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リーン・スタートアップ(Lean Startup) ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす
エリック・リース(著)、伊藤 穣一(解説)、井口 耕二(翻訳)
出版社:日経BP社 (2012/4/16)
Amazon.co.jp:リーン・スタートアップ
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思い込みは捨てて、顧客から学ぼう!
「構築-計測-学習(Build-Measure-Learn)」というフィードバックループを通して、顧客も製品・サービスも生みだし育てるシリコンバレー発、注目のマネジメント手法
関連書籍
2022年12月10日 アンドリュー・チェン『ネットワーク・エフェクト』日経BP (2022/11/17)
2021年02月22日 山川 恭弘『起業家の思考と実践術』東洋経済新報社 (2020/10/16)
2021年01月20日 田所 雅之『起業大全』ダイヤモンド社 (2020/7/30)
2019年12月14日 テンダイ・ヴィキ『イノベーションの攻略書』翔泳社(2019/11/6)
2018年03月19日 ダイアナ・キャンダー『STARTUP(スタートアップ)』新潮社(2017/8/25)
本書は、過去3社の起業を経て、現在はNew Context社のゼネラルパートナーであり、スタートアップや大企業及びベンチャーキャピタルに事業戦略や製品戦略をアドバイスしている著者が、無駄を排除する「リーン」な考え方をイノベーションに応用した一冊です。
この「リーン」という概念は、トヨタの「リーン生産方式」として製造業ではよく知られているもので新しい理論ではありませんが、それを「スタートアップ(新規事業の立ち上げ)」に応用しているところが本書の特徴です。
先行き不透明な現代において、起業家はもとより、新たな事業を展開しようとしている企業のリーダー、それを支援する方々にとって、無駄な時間や労力をかけずに効率的にスタートアップするためのヒントとなります。
「『構築-計測-学習』というフィードバックループを通して、顧客も製品・サービスも生み出し育てる」という考え方は、スタートアップには当たり前ですが、
- ・資金が切れる前にできるだけ多くを学ぶために、実用最小限の製品(MVP)を作り、実際に顧客に使ってもらった実験結果から成長につながる価値を育てる。
- ・間違った仮説や指標に従い、無駄な時間や労力をかけないために、コホート分析やスプリットテスト、革新会計(Innovation Accounting)を活用する。
それも、一時の成果ではなく、事業として継続できるかどうかの視点から検証する。
- ・軌道修正のタイプとして10個の「ピボット(方向転換)」を適切に選定し、3種類の中で使っている「成長エンジン」を明らかにして優先順位を決めてエネルギーを集中する。
などを参考にすれば、起業及び新規事業展開の成功確率は高まると感じました。
第1章からの引用
リーン・スタートアップとは、
サイクルタイムの短縮と顧客に対する洞察、大いなるビジョン、大望とさまざまなポイントに等しく気を配りながら、「検証による学び」を通して、画期的な新製品を開発する方法なのである。
- ・構築-計測-学習(Build-Measure-Learn)というフィードバックループを回して、継続的に調整する。
- ・当初戦略を維持するのか、ピボット(方向転換)をいつ実施すべきかを判断する。
- ・順調にエンジンの回転が上がったら、スケールアップして事業を急速に成長させる。
根本的思想
根本的な思想は、思い込みを捨て、実験による検証という科学的な進め方をすることにあります。
- ・スタートアップには、最大の敵である不確実性と戦える組織構造が必要である。
- ・リーン改革を進めるに当たって、「どの活動が価値を生んでいて、どの活動が無駄なのか」を最初に問わなければならない。
- ・スタートアップにおける価値とはモノを作ることではなく、検証を通じて持続可能な事業の構築方法を学ぶことである。
実用最小限の製品(MVP:minimum viable product)
新製品を真っ先に使いたがるアーリーアダプタに提供し、学びが得られるぎりぎりのレベルまでしか作り込んでいない製品のこと。
- ・「構築-計測-学習」のループを回せるレベルの製品で、最小限の労力と時間で開発できるもの。
- ・MVPで早期に顧客からフィードバックが得れば、膨大な時間とお金とエネルギーを費やして誰も欲しがらない製品を作ってしまうような無駄を避けることができる。
ピボット(方向転換)
変化の一種で、製品やビジネスモデル、成長のエンジンについて、根本的な仮説を新たに設定し、検証するための行動のこと。
- ・当初の戦略的仮説を信じて辛抱するか、方向転換するかを、どこかのタイミングで判断しなければならない。
- ・最初の戦略で成功を収めている場合でも、方向転換する必要がある。
1.ズームイン型ピボット(zoom-in pivot)
製品機能のひとつと考えていたものが製品全体となる。
2.ズームアウト型ピボット(zoom-out pivot)
これまで製品全体と捉えていたものを、もっと大きな製品の一部と捉えなおす。
3.顧客セグメント型ピボット(customer segment pivot)
製品仮説が当初の想定とは異なる顧客の問題と気づいた場合に行う。
4.顧客ニーズ型ピボット(customer need pivot)
解決しようとしていたものが顧客にとって重要性が高くない問題とわかり、解決
できる問題を別に発見する。
5.プラットフォーム型ピボット(platform pivot)
アプリケーションからプラットフォームへの方向転換、その逆の方向転換をする。
6.事業構造型ピボット(business architecture pivot)
高利益率・少量の複合モデルか低利益率・大量の大量操業モデルか、どちらかに事業構造を切り替える。
7.価値捕捉型ピボット(value capture pivot)
貨幣化及び収益モデルなど、価値の捉え方を変える。
8.成長エンジン型ピボット(engine of growth pivot)
成長のスピードアップや利益の多い成長を実現するために成長戦略を切り替える。
9.チャネル型ピボット(channel pivot)
効果を高めるために、提供するチャネルを切り替えたり、エンドユーザー直販に切り替えたりする。
10.技術型ピボット(technology pivot)
同じソリューションを異なる技術で実現できるとわかった時、技術を切り替える。
持続的イノベーションであり、段階的に改良するパターンなど。
成長エンジン(engine of growth)
スタートアップが顧客を増やし、新しい市場を開拓していく際に、成長を測る尺度として何を使うべきかを考える。
- ・測る尺度や実験の優先順位を決めるためには、使っている成長エンジンがわかれば、エネルギーを集中できる。
1.粘着型成長エンジン(sticky engine of growth)
既存顧客がもっと魅力を感じるように製品を改良し、定着率が高まる努力をする。
新規顧客の獲得速度が解約速度を上回れば成長する。
2.ウィルス型成長エンジン(viral engine of growth)
製品を顧客が普通に使うだけで人から人へと認知が広がる。
回転速度は、新規登録した顧客当たり何人の顧客が新たに製品を使うようになるかというウィルス係数で決まる。
3.支出型成長エンジン(paid engine of growth)
成長速度を上げるためには、顧客当たりの売上を増やすか新規顧客の獲得コストを下げるかのどちらかである。
回転速度は、顧客の生涯価値(LTV)と顧客獲得単価の差(限界利益)で決まる。
組織マネジメントや大企業への応用方法など
さらに本書では、組織マネジメントや大企業への応用方法などについても言及されており参考になります。
- ・適切な量のプロセスに投資し、チームを成長させて順応性の高い組織を作るために、「5回のなぜ」をはじめとする「リーン生産方式」のツールを活用する。
- 順応性の高い組織
状況の変化に合わせてプロセスとパフォーマンスを自動的に調整する組織
- 順応性の高い組織
- ・持続可能かつ破壊的なイノベーションをマネジメントするためのポートフォリオ思考を取り入れることで、確立された企業でもイノベーションを育むことができる。
- 組織的な特徴
少ないが確実に資源が用意されており、自分たちの事業を興す権限を有し、成果に個人的な利害がかかっている。
- 組織的な特徴
- ・イノベーションが自由に行える場(サンドボックス)をつくり、部門横断的チームでリーダーには権限と責任を与える。
私見
本書はネット企業IMVUでの著者自らの起業経験に加え、多くの事例を紹介しながら解説されていますので説得力がありました。
しかし、
- ・事例がIT関連事業でしたので、実際のモノ(商品)を取り扱う事業での適用事例が欲しかったことと、
- ・私には文章が少し読みにくいと感じましたので、理論の解説と事例を分けるとか、章立てを工夫などして頂ければ、
より容易に理解できたのではないかと思いました。
参考
・Lean Startup
著者が管理している公式サイト
・Eric Ries at Startup Lessons Learned sllconf 2011 - Japanese Translation
2011年5月サンフランシスコで行われた「Startup Lessons Learned Conference」
での著者の基調講演資料(平鍋健児氏と関口有紀氏の共訳)
・『注目の手法「リーン・スタートアップ」著者、大いに語る』
著者のエリック・リース氏インタビュー記事,2012.4.17,日経ビジネスオンライン
・IMVU
著者にとっての3番目の起業。共同経営者またCTOとして参画
「3Dアバターチャット」と「メッセンジャー」、「ホームページ」一体となった
コミュニケーションツール
当グログでご紹介した書籍『ビジネスモデル・ジェネレーション』を応用したサイト
リーン・スタートアップ(Lean Startup)
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ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだすエリック・リース(著)、伊藤 穣一(解説)、井口 耕二(翻訳)
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