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ワーク・ルールズ!(work rules)
君の生き方とリーダーシップを変える
ラズロ・ボック(著)、鬼澤 忍、矢羽野 薫(翻訳)
出版社:東洋経済新報社(2015/7/30)
Amazon.co.jp:ワーク・ルールズ!
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世界最高の職場を設計した男
グーグルの人事トップが、ここまで明かした!
新しい「働き方」の教科書
本書は、マキンゼー&カンパニーやGEを経て、現在は世界各国で「最高の職場」として認められ、数多くの賞を受賞しているグーグルのピープル・オペレーションズ(人事)担当上級副社長の著者が、グーグルの採用、育成、評価・報酬といった人事関連の事項を明らかにした一冊です。
著者は、2006年にグーグルに入社し、従業員が6,000人から6万人に増えていく過程で、グーグルの人事システムを設計し、進化させてきた責任者であり、その間何を学んできたか、人を第一に考え、生き方とリーダーシップを変えるためには何ができるのかを語っています。
グーグルは、「巨額の利益を上げているから」とか「新卒に年収2,000万円近くを払っている」企業だから一般とは違うと思われるかもしれませんが、本書にはグーグルの数多くの失敗についても触れ、グーグルのみならず他社の事例などを交えた「未来の働き方」について広く考察しています。
人事担当の方々にとっては、採用から育成及び評価といった一連の人事の仕組みを構築する際のガイドになり、組織のリーダーの方々にとっては、メンバーが活き活きと業務を推進し、組織の発展に貢献してくれるためには、どのように組織を運営すべきかを示してくれる一冊です。
必要なのは、社員は基本的に善良なものだという信念 ― そして、社員を機械ではなくオーナーのように扱う勇気だけだ。
機械は与えられた仕事をこなすが、オーナーは会社やチームの成功に必要なことなら何でもやる。
組織の運営には、「自由度の低い」組織と「自由度の高い」組織の2つの究極のモデルがあるとし、本書では、地球上で最も有能な人々は「自由が主導する組織に参加したい」という認識で論じています。
- ・自由度の低い組織:指揮統制型で、従業員は厳格に管理され、猛烈に働き、使い捨てにされる。
- ・自由度の高い組織:解放された自由にもとづき、従業員は尊厳をもって扱われ、会社の発展に意見を言うことができる。
グーグルのリーダーシップの原則的なスタイルは、賞罰を与えることではなく、障害を取り除いてチームを鼓舞するすることにマネジャーが集中することである。
実際、グーグルでは、企業が社員に権限を与えるプログラムを実行した時、仕事に必要なこと以外を学ぶ機会を社員に提供した時、社員のチームワークへの信頼を高めた時、あるいはこれらの施策を組み合わせて実行した時、対象社員の一人あたりの付加価値が9%増加したようです。
一方、そのような組織運営ができるのは「余裕のあるグーグルだからである」という反論に対しては、グーグルでも多くの試練を乗り越えてきた結果であり、経済が最悪の状態にあるときこそ、社員を大事に扱うことが何よりも重要であるとしています。
優秀な人材を採用するために
最高の人材を採用したうえで、教育し、訓練し、指導して、チャンピオンに育て上げる。
有能な人材を集める方法は、最高の人材を雇う方法を見つけるか、平均的な成績の人を雇って最高の人材に変えるかのどちらかであるが、グーグルは社員への初期段階に力を入れている。
社員にかける時間と資金の大部分を、新たな社員を引き付け、評価し、育てることに投じており、特に採用にかける費用の人事予算に占める割合は、平均的な企業の2倍となっている。
採用の方法を根本的に見直して、採用に時間をかけ、自分より優秀な人物を雇うようにする。
しかし、ある環境でスターだからといって、新たな環境でもスターになれるとは限らないため、自社の環境で確実に成功に導くことが重要となるが、そのための方法は、幅広い属性を探し、中でも最も重要なのは謙虚さと誠実さである。
優秀な人材を採用するための第一段階は、あらゆる社員をリクルーターにして人材を紹介してもらい、第二段階は最高のネットワークをもつ人々に人材確保の時間をもっと割いてもらうように頼むことである。
グーグルは、以下の採用プロセスで長時間をかけていて、直感を信じず、資質については決して妥協せず、文化的価値を最も重視している。
1.求職者が希望している職務だけではなく、すべての職務に精通している者による履歴書のふるい分け
2.一般知識能力を評価するための電話による面接、もしくはグーグル・ハングアウト(ビデオ・チャット)
3.採用担当マネジャーやそれに相当する者、部下(場合によっては複数)、職務の枠を超えた面接者による対面での面接
4.体系化された正式なフィードバックをまとめ、「集合知」を利用し、「バックドア・リファレンス(履歴書に紹介されていない人への身元確認)」と統合する
5.採用委員会による審査、ついで上級幹部、最終的にCEOによる審査
最高の人材を採用するための原則
1.求める人材の質の基準を高く設定する。
2.自分自身で採用候補者を見つめる。
3.採用候補者を客観的に評価する。
4.採用候補者に入社すべき理由を伝える。
優れたマネジャーに必要な属性
「社員は会社を辞めるのではなく、ダメなマネジャーと働くのを辞める」ことが証明されているほど、マネジャーは重要である。
マネジャーは、ミーティングの前に部下の強みと彼らが直面している状況について考えておき、ミーティングではとうとうと答えを述べるのではなく、質問するようにすべきである。
1.良いコーチであること。
2.チームに権限を委譲し、マイクロマネジメントをしないこと。
3.チームのメンバーの成功や満足度に関心や気遣いを示すこと。
4.生産性/成果志向であること。
5.コミュニケーションは円滑に。話を聞き、情報は共有すること。
6.チームのメンバーのキャリア開発を支援すること。
7.チームに対して明確な構想/戦略を持つこと。
8.チームに助言できるだけの重要な技術スキルを持っていること。
学習の時間の長さではなく、時間をどのように費やすか
「1万時間の法則」フロリダ州立大学 K・アンダーソン教授
ある分野で専門家になるためには、1万時間の練習が必要である。
「デリバレイト・プラクティス(熟考した練習)」K・アンダーソン教授
似たような小さなタスクを繰り返し、即座にフィードバックや修正、実験を加える練習法。
「WORK RULES」各章の提言
創業者になるために
- ・自分を創業者と見なすことを選ぼう。
- ・創業者のように行動しよう。
すばらしい文化を築くために
- ・自分の仕事は、重要なミッションを持つ天職だと考えよう。
- ・社員に与える責任、自由、権威の程度を、安心して与えられるより、やや大きくしよう。
あなたが不安を感じていないとすれば、十分に与えられていないということだ。
採用のために
- ・資源が限られていることを考え、人事予算をまず第一に採用活動に投資する。
- ・時間をかけて最高の人材だけを雇う。何らかの点で、自分より優れた人材だけを雇う。
マネジャーに、自分のチームのメンバーの採用を任せてはならない。
卓越した採用候補者を見つけるために
- ・自分が求めるものを徹底して具体的に描くことによって、最高の人材を紹介してもらう。
- ・採用活動を全社員の仕事の一部にする。
- ・最高の人材の注意を引くには、突拍子もないことでも恐れずやってみる。
新入社員を選ぶために
- ・求める人材の質の基準を高く設定する。
- ・自分自身で採用候補者を見つける。
- ・採用候補者を客観的に評価する。
- ・採用候補者に入社すべき理由を伝える。
社員への権限委譲ののために
- ・ステータスシンボルを廃止する。
- ・マネジャーの意見ではなく、データに基づいて意思決定を行なう。
- ・社員が自分の仕事や会社の指針を定める方法を見つける。
- ・期待は大きく。
業績評価のために
- ・目標を正しく設定する。
- ・同僚のフィードバックを集める。
- ・キャリブレーションを活用して評価を完了させる。
- ・報酬についての話し合いと人材育成についての話し合いを分ける。
2本のテールを管理するために
- ・困っている人に手を差し伸べる。
- ・最高の社員をじっくり観察する。
- ・調査やチェックリストを使って真実をあぶり出し、改善するよう社員をせっつく。
- ・自分のフィードバックを公表し、至らなかった点について改善するよう努力する。
学習する組織を築く
- ・「デリバレイト・プラクティス(熟考した練習)」
- 講義を消化しやすい量に分割して、明快なフィードバックを提供し、繰り返し学習する。
- ・社内で最も優秀な人を教師にする。
- ・トレーニングを受けた人の振る舞いを変えるようなプログラムに投資する。
不公平な報酬
- ・社内の摩擦を恐れず、不公平な報酬を払う。
パフォーマンスのべき分布を反映して、報酬の決め方に幅をもたせる。
- ・報酬の内容ではなく、実績を称える。
- ・メンバーが愛を伝え合う環境をつくる。
- ・熟考したうえでの失敗に報いる。
効率性、コミュニティ、イノベーション
- ・社員の生活の負担を減らす。
- ・イエスと言う理由を見つける。
- ・人生で最悪の出来事はめったに起こらないが、起きたときは社員に寄り添う。
健康と富と幸福に導くナッジ
- ・「である」と「であるべき」の違いを理解する。
- ・小さな実験を数多く行う。
- ・ナッジは強制ではない。
失敗に直面したとき
- ・自分の間違いを認め、隠そうとしない。
- ・あらゆる方向に助言を求める。
- ・壊れたものは修理する。
- ・間違いから教訓を学び、それを伝える。
「WORK RULES」のリスト
自由度の高い環境を手に入れたい人のために、チームや職場を変えるステップ
1.仕事に意味をもたせる。
2.人を信用する。
3.自分より優秀な人だけを採用する。
4.発展的な対話とパフォーマンスのマネジメントを混同しない。
5.「2本のテール」に注目する。
6.カネを使うべきときは惜しみなく使う。
7.報酬は不公平に払う。
8.ナッジ ―きっかけづくり
9.高まる期待をマネジメントする。
10.楽しもう!(そして、1に戻って繰り返し)
10 Things Google has found to be true
Google が掲げる10の事実
1.Focus on the user and all else will follow.
ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる。
2.It’s best to do one thing really, really well.
1つのことをとことん極めてうまくやるのが一番。
3.Fast is better than slow.
遅いより速いほうがいい。
4.Democracy on the web works.
ウェブ上の民主主義は機能します。
5.You don’t need to be at your desk to need an answer.
情報を探したくなるのはパソコンの前にいるときだけではない。
6.You can make money without doing evil.
悪事を働かなくてもお金は稼げる。
7.There’s always more information out there.
世の中にはまだまだ情報があふれている。
8.The need for information crosses all borders.
情報のニーズはすべての国境を越える。
9.You can be serious without a suit.
スーツがなくても真剣に仕事はできる。
10.Great just isn’t good enough.
「すばらしい」では足りない。
目次
1章 創業者になろう
2章 文化が戦略を食う
3章 レイク・ウォビゴンの幻想 ―新人がみな平均以上の職場はあるのか
4章 最高の人材を探す方法 ―グーグルの「自己複製する人材マシーン」
5章 直感を信じてはいけない
6章 避難所の運営は避難者に任せる
7章 誰もが嫌う業績評価と、グーグルがやろうと決めたこと
8章 2本のテール ―トップテールとボトムテール
9章 学習する組織を築こう
10章 報酬は不公平でいい
11章 タダ(ほぼタダ)ほどステキなものはない
12章 ナッジ/選択の背中を押す
13章 人生は最高のときばかりじゃない
14章 あなたにも明日からできること
人事オタクのためのあとがき
世界初のピープル・オペレーションズ・チームを築く
採用のスキルが向上したからといって、採用する人数が増えるわけじゃない。
自分たちの会社でより成功できるのはどの人か、より適切に見きわめられるということだ。
どこでもうまくやれる人じゃなく、私たちの会社で最高のパフォーマンスを発揮できる人が欲しいんだ。他の会社も自分たちにふさわしい人を採用できるようになれば、そこで働く人たちにとって、仕事は目的を達成する手段ではなくなり、充足感や幸福をもたらす源になるかもしれない。
1日が終わるときにみなぎるエネルギーを感じ、自分が成し遂げたことを誇りに思えるかもしれない。
まとめ(私見)
本書は、グーグルの人事トップが、採用、育成、評価のすべてを初めて語り、創造性を生み出す、新しい「働き方」の原理を公開した一冊です。
「自由度の低い」組織と「自由度の高い」組織のどちらを優先すべきかは、長年議論されてきています。
トップダウン、階級制、指揮統制を特徴とする経営モデルは、まもなく消えてなくなるはずと、他の書籍でも言及されていはいますが、命令指向で「自由度の低い」組織が未だに多くでの企業で見受けられるのは、短期的に利益を生み、手間がかからないなどという背景があるのかもしれません。
「自由度の高い」組織では、社員がブランド大使となって、自分の家族や社会及び環境を少しずつ変化させていき、その結果として生産性が上がり、事業が成長し、事業の投資利益率が上がっていくのかもしれません。
大きな意味合いにおいては、終身雇用の特徴のひとつかもしれませんが、経営環境が激しく変化し、雇用環境も変化していく中で、常に成果を求められるリーダーにとっては、短期的な思考を重視せざるをえない状況もあります。
グーグルでさえも長年試行錯誤して、自分たちの価値観に忠実であり続け、試練に直面しても適切な振る舞いを取り続けた結果としています。
やはり、リーダーの毅然とした態度が求められます。
不安や失敗に直面しても、自分の原則に忠実であり続け、言葉と行動で組織の魂を形づくることが必要となってきます。
本書で「文化が戦略を食う」とも表現されています。
ちなみに、グーグルの文化を定義する要素は、「ミッション」「透明性」「発言権」だとしています。
「戦略」は企業リーダーが主に立案していくこととなりますが、「文化」はリーダーが志やビジョンを示し、メンバーと共に創り上げていくことになります。
朝起きてワクワクしながら行きたくなる会社、人事に関する不満と不安を最大限減らし、機械に負けない人間らしいクリエイティブな働きができる組織にするために、実験とデータを活用して制度を進化させてきたグーグルの工夫を垣間見ることができる一冊でした。
本書に関連する書籍
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LIFE SHIFT(ライフ・シフト)
リンダ・グラットン (著)、アンドリュー・スコット (著)、池村 千秋 (翻訳)
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ワーク・ルールズ!
―君の生き方とリーダーシップを変えるラズロ・ボック (著)、澤 忍 (翻訳)、矢羽野 薫 (翻訳)
出版社:東洋経済新報社 (2015/7/31)
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