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1兆ドルコーチ
1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え
TRILLON DOLLAR COACH
THE LEADERSHIP PLAYBOOK OF SILICON VALLEY'S
BILL CAMPBELL
エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル(著)、櫻井 祐子(訳)
出版社:ダイヤモンド社(2019/11/14)
Amazon.co.jp:1兆ドルコーチ
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スティーブ・ジョブス、エリック・シュミット、ラリー・ペイジ・・・
シリコンバレーの巨人たちの裏には、成功の全てを知り尽くした「共通の師」がいた!シリコンバレー中の成功者に絶大な影響を与えた伝説のリーダーの「成功の方程式」!
アメフトのコーチ出身でありながら、優秀なプロ経営者。
ジョブスの師であると同時に、グーグル創業者たちをゼロから育て上げたコーチ。
関連書籍
2024年04月23日 田所 雅之『「起業参謀」の戦略書』ダイヤモンド社 (2024/1/30)
2022年06月18日 ジーノ・ウィックマン『GET A GRIP ゲット・ア・グリップ』ビジネス教育出版社 (2022/6/6)
2022年02月23日 チップ・コンリー『モダンエルダー』日経BP (2022/1/20)
2021年11月18日 ジム・コリンズ『ビジョナリー・カンパニーZERO』日経BP (2021/8/19)
本書は、グーグルの元会長兼CEOのエリック・シュミット、元上級副社長のジョナサン・ローゼンバーグ、セールスプログラムの責任者のアラン・イーグルの三名が、多くの企業を成功に導いたビル・キャンベル氏のコーチ内容と方法をまとめた一冊です。
ビル・キャンベル(ウィリアム・ヴィンセント・キャンベル・ジュニア)氏は、フットボールのコーチを経て40歳代でビジネス界に転身して以来、多くの企業の成功を助け、2016年4月に75歳で亡くなっています。
ビジネス界でのビル・キャンベル氏は、スティーブ・ジョブスがつぶれかけたアップルを立て直すのを助け、スタートアップだったグーグルを時価総額数千億ドル企業に成長するのを助けた他、シリコンバレーを中心とした多くのCEOをコーチし、成功に導いています。
そのビル・キャンベル氏がコーチした内容と方法を、実際にコーチを受けた人たちにインタビューして得たエピソードを具体的に紹介し、中には学術理論の裏づけを補足説明しながら整理していますので、企業リーダーや補佐役、リーダー候補の方々にとって、マネジメントスキルを高め、成功に導く秘訣を学ぶうえで大変参考になります。
本書は6章で構成されており、ビル・キャンベル氏のコーチング内容(何を)とその方法(どうやって)について、多くの具体的なエピソードを紹介しながら整理しています。
この「何を」と「どうやって」を、4つに分けて説明しています。
- ・スタッフとの「1 on 1 ミーティング(個別面談)」や、難しい従業員への対処などのマネジメントスキルを、どうやって細部に至るまで正しく実践していったか。
- ・一緒に働く人たちと、どうやって信頼関係を築いていったか。
- ・どうやってチームを構築していったか。
- ・どうやって職場に「愛」を持ち込んだか。
めまぐるしく変化し、競争が熾烈さを増す、テクノロジー主導のビジネス界で成功をつかむには、パフォーマンスの高いチームをつくり、途方もない成果を挙げるための資源と自由を彼らに与えるしかない。
そしてパフォーマンスの高いチームに不可欠な要素が、卓越したマネジャーと思いやりあるコーチの両方を併せ持つリーダーだ。
ビル・キャンベルはこの点で、後にも先にも並ぶ者のない存在だった。
コーチングの内容と方法
経営者としての成功の原則
現場の業務遂行力の卓越性というオペレーショナル・エクセレンス、ピープルファースト、決断力、優れたコミュニケーション、最も厄介な人から最大限の力を引き出す、優れたプロダクトへのこだわり、解雇する人を手厚く扱う。
- ・重要なのは短期目標の達成ではない、オペレーショナル・エクセレンスが少しでも欠けた状態を許さない文化を醸成することである。
株主のためではなく、チームや顧客のためにも、結果を出すのが経営陣の仕事である。
- ・「報酬 = 金額」が全てではなく、報酬は経済的価値だけでなく、感情的価値の問題でもある。
報酬は会社が承認、敬意、地位を示すための手段であり、人々を会社の目標に強く結びつける効果がある。
- ・解雇は会社の失敗であって、解雇される側は悪くない。
辞めていく人たちを丁寧に、敬意をもって扱い、解雇手当をはずみ、彼らの功績を称える社内メモをまわす。
コーチとしての成功を支える要素
まず信頼を築くことから始め、時間をかけてますます深めていく。
コーチする相手を選び抜き、コーチングを受け入れる姿勢のある、謙虚で向上心旺盛な、生涯を通じて学び続ける意欲のある人だけをコーチする。
相手の話に一心に耳を傾け、何をすべきかは指図せず、物語を語って聞かせ、そこから自分で結論を引き出させる。
完璧に素直になり相手にも同じことを求め、相手にとてつもない信頼を寄せ、高い目標を設け、勇気の伝道師になる。
- ・人間関係における最も重要な要素は信頼であり、信頼は常に最優先かつ最重要の価値観である。
信頼とは、「相手の行動へのポジティブな期待に基づいて、進んで自分の脆さを受け入れようとする心理状態」と定義され、約束を守ること、誠意、素直さ、思慮深さである。
- ・信頼を確立することは、「心理的安全性」を育むための主要な条件である。
- ・コーチングを受け入れられる「コーチャブル」な人だけをコーチングする。
コーチャブルな資質とは、「正直さ」と「謙虚さ」、「ありきらめず努力を厭わない姿勢」「常に学ぼうとする意欲」である。
チームを最適化するテクニック「チーム・ファースト」
真髄は「チーム・ファースト」であり、メンバー全員が、個人の成績よりもチームの成績を優先する覚悟を持たせる。
採用を重視する(適材を選ぶ)、女性を活用する(同じテーブルに着く)、誤解を小さいうちに解く(ギャップを埋める)、部下が大成できるように手助けをする。
問題に直面すると、問題そのものではなく、問題をまかされたチームについて考える。
- ・「正しく勝つ」ことにこだわり、状況が厳しくなると自分の核をなす価値基準に立ち戻り、人と人との隔たりを埋め、耳を傾け、身を凝らし、裏舞台のでの会話を通じてチームを一つにまとめる。
- ・自分より優秀な人を採用する。
「知性(遠い類推)」があり、「勤勉」「誠実」であり、「グリッド(何度もトライする情熱と根気強さ)」を持っている人を選ぶ。
- ・物事がうまくいかないときは、いつもに増して「誠意」「献身」「決断力」がリーダーに求められる。
ビジネスに愛を持ち込む
リーダーは、一般に企業社会で求められる堅苦しい規範にとらわれず、部下に思いやりを示すことが重要である。
愛情や思いやり、気づかい、優しさの文化をつくりあげる。
仕事以外の生活を持つ、まるごとの存在として人々を心から気にかけ、熱狂的な応援団長になり、コミュニティをつくり、できる限りの人の頼みを聞き入れ、力を貸し、創業者や起業家のために心の中の特別な場所を開けておくことによって、文化を生み出す。
もう一つ大切なのは、創業者に対する愛である。
起業を試みた創業者の大胆さを愛するというよりは、彼らが事業に対して持っているビジョンや愛情を愛する。
会社には心と魂が必要であり、ビジョンは重要な役割を果たす。
ビジョンは創業者の生きざまに現れることが多いが、会社の信条や使命、精神を実践する人たちは他にも多くいて、それらはバランスシートや損益計算書、組織図には表れないが重要な資産である。
- ・「優しい組織」になる。
人を大切にするには、人に関心をもたなくてはならない。プライベートな生活について尋ね、家族を理解し、大変なときには駆けつける。
- ・常に「コミュニティ」に取り組む。
仕事でも仕事以外でもコミュニティをつくる。人々が絆で結ばれるとき、チームはずっと強くなれる。
- ・自己防衛的なギバー
成功するギバーなるということは、誰にでもいつでも何でもしてあげるということではなく、自らの負担よりも他人を助けることのメリットが上回るかどうかを意識する。
チームコーチとしての役割(原則)
マネジメントの技術を磨き、単純な行動の積み重ねにより業務を強化することが重要である。
人材を最優先し、強力に業務を押し進めるマネジャーは、部下によって「リーダー」と見なされる。
リーダーの地位を与えられるというよりも、自らの行動を通してリーダーの座を勝ち取る。
思慮深く一貫したコミュニケーションを行う。
決断力を重んじ、議論のフェーズが終わったと判断すれば、自ら決断を下す。
常識はずれの行動を取りながら強力なパフォーマー、「規格外の天才」を高く買うものの、チームをリスクにさらすような行動を取れば、ただちに排除する。
優れた企業の核には優れたプロダクトとチームがあり、それ以外の全ては、これらの核を支えるものである。
解雇は避けて通れないが、人々の尊厳を傷つけずに辞めてもらわなくてはならない。
人間関係が信頼の上に築かれることを理解し、一緒に働く人たちの信頼と誠意を得るために力を注ぐ。
一緒に働く人たちにじっくりと耳を傾け、思い切り素直になり、彼らの可能性を彼ら自身よりも信じる。
チームを何よりも重要とみなし、「チーム・ファースト」の行動を重視し、どんな問題にぶつかっても、問題そのものよりも、まずはチームについて考える。
最も深刻な問題、「部屋の中のゾウ」を見つけてど真ん中に引っ張り出し、まずはそれに対処するようチームに促す。
裏舞台で行動し、廊下での立ち話や電話、1 on 1 ミーティングでコミュニケーションギャップを埋める。
特に困難な状況においては、リーダーが先頭に立つ。
多様性を重んじ、職場でありのままの自分でいる。
人を愛する。
自分がつくったコミュニティや参加したコミュニティに愛を持ち込み、そして、職場に愛を持ち込んでもいいのだと教える。
「人がすべて」の信条
どんな会社の成功を支えるのも人である。
マネジャーの一番大事な仕事は、部下が仕事で実力を発揮し、成長し、発展できるように手を貸すことである。
マネジャーは「支援」「敬意」「信頼」を通じて、優秀な人材が持てるエネルギーを解放し、増幅できる環境を生み出す。
支援
- ・成功するために必要なツールや情報、トレーニング、コーチングを提供する。
- ・メンバーのスキルを開発するために努力し続け、彼らが実力を発揮し、成長できるよう手助けする。
敬意
- ・一人ひとりのキャリア目標を理解し、彼らの選択を尊重する。
- ・会社のニーズに沿う方法で、彼らがキャリア目標を達成できるよう手助けする。
信頼
- ・自由に仕事に取り組ませ、決定を下させる。
- ・成功を望んでいることを理解し、必ず成功できると信じる。
本書を読んだあなたが、すぐれたマネジャーとコーチになるための原則を心にとめてくれることを願っている。
本書をきっかけにして、すぐれたチームをつくり、自分を高みに引き上げ、みずからに課した制約を超える方法を考えてもらえばさいわいです。
そしてあなたもビルのものさしに適うリーダーになってくれればうれしい。
世の中には多くの課題があり、それらはチームにしか解決できない。
そうしたチームにはコーチが必要なのだ。
まとめ(私見)
本書は、マネジャーをコーチングするための「ハウツー」マニュアルともいえる一冊です。
しかし、フレームワークや管理手法などをまとめた概念的な書籍ではなく、コーチングを受けた著者ら自身の体験に加え、影響を受けた80人を超える方々にインタビューして得たエピソードを紹介しながら、コーチングの背景や内容及び方法が整理されていますので、自分がコーチングを受けているかのような、成功の軌跡をストーリーとして疑似体験することができます。
また、本書は、リーダーとしての成功、コーチングの内容と方法の視点から多くを学ぶことができますが、コーチングを受け入れられる人(「コーチャブル」な人)の視点からも、多くの気づきを得ることができます。
誰でもコーチングを受けられることも、受ければリーダーになれるわけではなく、それは「コーチャブルな資質」を持った人で、選ばれた人であることが前提となります。
「コーチャブルな資質」とはどんなものなのかは、本書で紹介されているエピソードなどから想定できますが、「正直さ」と「謙虚さ」、「あきらめない努力を厭わない姿勢」「常に学ぼうとする意欲」など、多くの方々にとっての指針となります。
なお、著者らは前著『How Google Works 働き方とマネジメント』(日本経済新聞出版社 、2014年)で、企業が早いスピードとイノベーションを実現するために欠かせない、「スマート・クリエイティブ」と呼ばれる新しい人材がいることを論じています。
企業が成功するためには、すばらしいプロダクトを生み出し続ける必要があり、そのためには、「スマート・クリエイティブ」を引きつけ、彼らがとてつもない成功を成し遂げられるような環境をつくり出すことが必要であることを見いだいしています。
そのための下調べをしている中で、ビル・キャンベルがコーチをした人たちに話を聞いているうちに、ビジネスの成功に不可欠で重要な要素が抜け落ちていることに気が付いて、本書をまとめあげています。
企業の成功にとって、「スマート・クリエイティブ」を生かす環境と同じくらい重要な要素とは、様々な利害をまとめ、意見の食い違いは脇に置いて、会社のためになることに個人としても集団としても全力で取り組む、「コミュニティ」として機能するチームの存在が不可欠です。
人は協力的なコミュニティの一員だと感じると仕事に対する意欲が高まり、生産性が上がり、個人より集団の業績を優先する人たちのチームは、そうでないチームに比べ、一般的にパフォーマンスが高い傾向にあることが示されています。
そこで、ほどよい緊張を保ちつつ、チームをコミュニティに育て上げるには、コーチが欠かせなく、個人だけでなくチーム全体と仕事をし、絶え間ない緊張を和らげ、共通のビジョンや目標と調和するコミュニティを育み続けるコーチの存在が必要であるとしています。
また、本書では、最高のチームとは「心理的安全性が最も高いチーム」であり、その出発点となるのが信頼であるとしています。
チームの「心理的安全性」とは、「チームメンバーが、安心して対人リスクを取れるという共通認識を持っている状態であり、ありのままでいることに心地よさを感じられるような風土である」と紹介しています。
そのためには、コーチングを受け入れられる「コーチャブル」な人だけをコーチングすることにし、選んだ相手に対しては、「じっくりと耳を傾け、誠実に徹し、偉大なことを成し遂げられると信じ、誠意を尽くす」ことが重要です。
本書で述べてきた原則は、肌に合わないと思う人もいるかもしれないが、学習することはできる。
大切なのは、「やろう」と自分を駆り立てることだ。
優れたリーダーは時間をかけて成長し、そのリーダーシップをつくりあげるのはチームです。
スピードとイノベーションがカギとなる時代において、企業が成功を収めるためには、企業文化にチームコーチングを組み込むことが必須となり、力のある人たちを強力なチームとして束ねるには、コーチングに勝る方法はないようです。
コーチとは、「自分がなれると思っている人物になれるように、聞きたくないことを聞かせ、見たくないものを見せてくれる人である」と紹介しています。
マネジャーは、「管理、監督、評価、賞罰を中心とした伝統的なマネジメント」を超えて、コミュニケーション、敬意、フィードバック、信頼をもとにした文化を醸成していくことが重要で、これらをコーチングを通して生み出すことができることを、多くのエピソードと理論的な裏付けを通して気付かせてくれる一冊です。
目次
序文 ── シリコンバレー最大の伝説(アダム・グラント)
Chapter1 ビルならどうするか? シリコンバレーを築いた「コーチ」の教え
Chapter2 マネジャーは肩書きがつくる。リーダーは人がつくる 「人がすべて」という原則
Chapter3 「信頼」の非凡な影響力 「心理的安全性」が潜在能力を引き出す
Chapter4 チーム・ファースト チームを最適化すれば問題は解決する
Chapter5 パワー・オブ・ラブ ビジネスに愛を持ち込め
Chapter6 ものさし 成功を測る尺度は何か?
謝辞
訳者あとがき
参考
1兆ドルコーチ | ダイヤモンド社
1兆ドルコーチ | ダイヤモンド・オンライン
Eric Schmidt - Trillion Dollar Coach
Apple 1984 Super Bowl Commercial Introducing Macintosh Computer
関係する書籍
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1兆ドルコーチ(TRILLON DOLLAR COACH)
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1兆ドルコーチ
シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え
エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル(著)、櫻井 祐子(訳)
出版社:ダイヤモンド社(2019/11/14)
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