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『DX経営戦略 成熟したデジタル組織をめざして』NTT出版(2020)を参考にしてATY-Japanで作成
『DX経営戦略 成熟したデジタル組織をめざして』(NTT出版、2020年10月)は、研究者とコンサルタントで構成する著者らが、企業がディスラプションにどのように対処すべきかを、膨大な調査に裏付けられた明確かな提言として示しています。
企業がデジタルディスラプションにどのように対応していくべきかの実践可能な対処法を提言していますので、ビジネスリーダーの方々が、自身の組織の方向性を考えていくうえで大変参考になります。
そこでここでは、現在の競争過程で企業が目指すべき目標として、「デジタル成熟度」について本書を参考にして整理します。
「デジタル成熟度」は、「テクノロジーが企業経営をどのように変えたか」に関する4年間(4年間で16,000人以上、各年の回答3,700~4,800件)の調査結果を基にして、初期段階、発展段階、成熟段階の3段階に分けて、企業の特質を整理しています。
さらに、調査結果に対して経験豊富な著者らそれぞれの視点から考察を加えていますので、自身の組織の成熟度を確認し、今後高めていくべき方向を確認するうえで大変参考になりますので、詳細を確認したい場合は一読をお薦めします。
デジタル成熟度
デジタル成熟度
効果的に競争するために、組織内外のテクノロジーのインフラストラクチャーによる機会を活用して、組織の人員や文化、業務の足並みをそろえること。
デジタル成熟度は、動きが速く急激に変化するデジタル環境に適切に関わるなかで、組織がギャップにいかに対応し、そのギャップを埋めているかを表している。
デジタル成熟度は動く標的で、テクノロジーとともに絶えず変化するため、デジタル的に最先端の企業を「成熟段階」に分類している。
組織の整合性(organizational congruence)
文化、人員、構造、業務など、企業に不可欠な要素がしっかりと足並みをそろえているときに限り、企業は大きな成果を得ることができる。
デジタルプラットフォームの導入は、新たなデジタル競争環境で必要とされる連携に不可欠だとはいえ、このようなプラットフォームを利用するだけでは、デジタル成熟度にとって十分ではない。
現代の複雑なビジネスの舵取りをするためには、絶え間ない変化という難題に幹部が効果的に取り組めるように、企業は文化、人員、構造、業務の間で、そしてデジタル環境とも、足並みがそろうようにすべきである。
デジタル環境に関連した要素
- ・成熟は、時間とともに現れる漸進的かつ継続的なプロセスである。
- ・漸進的な成熟をあまり重大ではない変化と混同してはいけない。
- ・組織が成熟し始めたとき、最終的にどんな姿になるのか組織にはよくわからない。
- ・成熟は自然なプロセスだが、自動的に発生するものではない。
- ・成熟は、決して完了しない。
デジタルの成熟は、トップダウンとボトムアップ(文化主導型)の両アプローチで根付く。
デジタル成熟度別の特質(傾向)
デジタル戦略とリーダーシップ
『DX経営戦略 成熟したデジタル組織をめざして』NTT出版(2020)を参考にしてATY-Japanで作成
明確で一貫性のあるデジタル戦略が、企業のデジタル成熟度の唯一かつ最大の決定要因となる。
デジタル戦略は、持続可能な競争優位に導くようなやり方で、変化する環境に組織を適応させることである。
デジタル戦略構築におけるより大きな課題は、それぞれの状況に固有の戦略的動きを積極的に考え、見つけ出すことである。
- ・組織が直面する重要課題は、変化する環境に適応することであるので、企業のデジタル戦略は、環境の進化に伴い必然的に進化する。
- ・組織を目標に近づける短期構想を展開し、その後、短期構想から学んだことに基づいてその目標の性質を再検討するという、デジタルビジネスの全体目標を明確にする再帰的プロセスである。
事業目標を支援するテクノロジーの「正しい」使用方法は複数あるため、ツールやプラットフォームがどのように自分たちの役に立つのかを見つけ出すことが、組織の課題となる。
騒然としたビジネス環境で組織が足場を探すとき、組織を新しい現実に導くずばぬけたリーダーが必要になる。
人が集まるビジョンを生み出すだけでなく、最高の人材を引き付け、その中でも最高の人たちを取り込むことによって、デジタル面の成熟を可能にする状況を創り出していくことが求められる。
- ・未来のリーダーシップは、どんなことにも答えを出せるのではなく、影響力のある相手を奮起させる質問(適切な質問)をしかける能力に基づくものになる。
- ・速く学べるように意欲を引き出し、グループで協力して答えを見つけるように促す環境づくりに、重点を置くモデルである。
デジタル人材
『DX経営戦略 成熟したデジタル組織をめざして』NTT出版(2020)を参考にしてATY-Japanで作成
変化が加速度的に生じる世界では、組織にとって最善の戦略は、組織が変化の波を乗り切れるようなインフラを確立することで、その最も有力な資産は社員である。
デジタル人材を確保できないことは、デジタルディスラプションが引き起こす重大な脅威の一つである。
デジタル環境で成功するために最も重要なスキルは、戦略的思考、変化指向型、しなやかマインドセットである。
テクノロジーが急速に変化する世界では、テクノロジーに関するスキルと能力は重要であり、今後の仕事とキャリアにとっても必須条件となる。
自らが変化し成長できる人で、組織にも迅速に変化と成長を起こせる人を、企業は必要としている。
デジタル人材開発で要となるのは、「しなやかマインドセット」を育成することである。
知能は変わらないものであるという「硬直マインドセット(a fixed mindset)」に対し、「しなやかマインドセット(a growth mindset)」は、知能は成長させられるという核となる信念が起点となり、プロセスと結果にフォーカスする。
「しなやかマインドセット」を持つ人は、難題を忌避せずに受け入れ、逆境にもくじけず、努力を熟達にいたる道とみなし、批判とフィードバックから学習し、他人の成功に教訓を見出して励みとする人たちである。
デジタル組織
『DX経営戦略 成熟したデジタル組織をめざして』NTT出版(2020)を参考にしてATY-Japanで作成
デジタルに成熟したいと望む組織は、人材を引き付ける組織となる必要がある。
社員はデジタルリーダーのもとで仕事をしたいと思っているだけでなく、企業が積極的にデジタル成熟度を高めようとしない場合は、会社を辞めようと考え始める傾向がある。
成長と学習の機会を提供することは、しなやかマインドセットを培うと同時に、スキルの劣化に先を越されないようにする可能性を高める。
デジタルに成熟している組織は、人材開発に投資し階層をフラット化することで、社員のニーズに取り組んでいる。
十分なデジタル人材のアトラクションのためには、将来どんなスキルが必要になるかを評価し、人材を引き付けるために居を定め、業界外や社外の人材を活用することが必要となる。
多くの仕事は、テクノロジーに完全に取って代わられる前に、テクノロジーによって改良され改善されることになるが、人間の働き手の価値がテクノロジーによって短期間高められるからと言って、ディスラプションが起こらないということではない。
問題となるのは、テクノロジーがその役割を完全に引き継ぐ前に、人間の社員が新しい付加価値のある役割を確立できるかどうかであり、別の付加価値のある役割と仕事を人間の社員が引き受けられるかどうかである。
デジタル文化に関する重要ポイント
- ・デジタル文化は、デジタルビジネスの導入を推進するために重要である。
- ・デジタル文化は、独特で一貫性があり、デジタル成熟度と関連している。
- ・デジタル文化は、意図的である。
デジタルDNAの成熟度スペクトル
『DX経営戦略 成熟したデジタル組織をめざして』NTT出版(2020)を参考にしてATY-Japanで作成
現代における組織の成功には、組織の人たちが継続的に学習し、適応し、イノベーションを実施し、創造し、指導することが求められる。
適切なリーダーは、変化とイノベーションをもたらし、最終的には、組織に成長をもたらす。
しかし、人材とリーダーを最大限に活かすためには、適切な種類の文化と環境を築く必要がある。
成熟度の初期・発展段階の企業は、命令やテクノロジーをトップダウンで「押し付ける」テクニックに頼る傾向がある。
一方、成熟段階にある企業は、トランスフォーメーションを促進する状況を生み出す組織文化を築くことにより、デジタルトランスフォーメーションを「引き寄せる」傾向がある。
関連する書籍
ジェラルド・C・ケイン、アン・グエン・フィリップス、ジョナサン・R・コパルスキー、ガース・R・アンドラス(著)、三谷 慶一郎、船木 春重、渡辺 郁弥(監修)
出版社:NTT出版 (2020/10/31)
Amazon.co.jp:DX経営戦略
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