デジタル時代のリテール4.0に取り組む上で、経営者に求められる10の法則(原則)

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コトラーのリテール4.0 デジタルトランスフォーメーション時代の10の法則

『コトラーのリテール4.0』朝日新聞出版(2020年)を参考にしてATY-Japanで作成

 

『コトラーのリテール4.0 デジタルトランスフォーメーション時代の10の法則』(朝日新聞出版、2020年4月)は、マーケティングの神様といわれるフィリップ・コトラー氏とイタリア人研究者のジュゼッペ・スティリアーノ氏が、デジタルトランスフォーメーション(DX)時代の到来によって大変革期「リテール4.0」に突入した小売業界において、変化を好機としてするための「10の法則(原則)」を提言した一冊です。

デジタルトランスフォーメーションがリテールに与えるインパクトを具体的に理解・管理するための考え方を提供してくれていますので、自社のデジタル戦略を考えていくうえで大変参考になります。

そこでここでは、リテール4.0における「10の法則(原則)」について、本書を参考にして整理します。

なお本書では、デジタルトランスフォーメーションとは、デジタル技術の出現と普及から始まったプロセスを指しており、これを要因として、企業は組織面と事業面の両方でパフォーマンスを向上させることを目的に、事業プロセス、ツール、ビジネスモデル、デジタルとアナログを融合する革新的な製品・サービスを作り上げ、需要と市場の変化に適応することになるとしています。

さらに本書では、23名の経営者に対して、「10の法則(原則)」を想定した共通の質問を投げかけて、各社の取り組み状況や方針を簡潔に整理しています。

23名の経営者が所属している業界は、伝統的な小売業の他に、製造業や金融サービス、出版業や輸送業などが含まれており、各社が現在どのような取り組みをしているのかを確認することができますので、一読をお勧めします。

 

リテール4.0における10の法則

1. 不可視であれ

  • ・真に革新的であったといえるのは、ニーズに対応したときだけであり、狙いは常に、あらゆる技術的複雑さを「不可視」化しながら、人の生活をシンプルにしていくことである。
  • ・技術革新がユーザーにとって大きな価値をもたらすのは、「ユーザーがどこにも引っかからず流れるようにダイナミックに体験できるような、あらゆる体験(フリクションレス・エクスペリエンス)」を実現できるときである。
  • ・消費者が目的を達成するのに必要となる認知的・物理的努力を最小化しつつ、すべてを無理なく自然な状態でできるようにし、「人間的な触れ合い」であるハイタッチの増幅器という形をとる。

2. シームレスであれ

  • ・スマートフォンは、あらゆる面で人々のパーソナル・メディアとなり、スマートフォンによって人々は常につながっている。
    常に手にしているモバイル機器によって、デジタルとフィジカルが融合し、人々は二つの世界が補完し合うハイブリッドの現実を体験できる。
  • ・ショールーミングとウェブルーミングは、フィジタル・マーケティングと名付けられたものの表れとして定義できる。
    フィジタル・マーケティングは、ブランドと人々の間のシームレス・インタラクションを促進するため、フィジカルとデジタルを交配させる力学である。
  • ・今日ブランドが提供できるデジタルとフィジカルすべてのチャネルは、一つのエコシステムに融合されなくてはならない。
    特に小売業者は、マルチチャネルではなく、オムニチャネルのアプローチを採用することが求められている。
  • ・効果的に考案されたオムニチャネルの経験において、人々が見ているのはチャネルの多様性ではなく、企業から提供されている単一のサービスである。
    重視するすべての瞬間を確実にする戦略を策定するには、ブランドと小売業者は、人を動かす意志と、意志が固まっていく経験に焦点を当てなくてはならない。
  • ・マルチチャネルはインサイド・アウトのアプローチで、企業とブランドは、様々なコミュニケーションのチャネルで活動を計画する。
    オムニチャネルはアウトサイド・インのアプローチで、顧客体験全体を優先して、活動計画を立てる。

3. 目的地であれ

  • ・購買選択が「製品の技術的優位」だけに基づいて行われていた時代は過ぎ去った。
    そのため、販売者には、オファリングと共に、販売者自身を表現し、人々の精神と心をつかむストーリーを語ることが要求されている。
  • ・消費者は、購買の段階で常に新しい刺激を求めている。
    店舗に入るために、そして特定のブランドまたは製品を初めて、もしくは毎回選択するするために、関与・感謝・動機を求めている。
  • ・現在、リテールとは、商品をバックに入れさせることではない。
    長期にわたって継続する消費者とのリレーションシップをクロスメディアで築き、後に、その消費者に最も適したタイミングと方法で利益を回収することを理解することが基本となる。
  • ・販売拠点は「経験拠点」となり、消費者の認識は行かなくてはならない場所から行きたい場所へと変化している。
    店舗は、買い物客にとって、行くことが負担にならず、喜んでそこに滞在したいと思えるような場所、期待に応える経験ができる入れ物でなくてはならない。
  • ・世界観に陶酔できるような魅力的な来店目的とブランドの価値を生み出すためには、単にブランドを提示・展示するだけではなく、顧客に主体的に体験させる必要がある。
    結果は、販売量の増加としてではなく、顧客に語られるストーリーとして表れる。

4. 誠実であれ

  • ・ビジネス上の接点を持つ人に対しては、それが顧客・協力者・納入業者であろうと、誰とでも相互の信頼関係を結び、育て、維持していくことである。
    かつては、ロイヤルティは一般的に顧客維持率と再購入率の領域に限定されていたが、現在はカスタマー・アドボカシーへと次元が拡大されている。
  • ・ロイヤルティは、今やブランドに対する忠誠心として形成されるものではない。
    多様なタッチポイントを通じて、ブランドが顧客に体験させる経験によって決定される。
  • ・「誠実であれ」は、従業員やサプライヤーといったステークホルダーに対象を拡大し、広義でとらえることもできる。
    例えば従業員であれば、消費者に対する特殊な観察眼を持ち、消費者の期待や好みを知ることのできる人物である。
  • ・ロイヤルティ・プログラムは、人々に価値を経験してもらうエコシステムになるべきであり、小売業者はブランドや企業と人々とのエンゲージメント、人々の親近感を育むために、そのシステムに経験を付加していかなくてはならない。

5. パーソナルであれ

  • ・小売業者は、マスマーケットのアプローチで一定の規格化が特徴であるOne-to-Manyから、可能な限りパーソナライズされたソリューションを提案するOne-to-Oneへの戦略変更を強いられている。
  • ・カスタマイゼーションは消費者の選択に対する「リアクション的」な行動であり、パーソナライゼーションは消費者に感動と喜びを与えるための「プロアクティブ的」な行動である。
  • ・あらゆる手段を駆使して、メッセージのパーソナライゼーションに人間的なファクターを組み入れることにより、パーソナライゼーションが一層効果的になり、インタラクションを可能な限り「自然」なものにする。
  • ・「パーソナルであれ」に則ったオファリングやマーケティング活動を行うには、あらゆる業務のフローとプロセスを見直さなくてはならない。
  • ・大切なことは目的であって、手段ではない。
    そして、どのようなケースにおいても、目的はパーソナライゼーションに向けて進化していくこと、そして人間的な要因で購買経験を豊かにしていくことである。

6. キュレーターであれ

  • ・デジタルトランスフォーメーションには二つの特徴があり、加えて慎重に考察していかなければならない三つの課題がある。
  • ・デジタルトランスフォーメーションの二つの特徴
    1.消費者の期待の高まり
    2.技術の民主化によって様々な市場への参入障壁が低くなり、猛烈な勢いで競合が増加している
  • ・慎重に考察していくべき課題
    1.規模の問題:リアル店舗の維持にかかるコスト負担
    2.ダーク・リテール:回転率の低い(めったに売れない製品)の在庫に関する概念
    3.オファリング自体の問題:他と代わり映えのしないオファリングの店舗
  • ・分野限定で独特の形式を採用するには、唯一無二のオファリングの仕組みと高付加価値で再現不可能な経験によって自社を目立たせる術が求められる。
    小売業者はキュレーターとして、消費者と真に心情的なつながりを創り出せるよう、一貫性があり、消費者が関与しやすく、しかも視覚的に好まれる環境に、製品が提供されるよう配慮する必要がある。
  • ・キュレーターになることで、物理的スペースの縮小・効率の悪さ・競合との差別化に関わる問題を一掃し、自社の優位を実現できる可能性がある。
  • ・製品とサービスが相互に強化し合うような組み合わせであり、ユニークなカクテルを創り出す組み合わせが、事業活動またはブランドにとっての価値提案へと結びつく。
  • ・キュレーターが自社の事業戦略に関し、明確かつ正確な選択をできるかどうかが重要となる。
    Who、What、Howの質問に答えれれるようにする。
  • ・豊かな製品とサービスのオファリング・システムを管理し、解釈し、伝える。
    システムは、ユニークなストーリーの枠組みの中で発展していき、そのストーリーにおいてブランドは「機械仕掛けの神」となる。

7. 人間的であれ

  • ・あらゆるバリュー・チェーンにおいて、再び人間を中心にするようにという勧告であり、デジタル化が進むにつれて人間同士のつながりに対する関心も増加する。
  • ・サービス(Service)、社会性(Sociality)、持続可能性(Sustainability)の三つのSを理解しておく。
  • ・社会的責任とエコロジーに関する責任をもった行動は、三つの側面で利益をもたらしてくれる。
    1.商業的:大衆の選好
    2.経済的:収益の向上
    3.財政的:多くの投資家は「道徳的」だと証明されている企業へ投資する
  • ・店舗人員と顧客との交流及び販売における経験を見直し、社会的文脈における店舗の役割を価値化し、バリュー・チェーン全体で一貫性をもって、環境・社会・経済の持続可能性を追求する。
  • ・技術とデジタルの進化は改革の強力なツールであるが、どのように使用・適用するかは人間が決定するのだと心に留めておく。

8. バウンドレスであれ

  • ・リテーリングは壁で区切られた一ヶ所に収まっているリアル店舗であるという意識を決定的に超越することである。
  • ・消費者を中心に据えることと、彼らの要求を満たす革新的な取り組みを探る。
  • ・バックオフィスにおいてもフロントオフィスにおいても、多大な努力が要求される。
    今一度、メンタリティの抜本的な変化の必要性を強調しなくてはいけない。

9. エクスポネンシャルであれ

  • ・サードパーティー(第三者機関)との協力によって、自社のオファリングの限界を超えることである。
  • ・ごく普通のオファリングを新しいチャネルを使って増殖することと、補完的な経験によってオファリングを豊かにすることの二つの方向性がある。
  • ・自社の顧客ニーズを最大限満足させるためには、ブランドと小売業者が手を組み、しっかりと狙いを定めたパートナーシップを結ばなければならない。
  • ・デジタル時代のマーケティングは、排他的な二つの戦略を採用することで、一層競争力を増すことができる。
    1.共創:自社と顧客との協働
    2.協業:他社との対話(時には競合会社とも)
  • ・オープン・イノベーションも興味深い実践形態である。
    企業が自社の価値の向上・促進のために、内部のアイデアと資源のみを基盤とはせず、外部由来のツールと技術的能力を必要とする場合に利用する。
  • ・イノベーション・プロセスで必要とされる投資とリスクを負わずに、自社の価値提案を拡大することができるため、企業のエクスポネンシャルな成長にとって重要な資源となる。
    1.オファリングとのシナジーを得られるパートナーシップ
    2.共創と協業という形態
    3.オープン・イノベーションの採用
  • ・価値提案の構築要素を必ずしも開発(そして保有)せず、リーンな方法でイノベーションを推進するとよい。
  • ・外部由来の機会とソリューションは、社内で生まれたものと同じくらい重要とみなすべきである。
    但し、ブランドの活動と整合性があり、実務レベルで容易に採り入れることができ、最終ユーザーが感じ取る価値を本当に高められるものでなくてはならない。

10. 勇敢であれ

  • ・オファリングを差別化してビジネスを拡大するには、主に二つの手法がある。
    1.企業ができる最善策のリストをつくり、それを確固たる改革の出発点として活用する。
    2.ニーズにさかのぼって対応するため、カスタマー・ジャーニーを分析し、満足させられていない、あるいは部分的にしか満足させられていないニーズを見極める。
  • ・核心は、小売業者は、自社のビジネスに未来がないかもしれないことを認める勇気を持ち、変化を受け入れなくてはならない。
  • ・より迅速かつ効率的にするアプローチである「リーン・スタートアップ・プロセス」と呼ばれる手法を採り入れる。
    計画を過度に練り上げるよりも実験を重視し、創造的ひらめきや経営者の直感よりも消費者のニーズとフィードバックを中心に据えたプロセスである。
  • ・伝統的な小売業者にとって「勇敢であれ」とは、価値提案の根拠を改めて議題として取り上げ、現状に向き合えということである。
  • ・伝統的な小売業者がリーン・スタートアップ・プロセスを効果的に適用するための前提条件は、組織幹部が明確な意思をもち、継続的に努力することである。
    そして、会社のイノベーションを育てていける、モチベーションの高い従業員のチームをつくることである。
  • ・現在の競争環境とデジタル時代の動乱のなかにあって、よりオープンで、よりアジャイルな論理に基づき、改革のプロセスに関する考察を深めることが不可欠となる。

追加. 好奇心旺盛であれ

  • ・業績が良好な企業も、ターゲット・オーディエンスとの継続的な対話から得られる情報を解釈しながら、調整や見直しを検討する勇気をもつ。
  • ・新規事業の立ち上げ時に必要となるアプローチと進取の気性で、新たな時代に挑戦し、顧客の不満足に対して付加価値を提供するという目標に集中する。
  • ・不安定さを受け入れる勇気、「可能な」ことだけではなく「たぶん可能な」ことを探す勇気、これまで強化してきた多くの理論とテクニックを「忘れる」勇気が求められる。

 

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コトラーのリテール4.0

コトラーのリテール4.0
デジタルトランスフォーメーション時代の10の法則

フィリップ・コトラー、ジュゼッペ スティリアーノ(著)、恩藏直人(監修)、高沢亜砂代(翻訳)
出版社:朝日新聞出版(2020/4/20)
Amazon.co.jp:コトラーのリテール4.0

 

 

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