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Yコンビネーター シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール
ランダル・ストロス(著)、滑川海彦・高橋信夫・TechCrunch Japan翻訳チーム(翻訳)
出版社:日経BP社(2013/4/25)
Amazon.co.jp:Yコンビネーター
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世界を変えるスタートアップは、ここから生まれている!
伝説のハッカー、ポール・グレアム率いる起業家養成スクール「Yコンビネーター」の3カ月に密着したノンフィクション。
若き起業家との熱い交流を描く!
関連書籍
2021年02月22日 山川 恭弘『起業家の思考と実践術』東洋経済新報社 (2020/10/16)
2021年01月20日 田所 雅之『起業大全』ダイヤモンド社 (2020/7/30)
本書は、合格率3%の難関を突破して集まった、64チーム、160人に若き起業家の卵が、投資家へのプレゼンに向けた3ヶ月のブートキャンプ(2011年夏学期)の様子を取材した一冊です。
スタートアップに対する考え方、プロダクトの作り方、事業展開や遭遇する課題への対処、投資家向けのプレゼンのポイントなどのアドバイスが随所に綴られており、スタートアップの方々だけでなく、企業内で事業を立ち上げようとしている方々にとって、大いに役立ちます。
Y combinator(YC)
2005年に、ポール・グレアム氏が設立
- ・2012年夏学期までに合計383のスタートアップに投資し、創業者の総数は800人
- ・2005~2010年までに投資した208のスタートアップのうち、最も評価額が高い21社の評価額の合計は47億ドル(5社は1,000万ドルで買収された)
基本モデルは、少額の資金を複数のスタートアップに投資し、定期的に助言する。
- ・多数のソフトウェア・スタートアップへの一括投資、3ヶ月のブートキャンプ、成果を披露するデモ・デーなど
同形式の他のベンチャーキャピタル(VC)に比べ、延べ多額の投資を実施し、巣立っていった同窓生ネットワークは貴重な資産となっている。
投資は、
- ・スタートアップの立ち上げ期あるいはシード期
- ・一般的には1社当たり1万1,000ドル、加えて創業者一人あたり3,000ドル
(創業者が3人の場合であれば2万ドル。但し、創業者が4人以上の場合は2万ドルが上限)
- ・この投資額で、平均6~7%のシェアを持つ
(投資を受けた会社の価値は、約28万6,000ドルとなる)
YC出身のスタートアップに対する投資家の信用と期待は絶大で、シリコンバレーでは「卒業生は最も成功の可能性が高いスタートアップ」と言われている。
ブートキャンプ
年2回(冬学期、夏学期)、学期は3ヶ月、その間はシリコンバレーで過ごすことが義務づけられている。
世界中の応募の中から、合格率は3%
(最終面接に残るのは、応募2,000組の内9%以下程度)
設立者のポール・グレアム氏をはじめとするYCパートナーたちの助言を受けながら、アイデアがビジネスになるまで徹底的に一緒に考え抜く。
毎週ゲストを招いた夕食会、学期の最後には数百人もの投資家の前でプロダクトのプレゼンテーションを行う「デモ・デー」
卒業生には、
- ・Dropbox(2007):ファイル共有サービス
- ・Airbnb(2009):個人の家を旅行者に貸し出すサービス
- ・Heroku(2008):クラウドサービス(Paas)、2010年にSalesforceが2.12億ドルで買収
- ・OMGPOP:ソーシャルお絵かきゲーム「Draw Something」を運営、2012年にZyngaが2.1億ドルで買収
- ・Cloudkick:複数のクラウドやデータセンターのサーバを一元的に管理できるツールを提供、2010年にRackspaceが5,000万ドルで買収
- ・本書の取材の夏学期には、ウェブ上でプログラミングが学べるCodecademyが参加していました。
以下に、個人的に記憶しておきたい記述の一部を整理します。
創業者の「5つの資質」
スタミナ、貧乏、根無し草性、同僚、無知
- ・根無し草性:移動を厭わない性格
- ・同僚:大学で親しくなった同級生
- ・無知:スタートアップにまつわる苦難を深く理解していないこと
スタートアップの創業者になる最適な時期は、20代半ば
「ラーメンが食える程度の収益性」
創業者たちがやっと生活できる程度の利益が上がっている状態
ゴールドラッシュでは、ツルハシを売れ
一般ユーザー向けにプロダクトを提供するか(自身で金を採掘する)か、一般ユーザー向けにプロダクトを開発しているデベロッパー向けにソフトウェア・ツールを売るか(ツルハシを売る)か
デジタル時代のツルハシは、ソフトウェア・ツールである。
人が欲しがるものを作れ。
時には単なる統計を忘れて、自分が「何が何でもこれをやりたいからやるのだ」という気持ちを奮い立たせることも必要である。
報酬とリスクは紙一重である。
- ・本当に大きな見返りを得るには、一見異常と思われるようなことをする必要がある。
- ・それ相応の報酬を期待してリスクの高いアイデアを選んだ創業者は、間違いなく、理屈云々ではなく感覚的にそのアイデアを選んでいる。
新しいアイデアを生み出す3カ条
1.創業者自身が使いたいサービスであること
2.創業者以外が作り上げるのが難しいサービスであること
3.巨大に成長する可能性を秘めていることに人が気が付いていないこと
- ・誰かが自分のためにスタートアップを作ってくれるとしたらどんなものがいいか自問してみる。
- ・次に、自分以外の誰かにとって、どんな困った問題がありうるかを考える。
- ・優れたアイデアというものは、いくらでも辺りに転がっていて、誰かが拾い上げるのを待っているもである。
将来、ユーザーを奪い合う分野を探せ。
技術的に難しい課題こそスタートアップに向いている。その課題が人が困っている問題を本当に解決するなら。
- ・ある解決法に難しい部分があるとすれば、それがライバルの参入に対して有効なハードルになる。
本当にやってみたい分野というのは、必ずニーズがあるもの。
- ・出来の悪いサイトでもいいからローンチすると、誰かが自然と使い始める。
- ・プロダクトを公開した当初はユーザーの数はそれほど重要ではなく、ユーザーがどれほど熱心に使ってくれるかが重要である。
消費者が何を欲しいと思っているかではなく、企業が何を必要としているかに注意を集中する。
一般消費者がどんなものを喜ぶかは、偶然の要素が大きい。事前にはわからない。
自分が興味を持てることをやるのが重要である。
しかし、失敗コストが最小であるようなアイデアを選ぶべきである。
友達は、友達だから使ってくれるかもしれない。
しかし、彼らが新しいユーザーを連れて来てくれるかどうかが本当のテストになる。
急いでローンチしろ。
なにかアイデアを思いついたら、最小限動くモデルをできるだけ早く作る。
作りかけのプロダクトでもかまわない。
とにかく、現実のユーザーの手元に届けて反応を見る。
そうして初めて、そのプロダクトがユーザーが求めていたものなのかどうかがわかる。
プレゼンでは、聴衆の注意を引く努力をする。
話すときには、スクリーンではなく聴衆を見ること。聴衆を見れば、聴衆は注目してくれる。
言葉を減らして、ゆっくり話す。ゆっくりでも、力強く話す。
自分たちのスタートアップが達成しようとしているアイデアが何かを、明確にする。
流行語や使い古されたマーケティング用語は使うべきではない。
なぜ自分たちなのかを説明する。
プレゼンの中で、どこを盛り上げたいのかをよく考える。どこか1ヶ所で生き生きとするのがいい。
投資家が初めて見たプレゼンから吸収できるのは、4つか5つの文に相当する情報でしかない。その内のひとつは、驚きを与えるような本物の洞察でなくてはならない。
投資家は、最初の15秒で、そのプレゼンに注意を払うかどうかを決める。
投資する際に重視すること
そのチームは、全員がハッカーか?
YCが求めているハッカーの創業者は、13歳ごろからプログラミングを始めている。
選考に当たっては、年齢だけではなくチームワークを重視する。
注目するのは、優れたエンジニアである創業者かどうかである。
「私は、この創業者の下で働きたいと思うだろうか」と自問することにしている。
創業者は必ず二人以上必要だが、多すぎてもいけない。
アイデアはいつでも変えてもよいが、共同創業者は変えてはいけない。
スタートする前から互いに相手をよく知り、互いを好きであることが重要である。
その他、ポール・グレアム氏の格言
- ・数字で測れるものを作れ。
- ・市場が君たちをクビにする。
- ・セールスアニマルになれ。
- ・常に成長率に目を光らせろ。
- ・他の連中より真剣に考え抜いた点だけが優位性になる。
- ・高い会社評価額を追ってはいけない。
努力すべき目標は、優れたプロダクトを開発し、大量のユーザーを集め、会社を成功させることだ。
- ・スタートアップの本質は、単に新しい会社だという点にはない。
非常に急速に成長する新しいビジネスでなければいけない。スケールあるビジネスでなければいけない。
- ・スタートアップは、あらゆる場面で質的に大企業に優っている。
採用においては、創業者がお互いを選び、その後の社員の採用は純然たる能力主義に基づく。
様々な差別禁止処置が、起業の際には適用されない。
1990年代では創業者があるアイデアを考えついてからそれが実施に作動するプロトタイプになるまでに、1~2年かかるのが普通だった。
しかし、YCのスタートアップの場合、プロトタイプ作りには長くて数週間しかからない。
YCのスタートアップはできるだけ素早くプロトタイプを完成し、リリースするよう求められる。バグや問題点があればすぐに修正して再度試す。
ベンチャーキャピタル(VC)とインキュベーターの違い
従来型のベンチャーキャピタル(VC)
- ・億円単位でシリーズA段階で投資し、1/3程度のシェアを取ります。
- ・投資のタイミングはユーザーや売上が十分伸びてからで、担当者が社外取締役になる場合が多い。
インキュベーター
- ・創業間もない企業に百万円単位で投資し、シェアは数%程度です。
- ・投資タイミングは創業間もない(場合によっては創業前)時で、担当者が社外取締役になることはほとんどない。
VCは営業や採用を手助けしてくれますが、「プロダクトの作り方」や「ユーザーや売上拡大」はアドバイスしないのが一般的です。
しかし本書のYコンビネーターは、「プロダクトの作り方」から「投資家へのプレゼン」に至るまでの様々な場面で、適切なアドバイスをしています。
参加者はソフトウェア・スタートアップですが、プロダクトは多種多様ですので、普遍的な共通のアドバイスに加え個々の分野の特性を考慮したアドバイスもしているのかもしれません。
そこに、ポール・グレアム氏やYCパートナーたちのすごさがあると思います。
本書には、YCの面接からデモ・デーに至るまでの様々な場面で、スタートアップ創業者たちに対するポール・グレアム氏やYCパートナー及びゲストの経験談やアドバイス、創業者たちとの議論など、多くはそのまま会話口調で再現されてします。
コードを書いて顧客と話せ、早く出してやり直せ、数字で測れる週刊目標を決めて集中する。
スタートアップを成功させるシリコンバレー文化、そしてYCのブートキャンプをほんの少しバーチャル体験した気になれた一冊でした。
最後に、「訳者あとがき」でYCの面接で質問されたサンプルがありますので、ご紹介します。
YCに応募するつもりがなくても、新しい製品やサービスをスタートさせるときのチェックポイントとして大いに参考になると思う。
新しいユーザーがこのプロダクトを使ってみようと思う理由は?
一番怖いと思うライバルは?
きみたちがチームとして集まった理由は?
ボスは誰?
これまでで一番自慢になるきみの業績は?
きみの今まで最大の失敗は?
既存のプロダクトとの違いを正確に言うと?
プロダクトとの違いを正確に言うと?
プロダクトがどういう仕組みなのか、もっと詳しく説明すると?
ユーザーが使うのをためらう理由は?
このプロダクトは次にどう発展させていきたい?
新しいユーザーはどこから来る?
6カ月後に直面しているであろう一番大きな問題は?
今までほかの人がこれをやらなかった理由は?
ユーザーからの希望で一番多いものは?
コンバージョン率は?
参考
ポール・グレアムが語るVCのための処方箋:早く動け。株の取り分は減らせ
2013年7月1日 TechCrunch
The Y Combinator Startup Index
Danielle Morrill,20 Mar 2013
500 Startupsのメンターであり、複数のスタートアップ企業のアドバイザーとして活動しているDanielle Morrill氏が、現在の「Y Combinator」でどんなスタートアップが育成されているかリストを作成
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2012年5月25日 TechCrunch
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