意識から意味ズレ統合
MGIMでは、意識・省察を、意味ズレを直接解消する方法ではなく、「意味ズレの検出、対話、翻訳を促進する重要な条件」として位置づけます。
- 意識・省察は、個人の意味形成を自覚可能にし、意味ズレの検出を促します。
- 意味ズレは、対話と翻訳を通じて、協働可能な新たな意味へと統合されます。
「意識改革」とは、「自分が当然だと考えていた認知、解釈、意味形成、感情、意図、行動などの前提を自覚し、それらを省察し、必要に応じて再構成できるようになること」と、MGIMでは捉えています。

「意味」と「意識」はどのように関係するのか
人は、出来事や情報を認知し、それを解釈し、自分や組織にとって「何を意味するのか」を形成します。
しかし、その意味形成のすべてが、常に本人に意識されているとは限りません。
例えば、同じ「DX推進」という出来事に対して、ある人は「成長の機会」と捉え、別の人は「仕事の負担が増えるもの」と捉えることがあります。
この違いは、それぞれの認知、過去の経験、価値観、状況の解釈などによって形成されます。
ここで重要になるのが「意識」です。
MGIMでは、意識を認知や意味形成と同じ一つの段階としてではなく、個人が自らの認知、解釈、意味形成、感情、意図、行動、経験などを自覚し、それらの前提や関係を省察するための横断的な条件として位置づけます。
簡単にいえば、「意味は、これは自分にとって何を意味するのか」であり、「意識は、自分はなぜ、そのように意味づけているのか」を自覚し、省察することです。
例えば、「DXは仕事を増やすものだ」と考えている場合、その考え自体が一つの意味づけです。
しかし、「私は過去の改革経験から、DXを負担が増えるものとして解釈しているのではないか」と振り返ることができれば、自分自身の意味形成を対象として捉えることができます。
意味と意識は同じものではありません。
- 意味:ある出来事や対象が、自分や組織にとって「何を意味するのか」という意味づけ。
- 意識:個人が自らの認知、解釈、感情、意図、経験などを自覚可能にする横断的な条件である。
- 省察:自覚された認知、解釈、感情、意図、経験などについて、その前提や関係を振り返り、再構成する過程である。
Flavell(1979)のメタ認知が主として自己の認知過程に関する知識・モニタリングを扱うのに対し、MGIMの分析においては、意識そのものを単一の心理過程として扱うのではなく、自己の意味形成を自覚し、省察することを可能にする条件として限定的に用います。
「意識改革」とは何を変えることなのか
一般に「意識改革」という言葉が使われますが、単に「考え方を前向きにすること」や「会社の方針に賛同すること」だけではありません。
一般に用いられる「意識改革」という概念をMGIMの観点から再解釈すると、意識改革とは、「自分が当然だと考えていた認知、解釈、意味形成、感情、意図、行動などの前提を自覚し、それらを省察し、必要に応じて再構成できるようになること」として捉えることができます。
MGIMでは、Mezirow(1991)の変容的学習理論における、経験の意味づけやその前提を省察し、意味を再構成するという考え方を参照します(変容的学習理論:Jack Mezirow, Transformative Learning Theory)。
そのうえで、個人内の意味の再構成を、主体間の意味ズレの検出、対話、翻訳、統合へと接続するプロセスとして位置づけます。
例えば、「DXは仕事を増やすものだ」と考えていた社員が、対話や経験を通じて、「DXは顧客価値を高め、自分の仕事を高度化する可能性がある」と意味を再構成したとします。
このとき変化しているのは、単なる知識ではありません。
「出来事の意味づけが変わり、それに伴って感情や行動意図が変化し、さらに自分自身の意味形成の変化を自覚できるようになること」が重要です。
MGIMでは「意味の変化」と「意識の変化」を区別します。
この区別は、Argyris & Schön(1978)のシングルループ学習・ダブルループ学習の区別とも接続します。
- 意味の変化:出来事や対象が「何を意味するのか」という意味づけが変化すること。
- 意識の変化:自らがどのように認知、解釈、意味形成しているのかを自覚・省察し、その前提を再検討できるようになること。
つまり、意識改革とは、他者から「こう考えなさい」と意識を変えさせられることではなく、「自分自身の意味形成を自覚し、それを省察することで、新たな意味を検討できる状態になること」と考えることができます。
意識が高くても「意味ズレ」は起こる
ただし、意識や省察が高まれば、意味ズレがなくなるわけではありません。
例えば、以下の場合、両者が自分の価値観や意味づけを十分に自覚していたとしても、意味の違いは残ります。
- 経営者が「顧客価値を最優先することが重要だ」と考えている。
- 現場責任者は「従業員が持続的に働けることが重要だ」と考えている。
むしろ、自分がどのような意味づけをしているのかを自覚できることで、初めて「自分と相手とでは、同じ出来事に対する意味が異なる」ということを認識できる場合があります。
したがって、意識・省察は意味ズレそのものを解消するものではありません。
意識・省察によって自分自身の意味形成を認識し、さらに他者との意味の違いを認識することで、意味ズレを対話の対象にすることが可能になります。
意味ズレを統合するための「意識・省察」
MGIMでは、意識・省察を、意味ズレを直接解消する方法ではなく、「意味ズレの検出、対話、翻訳を促進する重要な条件」として位置づけます。
例えば、上司が「私は会社を良くするために改革を進めている」と考え、部下が「改革によって現場の負担が増える」と考えている場合、両者には意味ズレがあります。
このとき重要なのは、どちらか一方の意識を相手に合わせることではありません。
上司が「自分は改革を必要なものとして意味づけている」と自覚し、部下も「自分は過去の経験から改革を負担として意味づけている」と自覚することで、初めて両者の意味の違いが明らかになります。
そのうえで、「自分の意味形成への気づき → 他者との意味ズレの認識 → 対話 → 翻訳 → 協働可能な新しい意味の統合」というプロセスが可能になります。

このように、MGIMにおいて意識・省察は「意味統合」の代わりになるものではありません。
個人が自らの意味形成を自覚し、他者との意味の違いを認識することによって、意味ズレを検出し、その違いを統合するためのプロセスを可能にするのです。
したがって、MGIMは「意識を統一する」ことを目指すのではありません。
異なる意味を持つことを前提として、その違いを検出し、対話し、翻訳し、統合することによって、協働可能な新たな意味を形成することを目指します。
「意識」から「意味ズレ統合」へ

MGIMでは、個人の意味形成と行動の過程を、概念的に「認知 → 解釈 → 意味形成 → 感情 → 意図 → 行動 → 経験 → 学習 → アイデンティティ」という循環的プロセスとして捉えます。
これは各要素が一方向に固定された因果系列を意味するものではなく、各要素が相互に影響しながら循環する分析上のプロセスとして位置づけます。
そして、そのプロセス全体に対して、意識・省察が横断的に関係します。
一方、組織では異なる意味を形成することによって、「意味のズレ → 検出 → 対話 → 翻訳 → 統合」というプロセスが必要になります。
つまり、意識・省察は個人の意味形成を自覚可能にし、意味ズレの検出を促します。
そして、意味ズレは対話と翻訳を通じて、協働可能な新たな意味へと統合されます。
この統合された意味が協働行動につながり、その経験が組織学習を生み、組織アイデンティティを更新します。
そして、更新されたアイデンティティが次の意味形成に影響を与えることで、組織は再び新たな意味ズレに直面します。
この循環を繰り返すことによって、組織は単に「意識を変える」のではなく、異なる意味を検出し、統合し、新たな意味を創出しながら累積的に進化し続けることができます。
人はそれぞれ異なる経験・認知・解釈などを通じて意味を形成します。
意識・省察は、その意味形成を自覚し再検討する可能性を高めますが、それだけでは主体間の意味の違いは解消されません。
そこで、その違いを「意味ズレ」として捉え、「検出 → 対話 → 翻訳 → 統合」を通じて協働可能な新しい意味を形成し、その経験を組織学習とアイデンティティ更新につなげます。
各理論がMGIMのどのメカニズムを具体的に支えているのかについては、「理論的マッピング」で理論ごとに詳しく整理しています。
研究者:八百幸 孝昌(ATY Japan)
本ページで説明する理論的接続は、八百幸 孝昌が研究・提唱する意味ズレ統合モデル(MGIM)の理論的位置づけを示すものです。
