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イノベーションの競争戦略 優れたイノベーターは0→1か? 横取りか?
内田 和成(著、編集)
出版社:東洋経済新報社 (2022/4/8)
Amazon.co.jp:イノベーションの競争戦略
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発明家でなく、イノベーターになれ
イノベーションを横取りする企業、取り逃す企業、連続して起こす企業、どこが違うのか
本書は、2006年から2022年3月まで早稲田大学の教授、ビジネススクールでは競争戦略やリーダーシップ論を教えた著者らが、顧客の行動変容を起こし、市場における優位性を築くためのメカニズムを明らかにした一冊です。
イノベーションとは「顧客に行動変容まで起きること」として、イノベーションのトライアングル(3つのドライバー)やイノベーションストリーム(4つのステップ)について、多くの事例を紹介しながら詳細に解説していますので、ビジネスリーダーの方々にとって、自社のイノベーションについて考えるうえで大変参考になります。
本書は6章で構成しており、イノベーションの競争戦略のメカニズムを明らかにしています。
- ・第1章では、イノベーションを新たに定義し、そのメカニズムとして、社会構造・心理変化・技術革新の3つのドライバー(イノベーションのトライアングル)と、トライアングル・価値創造・態度変容・行動変容の4つのステップ(イノベーションストリーム)の全体像を解説しています。
- ・第2章では、「イノベーションのトライアングル」それぞれのドライバーに関連する事例を示しながら、企業自らの成長ドライバーとして見立て、活用していくことの重要性を説いています。
- ・第3章では、ドライバーを見出した後、イノベーション実現に至るために必要なステップ(イノベーションストリーム)について説明し、行動変容を起こすことこそがイノベーションにおいて重要であると結論づけています。
- ・第4章では、新しい価値を生み出しても顧客の行動変容まで起こせず後発者に横取りされてしまう場合もあることに注目して、「同一市場で価値を磨き上げる」「別市場に価値を転用する」という二つのパターンについて、先行者と後発者の視点からイノベーションを起こすうえでの重要なポイントを解説しています。
- ・第5章では、単一イノベーションが起こった後に新しいイノベーションが連続して起こす「イノベーションの連続」について、イノベーションを「重ねる」か「応用する」か、「同一顧客」か「異なる顧客」か、先行者に乗じるか、イノベーションを連続させる要諦を示しています。
- ・第6章では、「つくることに執心する」「顧客の行動が変わるまでやる意識が薄い」「儲けの仕組みと競争優位の確立が苦手である」といった日本企業の問題を指摘し、日本企業がイノベーションを起こしていくための提言をしています。
世の中に存在しなかった画期的な発明やサービスは、企業におけるイノベーションの必要条件ではないということである。
それよりも新しい製品・サービスを消費者や企業の日々の活動や行動の中に浸透させることこそがイノベーションの本質である。
我々はこれを行動変容と呼ぶが、それこそが企業のイノベーションを起こすためのカギとなる。
そのことを皆さんに知ってもらいたいという想いが本書執筆の動機となっている。
3つのドライバーと4つのステップ
3つのドライバー:イノベーションのトライアングル
イノベーションを引き起こす源泉として、社会構造・心理変化・技術革新を「イノベーションのドライバー」とし、その組み合わせを「イノベーションのトライアングル」とする。
イノベーションを起こすならば、トライアングルというレンズで環境変化を捉え、何が自社にとってのドライバーになるかを見立てることが起点となる。
社会構造
- ・社会や業界の根幹を覆すような構造の変化を指す。
- ・人口動態や法規制などの社会変化、特定業界の需給バランスの変化なども含まれる。
- ・人口動態や産業構造、法規制、景気などの社会全体の変化、特定の業種や業界に絞った構造変化なども対象となる。
心理変化
- ・生活者や企業の心理的変化、人の行動や常識、嗜好の変化を指す。
- ・ある出来事や事象に遭遇したとき、その捉え方によって意味合いは変わる。
例えば、コロナウィルスの蔓延による心理変化をドライバーと考える場合、外出をしたくなくなったと捉えるか、住居空間の充実が重視されるようになったと捉えるか。
- ・社会構造の変化や技術革新が進むのに伴い、連動して起こる可能性が高い。
社会構造の変化と違い、企業のマーケティング努力によって乗り越えていける可能性を持つ。
技術革新
- ・自社の技術だけでなく、業界や社会インフラの技術も指す。
- ・社会インフラとして利用される技術の他に、一部の業界の特殊な技術や自社の特殊技術も含まれる。
- ・テクノロジー変化をドライバーと考える場合、その組み合わせによっても意味合いは変わる。
4つのステップ:イノベーションストリーム
『イノベーションの競争戦略』を参考にしてATY-Japanで作成
ドライバーを捉え、それらをテコに新しい価値を創造し、その新しい価値が顧客の態度を変え、行動を変えてこそイノベーションと言える。
新しいイノベーションの定義に基づく創出プロセスを「イノベーションストリーム」と呼ぶ。
行動変容までいくと元には戻りにくいという不可逆性がある。
ステップ1.トライアングル:トライアングルによりドライバーを捉える。
ステップ2.価値創造:ドライバーをテコに新しい価値を創造する。
ステップ3.態度変容:顧客の態度が変わる。
ステップ4.行動変容:顧客の行動が変わる。
繰り返しになるが、イノベーションとは新しいことを考えたり、実現したりすることではなく、それを利用して人々の行動を変えることである。
そう考えると画期的なことを考えなくてはならないインベンションより、人々の行動を変えるイノベーションのほうが誰にもチャンスがあると思うのは私だけであろうか?
要するに本書の主張は「インベーターになるよりイノベーターになれ」である。
まとめ(私見)
本書は、イノベーションとは「いかに顧客の行動変容に至るか」の競争であるとして、顧客の行動を引き起こし、市場優位性を築いていくためのメカニズムを明らかにした一冊です。
内容は、著者が早稲田大学ビジネススクールのゼミ卒業生たちと立ち上げたイノベーション研究会で、2年半に及ぶ調査・研究の成果からきていますので熟読の価値があります。
イノベーションを「技術革新」と捉えるのではなく、「これまでにない価値の創造により、顧客の行動が変わること」と再定義して、多くの成功事例と失敗事例を詳細に紐解きながら理論を展開しています。
取り上げている事例は、多くの人が知っている企業やサービスで、最近の動向を詳細に分析していますので、本書の内容を理解するのに役立ちます。
なお、「イノベーション=技術革新」ではないことは、ヨーゼフ・アロイス・シュンペーターが1912年に著した『経済発展の理論』の中で「新結合」という言葉を使って提唱しています。
さらに、クレイトン・クリステンセンも、イノベーションを「一見、関係なさそうな事柄を結びつける思考」と表現しています。
そこで、イノベーションを「新しい組み合わせ」と捉えたときに、組み合わせの範囲は、「自社が保有する経営資源」だけでなく「他社の経営資源」や「顧客との組み合わせ」もあるでしょうし、そのためには「顧客の経験(行動)」や「顧客との関係」などを理解して、適切なタイミングで対応していくことが必要になると考えています。
その意味においては、本書の論点(出発点)は適切だと思いますし、さらに実現ステップとして「顧客の行動の変化」に着目した点では、非常に興味深いものがあります。
また、競争戦略の視点をもつことでイノベーションに対する企業の取り組みが変わるし、「技術革新ではなく顧客の行動を変化させること」をゴールとして取り組むのであれば、そのプロセスも変わってきます。
但し、競争優位を、技術の持続と捉える(一時的競争優位)か、収益性の持続と捉える(持続的競争優位)かは議論は分かれますが、継続的なイノベーションが必要であることは異論はないと思います。
本書では、「顧客の行動変容」というゴールへの到達、その後も連続してイノベーションを起こしていくための方法を示していますので、自社がイノベーションを起こしていたとしても、仮に遅れをとっていたとしても、ビジネスリーダーの方々が自社の戦略を考えていくうえで大変参考になります。
そして、イノベーションを競争戦略とするならば、後発企業にとっての戦い方もあるとして、本書では具体的な対応策を示しています。
そこで、逆転のイノベーションとして、先行者を追い抜いて後発企業がイノベーターとなるための戦い方を取り上げています。
本書では、「これまでにない価値の創造により、顧客の行動が変わること」としていますので、仮に他社が「新たな技術を開発」や「価値を創造」したとしても、「顧客の行動変容」につなげられれば勝てるということになります。
新らたな価値を生むよりも、社会構造の変化や心理変化を捉え、顧客に最適な形で価値を届けることがより重要であることが理解できます。
顧客の行動変容につなげるために、顧客の生活をどのように変えていきたいのかを考え、そのための課題を解決し、適切な価値を適切な市場に提供するといった、広い視野で顧客や環境変化を見極めていかなければなりません。
そして、自社のイノベーションを同一顧客や異なる顧客に展開したり、先行者の弱みや取りこぼしている顧客を狙ったりすることに加え、一度ではなく連続してイノベーションを展開していかなければ生き残ってはいけません。
なお、企業の競争には、「IO(産業組織論)型」「チェンバレン型」「シュンペーター型」の3つの型があり、その「競争の型」を理解して適応する「戦略タイプ」を講じることが重要となります。
IO型の競争やチェンバレン型の競争は、将来の事業環境や自社の長期的な強みはある程度予測が立つという視点に基づいていますが、シュンペーター型は、「不確実性の高さ」あるいはそれに基づく「予測のしにくさ」に視点を置いています。
予想しにくい事業環境では、事前に練られた精微な戦略や計画よりも、「試行錯誤をして、色々なアイデアを試し、環境の変化に柔軟に対応する」ことが必要となります。
不確実性の高いシュンペーター型事業では、「ダイナミック・ケイパビリティ」や「知の探索」などの「認知心理学ベース」の理論視点が必要となります。
ダイナミック・ケイパビリティは、「急速に変化するビジネス環境の中で、変化に対応するために内外の様々なリソースを組み合せ直し続ける、企業固有の能力・ルーティン」の総称です。
そこで企業に求められるのは、「業績が落ちかけても、すぐに新しい対応策を打って業績を回復できる力(変化する力)」であり、「一時的な競争優位を連鎖して獲得する」ことになります。
目指すべきは、「安定した、持続的な競争優位」ではなく、「連続する変化への対応」です。
「戦略」と「イノベーション」は別物でも、イノベーションは戦略の一部でもなく、イノベーションそのものが戦略であると考えています。
企業を取り巻く環境変化の要因を、社会構造・心理変化・技術革新の3つのドライバーとして、自社に優位なドライバーを見出し、成長ドライバーとして活用する。
単一のドライバーだけでなく組み合わさったときの変化にも目を見張り、イノベーションを一気に進める。
ドライバーを捉えて新しい価値を創造し、その価値が顧客の態度を変え、さらには行動を変える。
但し、「技術革新」以外の「社会構造」「心理変化」を捉え、各ドライバーを過大評価せずに適切に捉えることが重要となりますが、単一か複合か、そのバランスをどのようにとるのか、ここは難しい舵取りになります。
「顧客に行動変容を起こす」として、イノベーションのトライアングル(3つのドライバー)やイノベーションストリーム(4つのステップ)について詳細に解説していますので、自社のイノベーションと競争戦略を考えていくうえで大変参考になる一冊です。
目次
序章 イノベーションを問う
第1章 競争戦略としてのイノベーション
1 新たな定義
2 3つのドライバー
3 4つのステップ
第2章 イノベーションのトライアングル
1 ドライバーの力
2 ドライバーを掛け合わせる
3 逆風のドライバーを制する
第3章 イノベーションのストリーム
1 現在の「当たり前」はどう生まれたか
2 顧客に新たな体験をもたらす「価値創造」
3 顧客の世界が広がる「態度変容」
4 顧客の習慣が変わる「行動変容」
5 行動変容がカギを握る
第4章 逆転のイノベーション
1 油揚げをさらうトンビになる方法
2 同一市場で価値を磨く上げる
3 別市場に価値を転用する
4 さらに新しい価値の登場
第5章 連続するイノベーション
1 「行動変容」から新たな「ドライバー」を見立てる
2 同一顧客への「イノベーションの連続」
3 異なる顧客への「イノベーションの連続」
4 他人が起こした行動変容から「イノベーションの連続」を果たす
5 イノベーションを連続させる要諦
第6章 イノベーション成功への提言
1 日本企業はなぜイノベーションを起こせないのか?
2 イノベーションの4つの提言
参考
イノベーションの競争戦略 | 東洋経済STORE
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