であるとして、組織は仕事のやり方の変化も含める必要があるとしています。
  • ・第3章では、競争過程で企業が目指すべき目標として、デジタル成熟度を紹介しています。
  • ・第4章では、デジタルテクノロジーが次々と登場する競争環境を切り抜けるために、戦略を築くための手法を紹介しています。
  • ・第5章では、テクノロジーによって企業が異なる方法をとれるようになることを「アフォーダンス」と言い、その学問的概念を説明しています。

第2部では、デジタル成熟度が、リーダーシップや人材、今後の仕事に及ぼす影響について取り上げています。
現在だけでなく未来のデジタルディラプションの波に見舞われるときも、「しなやかマインドセット(growth mindset)」は重要になることを提言しています。

  • ・第6章では、デジタル環境とそれ以前のリーダーシップの基本原則は同じであり、異なる環境で発揮されるだけであるとして、デジタルリーダーシップの特徴を紹介しています。
  • ・第7章では、デジタル組織を率いるために必要なスキルや能力、欠けている能力を示し、デジタル環境に特有な具体的スキルと能力を整理しています。
  • ・第8章では、社員がデジタルディラプションに対応するために重要なことは継続的な学習であり、組織はそれを支援すべきであるとして、デジタル人材のマインドセットを紹介しています。
  • ・第9章では、多くの企業がデジタル環境で競うために必要な人材の不足を感じていることを示し、社員を獲得し定着させるために組織がとるべき戦略を示しています。
  • ・第10章では、仕事の未来にフォーカスし、今後10年の間に仕事がどうなるのかを考察しています。

第3部では、企業がディスラプションに適用するための条件について整理しています。
実験の必要性、適切なリスクをとる必要性、コラボレーションの必要性は、未来のデジタルディスラプションの渦中でも重要であると提言しています。

  • ・第11章では、探索的、分散的、コラボレーティブ、アジャイル、データ駆動型など、企業のデジタル環境育成を取り上げています。
  • ・第12章では、デジタルに成熟している企業の組織構造にフォーカスし、成熟企業はクロスファンクショナルチームを採用し、組織の下位レベルにまで意思決定を引き下げている傾向があることを示しています。
  • ・第13章では、デジタルに成熟した企業は意図的にコラボレーションする傾向があることを示し、ツールは意図的に使う必要があることを警告しています。
  • ・第14章では、実験的マインドセットの醸成の必要性を説き、実験と反復を早くして、学習することの重要性を示しています。
  • ・第15章では、デジタルDNAの特質として23項目を示し、組織のデジタル成熟度の測り方に加え、成熟度を高める実践的指針を提供しています。

 

デジタルディスラプションの人的・組織的側面にフォーカスするからといって、その技術的問題が重要であることは、しかと認識している。

だが本書の目的は、デジタルディスラプションによる組織的課題は技術的課題に匹敵する、と主張することにある。

文献でも現場でも、前者は後者ほどの注目を集めていない。

さらに言えば、多くの企業が直面する技術的課題は、業種と戦略によって著しく異なるのに対し、彼らが直面する組織的課題には共通の傾向があることが、わたしたちの調査からわかっている。

 

デジタルディスラプションへの対応

誰もがデジタルディスラプションが起きていることを知っているが、自分たちの企業が有効な対策を整えていると答えた人は、半数にも至っていない。

デジタルディスラプションが起きていることは周知の事実であるため、この破壊に組織が効果的に対応するためには、言葉と行動の両方が必要になる。

デジタルディスラプションに有効な対策をとるためには、組織のあらゆる側面を関与させなくてはならず、組織がどのように変化するのか、具体的な行動と明瞭なコミュニケーションを伴わなくてはならない。

新たなテクノロジーの登場は、ビジネスにとって可能なことを変え、優位性を維持し、新しいチャンスを見つけ、テクノロジーがもたらす機会を利用してこれまでとは異なるやり方でビジネスを行うことができる。

デジタルインフラが急速に進化する最中にこうしたテクノロジーを利用するには、企業組織について抜本的な変化が求められる。

 

デジタルトランスフォーメーションは、単にトップダウンで変化を命じても実践できるものではない。

むしろ、既存の社員が異なる考え方や働き方をして、ボトムアップで変化を促す状況をつくり出すことが必要になる。

来る時代に向けて組織を推進するために必要なことは、スキルと姿勢の二つからなる人材に関することが大きい。

 

デジタルディスラプションがもたらす課題

過去の成功要因が未来の成功へと導くという信念のことを「能力の罠(competency)」といい、この過去の成功が最大の課題である。

テクノロジーにより、顧客に価値観を伝える新たな方法と新たなサービスの機会が提供され、競争環境が変化している最中なので、過去の成功要因は将来の成功に結び付かない可能性がある。

デジタルディスラプションの知識と行動に乖離があり、その理由は脅威が出現するスピードを多くの経営幹部が理解していないことにある。

デジタルディスラプションの最大の脅威は組織内部にあり、脅威に対応できるほど企業は早く変化できない、あるいは変化したがらないことである。

デジタルビジネスと従来ビジネスのやり方と異なる点

  • ・デジタルビジネスでは、企業がこれまでよりも速く行動し対応する必要があるものの、組織の情報伝達構造と意思決定構造は、組織が求めるほど迅速に動くようにできていない。
  • ・マインドセットや企業文化が必要であることは理解しているものの、「能力の罠」が個人にも存在して、やり方を変えるのは気が進まない。
  • ・コラボレーション、意思決定の方法、チーム構成など、組織構造は柔軟性のある、分散型の職場が必要となるものの、フルタイム社員と新たに集めた人材との融合が進んでいない。
  • ・効果やインパクト、提供価値にフォーカスするなら効率性を犠牲にすることも必要となるものの、コスト効率を高めスピードを上げる既存の効率性マインドセットから抜け出せていない。

 

デジタルDNA

デジタルDNA

『DX経営戦略 成熟したデジタル組織をめざして』NTT出版(2020)を参考にしてATY-Japanで作成

 

組織文化を幅広く定義する場合、組織の編成や経営方法、行動様式から情報が得られるが、それを組織のDNAと呼ぶことが多い。

組織のDNAは、その企業を他の企業とは異なる企業にし、組織がDNAの特質を発現した姿が、組織の現在の姿である。

組織のDNAは、時間とともに何らかの方法で複製と進化を続けるが、通常は恒常性のレベルを維持するために全力を挙げ、最も漸進的な変化以外は抵抗する。

周到で慎重に変化に取り組まなければ、組織のDNAの中には、組織がデジタル成熟度を高めようとするとき、妨げになることもある。

継続的イノベーション、意図的なコラボレーション、反復、決定権の変化、階層構造のフラット化、絶え間ない破壊などのデジタルの特質が、「デジタルDNA」をつくり上げる。

デジタルに成熟した組織を定める特質となる「デジタルDNA」は、デジタルテクノロジーではなく、移り変わりの激しい未来に効果的に運営するために組織が必要とする。

企業のためにデジタルDNAという中核をつくること、デジタルトランスフォーメーションを実現する環境をつくることには、変化を推進するというコミットメントとリーダーシップが必要になる。

但し、組織全体を変えようとするような、あるいは対象とするデジタルDNAの特性を一度に変えようとするような、大規模な従来型の変革構想を採用してはいけない。

アジャイル思想を活用し、MVC(実用最小限の変化)の考え方を取り入れて、実験を繰り返し、実験に立ち止まることなく、実験から得た教訓を理解することが重要である。

 

一歩踏み出すための秘訣は、組織のもっとも成熟した部分を推進することではなく、むしろデジタルの成熟への障壁となっているものを崩すことだ。

そうすることで、動き出そうとして待っていた、組織のその他の領域に力を与えられる。

あなたがひとたび前へ進み始めたならば、あなたの企業は勢いを得て、それ以降の取り組みは容易になるだろう。

たいていは最初の一歩が一番大変なのだ。

大小にかからわず、あなたの成功譚と、その過程で学んだ教訓をぜひともわたしたちに教えていただきたい。

検討をお祈りする!

 

まとめ(私見)

本書は、いかにしてディスラプションに対処し、適応し、ディスラプションを特徴とする世界と時代に繁栄できるかについてまとめた一冊です。

企業がデジタルディスラプションにどのように対応していくべきかの実践可能な対処法を提言していますので、ビジネスリーダーの方々が、自身の組織の方向性を考えていくうえで大変参考になります。

デジタルディスラプションがもたらした、未知の新たな競争環境に対して、リーダーが切り抜けていくうえで必要となる知見を提供しています。

また、リーダーの行使できる影響力のレベルにかかわらず、未来に向けて組織をどのように導くべきなのか、実行可能な助言や対処法を示しています。

急速に変化する環境に、リーダーがどのように対応するかは、各レベルで異なるかもしれませんが、全てのリーダーが環境に適応することが必要不可欠です。

デジタルトランスフォーメーション(DX)を経た組織になるためには、トップダウン及びボトムアップのイノベーションが必要不可欠であると提言しています。

そして、幹部は組織に変化を押し付けるだけではいけないが、幹部の支援がなければ、草の根による変化が持続する可能性は低いと指摘しています。

 

動力の取得(蒸気機関)、動力の革新(電力・モーター)、自動化の進展(情報化・コンピューター)と、過去に起きた産業革命に対して企業は対応してきました。

その過程においては、衰退・消滅した産業もありましたが新たに創出した産業もありますし、求める人材や組織構造も変化してきました。

そして、今回の第4次産業革命に際しても、過去の産業革命と同様に、企業は迅速に対応していかなければなりません。

しかし、企業はこれまでの経営環境に最適化してきた構造を持ち、その成功体験から急速に変更することは難しい状況にあるのも事実です。

蒸気、電気、コンピューターと、過去の産業革命のもととなる技術に対して、今回の産業革命はデジタルで、このデジタルテクノロジーは、過去の産業革命にない速いスピードで進化するため、対応への遅れは死活問題となります。

デジタルビジネスがこれまでのビジネスと異なるのは、「より早いビジネススピード」「学習しコラボレーションする文化・マインドセット」「多様な人材と柔軟なチーム組成」「価値創出に焦点を当てた生産性」が代表的な特徴となります。

どの時代、どの産業革命においても、最終的には人の問題になっていきます。

リーダーは、組織がどのように機能するかを再考し、この流動環境に対応しやすい人材モデル、文化の特徴、業務の定義、組織構造を開発することなどが必要となります。

そのため、企業幹部や組織リーダーが、デジタルの整合性をいかに創造できるか、組織全体に実質的な変化を起こせるかが、ポイントになります。

  • ・ますますデジタル化する環境がもたらす変化に効果的に対応できるように組織を再構築し、これまでと異なるビジネスのやり方を実践できるようにする。
  • ・個人と組織のスキル開発及びリーダーシップスタイルを、急速に変化する世界の要求に応じられるようにする。

一方、組織内外で働く個人は、環境変化を自分事として捉え、果敢に挑戦し、「しなやかマインドセット」で学習し続けることが重要になります。

本書は、テクノロジーがもたらす新たな競争環境を、企業がいかにして切り抜けるかに主眼が置かれていますので、ビジネスリーダーの方々にとって多くの示唆を得ることができる一冊です。

 

目次

序章 デジタルディスラプション――竜巻が来た

第1部 デジタルディスラプションを乗り切る

 第1章 デジタルディスラプションは周知の事実
 第2章 デジタルディスラプションで肝心なのは人間だ
 第3章 デジタルトランスフォーメーションという誇大な表現を気にしない
 第4章 不確実な未来のためのデジタル戦略
 第5章 デジタル戦略に対するダクトテープ的アプローチ

第2部 デジタル時代のリーダーシップと人材を再考する

 第6章 デジタルリーダーシップは魔法ではない
 第7章 デジタルリーダーシップに違いをもたらすものは何か?
 第8章 デジタル人材のマインドセット
 第9章 人材を引きつける組織にする
 第10章 仕事の未来

第3部 デジタル組織になる

 第11章 デジタル環境を育てる
 第12章 アジャイル方法論で組織する
 第13章 力、バランス、勇気、良識――意図的なコラボレーション
 第14章 速く試し、速く学習し、速く評価する
 第15章 前に進む――実践ガイド

結び カンザスに戻ることはできない

謝辞

解題 「デジタル DNA 」を実装する――田中公康(デロイト トーマツ)

解説 DX の本質 三谷慶一郎(NTTデータ経営研究所)

 

参考

Digital Leadership

Strategy, not Technology, Drives Digital Transformation

Coming of Age Digitally

 

DX(デジタルトランスフォーメーション)経営戦略 成熟したデジタル組織をめざして|書籍出版|NTT出版

 

「日本企業のデジタル化への取り組みに関するアンケート調査」結果速報~日本企業のDXへの取り組み実態、成功企業の特徴について~ | NTTデータ経営研究所

DXレポートのその後 ~DX推進指標活用による自己診断と今後求められる観点~ | 2019.08 NTTデータ経営研究所

2025年の崖を越えるには ~レガシーシステム脱却に向けたマイグレーションのポイント~ | 2020.02 NTTデータ経営研究所

DX人材獲得競争におけるアライアンス活用の要諦 | 2020.08 NTTデータ経営研究所

 

デジタルトランスフォーメーションを成功に導くために|デロイト トーマツ グループ|Deloitte

デジタルガバナンス・コード|経済産業省

 

デジタルトランスフォーメーションを成功に導く人材の要件 4つの領域から最高のメンバーを結集させる|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

デジタル・トランスフォーメーションを成功に導くには――【前編】CTOの果たす役割を議論 | THINK Blog Japan

 

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