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ネットワーク・エフェクト 事業とプロダクトに欠かせない強力で重要なフレームワーク
The Cold Start Problem
アンドリュー・チェン(著)、大熊 希美(翻訳)
出版社:日経BP (2022/11/17)
Amazon.co.jp:ネットワーク・エフェクト
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圧倒的に事業を伸ばし、破壊にも向かわせる 危険な戦略
ウーバーで実践し、投資先スタートアップだけに伝えてきたアドバイス
本書は、シリコンバレーのトップベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)のゼネラルパートナーであり、クラブハウスなど注目のスタートアップの取締役も務める著者が、成長に欠かせない戦略を解き明かした一冊です。
著者は、2018年にウーバーを退職後、アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)に入社し、スタートアップ投資家として活躍しているなかで、ネットワーク効果(ネットワーク・エフェクト)を解明しています。
その著者が、自身の経験に加え他の事例を紐解きながら「ネットワーク・エフェクト(コールドスタート理論)」のフレームワークを理論的に解説していますので、スタートアップだけでなく既存企業のビジネスリーダーの方々にとって、事業の立ち上げから軌道に乗せるまでの実践的なノウハウを学ぶことができます。
本書は6章で構成し、ネットワークの立ち上げから成熟までの5つのステージについて第2章から第6章で章を独立し、それぞれの章では代表的な事例を詳細に紹介しながら、スタートアップでも大企業でも戦略で利用できる具体的な施策を解説しています。
- ・第1章は、ネットワーク効果の概念とインターネット時代に登場した法則(メトカーフの法則、ミーアキャットの法則)を考察した後、「コールドスタート理論」のフレームワークの概要を解説しています。
- ・第2章は第1ステージの「コールドスタート問題」で、立ち上げ時に遭遇する課題への解決の糸口を示しています。
ウィキペディア、クレジットカード、ズームなどを例に、安定的に機能し、自律して成長できる最小限のネットワーク「アドミックネットワーク」をつくることが解決策になる理由を説明しています。
- ・第3章は第2ステージの「転換点」で、成長を後押して加速させる方法を示しています。
アドミックネットワークを一つ成立させた後、二つ、三つ、四つと増やして規模を大きくすることで、バイラル成長、離脱率の低下、収益化などの理想的なネットワーク効果が得られることを解説しています。
- ・第4章は第3ステージの「脱出速度」で、ネットワーク効果を強化し、成長を持続させる方法を示しています。
ユーザー獲得効果、エンゲージメント効果、経済効果といったネットワーク効果の絡み合う3つの効果を詳細に解説しています。
- ・第5章は、成長はやがて「天井」にぶつかる時期、成長鈍化に対する対応策を示しています。
事業を軌道に乗せるために必要な成長速度「ロケット成長」について解説した後、市場の飽和、クリック率低下の法則、ネットワークの反乱、過密化などへの対応策を解説しています。
- ・第6章は最終ステージのネットワークと製品が成熟した段階で、ネットワーク効果が「参入障壁」となることを示しています。
敗者と勝者の極端な結末になる理由を説明し、重要な戦略の一つ「チェリーピッキング」、プレイヤーの規模の違いによる「ハードサイドをめぐる競争」、大手企業の「バンドル戦略」について解説しています。
ネットワーク効果の概念がシンプルなら、どの企業にネットワーク効果があって、どの企業にないのか誰にでもわかるはずだ。
またどの数字を見ればネットワーク効果が発生しているのかがわかり、どうやったらネットワーク効果を生み、拡大できるかが解明されてもおかしくない。
しかし、そうはなっていない。
ネットワーク効果は現代のテクノロジー業界で非常に大事なテーマなのに、全貌がわかっていないというのは不思議じゃないだろうか。
コールドスタート理論とネットワーク効果
『ネットワーク・エフェクト』を参考にしてATY-Japanで作成
ネットワークの価値の変化を表すと、初期は時間の経過とともに高まり、中盤は横ばいになって、最後は減少に転じるS字カーブを描く。
ネットワーク効果をフル活用するするチームは成長の過程で5つのステージを通ることになる。
1.第1ステージ:コールドスタート問題
- ・アンチネットワーク効果
スタートアップにとってのネットワーク効果は、成長の足枷となる。
- ・コールドスタート問題を解消するためには、望ましいユーザーとコンテンツを同時に集めなければならないが、それをサービス開始直後に実現するのは簡単ではない。
- ・アトミックネットワーク
安定的に機能し、自律して成長できる最小限のネットワークをつくることが解決策となる。
- ・できたばかりのネットワークに参加してもらうユーザー選びやネットワークを思い通りに成長させるための環境づくりも重要である。
2.第2ステージ:転換点
- ・製品を軌道にのせるためには、さらに多くのネットワークを立ち上げ、市場を広げなければならない。
- ・ネットワークを広げていくと、ある時点から追い風が吹くようになり、ネットワークごとの拡大ペースが速まり、市場を広げやすくなる。
- ・ネットワークを一つ立ち上げるたびに近接ネットワークの立ち上げが楽になって拡大の勢いが増す。(小さな勝利が鍵になる)
3.第3ステージ:脱出速度
- ・高い成長率を維持しようと企業は多くの従業員を雇い、野心的なプロジェクトを次々に立ち上げるようになり、ネットワーク効果を強化し、成長を持続させるために猛烈に働く必要がある。
- ・ユーザー獲得効果
ネットワークが広がるほど、口コミと紹介によるバイラル成長によって、低コストで効率よくユーザーを獲得できるようになる。
- ・エンゲージメント効果
ネットワークが広がると、ユーザー間の交流が促進される。
- ・経済効果
ネットワークが広がると、収益を得やすくなり、コンバージョン率も高まる。
4.第4ステージ:天井
- ・急拡大する製品では、ネットワークをもっと拡大しようとする力と、自らをバラバラに引き裂こうとする力が強烈にせめぎ合っている。
- ・市場が飽和状態に近づき、顧客獲得コストが高騰したり、バイラル成長が鈍化したりすることなどが原因で、製品の成長は停滞する時期がやってくる。
- ・クリック率の低下
マーケティング手法が古くなるとユーザーは離れ、時間とともにエンゲージメントとユーザー獲得の効果が低下する。
- ・成功している製品には程度は違ってもスパムや荒らしが付き物で、完全に解消できるものではないが、いかに抑えるかも重要である。
5.第5ステージ:参入障壁
- ・ネットワーク効果が成熟した段階で、ネットワーク効果を駆使して競合他社から自社を守れるようになる。
- ・ブランド、独自技術、パートナーシップなども参入障壁となるが、テック業界ではネットワーク効果が特に重要である。
- ・ネットワーク製品同士の競争では、他の競争とは違う「ネットワーク競争」が繰り広げられ、機能や戦略の差だけではなく、製品のエコシステムの差が勝敗を分ける。
- ・価格や機能ではなくネットワークの質と規模、スタートアップはニッチ領域を狙うのに対して既存企業はネットワークの規模を利用してニッチ製品に素早く追随、製品をまとめて販売するバンドル戦略などがある。
ネットワーク効果
一般的な定義は、「多くの人が使えば使うほど製品の価値が高まる」ことである。
ネットワーク効果の重要な二つの要素は、一つは製品(物理的またはソフトウェア)、もう一つは製品同士をつなぐ人のネットワークである。
ネットワーク効果を発揮させるには、製品とネットワークの両方が必要となる。
- ・ネットワークは人と人をつなぐが、ネットワーク上の資産は所有していない。
- ・ネットワーク製品は、流通する資産を所有こそしていないが、資産との「つながり」を提供している。
ネットワーク効果の「効果」の部分には、その製品を使う人が多いほど価値が増すことを指し、価値の増加は、高いエンゲージメントや成長率の増加として現れる。
製品にネットワークがあるかは、サービスの中核に人をつなぐユーザー体験があるか、ネットワークが大きくなるほど新しいユーザーを惹きつけたり、離れづらくしたり、ものが売れやすくなるかを考える。
歴史を振り返っての考察
ドットコムブームの時代に、「勝者総取り」「先行者利益」「ホッケースティック曲線」といった用語が生まれたが、事実を見れば正しくないことがわかる。
大成功したスタートアップはたいてい後発企業で、先行者のメリットは少ない。
「メトカーフの法則」は、現実的ではない。
- ・メトカーフの法則
ネットワークの価値は、ネットワークに接続する通信機器の2乗に比例する。
- ・ネットワークを構築し始める重要な時期、誰もその製品を使っていないときに何をすべきかを示していない。
社会性動物の生態に影響を与える「ミーアキャットの法則」は、人間のグループにも当てはまる。
- ・アリー効果の閾値
群れの安全が守られて個体が増えやくすなる転換点の存在があり、アリー効果による個体数の変化を示す曲線は、生態学版のネットワーク効果だといえる。
- ・環境収容力
個体数が増え続けるといずれ「環境収容力」と呼ばれる、その環境下で存在できる個体数の上限に突き当たる。
- ・アリー効果の閾値を下回るほど乱獲すると、ほんの数年で個体数が激減してしまうことがある。
人間のネットワークでもミーアキャットの群れでも、同じように個々をふすびつけているので共通点は多い。
- ・アリー効果 = ネットワーク効果
- ・アリー効果の閾値 = 転換点
- ・環境収容力の上限 = 市場の飽和
そこで私は電話やクレジットカード、クーポンといった過去の事例から、メッセージアプリ、マーケットプレイス、コラボレーションツール、SNSなどの最新事例までを取り上げつつ、ネットワーク効果とは何かを体系的にまとめようと考えたのである。
これからやってくる、あらゆる製品がネットワーク効果によって再定義される時代にきっと役立つはずだ。
ウーバーの元社員がこの変化を主導しているわけではない。
本書で取り上げたスラック、ドロップボックス、ツイッチ、マイクロソフト、ズーム、エアビーアンドビー、ペイパルなどに勤め、バイラルグロースの威力を知り、新市場での立ち上げやエンゲージメントの向上など、ネットワーク効果がもたらす優位性を学んだ人たちが主導しているのだ。
彼らが、業界全体を大きく変える次世代のスタートアップに、ネットワーク効果の知見を引き継いでいるのである。
まとめ(私見)
本書は、ネットワーク効果(ネットワーク・エフェクト)を解明し、成長に欠かせない戦略を解き明かした一冊です。
ネットワーク効果が生まれるメカニズム、それを拡大・活用する方法に至るまで、ネットワーク効果のライフサイクルを実践的な視点からまとめていますので、スタートアップや既存企業のビジネスリーダーの方々が、自社サービスがどの段階にあるのか、サービスをさらに拡大するためには何に注力すればよいかを学ぶことができます。
「コールドスタート理論」のフレームワークは、テクノロジー業界の知識とコンセプトをネットワークのライフサイクルの初期・中期・終期でまとめ、自社のロードマップに落とし込めるように説明しています。
「コールドスタート理論」はネットワーク効果を5つのステージに分け、各ステージごとの課題、目標、ベストプラクティスを説明していますので、ネットワークが成長して進化する際に起きる課題への対応策だけでなく、次のステージに進むための具体的な施策を学ぶことができます。
なお本書は、著者の20年近くに及ぶ投資家、経営者としての経験に加え、何百回ものインタビュー、3年にわたる調査の集大成と位置付けています。
特に、著者がウーバーの運営チームで、世界800以上の市場で1億人の乗客を獲得し、500億江ドルの売上を達成するまでの成長の道のりで経験したネットワークの立ち上げと拡大の方法を惜しみなく紹介しています。
そして、アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)でのネットワーク製品への投資を通じて、ネットワーク効果の基本法則を実践に活かしているとしていますので、実用的な内容となっています。
また、各章のフレームワークの裏付けとして紹介している事例は多くの人たちが知っている大企業ではありますが、各企業も最初はスタートアップであり、その成功の要因を垣間見ることができるため、自社事業拡大へのヒントとなります。
ゼロからネットワークを立ち上げ、規模を拡大し、やがて業界で独占的な地位を確立するようになるまでの過程において、企業は遭遇する多くの課題に対応していかなければなりません。
スタートアップの初期段階においては「コールドスタート問題」への対策、「転換点」ではアトミックネットワークを一つだけでなく第二第三のネットワークを立ち上げて、拡大の勢いを増大させることが重要になります。
事業が拡大してネットワーク効果が生まれても安心はできませんので、「脱出速度」ステージでネットワーク効果を強化し、成長を持続させるために猛烈に働いても、やがて成長は「天井」にぶつかり、停滞する時期がやってきます。
そして、成長鈍化を切り抜けたとしても、ネットワーク効果を駆使して競合他社から自社を守っていかなければなりません。
そこで「参入障壁」は、成長したネットワークが小規模な新興ネットワークとの永続的な戦いの中で、ネットワーク効果を利用し、シェアを守ることすべてに関連しています。
競争が激しく参入障壁の低い環境においては、ネットワーク効果が数少ない防衛策となると本書では強調しています。
ユーザーの利用時間の奪い合い、熾烈な競争環境、新規ユーザー獲得のためのマーケティング効果の低下、他のネットワーク製品との競争は、業界全体に大きな影響を及ぼしています。
しかし、新しい製品がネットワーク効果を活用してエコシステムをつくり上げると、その産業を瞬時に再開拓できるかもしれません。
本書は、ネットワークを立ち上げ、規模を拡大し、軌道に乗せて事業を継続していくための実践的ノウハウが詰まった一冊です。
目次
序章
第1章 ネットワーク効果
01 ネットワーク効果とは
02 歴史を振り返る
03 コールドスタート理論
第2章 コールドスタート問題
04 失敗からの大逆転
05 アンチネットワーク効果――破滅に向かわせるマイナスの力
06 アトミックネットワーク――クレジットカードで起きたこと
07 ハードサイド――ウィキペディアの事例
08 ハードな問題を解決する――ティンダーの事例
09 キラープロダクト――ズームの事例
10 マジックモーメント――クラブハウスの事例
第3章 転換点
11 ティンダーの事例
12 招待制――リンクトインの事例
13 ツールで誘って、ネットワークで引き留める――インスタグラムの事例
14 成長を金で買う――クーポンを使う
15 フリントストーン戦略――人力で始めたレディットの事例
16 がむしゃらに突き進む――ウーバーの事例
第4章 脱出速度
17 ドロップボックスの事例
18 3種の効果
19 エンゲージメント効果――壊血病の事例
20 ユーザー獲得効果――ペイパルの事例
21 経済効果――信用調査機関の事例
第5章 天井
22 ツイッチの事例
23 ロケット成長――T2D3(3倍、3倍、2倍、2倍、2倍)
24 市場の飽和――イーベイの事例
25 クリック率低下の法則――バナー広告で起きたこと
26 ネットワークが反乱を起こすとき――ウーバーの事例
27 永遠の9月――ユーズネットの事例
28 過密化――ユーチューブの事例
第6章 参入障壁
29 ウィムドゥ対エアビーアンドビー
30 好循環と悪循環
31 チェリーピッキング――クレイグスリストの事例
32 ビッグバン型の立ち上げは失敗しやすい――グーグルプラスの事例
33 ハードサイドのユーザー獲得競争――ウーバーの事例
34 バンドル戦略――マイクロソフトの事例
最後に ネットワーク効果の未来
参考
ネットワーク・エフェクト 事業とプロダクトに欠かせない強力で重要なフレームワーク | 日経BOOKプラス
ネットワーク・エフェクト | 日経BOOKプラス
関係する書籍(当サイト)
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