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富士通の中期経営計画発表資料を参考にしてATY-Japanで作成
日本時間 2023年5月24日に、富士通が2025年度を最終年度とする中期経営計画を発表しましたので、概要を整理します。
Fujitsu Uvanceを成長のドライバーとして、サービスソリューションを中心に全社の収益性拡大を目指すとして、連結業績目標を以下の通り掲げています。
- ・売上収益:4兆2,000億円(2022年度実績:3兆7,137億円)
- ・調整後営業利益:5,000億円、売上収益比 8.6%(同:3,208億円、12.0%)
また、連結業績の内、サービスソリューションの目標は、以下を掲げています。
- ・売上収益:2兆4,000億円(2022年度実績:1兆9,842億円)
- ・調整後営業利益:3,600億円、売上収益比 15.0%(同:1,629億円、8.2%)
- ・Fujitsu Uvance売上収益:7,000億円、サービス内構成比 30.0%(同:2,000億円、10.0%)
中期経営計画の概要(2023年度~2025年度)
富士通の中期経営計画発表資料を参考にしてATY-Japanで作成
今回発表した中期経営計画では、連結業績とセグメント別、連結業績内サービスソリューション、非財務それぞれの目標を以下の通り掲げています。
連結業績の2025年度目標
- ・売上収益:4兆2,000億円(2022年度実績:3兆7,137億円)
- ・調整後営業利益:5,000億円、売上収益比 12.0%(同:3,208億円、8.6%)
- ・キャッシュ創出力強化(コアFCF):3,000億円(2022年度実績:1,571億円)、2023-2025年度:7,800億円(2020-2022年度:4,934億円)
- ・資本効率の向上(EPS):2022-2025年度 14~16%(2019-2022年度:12%)、2030年度目標:2023-2030年度 17%以上
セグメント別の2025年度目標
- ・サービスソリューション
売上収益:2兆4,000億円(2022年度実績:1兆9,842億円)、調整後営業利益:3,600億円(同 1,629億円)
- ・ハードウェアソリューション
売上収益:1兆1,500億円(2022年度実績:1兆1,323億円)、調整後営業利益:1,100億円(同 1,126億円)
- ・ユビキタスソリューション
売上収益:3,100億円(2022年度実績:2,860億円)、調整後営業利益:100億円(同 86億円)
- ・デバイスソリューション
売上収益:4,100億円(2022年度実績:774億円)、調整後営業利益:800億円(同 774億円)
連結業績の内、サービスソリューションの2025年度目標
- ・売上収益:2兆4,000億円(2022年度実績:1兆9,842億円)
- ・調整後営業利益:3,600億円、売上収益比 15.0%(同:1,629億円、8.2%)
- ・Fujitsu Uvance売上収益:7,000億円、サービス内構成比 30.0%(同:2,000億円、10.0%)、2030年度目標:1兆円以上(営業利益率:17%以上)
株主還元の2025年度目標
- ・2023-2025年度累計:6,000億円(2020-2022年度累計実績:3,500億円)
- ・年平均:約2,000億円(2020年度実績:1,961億円=配当 461億円 + 自己株式取得 1,500億円)
非財務の2025年度目標
- ・環境(GHG排出量):富士通グループ 2020年度比 50%削減、サプライチェーン 同12.5%削減
- ・お客様NPS:2022年度比 +20
- ・生産性:2022年度比 +40%
- ・従業員エンゲージメント:75(2022年度実績:69)、2030年度目標:75以上
- ・女性幹部社員比率:20%(2022年度実績:14%)、2030年度目標:30%以上
中期経営計画の実行に当たっては、PurposeとFujitsu Wayのもと、富士通のマテリアリティ(必要不可欠な貢献分野)として、以下の3項目(11の課題)を設定しています。
- ・地球環境問題の解決
気候変動(カーボンニュートラル)、資源環境(サーキュラーエコノミー)、自然共生(生物多様性の保全)
- ・デジタル社会の発展
情報セキュリティ確保、デジタル格差の解消、情報・AI倫理の推進、働きやすい環境の推進と労働力不足解消、責任あるサプライチェーンの推進
- ・ウェルビーイングの向上
QoL(生活の質)向上に向けた医療ヘルスケアの推進、生涯学習・リスキリングの推進、顧客・生活者体験の向上
PurposeとFujitsu Way
- ・Purpose
イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと
- ・Fujitsu Way
大切にする価値観「挑戦」「信頼」「共感」
2030年に向けた価値創造の考え方として、「デジタルサービスによってネットポジティブを実現するテクノロジーカンパニーになる」として、サスティナビリティを基点とした4つの重点戦略を実行するとしています。
- ・事業モデル・ポートフォリオ戦略
事業セグメントと事業ポートフォリオ、成長領域へのシフト、お客様エンゲージメントモデル
- ・カスタマサクセス戦略/地域戦略
コンサルティング拡充、モダナイゼーション、海外ビジネスのサービスシフト、戦略的アライアンス、お客様の一層の安定化
- ・テクノロジー戦略
コアテクノロジー強化、ビジネス活用(価値提供強化)
- ・リソース戦略
RoleのGlobal統一、生産性の向上(社員一人当たり)、経営基盤強化
中期経営計画における4つの重点戦略
2030年およびそれ以降に向けて、持続的な成長、収益力向上に向けたモデルを構築する3カ年として、事業モデルと事業ポートフォリオの変革、お客様モダナイゼーションの確実なサポート、海外ビジネスの収益向上を目指すとしています。
そこで、富士通の目指す姿を実現し、ステークホルダーへの提供価値を最大化するための重点戦略として、以下の4つを展開します。
重点戦略1.事業モデル・ポートフォリオ戦略
事業セグメントと事業ポートフォリオ:事業セグメントの変更
- ・サービスソリューションの目標:売上収益 2兆4,000兆円、調整後営業利益率 15%(2022年度実績:売上収益 1兆9,842億円、調整後営業利益率 8%)
- ・サブセグメント別の営業利益率の目標
グローバルソリューション:10%(2022年度実績:1%)、Japan:12%(同:19%)、海外:1%(同:3%)
- ・サービスソリューションを、Fujitsu Uvanceを中心としたグローバル共通の価値提供サービスの創出・提供する「グローバルソリューション」と、リージョンとして日本市場に向けたサービスの提供・実装する「Japan」と海外市場に向けたサービスの提供・実装する「海外」の3つのサブセグメントを新設
成長領域へのシフト:サービスソリューションの拡大
- ・Fujitsu Uvanceの目標
売上収益 7,000億円(2022年度実績:2,000億円)
- ・Fujitsu Uvanceを含む収益性の高いデジタル・クラウドサービスを中心に成長を目指す。
- ・お客様の安全・安心な環境を実現するOn Premiseのサービスから、Fujitsu Uvanceを中心としたお客様のトランスフォーメーションを実現するOn Cloudのデジタルサービスを拡大する。
- ・そのために、コンサルティング拡充、戦略的アライアンスの発展、テクノロジー強化・ビジネス実装、人材の育成、リスキリングといった注力施策を展開する。
お客様エンゲージメントモデル:お客様との長期的なエンゲージメントを構築
- ・お客様の課題に共に向き合い、ステージに応じた最適なソリューションを継続的に提供し、モダナイゼーションやクラウドシフトなどを長期的に支援する。
- ・コンサルティング・リード
お客様のCEO/CxO/LoBと共に、事業課題に向き合い、解決策・オファリングを提案し、デリバリーにつなげる。
- ・デリバリー・リード
お客様のIT戦略に基づき、要件を満たすオファリングをQCDを確保の上、着実にデリバリーする。
- ・モダナイゼーション・リード
システムリプレースや、既存アウトソーシング契約の更新時にクラウド移行やアプリケーションのモダナイゼーションと合わせて、次なるコンサルティング提案につなげる。
重点戦略2.カスタマサクセス戦略/地域戦略
コンサルティング拡充:お客様の課題を解決するコンサルティングの拡充
- ・コンサルティングのケイパビリティを2025年度までにリスキリングなどにより10,000人規模に拡充する(2022年度:2,000人)。
- ・テクノロジー・コンサルティング
Fujitsu Uvance Horizontal、戦略アライアンスパートナー、テクノロジードリブン、IT内製化支援・伴走型
- ・ビジネス・コンサルティング
Fujitsu Uvance Vertical、Ridgelinezのコンサルティング・アプローチ、事業変革、企業経営
モダナイゼーション:お客様の最適なモダナイゼーションを実現
- ・富士通の独自の強みをお客様の価値に変え、お客様資産の最適化とDX/GXを支える。
- ・お客様にとっての価値
将来を見据えて最適にモダナイズする「安全・安心」、メインフレームなどの基幹システム構築で培ってきたエンジニアリング力を活かした「トータルサポート」、戦略パートナーとのアライアンスも活用した「最適なソリューション」
- ・富士通のモダナイゼーションサービス
1.業務・資産可視化、2.グランドデザイン、3.情報システム全体のスリム化、4.モダナイズ
- ・富士通のケイパビリティ
変革パートナー、専任組織、デリバリー体制(2025年度までに35,000人体制)、テクノロジー
海外ビジネスのサービスシフト:地域別の主な取り組み
- ・調整後営業利益率の目標
Japan:19%(2022年度 12%)、海外:3%(同 1%)
- ・日本のお客様に最適なソリューションを提供、グローバルにサービスビジネスを強化する。
- ・Japan
全業種のお客様のモダナイゼーションをサポート、日本を起点にグローバルに事業を展開するお客様のサポート体制を強化
- ・海外
Fujitsu Uvanceを中心としたグローバルなオファリングのサービスを拡大(海外サービスにおけるFujitsu Uvance売上比率:2022年度 20% → 2025年度 45%)
戦略的アライアンス:戦略的アライアンスの更なる発展
- ・グローバルなお客様への提供価値を高めるために戦略パートナーとのアライアンスを実現する。
- ・Microsoftとの国内唯一のグローバルSIパートナー、AWSと特定業種から全社的な協業へ拡大、SAPとのクラウド移行するためのオファリング「RISE with SAP」拡大、Service Nowと高度専門人材の育成(2023年度の資格取得者1万人以上に拡大)、salesforceと製造・ヘルスケアサービスの共同開発してビジネス拡大
お客様事業の一層の安定化:お客様事業の一層の安定化に向けて
- ・情報セキュリティ・インシデントやシステム品質問題の再発防止に向けて、全社をあげて施策に取り組む。
- ・体制強化
リスク・コンプライアンス委員会の強化、最高品質責任者(CQO:Chief Quality Officer)の任命と権限強化、最高情報セキュリティ責任者(CISO:Chief Information Security Officer)の権限強化
- ・情報セキュリティ対策強化
客観性の高いリスク把握と対応、セキュリティ統制に関する権限集中化、現場組織のセキュリティ強化
- ・システム品質の改善・向上
品質統制の権限集中化、品質統制の恒久対応、品質統制・リスクモニタリングを支える設計・運用基盤の強化
重点戦略3.テクノロジー戦略
コアテクノロジー強化:テクノロジーを起点とした付加価値の創出
- ・AIを核にコアテクノロジーを強化し、サービスビジネスの付加価値として創出する。
- ・高精度なシミュレーション、自律分散型の社会システム、大規模ネットワーク制御、圧倒的なスピードを省力化で提供
ビジネス活用(価値提供強化):テクノロジー活用の事例
- ・テクノロジーによるイノベーションを付加価値に変えてお客様や社会に提供する。
- ・Computing×AIやConverging×AIといった実証実験/研究開発に加え、価値提供モデルの展開
重点戦略4.リソース戦略
RoleのGlobal統一:事業と連動した人材ポートフォリオの実現
- ・人材のポートフォリオ化と育成計画を全社で進め、リスキリングやアップスキリングを中心とした施策で成長領域のリソースを拡充する。
- ・グローバル統一のジョブロールを定義し、人材ポートフォリオの見える化や事業と連動した人材育成計画をグローバルで推進する。
- ・各コーポレート機能におけるサービスをグループ全体に提供から、お客様の課題に並走し、最適なソリューションを継続的に提案・提供へ展開
生産性の向上(社員一人当たり)、経営基盤の強化:経営基盤の強化によるお客様への提供価値の向上
- ・人材とITを軸に事業を支える経営基盤を高度化、社内実践を通じた経験・ノウハウをお客様フロントで活用し、提供価値を向上する。
- ・事業ポートフォリオに連動した人的資本経営を推進し、個人にフォーカスした成長の仕組みづくりや、自律性や自主性を重視した施策を展開する。
- ・人的資本経営
個人にフォーカスした成長の仕組み、持続的成果を生むための組織の土壌
- ・データドリブン経営
リアルタイムマネジメント、経営資源のデータ化・可視化、グローバルでのビジネスオペレーション標準化
まとめ(私見)
富士通の中期経営計画発表資料を参考にしてATY-Japanで作成
前回の中期経営計画(2020年度~2022年度)の財務指標の結果は、連結業績のフリーキャッシュフローは目標を達成しましたが、テクノロジーソリューション事業の目標は達成できませんでした。
テクノロジーソリューション事業の目標未達成の主な要因は、部材供給問題やハードウェアの供給が第4四半期には回復することを見込んでいたものの、計画通りにはいかなかったとしています。
一方、2022年度(2023年3月期)通期決算(2022年4月1日~2023年3月31日)は、前年度に対して増収増益となり、営業利益は最高益を記録しました。
DXビジネスの拡大、部材供給問題のリカバリも進んだとして、2023年度(2024年3月期)の連結業績予想も、2022年度に対して増収増益を見込んでいます。
2022年度までの中期経営計画では、デジタル(DX、モダナイゼーション)を「For Growth」、従来型ITを「For Stability」と、価値創造のための2つの事業領域を定め、「For Growth」では規模の拡大と収益規制の両方を伸ばし、「For Stability」は効率性を上げ利益率を高める取り組みをしてきました。
結果は、「For Growth」の売上収益の目標 1兆3,000億円に対して2022年度実績は 1兆1,221億円と未達に終わりましたが、全社連結営業利益は収益性を継続的に強化しながら利益規模を着実に拡大しています。
今回の中期経営計画は、前年度までのセグメントのテクノロジーソリューションをサービスソリューションとハードウェアソリューションに分け、Fujitsu Uvanceを含む収益性の高いデジタル・クラウドサービスを中心にサービスソリューションの拡大を目指すものです。
事業モデルと事業ポートフォリオの変革、お客さまのモダナイゼーションの確実なサポート、サービスビジネスシフトによる海外ビジネスの収益性向上に取り組み、Fujitsu Uvanceを成長ドライバーとして、サービスソリューションを中心に全社の収益性拡大を目指すとしています。
中でも、Fujitsu Uvanceは、2021年10月に発表した事業モデルで、「単なるソリューションの集合体ではなく、社会課題を起点として、クロスインダストリーで、お客さまの成長に貢献するデジタルサービスを提供する仕組み」と位置づけています。
サステナブルな世界を実現する7つのKey Focus Areasとして、社会課題を解決するクロスインダストリーを推進するVertical Areasで4分野、クロスインダストリーを支える3つのテクノロジー基盤となるHorizontal Areasで3分野を設定しています。
今回の中期経営計画では、Fujitsu Uvanceの2022年度の売上収益は2,000億円で、その内Vertical Areasが100億円程度であったのを、2024年度以降にはVertical Areasビジネスが大きく立ち上がり、2025年度までにはVertical Areasが4,000億円に拡大するとして、Fujitsu Uvance全体の2025年度売上収益を7,000億円にする目標を掲げています。
2020年からのコロナウィルス感染症、そして半導体・電子部品の供給遅延などの影響が落ち着いてきた中で2023年度は好スタートしましたが、先日「Fujitsu MICJET コンビニ交付」システムによる証明書の誤発行やそれに伴う個人情報の漏えい、ProjectWEBへの不正アクセスやFJcloud-Vおよびニフクラ、FENICSインターネットサービスにおいて情報セキュリティインシデントが発生しています。
今回の中期経営計画への影響や業績への影響などについては明らかにしていませんが、前回の中期経営計画目標が未達に終わった富士通にも、今回は目標達成に向けた舵取りに期待しています。
参考:富士通の発表資料
2023.05.24 中期経営計画について(PDF)
2023.05.24 中期経営計画について -事業セグメントの変更、財務計画(PDF)
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