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謙虚なリーダーシップ
1人のリーダーに依存しない組織をつくる
Humble Leadership
The Power of Relationships, Openness, and Trust
エドガー・H・シャイン(著)、ピーター・A・シャイン(著)、野津智子(翻訳)
出版社:英治出版(2020/4/22)
Amazon.co.jp:謙虚なリーダーシップ
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弱さを受け容れ、本音を伝え合う関係が、組織を変える。
人と組織の研究に多大な影響を与えてきた研究者が、半世紀にわたる探求の末にたどり着いたリーダーのあり方とは?
『人を助けるとはどういうことか』『問いかける技術』など、数々の名著を生み出した著者の集大成。
関連書籍
2022年02月23日 チップ・コンリー『モダンエルダー』日経BP (2022/1/20)
2021年11月18日 ジム・コリンズ『ビジョナリー・カンパニーZERO』日経BP (2021/8/19)
本書は、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院名誉教授の著者が、業務上の役割に基づく関係ではなく、個人的なつながりを重視するアプローチという、リーダーシップに対する新しいアプローチを紹介した一冊です。
人との関係には4つのレベルがあり、個人的で、互いに助け合い、信頼し合う関係である「レベル2」のつながりを通して、他者とのつながりに基づくプロセスの「謙虚なリーダーシップ」について、多くの事例を紹介しながら解説していますので、すべてのリーダーの方々にとって大変参考になります。
本書は9章で構成されており、「業務上の役割に基づく関係ではなく、個人的なつながりを重視する」という、リーダーシップに対する新しいアプローチを解説しています。
第1章と第2章では、謙虚なリーダーシップに関する考えを整理し、土台となっている人間関係論について述べています。
- ・第1章では、謙虚なリーダーシップの意味を明らかにするために「関係のレベル」という概念を述べ、新たなリーダーシップ・モデルが必要な4つの理由を示し、謙虚なリーダーシップの5つの事例を紹介しています。
- ・第2章では、関係という言葉の意味を明らかにし、関係の4つのレベルを詳細に解説するとともに、さまざまな状況の中で一連の行動を通じて、意識的あるいは無意識に、関係を築いていることを述べています。
第3章から第6章では、謙虚なリーダーシップの成功例を示しながら、リーダーたちが謙虚なリーダーシップというマインドセットを持っていること、その成功はグループをマネジメントする際にレベル2のスキルが土台になっていることを示しています。
- ・第3章では、謙虚なリーダーシップがシンガポールの経済発展を変革してきた事例を紹介しています。
謙虚なリーダーシップが組織を通して受け継がれ、政府と、政府がつくる重要な経済関連機関の至る所にレベル2の文化を築いてきたことを紹介しています。
- ・第4章では、CEOが理事会やあらゆる人とレベル2の関係を築いて、抜本的な改革を成し遂げた医療センターの事例を紹介しています。
階層や職務の垣根を越えて仕事をするとき、患者やその家族に接するとき、常に関係をレベル2へ深める方向へ、組織全体がどのようにしてシフトしてきたかを紹介しています。
- ・第5章では、厳格なヒエラルキーにおいてさえも、謙虚なリーダーシップがレベル2のチーミングによって生み出され、より大きな成果を生んでいるアメリカ軍の4つの事例を紹介しています。
- ・第6章では、確かな価値や立派な意図があっても、うまくいかない3つの要因について、それぞれの事例を紹介しながら解説しています。
謙虚なリーダーシップは、組織のどのような部署でも成果を生み出すことができるが、シニア・エグゼクティブの支援がなければ実現できないことを掘り下げています。
第7章では、謙虚なリーダーシップの主要な要素について、これから数十年のうちに仕事に影響を与える傾向と共進化する、6つの方法について整理しています。
そして、謙虚なリーダーシップ・モデルの基本的特徴を整理し、謙虚なリーダーが一匹狼を思わせる英雄のようなリーダーたちと違うのは、レベル2という最適な関係をつくることに長けている点であることを示しています。
第8章では、謙虚なリーダーシップや関連するグループ・ダイナミクス理論によって、より広範囲な経営文化についての考えを推し進められることを示しています。
自然に生まれる謙虚なリーダーシップは、レベル2のソフトなものを自分が理解できるかどうか、それをマネジメントするスキルがあるかどうかで、成果を出せるか否かが決まることに気づくことができます。
第9章では、読書、自己分析、スキル習得を通して、自らの謙虚なリーダーシップに磨きをかけるための学習プロセスを提言しています。
特に、「読むべき本」では10の書籍が紹介されていますので、謙虚なリーダーシップについて理解を深めるのに役立ちます。
さらに、個人とグループの両面からのエクササイズが示されていますので、自身のスキル向上に向けた指針となります。
20世紀の伝統的な経営文化は、決められた役割と役割の間にできる、単なる業務上の一連の関係と言える。
そのような関係では、率直に話すことも信頼し合うこともあまりできない状態が意図せず生み出され、それゆえ、本当に効果的なリーダーシップを実践するのが困難になってしまう。
このような単なる業務上の関係を、私たちは「レベル1」と呼んでいる(「関係のレベル」は、『謙虚なコンサルティング――クライアントにとって「本当の支援」とは何か』[栄治出版]で初めて触れた概念である)。
一方、グループ内およびグループ間のより個人的な関係の上に築かれる、もっと個人的で、信頼し合い、率直に話をする文化と深く関連するモデルを、私たちは「謙虚なリーダーシップ」として提案している。
このような関係が、「レベル2」である。
謙虚なリーダーシップ
リーダーシップとは、なんらかの「決まった手順」を踏んで発揮するべきものではなく、新たな、よりよいことを成し遂げようとするグループ内で共有されるエネルギーである。
リーダーシップとは関係性であり、真に成功しているリーダーシップは、きわめて率直に話をし、心から信頼し合うグループの文化のなかで成果をあげる。
リーダーシップと文化は表裏一体であり、文化はまぎれもなく、一つのグループ現象である。
グループ内に率直に話し、信頼し合うことができる「レベル2」の関係ががあって初めて、メンバーの誰もが、最高の力を出そうとする。
謙虚なリーダーシップに決まった形はなく、グループを招集し、グループの力をうまく引き出し、その後にふたたび必要とされるまで姿を消す。
謙虚なリーダーシップには、技術、戦略、権威、統制などと同じくらい「ソフトスキル」が大きくかかわっている。
リーダーは常に文化を生み出しているが、文化は、リーダーシップの意味と、一人ひとりチェンジ・エージェントが許される行動を絶えず制限する。
本質的に、他者とのつながりに基づくプロセスと定義されるものであり、一人の英雄が持つビジョンや目的に基づく他のモデルの代わりにはならない。
謙虚なリーダーシップの基盤は、レベル2の個人的な関係であり、この関係は、率直に話し、信頼し合うことが土台になり、その状態を促進する。
作業グループの関係がまだレベル2になっていないなら、自然に生まれる謙虚なリーダーシップはまず、作業グループのなかで、信頼を確立し、率直な発言を促す必要がある。
作業グループにレベル2の関係ができている場合は、有用な情報や専門知識を持っている人が、自由に発言し、グループの目標を推進できるようにすることによって、謙虚なリーダーシップが現れる。
レベル2の関係をつくって維持するプロセスには、学習するマインドセットと、進んで協力する姿勢と、対人およびグループ・ダイナミクスのスキルが不可欠である。
変化の激しい環境で複雑な課題に取り組むグループが成果をあげるには、そうしたマインドセットと姿勢とスキルを育てることが、メンバー全員にとって必要になる。
そのため、謙虚なリーダーシップは、個人的な行動であると同時に、グループ現象でもある。
関係の4つのレベル
『謙虚なリーダーシップ』英治出版(2020年)を参考にしてATY-Japanで作成
パーソニゼーション(personization)
パーソニゼーションとは、仕事仲間、チームメイト、上司、部下、同僚との仕事上の関係を、双方がつくっていくプロセスである。
但し、相手のことを、そのときに担っている役割ではなく、ひとりの人間として考えようとする姿勢が土台にある。
会話の初めに、どちらかが個人的なことを尋ねる、あるいは話すときに始まる。
問題が起きたとき、相手の考えを理解できないとき、相手の意見に賛成できないとき、互いの相手の支援が必要なときに、そのことを不安もなく、率直かつ正直に伝えられる可能性を最大にするために、マネジャーは部下との関係を、部下はマネジャーとの関係を「パーソナイズ」したいと思う。
「パーソナイズ」することは、仕事をやり遂げることにこそ、大いに関係がある。
いい上司になること、面白い仕事とよい労働条件、多額の手当て、あるいはフレックスタイム制を部下に与えることとは関係なく、投げやりになったり、ごまかしたり、嘘をついたり隠したりする行動とは無縁である。
相互依存する仕事環境に適合する信頼を築けるため、「パーソニゼーション」のプロセスを理解することは必須である。
- ・プライバシーや礼儀に配慮しつつ、職場で、もっと近しく、素直に話し、信頼し合う関係を築くことは可能である。
- ・懇意にならなくても、職場以外の場で何かを一緒にしなくても、信頼し合い、仕事をやり遂げられるくらいに互いを深く知ることは、決して無理な話ではない。
- ・仕事がより緊密な協力を必要とする場合には、敏感に反応し合う、あるいは密接な関係を築くこともできる。
相手を本当にもっとよく知ろうと思うなら、より個人的な質問をしたり、自分に関してもっと個人的なことを話したりすることによって、「パーソナイズする」ことになる。
「パーソニゼーション」によって、支援する側とされる側の両方が、役割でなく、ひとりの人間として、相手に接することができるようになる。
レベル2へ関係を深める
どのレベルにも、いくらかは信頼が存在するが、謙虚なリーダーシップには、レベル2の関係ときわめて密接に関わる信頼が必要である。
部下とのやりとりにおいて、部下をできる限り「下に見ない」ようにし、「協力」や「共同責任」を強調し、「部下の成功を積極的に支援するつもりである」ことを際立たせる。
「互いに信頼し合い、一層よい仕事をするために、あなたにとってもっとよく知りたい」と思っていることを、言葉と行動で示す。
親しくなって、互いの私生活を事細かに知る必要はないが、仕事の問題については、率直かつ正直に話せる関係になる必要がある。
その関係には、互いに、約束を守り、相手をだましたり、合意したことに害をもたらしたりせず、嘘をついたり、仕事に関わる情報を隠したりしないことによって築かれる信頼と率直さが必然的に含まれる。
仕事上のレベル2の関係は、上司や部下がそうありたいと望んだからといって、それだけで自動的に生まれるわけではないし、「パーソナイズする」努力をしながら交流を重ね、加減を測り、反応することによって、レベル2の関係がつくれる。
レベル1の「単なる仕事上の関係」で十分な仕事は、今後もなくなることはないだろうが、そうした関係には率直さと信頼の点で限界がある。
レベル3の結びつきは、打ち解けたレベル2のつながり以上の「密接さ」あるいは「近しい」友人関係と言われるもので、感情がより深く絡んでいる。
レベル3は、信頼と率直さはレベル2と同じであるが、必要に応じて支え合うことと、感情的で愛情を表す行動を、互いに進んで示すのが当然だとされている。
レベル2では、支え合うと同時に、互いに相手を傷つけない、レベル3では、助け合い、互いをより魅力的にする方法を積極的に探していく。
レベル2とレベル3の違いは、基本的には程度の問題で、境界は職種によって変わる可能性がある。
抜群のパフォーマンスをあげるチームを必要とする仕事や状況が生じた場合は、専門家らしいレベル1の関係を築くことが常識だと思われるが、実際に成功するためには、レベル3に近い関係が不可欠であり、仕事を完遂するためには次のいづれかが欠かせない。
- ・それぞれの仕事の仕方をきわめて高いレベルで知り尽くしている。
- ・以心伝心で相手の言いたいことがわかる。
- ・「超共感」という感覚に基づいて、超感覚的に協働する。
レベル2のつながりをつくるうえで重要なのは、率直さの程度の変化に応じて相手の反応がどう変わるかを測り、心地よさを探しながら、「パーソニゼーション」の境界を互いに見出すことである。
レベル2のつながりは、いい人になることとも、懇意になることとも関係はないが、作業グループの中でレベル2の関係をつくることは、メンバーひとり一人に心理的安全性をもたらすことができる。
謙虚なリーダーシップ・モデルの基本的特徴
『謙虚なリーダーシップ』英治出版(2020年)を参考にしてATY-Japanで作成
謙虚なリーダーシップは、本質的に、他者とのつながりに基づくプロセス――効果的なグループ・プロセスと切っても切れない関係にあるプロセス――と定義されるものであり、一人の英雄が持つビジョンや目的に基づく他のモデルの代わりにならない。
変革型リーダーシップやサーバント・リーダーシップのモデルは、たしかに、今日の組織に適している。
だが、それらすべてのモデルに、基本的なグループ・プロセスとして、謙虚なリーダーシップが不可欠だと、私たちは思うのだ。
今のあらゆるリーダーシップ・モデルが、もし現代の自然に生まれるリーダーたちに適うものであるなら、もっと個人的なつながりに重点が置かれることによって、それらのモデルは補完されるだろう。
そのために、私たちは、レベル2の謙虚なリーダーシップの本質を際立たせる概念、「パーソニゼーション」を取り入れている。
まとめ(私見)
本書は、業務上の役割に基づく関係ではなく、個人的なつながりを重視するアプローチという、リーダーシップに対する新しいアプローチを紹介した一冊です。
事例には、一般企業だけでなく、国や医療センター、アメリカ軍などにおける謙虚なリーダーシップについて幅広く紹介されていますので、さまざまな業界リーダーの方々にとって参考になります。
また、各章や事例の終わりには「学び」や「まとめと結論」を設けて、それぞれの内容を整理していますので、内容をより理解するのに役立ちます。
リーダーによって有能なチームが生み出されるのと同時に、有能なグループあるいはチームによってリーダーシップの条件が生み出されます。
しかし、企業を取り巻くさまざまな問題をリーダーひとりが負うことではなく、学習する環境をつくり出して、グループで協力し、問題解決プロセスを突き止め、決定し、その後の世界を変えられるようにするのは、リーダーの責任となります。
日々の仕事の多くは役割に基づいたレベル1の関係で成り立っており、十分な計画のもとになされる仕事であれば支障はないかもしれません。
しかし近年では、仕事そのものの性質が、もっと「一個人として相手を見る」関係を必要とする方向へ急速に変化てきているのであれば、レベル2へシフトすることが必要となります。
本書においても、VUCAを当たり前と考えるイノベーション志向の会社では、会社が成熟するにつれ、一匹狼を思わせる英雄のようなリーダーは、適切な判断を下すために漏れがあるせいで苦労することになり、謙虚なリーダーと他のリーダーとの違いは、レベル2という最適な関係をつくることに長けている点であると、指摘しています。
VUCA:不安定で(volatile)、不確か(uncertain)、複雑(complex)、曖昧(ambiguous)
変革に当たっては、強力なリーダーのもとで、時には強引に推進していくことも必要となりますが、混乱期や多様化する環境においてはリーダーひとりの力では実行は不可能です。
グループの仲間同士のつながりが強いパワーを持っていることや、従業員が単独より協同で仕事をする方がはるかに多くを成し遂げることができます。
近年、会社に対する愛着や思い入れ(エンゲージメント)を従業員に持ってもらい、個人的プロジェクトに取り組む時間を与え、その才能をもっと組織的に機能させることも重視されています。
しかし、個人と組織が一体となって双方の成長に貢献し合う関係づくり、人がエンゲージできる対象は役割ではなく「人」です。
リーダーとして、メンバーのエンゲージメント、参画・関与、エンパワーメントを促進していくためにも、レベル2のつながりをつくることに注力すべきです。
単なる業務上の関係(レベル1)で十分な仕事は、今後もなくなることはないでしょうが、その関係には率直さと信頼の点で限界がきます。
計画的な仕事ばかりではなく、さまざまな状況に応じて柔軟に対応していなかければならない場合においては、協力と率直な話し合い、お互いの献身への信頼に基づくことが不可欠であり、レベル2の「一個人として相手を見る」関係が必要となります。
また、より個人的なことを尋ねたり話したりしながら、同時に、レベル1のほどほどの距離感を保って堅苦しくなることも、レベル3の親密さと捉えかねないほどのプライベートに踏み込むのも避けなければならない場合もあります。
謙虚なリーダーシップというスキルは、堅苦し過ぎるという極と、親密過ぎるというもう一方の極との間で、巧みにバランスをとる力が必要となります。
企業文化をレベル1からレベル2へ進化することが、謙虚なリーダーシップの最重要の責務であり、信頼と率直さを築くことが重要となります。
仕事の内容がより複雑になっていくなかで、絶えず意義深い前進を続ける文化をつくり出していくために、リーダーシップに対する新しいアプローチ(謙虚なリーダーシップ)について考えるきっかとなる一冊です。
目次
はじめに
第1章 リーダーシップに対する新しいアプローチ
第2章 文化的に定義される関係のレベル
第3章 統治における謙虚なリーダーシップ――シンガポール・ストーリー
第4章 医療センターをレベル2の文化へ変革する
第5章 アメリカ軍における謙虚なリーダーシップ
第6章 ヒエラルキーや意図せぬ結果が謙虚なリーダーシップを阻害してしまうとき
第7章 謙虚なリーダーシップと未来
第8章 謙虚なリーダーシップでは、「ソフトなもの」を強化する必要がある
第9章 パーソナイズする――レベル2のつながりをつくる
参考
謙虚なリーダーシップ|英治出版
OCLI.org(The Organizational Culture and Leadership Institute:組織文化&リーダーシップ研究所)
Exploring Leadership - Ed and Peter Schein
戦略・イノベーションと経営理論(当サイト)
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