書籍 ハッキング・デジタル(HACKING DIGITAL) DXの成功法則 | マイケル・ウェイド(著)

書籍 ハッキング・デジタル(HACKING DIGITAL) DXの成功法則 | マイケル・ウェイド(著)

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ハッキング・デジタル(HACKING DIGITAL) DXの成功法則
Best Practices to Implement and Accelerate Your Business Transformation

マイケル・ウェイド(著)、ディディエ・ボネ(著)、横井朋子(著)、ニコラウス・オブウェゲザー(著)、根来龍之(監修, 翻訳)、門脇弘典(翻訳)
出版社:日経BP 日本経済新聞出版 (2023/3/18)
Amazon.co.jp:ハッキング・デジタル

  • デジタル組織に生まれ変わるための「やることリスト」を網羅!

    先進事例からベストプラクティスを抽出した実践ガイド。

関連書籍
 2023年06月09日 ステファニー・ウォーナー『FUTURE READY(フューチャーレディ)』日経BP (2023/3/25)

本書は、IMD教授、グローバルセンター・フォー・デジタルビジネス・トランスフォーメーション(DBTセンター)所長の著者らが、DXは「単発のプロジェクト」ではなく「ジャーニー(旅路)」であるとして、DXを実践していくうえでのベストプラクティスや洞察、アドバイスを、課題テーマごとに提供した一冊です。

DXが「平常運転」になるのが理想として、デジタル組織への筋道を具体的に示していますので、ビジネスリーダーの方々が、DX推進の始動段階・実行段階・定着段階において直面する課題への対応策を考えていくうえで大変参考になります。

本書は6部30章で構成しており、各章は独立してテーマを提示し、最重要のアドバイスを短くまとめ、その後4つのセクションで深掘りしています。

どの章も同じ構成になっていますので、直面している課題に応じて順不同に読んでも学びや洞察を得ることができます。

  • セッション1.なぜ重要か
    なぜそれがDXの成否にかかわるのかを説明
  • セッション2.ベストプラクティス
    課題にどう取り組むべきか、事例を交えながら説明し、適用できるツールやフレームワークを紹介
  • セッション3.ツールボックス
    すぐに効果を出すために用いることができる、実践的なツールとアドバイスを紹介
  • セッション4.チェックリスト
    アプローチを取り入れる際の検証に使える質問、そして関連する章を紹介

第Ⅰ部は、DXの基礎づくりについて解説しています。

  • ・経営陣の足並みをそろえることに加え、組織にとってDXは何を意味するのか、なぜそれを行うのかを明確に理解し、そのうえで足並みを揃えることの重要性を説いています。
  • ・重要なのはビジョンであり、「変革理念」で野心と事業目標を明確にし、経営陣が一致団結して「組織的推進力」を生み出し、リーダーが従業員の信頼を得てエンゲージメントを高めるとともに、戦略的一貫性を確保したうえでの資金調達の必要性を説いています。

第Ⅱ部から第Ⅳ部は、第Ⅰ部の基礎の上でDXを成功に導くための構造的かつ機能的な取り組みを解説しています。

  • ・第Ⅱ部は「DXの推進体制」につて、推進力を構築するためには、変革のアクセルにもブレーキにもなる取締役の力を利用すること、主要な利害関係者の役割や責任などを定義したガバナンス、デジタルチームとIT部門が良好な関係のもとで強固な連携を図ること、アジャイル手法のいいとこ取りをして円滑に実行することの重要性を説いています。
  • ・第Ⅲ部は「外部組織との協働」で、DXを成功させるためには、外部環境を深く理解し、新たな知見を吸収する能力が必要であるとして、外部の出来事に対する「高度な察知力(ハイパワーアウェアネス)」を備えること、パートナーと強固なエコシステムを構築すること、最新技術やビジネスモデルを取り込むための有効手段となるスタートアップと連携することに加え、倫理や持続可能性に関わる影響も追求する必要があることを説いています。
  • ・第Ⅳ部は「ビジネスモデルの変革」で、新たなビジネスモデルの成功は顧客に新たな方法で価値をもたらすとして、「コモディティ化の罠」を避けるための製品からサービスへの移行、そしてサービスへの支払いを顧客に納得してもらう取り組み、さらにはプラットフォームの力学を用いて自らを有利にし、相対的なリスクとリターンを考慮したポートフォリオを構築することの重要性を説いています。

第Ⅴ部は「人と組織」で、個人レベルに焦点を切り替え、デジタルの人間側面を探っています。

  • ・デジタルリーダーは、伝統型アプローチと新興型アプローチの間で「綱引き」を行ってバランスをとり、組織に溶け込み信用を獲得するための対人スキルを持つことの必要性を説いています。
  • ・そして、失敗を避けるためのCDOの役割を設計し、事業に直結する従業員のデジタル開発スキルの向上という短期的な課題と、従業員が自主的に学習する文化を醸成するという長期的な課題に取り組んでいくことの重要性を説いています。

第Ⅵ部は「DX推進力の持続」で、DXによって生み出されたポジティブな勢いを、いかに持続させるかを検討しています。

  • ・DXプロジェクトが終わった後のデジタル・プロジェクトのパイプラインを構築し、「新常態」のやり方へと拡張すことを目指し、一方では長期的な業績を確保するための明確で効果的な指標とKPIを設定してDXを測定することの重要性を説いています。
  • ・さらに、デジタルツールや技術に関する新しいトレンドを把握するとともに、変化に対して未来予想図を適時見直し、避けられない衝撃を吸収するための強靭さと、他社より早く立ち直れる対応力の必要性を説いています。

本書の目的は、DXの「どうやって」を解き明かすことだ。

難しいことだが、不可能ではない。

私たちは思い出したくないほど多くの失敗を目の当りにしてきたが、その一方で数多くの成功も見てきた。

本書では、そこで得たベストプラクティスや洞察、アドバイスを取りそろえている。

いま直面しているDXの難所を乗り越え、道を切り拓き、デジタル組織の実現に近づくために、ぜひ役立ててほしい。

DXジャーニー(始動からデジタル組織の構築まで)

DXジャーニー

『ハッキング・デジタル DXの成功法則』を参考にしてATY-Japanで作成

DXプログラムは、「始動段階」「実行段階」「定着段階」の3つの段階に分けることができるが、段階ごとに特有の課題があるため、DXプログラムを成し遂げるには慎重に舵取りする必要がある。

始動段階(全体の10%程度)

  • ・適切に完了させないと、DXプログラムは丸ごと崩壊しかねない。
  • ・この段階の目的は、成功に向けた強固な土台づくりとDXプログラムの策定である。
  • ・主なステップは、「機運醸成」「目標設定」「現状把握」の3ステップである。

実行段階(全体の70%程度)

  • ・DXプログラムにおける最大かつ最難関のフェーズで、DXの成否を決める段階である。
  • ・この段階は長丁場となるため、「自立」と「統合」の2つに分けて考える。
  • ・「自立」は変革の順調な滑り出すを目指すものであり、「統合」はデジタル・プロジェクトとデジタルチームが既存組織に溶け込むのを目指す。

定着段階(全体の20%程度)

  • ・DXの終わりの始まりの段階である。
  • ・あえて個別のデジタルプログラムを実施しなくても、新たな技術やビジネスモデルを速やかに取り入れられるよう、従業員の間にデジタル能力を築く。
  • ・この段階の目的は、デジタルツールと技術を活用・拡張して新たな機会と脅威に対応できる組織をつくることである。

これらの3段階は不変のものではないし、明確に区切られているわけでもなく、それぞれの段階の間を行ったり来たりする。

人と組織を導く

DXでは、構造上、組織的あるいは経営的な「綱引き」が起こる。

実験か完成か、自律か統制か、データか直感か、スピードか正確性か、などであるが、それらは管理する必要があり、状況によって大きく変わる。

デジタルリーダーは、綱引きのバランスをとり、状況における必要性に応じてシームレスにやり方を変えなければならない。

リーダーとしての信頼を維持するには、高いデジタル能力と、文化的・政治的に組織でうまく生きるために必要な対人スキルのバランスに神経を使う必要がある。

デジタルリーダーには、組織全体のスキルを高めることも求められる。

すべての従業員がDXの推進力になるように計画を立て、実現を支援することであり、長期的には、生涯学習の文化を構築することを目指す。

デジタル・プロジェクトは、事業や機能、地域で分断された従来のサイロを横断する。

連続することとアジャイルな働き方がカギとなるが、インセンティブを適切に設定しなければならない。

そして、デジタルの優先事項に対するリソースを柔軟に割り当てることを通じて連携を促すには、強いリーダーシップが必要となる。

デジタル・リーダーシップ

デジタルリーダーの綱引き

『ハッキング・デジタル DXの成功法則』を参考にしてATY-Japanで作成

有能なデジタルリーダーは、リーダーシップの伝統型アプローチと新興型アプローチの間で「綱引き」を行い、バランスをとる能力を持っている。

7つの綱引きをバランスよく管理するため、デジタルリーダーは3つの異なる能力に秀でていなければならない。

  • ・自己認識:7つの綱引きにおける自分の傾向を理解する能力
  • ・学習・適応・実践:見つかった弱みを補う能力
  • ・状況認識:今は綱引きのどちら側に寄るべきかを判断する能力

DXでは、伝統型アプローチよりも新興型アプローチが好ましい場面が多いが、いつでも当てはまるわけでもなく、新興型アプローチが非生産的で、遅く、不適切な場合もある。

権限委譲型のリーダーや謙虚なリーダー、伝統的なリーダーなど、必要に応じてさまざまなリーダーシップを使い分ける必要がある。

DXのフェーズが進むたびに新たな課題が出てくる。

技術に関する課題もあるが、多くの場合、変革の成功を阻む障壁は組織にまつわるものが大半だ。

人材や組織構造、文化、インセンティブ、ガバナンス、ビジョンなどのさまざまな困難が立ちはだかる。

私たちがDXに関わった10年のあいだに実践者から集めたベストプラクティスは、困難だらけの変革を乗り越える道をハックする役に立つはずだ。

DXの実践者から独自のデジタル組織の設計者になるまで、本書が、皆さんのより迅速な行動に役立つことを願う。

まとめ(私見)

本書は、組織がDXを推進していくうえでの課題は似通っているとして、DXプログラムの始動段階・実行段階・定着段階における特有の課題への対応策を示した一冊です。

デジタル・ロードマップの決定要因となる目標や優先事項は組織によって異なり、成功するためには、それぞれの状況に合った道筋を行かなければいけません。

そこで本書は、道筋で直面する課題への対応策を網羅し、状況に応じて活用できるように整理していますので、リーダーが「いつ」「どのように」行うのかといった「やることリスト」として活用することができます。

本書によると、DXのパフォーマンスに関して11の研究を分析したところ、DXプログラムの87%が当初の期待に応えられていなかったようです。

そこで、本書では、従来とは異なるアプローチを採用して、約10年間にわたるDXについての研究で集めてきた「実践者たちのベストプラクティス」として整理しています。

それらの内容を参考にすれば、変革という難事業を成し遂げるための手法として役立ち、DX成功の可能性を高めることができると思います。

但し、具体的なツールやフレームワークを提示しているのは特定のテーマにだけで、他のテーマでは課題にどう取り組むかのアドバイス、アプローチを取り入れる際のチェックリストを示しています。

全ての課題テーマに対して汎用化したフレームワークをつくるのは難しいと思いますが、本書のベストプラクティスやツールボックス、そしてチェックリストを参考にすれば、自分たちの状況に応じた対応策やフレームワークを見出せそうです。

本書では、DXを「単発のプロジェクト」ではなく、始動段階から実行段階を経て、定着段階に至る「ジャーニー(旅路)」と捉えています。

そして、組織や人材、顧客にとっては、DXが「平常運転」になるのが理想として、本書の目的をDXの「どうやって」を解き明かすこととしています。

そこで、DXの基礎づくりとDXを成功に導くための取り組み、そしてDXによって生み出されたポジティブな勢いをいかに持続させるかまでを解き明かしています。

さらに、リーダーシップやCDOの役割といった、個人レベルに焦点を切り替えてデジタルの人間側面までも探っています。

DX推進の過程では、さまざまな課題に直面します。

その課題は、個々の組織が置かれている状況によって異なるでしょうが、課題に直面したときに都度手に取って読み返せば、その難所を乗り越えるヒントを与えてくれる一冊です。

参考:デジタル化を牽引する新たな組織が必要性(当サイト)

参考:デジタル成熟度におけるデジタル人材と組織の特質(当サイト)

目次

序章

第Ⅰ部 DXを始動する

第1章 明確で強力な「変革理念」を打ち立てる
第2章 順調なときこそ、危機感を醸成する
第3章 変革の成功に向けて、経営陣を一致団結させる
第4章 組織的機運とエンゲージメントを醸成する
第5章 既存のデジタル・プロジェクトを棚卸しする
第6章 DXを行うための資金を調達する

第Ⅱ部 推進力を構築する

第7章 取締役会を巻き込む
第8章 適切なデジタル・ガバナンスモデルを選択する
第9章 デジタルとITを連携させる
第10章 アジャイル手法でDXを加速させる
第11章 技術インフラを構築する

第Ⅲ部 外部環境と協働する

第12章 組織内に「ハイパーアウェアネス」を構築する
第13章 パートナーシップ戦略を成功させる
第14章 スタートアップに投資する
第15章 オープン・イノベーションを効果的に実行する
第16章 DXの社会的責任と持続可能性を追求する

第Ⅳ部 ビジネスモデルを変革する

第17章 「製品」から「サービス」へ移行する
第18章 デジタル・サービスの対価に説得力を持たせる
第19章 プラットフォームと競争するか協業するかを決める
第20章 バランスのよいプロジェクト・ポートフォリオを構築する

第Ⅴ部 人と組織を導く

第21章 デジタル・リーダーシップの基準を見出す
第22章 デジタルリーダーとしての信頼を確立する
第23章 CDOの成功を導く
第24章 組織内のデジタルスキルを開発する
第25章 サイロを打ち破る

第Ⅵ部 推進力を持続する

第26章 プロジェクトのパイプラインを整備する
第27章 プロジェクトを拡張する
第28章 DXを測定する
第29章 技術の最前線に居続ける
第30章 DXで組織のレジリエンスを高める

終章 デジタル組織になるための道のり

解説 継続するジャーニーとしてのDX(根来龍之)

参考

ハッキング・デジタル | 日経BOOKプラス

Hacking Digital - IMD Books

関係する書籍(当サイト)
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