書籍 ゼロ・トゥ・ワン(zero to one) 君はゼロから何を生み出せるか/ピーター・ティール(著)

書籍 ゼロ・トゥ・ワン(zero to one) 君はゼロから何を生み出せるか/ピーター・ティール(著)

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ゼロ・トゥ・ワン
君はゼロから何を生み出せるか
ピーター・ティール、ブレイク・マスターズ(著)、関 美和(翻訳)
出版社:NHK出版(2014/9/27)
Amazon.co.jp:ゼロ・トゥ・ワン

  • 起業家、投資家グループの中心人物が、2012年スタンフォード大学の学生向けに行った「起業論」講義をもとに書いた一冊

    世界に関する命題のうち、多くの人が真でないとしているが、君が真だと考えているものは何か?

関連書籍
 2022年12月10日 アンドリュー・チェン『ネットワーク・エフェクト』日経BP (2022/11/17)
 2021年02月22日 山川 恭弘『起業家の思考と実践術』東洋経済新報社 (2020/10/16)
 2021年01月20日 田所 雅之『起業大全』ダイヤモンド社 (2020/7/30)
 2019年12月14日 テンダイ・ヴィキ『イノベーションの攻略書』翔泳社(2019/11/6)
 2018年03月19日 ダイアナ・キャンダー『STARTUP(スタートアップ)』新潮社(2017/8/25)

本書は、シリコンバレーで現在もっとも注目されている起業家、投資家のひとりである著者が、全く新しい、世界を変えるような巨大な企業を創り出す手法を明らかにした一冊です。

著者は、1998年にPayPalを共同創業して会長兼CEOに就任し、2002年に15億ドルでeBayに売却しています。

また投資家としては、フェイスブック(Facebook)初の外部投資家の他、リンクトインへ投資した後にIPO成功、ヤフーやイェルプ、オクラ及びスペースXなどにも投資をしています。

なお、初期のPayPalメンバーは、その後「ペイパル・マフィア」と呼ばれ、シリコンバレーで現在も絶大な影響力を持っており、その中でも著者は「ペイパル・マフィアのドン」とも言われています。

その著者が、数百社のスタートアップへ投資した経験に基づいた起業パターンを多く紹介しており、起業家や起業を目指している方々、企業内で新たな事業を立ち上げようとしている方々、それらを研究している方々、さらには未来を担う若者たちにとって、起業に対する思考法を身に着けるガイドとなります。

新しい何かを作るより、在るものをコピーする方が簡単だ。

おなじみのやり方を繰り返せば、見慣れたものが増える、つまり1がnになる。

だけど、僕たちが新しい何かを生み出すたびに、ゼロは1になる。

何かを創造する行為は、それが生まれる瞬間と同じく一度きりしかないし、その結果、まったく新しい、誰も見たこともないものが生まれる。

(略)

今日の「ベスト・プラクティス」はそのうちに行き詰る。
新しいこと、試されていないことこそ、「ベスト」なやり方なのだ。

著者は、「リーン・スタートアップ」のコンセプトとは逆の主張をしています。

リーン・スタートアップは、あまり事前に計画しないで、少しずつ改善をしていくことを重視していますが、著者はそのやり方は成功しにくいとしています。

競争とは大きく違うどころか、競争がいないので圧倒的に独占できるような全く違うコンセプトを事前に計画し、それに全てを賭けろとしています。

進歩の未来

未来を考える時、未来が今より進歩していることを願うが、その進歩は「水平的進歩」と「垂直的進歩」の二つの形のどちらかになる。

水平的進歩(拡張的進歩)

  • ・成功例をコピーすること、1からnへ向かうこと。
  • ・グローバリゼーション:ある地域で成功したことを、他の地域に広げること。

垂直的進歩(集中的進歩)

  • ・新しい何かを行うこと、ゼロから1を生み出すこと。
  • ・テクノロジー:新しい取り組み方、より良い手法。

グローバリデーションとテクノロジーは異なる進歩の形であり、両方が同時に起きることもあれば、片方だけ進むことも、どちらも起きないこともある。

ほとんどの人は、グローバリゼーションが世界の未来を左右すると思っているが、実はテクノロジーの方がはるかに重要である。

スタートアップの原則

ビジネスを考えるときの大前提(スタートアップ界の戒律)は、2000年のドットコム・バブル崩壊の教訓とは逆である。

「ビジネスについて、過去の失敗への間違った反省から生まれた認識はどれか」を自問自答し、大勢の意見に反対することではなく、自分の頭で考えることである。

1.少しずつ段階的に前進すること → 小さな違いを追いかけるより大胆に賭ける

2.無駄なく柔軟であること → 出来の悪い計画でも、ないよりはいい

3.ライバルのものを改良すること → 競争の激しい市場では収益が消失する

4.販売ではなくプロダクトに集中すること → 販売はプロダクトと同じくらい大切である

独占企業の特徴

競争を避けることで独占企業になれたとしても、将来にわたって存続できなければ、偉大な企業とは言えない。

自問すべき最も重要な問いは、「このビジネスは10年後も存続しているか」であり、数字だけではなく、そのビジネスの定性的な特徴を客観的に考える。

ブランド、規模、ネットワーク効果、テクノロジーのいくつかを組み合わせることが独占につながるが、それを成功させるためには、慎重に市場を選び、じっくりと順を追って拡大する。

小さなニッチを支配し、そこから大胆な長期目標に向けて規模を拡大する。

独占企業の特徴

1.プロプライエタリ・テクノロジー(proprietary)

  • ・本物の独占的優位性をもたらすような、いくつかの重要な点で、二番手よりも少なくても10倍は優れていること。
  • ・10倍優れたものを作るには、全く新しい何かを発明することが一番である。
  • ・しかし、既存のソリューションを10倍改善することができれば、競争から抜け出せる。

2.ネットワーク効果

  • ・利用者の数が増えるにつれて、より利便性が高まる。
  • ・ネットワーク効果は強い影響力を持ちうるが、そのネットワークがまだ小規模な時の初期ユーザーにとって価値あるものでない限り、効果は広がらない。
  • ・ネットワーク効果を狙う企業は、必ず小さな市場から始めなければならない。

3.規模の経済

  • ・独占企業は、規模が拡大すればさらに強くなる。
  • ・多くの企業にとって、規模の拡大によるメリットは限定的で、特にサービス業では難しい。
  • ・規模拡大の可能性を最初のデザインに組み込むのが、優良なスタートアップである。

4.ブランディング

  • ・ブランドとは、そもそも企業に固有のもので、強いブランドを作ることは独占への強力な手段となる。
  • ・表面を磨き上げても、その下に強い実体がなければうまくいかない。
  • ・本質よりもブランドから始めるのは危険である。
優れたビジネスプラン

1.エンジニアリング

  • ・段階的な改善ではなく、ブレークスルーとなる技術を開発できるか?
  • ・偉大なテクノロジー企業は、二番手ライバルより何十倍も優れたプロプライエタリ・テクノロジーを持たなくてはならない。

2.タイミング

  • ・このビジネスを始めるのに、今が適切なタイミングか?
  • ・動きの遅い市場に参入することが賢い戦略となる場合もあるが、それは市場を独占できるような具体的かつ実現的な計画があるときだけである。

3.独占

  • ・大きなシェアがとれるような、小さな市場から始めているか?
  • ・ユーザーにとっては、どんな技術かはどうでもよく、問題解決手段がこれまでより優れていればよく、しかも小さな市場で独自のソリューションを独占できなければ過酷な競争からは抜け出せない。

4.人材

  • ・正しいチーム作りができているか?
  • ・テクノロジーに疎いチームは失敗するし、一流の営業は売り込みだとわからない。

5.販売

  • ・プロダクトを作るだけでなく、それを届ける方法があるか?
  • ・販売と流通は、プロダクトそのものと同じくらい大切である。

6.永続性

  • ・この先10年、20年と、生き残れるポジショニングができているか?
  • ・起業家は、自身の市場でラストムーバ―(終盤を制する)となるような戦略を立てるべきである。
  • ・偉大な企業かどうかは将来のキャッシュフローを創造する能力で決まり、テクノロジー企業の価値のほとんどは少なくとも10年から15年先のキャッシュフローからきている。

7.隠れた真実

  • ・他社が気づいていない、独自のチャンスを見つけているか?
  • ・偉大な会社は隠れた真実に気づいており、具体的な成功の理由は周りから見えないところにある。
  • ・「自然が語らない真実は何か?人が語らない真実は何か?」を問い続け、「隠れた真実」を見つけたら、世界を変える陰謀の共謀者となり得る人に伝える。
目次

1.僕たちは未来を創ることができるか

2.一九九九年のお祭り騒ぎ

3.幸福な企業はみなそれぞれに違う

4.イデオロギーとしての競争

5.終盤を制する―ラストムーバー・アドバンテージ

6.人生は宝クジじゃない

7.カネの流れを追え

8.隠れた真実

9.ティールの法則

10.マフィアの力学

11.それを作れば、みんなやってくる?

12.人間と機械

13.エネルギー2.0

14.創業者のパラドックス

終わりに―停滞かシンギュラリティか

スタートアップとは、君が世界を変えられると、君自身が説得できた人たちの集まりだ。

(略)

本書は、これまでにないビジネスを成功させるために自らに問うべきこと、答えるべきことを提示するものだ。

ここに書いたことは、マニュアルでもなければ、知識の羅列でもない、考える訓練だ。

なぜなら、それがスタートアップに必要なことだから。
従来の考え方を疑い、ビジネスをゼロから考え直そう。

宇宙規模のシンギュラリティを達成できるかどうかよりも、僕たちが目の前のチャンスをつかんで仕事と人生において新しいことを行なうかどうかの方がよっぽど大切だ。

(略)

今僕たちにできるのは、新しいものを生み出す一度限りの方法を見つけ、ただこれまでと違う未来ではなく、より良い未来を創ること ― つまりゼロから1を生み出すことだ。

そのための第一歩は、自分の頭で考えることだ。

※シンギュラテリティ(Singularity)
技術的特異点。テクノロジーの進歩により、人類を超える知性(脳の拡張や転送、人工知能)が生まれる段階。以後、人類の生物学的限界を超えて指数関数的な進化が起こるとする。

まとめ(私見)

本書は、共同創業者として、そして投資家として、著者が経験してきたことが詳細に綴られており、その内容は臨場感あふれるものでした。

一般的な起業本では、成功事例を後付けでパターン化しているものも少なからずありますが、本書は著者の経験に基づいた起業の思考法が整理されています。

起業には多くのパターンがあり、本書にはそれらが紹介されていますが、その中には成功の方程式はないとしています。

唯一のパターンは、「成功者は方程式ではなく第一原理からビジネスを捉え、思いがけない場所に価値を見出している」ことだとしています。

しかし、個人的な疑問は、本書で対象としている「偉大な企業」を創業するのは、どんな個人的資質が大切かということです。

著者もですし、歴史の中での革新的な企業には、際立った個性を持つリーダーが存在し、その独創的なリーダーが決断を下し、忠誠心を呼び起こし、数十年先までを計画しています。

「非凡な人物だから、革新的なビジネスを立ち上げられる」と諦めるのではなく、自らのビジネスについて、「隠れた真実」を発見するアプローチについて、考える訓練する(思考法を身に着ける)ためのバイブルとなる一冊でした。

変化の激しい現在、リーン・スタートアップのように、素早く動いて少しずつ改善を繰り返すのか、本書が言及しているように、ゼロから1を生み出す姿勢をとるのか、最終的には「自分の頭で考える」ことの大切さを改めて認識しました。

本書に関係する情報

Blake Masters
法律調査と分析のためのツールを作成するテック系スタートアップJudicata共同創業者

Notes Essays―Peter Thiel's CS183: Startup―Stanford, Spring 2012
本書ののもととなった、ティールの講演を視聴してまとめたノート

Zero to One
Legendary entrepreneur and investor Peter Thiel shows how to build a great business?and a better future.

Competition Is for Losers
THE WALL STREET JOURNAL.

Monopolies are a good thing for society, venture capitalist Peter Thiel argues in an essay on WSJ. The PayPal co-founder joins Sara Murray to discuss his business philosophy, his take on Apple Pay, and what's a deal breaker in pitch meetings.

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