既存理論間の接続
本ページで扱う理論群は、個人の意味形成、感情、行動、学習、組織アイデンティティ、および異なる意味世界間の翻訳・境界連結という、複数主体間の意味の差異を検討する上で関連性の高い領域から選定しています。
網羅的な理論比較ではなく、MGIMの各プロセス(検出・対話・翻訳・統合)を理論的に支える代表的な知見を中心に取り上げています。
既存理論は何を説明してきたのか
既存理論では、
心理学、組織行動論、経営学などで、個人や組織の現象について多くの研究が蓄積され、それぞれ異なる重要な現象を説明しています。
MGIMが注目するのは、
- これらの理論そのものではない。
- それらの理論によって説明される現象と現象の「間」です。
- 既存理論が説明する各現象を、意味ズレという共通の分析単位によって接続し、マルチレベルの循環モデルとして再構成します。

個人の意味形成、意識・省察、主体間の相互理解、組織学習・アイデンティティに関しては、複数の理論領域に知見が蓄積されています。
本ページでは、それらをMGIMがどのような関係として接続するかを整理し、各理論とMGIMの詳細な対応関係は「理論的マッピング」で整理しています。
意味ズレ統合モデル(MGIM)の理論的特徴
1.意味ズレの概念化
既存研究において個別に論じられてきた諸現象を、複数主体間の意味の差異という観点から横断的に接続し、その統合過程まで一貫して捉える枠組みは限定的です。
- MGIMは、個人・部門・階層ごとに形成される意味の違いそのものを、偶発的なノイズではなく、組織の協働や変革の成否を左右する中心的な現象として位置づけます。
- この視点によって、「情報が共有されているのに行動が揃わない」といった、既存理論を個別に適用するだけでは限界があった、複数主体間の意味の差異がどのように協働行動の違いにつながるのかを、一連のプロセスとして捉えるようになります。
2.意味ズレ統合プロセスの提示
意味の違いの存在は、さまざまな理論で示唆されてきましたが、意味の違いをどのように扱い、協働可能な状態へつなげるのかについては、既存研究を横断して一連のプロセスとして捉える枠組みは限定的です。
- MGIMは、検出(違いに気づく)→ 対話(互いの前提を表出する)→ 翻訳(異なる意味を相互に理解可能な形へ変換する)→ 統合(協働可能な新しい意味を形成する)という4つのプロセスとして提示します。
- これにより、意味ズレへの対応を分析・実践するための体系的なプロセスとして扱えるようになります。
3.マルチレベル循環の提示
個人の意味形成、集団間の意味統合、協働行動、組織学習、組織アイデンティティの更新は、それぞれ異なる理論領域で個別に説明されてきた現象です。
- MGIMは、個人レベルから組織レベルへと連なる循環として接続し、さらに更新されたアイデンティティが次の個人の意味形成(認知・解釈)に影響を与えるという、レベルをまたいだフィードバック構造です。
- これにより、組織が環境変化に応じて意味づけを更新し続ける動的なプロセスとして説明できるようになります。
MGIMで重要なのは、「検出 → 対話 → 翻訳 → 統合」の4プロセスです。
既存理論には、意味形成、対話、学習、アイデンティティなどの概念は存在しますが、MGIMでは、それらを「意味のズレを協働可能な意味へ変換する一連のメカニズム」として構造化しています。
既存理論は「個別の心理・組織現象を説明している」のに対し、MGIMは「異なる意味を持つ主体間のズレを、協働可能な新しい意味へ変換するメカニズムを説明している」という関係です。
意味ズレ統合モデル(MGIM)の理論的貢献
| 概要 | 既存理論 | MGIMの理論的貢献 | |
|---|---|---|---|
| 1.個人の意味形成 |
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個人の意味形成を、認知・解釈・意味形成・感情・意図・行動・経験・学習・アイデンティティまでを含む循環プロセスとして捉える。 |
| 2.意識・省察 |
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| MGIMプロセス 3-1.意味ズレ検出 |
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Weick:センスメイキング理論(状況の解釈・意味形成) |
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| 3-2.対話・翻訳→統合 |
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「検出 → 対話 → 翻訳 → 統合」を一連のプロセスとして構造化し、協働可能な新たな意味を形成する。 |
| 4.意味の再創出 ↓ 個人の意味形成に循環 |
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上記の表は、個別理論の詳細な対応表ではありません。
既存研究が扱ってきた理論領域と、MGIMがそれらをどのような循環的関係として接続するかを領域別に整理したもので、理論ごとの射程と限定は「理論的マッピング」で示しています。
既存理論の「間」にある問題
組織成員が曖昧な状況や出来事に対して意味を形成・更新し、その意味づけが行為と相互作用しながら組織的現実を構成していく過程については、センスメイキング理論(Weick, K. E. (1995). Sensemaking in Organizations.)などによって説明されています。
個人の認知・行動・環境の相互作用については、社会認知理論(Bandura, A. (1986). Social Foundations of Thought and Action: A Social Cognitive Theory.)によって説明されています。
その他、関連する主な既存理論があります。
- 感情については認知評価理論(Appraisal Theory, Richard S. Lazarus, 1966; 1991)
- 意図と行動については計画的行動理論(Theory of Planned Behavior, Icek Ajzen, 1991)
- 経験と学習については経験学習理論(Experiential Learning, David Kolb, 1984)
- 組織学習については組織学習理論(Organizational Learning, Chris Argyris & Donald Schön, 1978)
- 組織アイデンティティについては組織アイデンティティ理論(Organizational Identity, Albert & Whetten, 1985、Gioia et al., 2000)
- 実践における省察については省察理論(Reflection-in-Action / Reflection-on-Action, Donald A. Schön, 1983)
- 認知のモニタリングについてはメタ認知理論(Metacognition, John H. Flavell, 1979)
- 異なる知識共同体間の視点の翻訳・共有についてはパースペクティブ・メイキング/テイキング理論(Perspective Making and Perspective Taking, Richard J. Boland Jr. & Ramkrishnan V. Tenkasi, 1995)
- 異なる社会的世界の間での意味の橋渡しについては境界オブジェクト理論(Boundary Objects, Susan Leigh Star & James R. Griesemer, 1989)
- 経験の前提の省察と意味の再構成については変容的学習理論(Transformative Learning, Jack Mezirow, 1991)
また、個人が自らの意味形成を自覚し、その前提を振り返る過程については、省察理論やメタ認知理論が、複数主体間で意味を翻訳し、共有可能にする過程については、パースペクティブ・メイキング/テイキング理論や境界オブジェクト理論が、それぞれ関連する知見を提供しています。
しかし、組織内に異なる意味を持つ複数の主体が存在する場合、その意味の違いがどのように顕在化し、どのように相互理解され、どのように協働可能な意味へ変換されるのかというプロセスは、既存研究を横断して統合的に捉える枠組みは限定的です。
ただし、これは既存研究に意味の差異や複数主体間の相互作用が存在しないことを意味するものではありません。
MGIMが提案するのは、それらを「意味ズレ」という分析単位として明示し、検出 → 対話 → 翻訳 → 統合というプロセスを通じて、協働行動 → 組織学習 → 組織アイデンティティ更新まで接続する点です。
MGIMは、この理論間の接続部分に着目しています。
リーダーシップとMGIMとの関係
既存の組織論やセンスメイキング理論において、リーダーシップは不確実な環境下でメンバーが納得できるストーリーを提示し、個々の「もっともらしさ(Plausibility)」を形成するプロセスとして捉えられてきました。
Smircich & Morgan(1982)は、リーダーシップの本質を「意味のマネジメント(The Management of Meaning)」として定義し、リーダーが現実を枠づけ、フォロワーのために意味を形成する存在であると論じました。
MGIMは、この「意味のマネジメント」という視点を継承しながら、リーダー単独による意味の形成・提示にとどまらず、組織内に生じる「意味ズレを統合することで協働可能な新しい意味を形成するプロセス」として再定義し、発展させます。
MGIMが着目するのは、複数の主体が異なる意味を形成している状況において、その意味の差異(意味ズレ)がどのように検出され、対話・翻訳を通じて、協働可能な新しい意味へ統合されるのかというプロセスです。
したがって、センスメイキング理論とMGIMは競合する関係ではなく、異なる分析焦点を持つものとして位置づけられます。
センスメイキング理論が、主体が不確実な状況をどのように意味づけ、理解可能な状況として構成するのかを捉えるのに対し、MGIMは、異なる主体間に生じる意味の差異を分析単位として捉え、その差異を協働可能な新しい意味へ統合するプロセスに焦点を置きます。
既存研究にも複数主体間の意味形成や相互作用を扱う研究は存在しますが、MGIMは複数主体間に生じる意味の差異を「意味ズレ」として概念化し、その差異を分析単位として設定します。
そして、検出 → 対話 → 翻訳 → 統合 → 協働可能な意味の形成というプロセスを一連の分析枠組みとして提示します。
この観点から、MGIMにおけるリーダーシップは、単に「正しい意味」を提示してメンバーの意味を統一することではありません。
リーダーには、異なる主体が形成している意味を認識し、それらの差異を意味ズレとして捉え、対話と翻訳を通じて相互理解を促し、必要に応じて複数の意味を接続・統合する役割が求められます。
そのため、MGIMでは、リーダーシップを単一の行為としてではなく、意味ズレの状態や統合プロセスに応じて異なる役割を担うものとして捉えます。
そこで、MGIMの4つのプロセスに対応して、次の4つの役割を区別します。
この4つの役割は、既存のリーダーシップ理論における役割分類をそのまま再構成したものではなく、MGIMプロセスにおいてリーダーシップが担いうる機能を整理したものです。
- 意味ズレの検出者
自らの意味だけでなく、他者・部門・専門領域などの異なる意味形成を認識し、意味ズレや意味形成の変化を把握する。 - 意味の対話促進者
異なる主体が持つ意味や背景を対話を通して浮き彫りにし、それぞれの解釈や前提を相互に理解できるよう促す。 - 意味の翻訳者
異なる主体が持つ意味や背景を、それぞれの主体が理解し、協働に活用できる言葉や概念に変換する。 - 意味の統合者
既存の意味のいずれかに一方的に合わせるのではなく、異なる意味を接続し、協働可能な新しい意味の形成を促す。
これらの役割は、MGIMの「検出 → 対話 → 翻訳 → 統合」という4つのプロセスに対応するものであり、リーダーが常に4つすべてを担うことを意味するものではありません。
組織の状況、意味ズレの程度、関係する主体、統合の段階などに応じて、必要な役割が異なります。
この点において、MGIMはリーダーシップそのものを一つの実践手法として定義するものではありません。
むしろ、複数主体間に生じる意味の差異を分析し、その差異がどのように協働可能な意味へと統合されるのかを説明する理論的枠組みとして位置づけられます。
リーダーシップは、その意味統合プロセスにおいて重要な主体・機能の一つとして位置づけられます。
MGIMにおけるリーダーシップの特徴は、「リーダーが新しい意味を与えること」だけにあるのではなく、異なる意味が存在することを認識し、その差異を可視化し、対話と翻訳を通じて、複数主体が協働可能な新しい意味を形成することを支援する点にあります。
センスメイキング理論が示してきた「状況に対する意味形成」と、MGIMが着目する「主体間の意味ズレの統合」を接続することで、リーダーシップについても、単なる意味の提示や共有だけではなく、異なる意味を持つ主体間の協働を可能にする新しい意味形成への関与という観点から捉えることができます。
意味ズレを生じさせる4つの要因、検出・対話・翻訳・統合するMGIMの4つのコアプロセスと、その循環モデルについては、「MGIMプロセス」で詳しく解説ています。
研究者:八百幸 孝昌(ATY Japan)
本ページで説明する理論的接続は、八百幸 孝昌が研究・提唱する意味ズレ統合モデル(MGIM)の理論的位置づけを示すものです。
