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「起業参謀」の戦略書 スタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク
5 Perspectives
Bird's Perspective, Insect's Perspective, Fish's Perspective, Doctor's Perspective, Human's Perspective
田所 雅之(著)
出版社:ダイヤモンド社 (2024/1/30)
Amazon.co.jp:「起業参謀」の戦略書
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日本には圧倒的に参謀人材が足りない。
「勝ち続ける仕組み」を作る方法がわかる。
起業家&参謀人材必修の「マインド・思考・スキル・フレームワーク」を大系化した初の書!
本書は、スタートアップ支援会社のCEOである著者が、スタートアップが成長していくためには起業家を脇で支える優秀な起業参謀の存在が欠かせないとして、起業家に価値提供するための武器となるフレームワークや事例を収録した一冊です。
これまで起業参謀は十分な育成/排出がなされていなかったとして、著者が2022年に起業参謀を目指す「スタートアップアドバイザーアカデミー」をスタートし、そこで培ったノウハウを凝縮して提供しています。
「起業参謀にはどのような能力が必要か」「その能力を鍛えるにはどうしたらいいのか」を詳細に解説していますので、コンサルタントや参謀としてスタートアップを支援する方々だけでなく、スタートアップの幹部、企業内で新規事業を推進または支援する方々にとってのバイブルとなります。
本書は2部8章で構成しており、起業参謀の概念やプロセス、起業参謀として活躍するために必要な「5つの眼」と23のフレームワークを解説しています。
第1部では、起業参謀の概念、思考法やプロセスを解説しています。
- ・第1章では、起業参謀の価値、求められる資質を示し、身に着けるべき「5つの眼」について詳細に解説しています。
- ・第2章では、起業参謀が成果をあげるための5つのポイント、メンタリングを行うプロセス、コミュニケーションのポイントを解説しています。
- ・第3章では、起業参謀に求められるケイパビリティ(capability:能力)やその高め方について、伴走プロセスに沿って詳細に解説しています。
第2部では、起業家として活躍するために必要な「5つの眼」と身に着けるためのフレームワークについて章を独立して詳細に解説しています。
- ・第4章は1つめの眼、全体を俯瞰する「鳥の眼」で、5つのフレームワークを解説しています。
- ・第5章は、顧客一人ひとりの心理やインサイトに迫って解像度をあげる視点の「虫の眼」で、5つのフレームワークを解説しています。
- ・第6章は、動的なストーリーとして描くことで勝つ続ける仕組みをつくる「魚の眼」で、4つのフレームワークを解説しています。
- ・第7章は、起業家のメタ知識の促進、組織の時期尚早の拡大(プレマチュアスケーリング)を防止する「医者の眼」で、5つのフレームワークを解説しています。
- ・第8章は、伴走者として起業家をエンゲージメントする視点の「人の眼」で、4つのフレームワークを解説しています。
起業参謀はスタートアップの事業成長のあらゆる段階において必要となる存在だ。
私はこれまで、数多くのスタートアップ新規事業を支援してきたが、「優れた起業参謀」がいるかどうかが、事業の成否を決める大きな要因となっていると断言できる。
起業参謀とは
スタートアップとして重要なことは、一時の勢いや一過性で勝つだけではなく、長く勝ち続ける仕組みをつくることである。
スタートアップの「成功の歩留まり」は1%前後と、非常に狭き門になっている。
スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築、さらにメンターによる支援事業の拡大・横展開が必要である。
名ばかりのメンターではなく、起業家を支え、付加価値を提供できる参謀として伴走できるメンターの育成が急務である。
起業参謀とは、外部からスタートアップを支援するだけでなく、スタートアップのCXO(Chief X Officer)として、起業家の右腕になるような存在のことを指す。
「鳥の眼」「虫の眼」「魚の眼」「医者の眼」「人(伴走者)の眼」という5つの視点を行き来しながら、起業家の視座を拡大/整理してアドバイス/メンタリングを行う存在である。
一見何の関連もなさそうなところを抽象化してつなぎ合わせ、気づきを与えながら腹落ちさせて起業家を動かしていく。
戦略家として着想したりビジョンを掲げたりする力だけではなく、起業家の多様なニーズに応えるために、ヒト、モノ、カネに関する知識・スキルをすべて持ち合わせた存在である。
起業家のビジョンを一旦受け止め、対話や傾聴を通じて咀嚼し、フォローしているメンバーが働きやすいように仕組みをつくったり、戦略や戦術に落とし込む。
時には、摩擦を恐れずに起業家にとって「耳の痛いこと」をも直言し、圧倒的な成果をあげるために進言し、必要に応じて自らも実行する。
起業参謀が備えるべき「5つの眼」
『「起業参謀」の戦略書』を参考にしてATY-Japanで作成
鳥の眼:全体の俯瞰
鳥のように、上空からの視点で物事を広く俯瞰して見渡すという意味を持つ。
時間軸を伸ばす視点に加え、自分たちが対応しようとしている市場全体を見渡すように視野を広げる。
市場を体系的/網羅的に見渡す視点を提供する。
そうすることで、市場/ターゲットセグメントに対する過大評価を抑制する。
加えて、まだリーチできない魅力的な潜在市場/セグメントの探索を促し、機会損失を減らす。
フレームワーク
- ・STEEP(社会的、技術的、経済的、環境的、政治的要因)/トレンド分析
- ・ターゲット市場の魅力度検証
- ・TAM(事業が獲得できる可能性のある全体の市場規模)/SAM(事業が獲得しうる最大の市場規模)/SOM(事業が実際にアプローチできる顧客の市場規模)分析
- ・Go-to-Market
- ・ロードマップ策定
虫の眼:顧客心理/ステークホルダー心理の詳細理解
虫のように地に足をつけて細かく物事を見る視点である。
視野を狭くするということではなく、顧客一人ひとりの心理やインサイトに迫り、その理解度を上げる。
徹底的に顧客の理解を高めることを促す(顧客心理/顧客行動の定量/定性な理解)。
それによりCPF(顧客の課題の検証)/PSF(顧客の課題の解決)/PMF(顧客から熱狂的に愛されるプロダクトの実現)の達成の蓋然性を高め、状況に応じて顧客以外のステークホルダーの心理状況を深く捉える。
フレームワーク
- ・真の課題理解/課題の構造化
- ・モチベーショングラフ
- ・UXエンゲージメントマップ
- ・マーケティングファネルと5つの不
- ・真のPMF
魚の眼:仕組みを構築して戦わずして勝つ
流れをつかみ対応していく視点を指す。
また、動的な流れを捉えたうえで「流れそのもの」を生み出していく視点ともいえる。
プロダクトライフサイクル全体で、「リソース投入に依拠した無理な戦い」を避けるための「勝ち続けるための仕組みづくり」の視点を提供する。
それにより、持続的な成長を画策できる。
フレームワーク
- ・MOAT(城壁や堀)構築/li>
- ・ネットワーク構築/li>
- ・コールドスタート問題解消/li>
- ・フライホイール構築
医者の眼:起業家のメタ認知促進/組織のプレマチュアスケーリング防止
スタートアップが陥りやすい「時期尚早の拡大(プレマチュアスケーリング)」や「自社の過大評価(ポジティブバイアス)」を防ぐために、事業をフェアに、全体視点で診断/客観視することを指す。
起業家のメタ認知を促進することで、必要なリソース(自分のケイパビリティと補完になる共同創業者など)の理解度が高まる。
スタートアップフェーズや全体最適視点から、「やるべきこと」と「避けるべきこと」の示唆を出し、時期尚早の拡大を防ぐ。
フレームワーク
- ・ライフジャーニー
- ・起業家OSアップデート
- ・KPIの設計と運用
- ・スタートアップ・バランス・スコアカード
- ・スタートアップの目利き
人(伴走者)の眼:腹落ちして行動量を増やす
伴走者として起業家をエンパワーメントする視点を指す。
定期的な対話を通じて、腹落ち感を高め、行動のモメンタムを促進する(モメンタムブースター)。
定期的な対話/壁打ちが、行動のリズムをつくり、モメンタムを促進する(ペースメーカー)。
フレームワーク
- ・リーンキャンパス
- ・MSP(販売可能な最小限のプロダクト)/MVP(顧客に価値提供できる最小限のプロダクト)/Prototype(プロトタイプ)
- ・CPF(顧客の課題の検証)/PSF(顧客の課題の解決)テンプレート
- ・自社の魅力化ドキュメント
ここ10年ほどで、起業も新規事業も以前とは比べものにならないほど増加した。
しかし、それを支える起業参謀は未だに圧倒的に少ない。
日本をスタートアップや新規事業が変えていくには、起業家の存在だけでなく、優れた右腕となる起業参謀の存在が欠かせない。
そんな思いを胸に、本書の執筆を続けてきた。
起業しても、起業参謀となっても、企業人として企業に残る道を選んだとしても、本書でお伝えしたことがあなたを必ず支えてくれるはずだ。
ぜひ、自分らしく生きるために、本書でお伝えした知見を活かしていって欲しい。
まとめ(私見)
本書は、起業参謀に求められる役割・資質・プロセス、そしてフレームワークを包括的かつ詳細に解説した一冊です。
名ばかりのメンターではなく、起業家を支え、付加価値を提供できる参謀として伴走できるメンターが必要であるという認識のうえで、著者の長年のコンサルティング経験に基づいて整理していますので、コンサルタントや参謀としてスタートアップを支援する方々だけでなく、スタートアップの幹部、企業内で新規事業を推進または支援する方々にとってのバイブルとなります。
なお本書では23のフレームワークを紹介していますが、一度読んだだけでは、すべてを理解して使いこなすことは難しいと思います。
起業参謀として活動していく中で、疑問に感じたり迷ったりしたときに読み返していけば、その時の状況に応じて適切に対応できと思います。
著者は、これまでも貴重な知見を書籍として発信しています。
- ・『起業の科学 スタートアップサイエンス』(日経BP、2017年)では、スタートアップにとって最も重要なプロダクトマーケットフィット(PMF)をいかに達成するかを詳細に解説しています。
- ・『起業大全 スタートアップを科学する9つのフレームワーク』(ダイヤモンド社、2020年)では、単にPMFするだけではなく、起業家から事業家や経営者への成長の必要性を説き、そのプロセスの中で欠かせない要素について解説しています。
この2冊に対して本書は、スタートアップ事業のキーとなる「起業参謀」が起業家やスタートアップに対して、どのように付加価値を与え支えていくかを体系化して、「5つの眼」と実践で使える「23のフレームワーク」を示しています。
技術の急速な進歩、経営環境が目まぐるしく変わる中で、企業は保有する経営資源(強み)を最大限使用し、時には外部と連携して、継続して勝ち続けていかなければなりません。
特に経営資源が限られたスタートアップにとっては厳しい状況ともいえますが、新しい技術やビジネスモデルといった「自社の強み」を発揮していけばビジネスチャンスにもなります。
しかし、起業し事業として成長していくうえでは、起業家だけの力では限界があります。
また、スタートアップ支援においては、人材・ネットワークの構築、資金供給の強化と出口戦略の多様化、オープンイノベーションの推進といった課題解決も急務です。
事業としての実現可能性を高め、起業家が陥りがちなバイアスから解き放つためにも、起業参謀は重要な存在です。
スタートアップが成功できるかどうかは、起業家と同様に、キーマンである参謀の存在が大きいと、本書でも主張しています。
現在は大きくなっている企業も、もとはスタートアップでした。
その創業経営者の横には優れた「参謀」がいて、壮大なビジョンを描いた起業家を支えていました。
人は「自分が信頼・尊敬する人」からの言葉に動かされるものです。
起業家と参謀の間においても同じで、起業参謀は起業家から信頼・尊敬される人でなければなりません。
本書は、「起業参謀に求められる役割」「起業参謀にはどのような能力が必要か」「その能力を鍛えるにはどうしたらいいか」などを紐解き、起業家に対して価値を提供していくための武器となる実践的なフレームワークを提供してくれる一冊です。
目次
はじめに なぜ、起業参謀が必要なのか?
日本には圧倒的に起業参謀が足りない
起業参謀が重要になった時代背景
国が起業人材育成に舵を切った
優秀なスタートアップには、それを支える起業参謀が存在する
起業参謀の仕事の言語化・標準化が必要
誰の、何を、どのように
あらゆるビジネスパーソンを救う一冊
ChatGPTと起業参謀の役割
起業参謀は十徳ナイフであれ
第一部 起業参謀の概念、思考法やプロセス編
Chapter1 起業参謀の価値とは
1 起業参謀の価値とは何か?
2 起業参謀に求められる資質とは ── 人材の4タイプ
3 「フェーズ感」が、既存事業とスタートアップの最も大きな違い
4 PMFの導き方 ── 起業参謀に必須の知見
5 成果を上げるための4ループ
6 オセロの四隅を押さえよ ──「ムダ」をなくす戦略思考
7 戦術の質を高める
8 起業参謀が身につけるべき「5つの眼」
Chapter2 最大成果を上げる要諦とプロセス
1 起業参謀が成果を上げるための5つのポイント
2 起業参謀がメンタリングを行うプロセス
3 コミュニケーションの際に避けたい7つのポイント
4 良いコミュニケーションのための5つのポイント
Chapter3 起業参謀に必要な5つのケイパビリティ
1 起業参謀に必要な能力とは
2 ①マインド
3 ②全体俯瞰力(知識体系/知見の広さ)
4 ③地頭力(仮説構築力・アナロジー思考力・抽象化力・フレームワーク活用力・ロジカルシンキング力)
5 ④対人力/アウトプット力(資料作成力・プレゼン力・傾聴力)
6 ⑤戦略的学習力
第二部 起業参謀として活躍するために必要な「5つの眼」のフレームワーク編
Chapter4 PFMFを目指すための「鳥の眼」を身につけるフレームワーク
1 汎用的に活用できるフレームワーク
2 STEEP分析・トレンド分析 ── 事業の未来を捉えるフレームワーク
3 マクロの解像度をさらに高めるSTEEP分析×CTM分析
4 ターゲット市場の魅力度検証
5 TAM、SAM、SOMの分析
6 Go-to-Market
7 ロードマップ策定
Chapter5 変化し続ける顧客心理を捉えるための「虫の眼」を身につけるフレームワーク
1 真の課題とは何か
2 顧客理解とモチベーショングラフ
3 万能フレームワーク ── 課題の構造化
4 UXエンゲージメントマップ
5 マーケティングとは
6 真のPMFとは何か
Chapter6 勝ち続ける仕組みを作るための「魚の眼」を身につけるフレームワーク
1 MOATの構築
2 最強のMOAT構築 ── ネットワーク効果を身につける
3 コールドスタート問題の解消
4 フライホイールの構築
Chapter7 メタ認知力を高めるための「医者の眼」を身につけるフレームワーク
1 「医者の眼」を身につけるフレームワーク
2 起業家の成長とスタートアップの成長を同期する
column 初期の起業家に必要なのは「戦略的泥臭さ」
3 KPIの設計と運用
column AARRR(アー)モデルとは
4 スタートアップバランススコアカード
5 スタートアップの目利き
Chapter8 圧倒的行動量を引き出すための「人(伴走者)の眼」を身につけるフレームワーク
1 リーンキャンバス
2 MSP/MVP/Prototype
3 CPF/PSFテンプレート
4 自社の魅力化ドキュメント
おわりに 起業参謀がスタートアップの道を照らす
参考
「起業参謀」の戦略書 | ダイヤモンド社
ユニコーンファーム スタートアップ・新産業を創造するエンジンになる
スタートアップアドバイザーアカデミーSAA - ユニコーンファーム
スタートアップ育成ポータルサイト | 内閣官房
関係する書籍(当サイト)
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マスター・オブ・スケール
世界を制したリーダーが初めて明かす 事業拡大の最強ルール
リード・ホフマン(著)、ジューン・コーエン(著)、デロン・トリフ(著)、大浦千鶴子(翻訳)
出版社:マガジンハウス (2022/10/6)
Amazon.co.jp:マスター・オブ・スケール
「起業参謀」の戦略書
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「起業参謀」の戦略書
スタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク田所 雅之(著)
出版社:ダイヤモンド社 (2024/1/30)
Amazon.co.jp:「起業参謀」の戦略書
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