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Beyond 2025 進化するデジタルトランスフォーメーション
松井 昌代(SAPジャパン)(監修)
出版社:プレジデント社(2020/3/11)
Amazon.co.jp:Beyond 2025
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未来に不安を抱えるビジネスパーソンとその予備軍へ
立ちはだかる数々の難題に対して目を背けず、既存ビジネス&システムを検証し、データを効果的に活用すれば、経済産業省がレポートするITシステム「2025年の崖」を超え、社会と企業と人の永続的な成長も不可能ではない。
多くの事例から、課題を切り開く解決策とヒントを学ぶ!
本書は、SAPジャパンのインダストリーバリューエンジニアリング事業本部に所属する「業界スペシャリスト集団」の19名の方々が、世界のデジタルトランスフォーメーション(DX)の成功事例を紹介しながら、その成功要因や日本への適用を考察した一冊です。
SAPジャパンが発信している公式ブログの2019年末時点98本の中から、「テクノロジーが実現する未来予想」という今回のテーマに沿って34本を選び、5つのテーマに再編集して簡潔に整理していますので、業界の最新事例やテクノロジーの動向などを確認するうえで大変参考になります。
なお、紹介している事例にはORコードが付与されており、YouTube動画で視聴することもできますので、それぞれの取り組みの背景や詳細内容を理解するのに役立ちます。
本書は5章で構成されており、地球から業界、企業、ビジネスモデル、人へという流れで、デジタルトランスフォーメーション(DX)の成功事例を紹介しています。
- ・第1章では、エネルギー・環境問題に対して、テクノロジーを活用した取り組みを紹介しています。
循環経済の実現手段としてのインダストリー4.0、再生可能な電力マネジメントを推進しているスイス連邦鉄道(SBB)、モータースポーツにおける地球環境改善を進めている独ダイムラーグループ、循環経済を見据えた新たな「意味」創造を目指しているシグニファイ(旧フィリップス)など
- ・第2章では、業界トップランナーが、業界を超えたインスピレーションを高めるための取り組みを紹介しています。
ビジネスプロセスにおける競争優位の源泉を追求しいているシェル(石油業界)、非デジタルネイティブのクラウド化へ挑戦している伊エネル(電力業界)、リアルデータの新活用を推進している北米アイスホッケーリーグ(NHL)、短期間でIT改革を実現したHP、サプライチェーン改革を成功したアルセロール・ミッタル(鉄鋼業界)など
- ・第3章では、不確実で変化の多い時代において、企業のレジリエンスを高めている取り組みを紹介しています。
ファストファッションの英ミスガイド、顧客再定義による体験価値作りをしている独アリアンツ、行政DXによりサービス向上を実現した米イリノイ州、コスト削減とサービス向上を両立した米マーシー・ヘルスケア・グループ、公共企業でのリアルタイム経営を実現した英ノーザンガスネットワークなど
- ・第4章では、従来型ビジネスの成果を踏まえ、未来を見据えたデジタルテクノロジーを活用したビジネスモデル創出の取り組みを紹介しています。
革新技術により医療改題を解決した日本UACJ、最先端テクノロジーでリスク評価を実現したミュンヘン再保険、オペレーション最適化で顧客体験を向上したサンフランシスコ49ersなど
- ・第5章では、テクノロジーが人の仕事を奪うのではなく、人が人らしく働き、生きるために活用している取り組みを紹介しています。
自然保護と経済発展を支援しているアフリカNPO法人、トラック運転手の働き方改革を推進するUber Freight、顧客体験による新たな差別化への取り組み、施設利用者の声を反映して利便性を追求しているMITなど
そこで本書でのIT企業SAPの視点としては。要因1で言及されている「テクノロジー」はあくまでも課題を解決するための手段と位置付け、未来に立ちはだかる課題に対して目を背けず、情熱を持って解決策を探ろうとしている、あるいは解決した先進的な取り組みから、日本が取り組むべきテーマの導出を図ることとした。
そのことが、日本企業が2025年までにデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むヒントになることを願い、何よりも、目的としてのDXではなく、本来あるべき、未来に向けう手段としてのDXに取り組んでいただけるものではないかと考えた。
未来を見据えた取り組み
顧客に選ばれる企業であるためには、組織の一員である前にひとりの人間として、地球環境や社会の変化をどう捉えて行動するかを自問自答することが必要である。
トップランナーとは大企業を目指すことではなく、ドライブの難易度が高い変革を成し遂げたことを、フォロワーが価値とみなした場合である。
「業務プロセスの標準化によるコスト削減や収益向上」の段階を達成したトップランナーたちは、業界全体や企業を取り巻く顧客や従業員にまで視野を広げ、最先端テクノロジーを取り入れて新たなステージ自体を築こうとしている。
ビジネス拡大自体が効率化し、さまざまな垣根を越えて標準化が進み、テクノロジーがトップランナーのビジョンと戦略を世界規模で浸透させていく。
テクノロジーの進化によってシステムの処理スピードは飛躍的に向上した現状ではデータが重要となり、デジタルトランスフォーメーションはデジタルデータの活用促進となる。
デジタルデータの活用によって、以前では不可能であった価値を創出したり、従来からの課題を解決したりすることが可能になる。
既存ビジネスを支えてきた技術やサービスがあり、そこに新たに社員たちが社会や時代に対する課題認識や熱意に基づいた可能性を追求することによって企業進化が起こる。
企業は元来の価値を生かし、さらにそれを高めて先を行く取り組みを推進していくことが重要となる。
テクノロジーがさらなる出会いを加速させる中では、自分は何者でどんな強みを持ち、どんな役に立てる立てるのかを自分で知っていなければ、出会ったときに組むべき相手かどうかを見極められないし、相手にも見つけてもらえない。
企業同士の信頼関係も、人と人との信頼関係も、根っこは同じである。
日本企業は、「2025年の崖」にどう挑むべきか?
ERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム)を導入する際の教科書的な作法に忠実にそして徹底的に従い、それを支えるための「社内の人材」が重要となる。
- ・CEO
全社改革のためには自社の抜本的なIT改革が必要不可欠と明確な指針を打ち出すとともに、自らが全社改革の責任者として、プロジェクトに深く関与する。
- ・CIO
業務部門リーダーと密に連携し、全社IT変革プロジェクトの監督者および実行責任者として、プロジェクトをリードする。
- ・プロジェクトリーダーおよびメンバー
テクノロジー視点だけではなく、自社ビジネスに対する深い理解と全社視点での将来のあるべきシステム像を描くスキルを持った人材で構成する。
プロジェクト成功のポイント
- ・経営トップの関与
例外を認めず実際の組織体制や権限移譲に繁栄させることができる強力なプロジェクト権限
- ・変革経験者の関与
変革後も滞りのないビジネス運営を担保する判断
- ・全社プロジェクト意義の周知徹底
個々の単位の責任者の説得と教育
「強いリーダーシップ x 改革の経験 x 自社ビジネスおよびグローバル標準の理解」といったスキルをもつ人材を組み合わせた自社の変革チームを構成できるかが肝となる。
変革プロジェクトの様々な局面で将来のあるべき姿や業務プロセスについて、自ら意思決定が可能な体制を構築するため、それらの人材の確保または育成に努める。
CEO、CFO、COO、CIOがチェンジオーナーとなり、ルール・プロセス・組織・ITの「四位一体」で、マネジメントツールを粘り強く使い続けさせる。
私たちはもう解のないホラーストーリーには飽き飽きしています。
だから、この本を読む方には前向きな気持ちになって読み終えていただきたいと考えました。
ご紹介した取り組みはすべて、決して簡単なものではありません。
まだマジョリティーではないかもしれません。
しかし、世界のどこかで起きている事実であり、痛みと汗をともなうことを覚悟した熱い意思決定の下、目標に向かって努力した人間の取り組みです。
テクノロジーは、それを支えたのです。
このことから、テクノロジーは社会をより良くし、人の喜びに貢献するものであることをお伝えし、読む方の現実への何かのヒントになることを目指しました。
まとめ(私見)
本書は、SAPジャパンのインダストリーバリューエンジニアリング事業本部に所属する「業界スペシャリスト集団」の19名の方々が、世界のデジタルトランスフォーメーション(DX)成功事例を紹介した一冊です。
5つのテーマに即して簡潔に整理していますので、業界の最新事例やテクノロジーの動向、その成功要因や適用ポイントなどを確認するうえで大変参考になります。
本書の出発点は、ロンドン・ビジネススクール教授であり、人材論、組織論の世界的権威であるリンダ・グラットン教授のは2011年に執筆した『ワーク・シフト(WORK SHIFT) 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>』(プレジデント社)の中であげている「2025年を想定した働き方に大きく影響する『5つの要因(32の要素)』」にあります。
未来を形づくる5つの要因
- ・要因1.テクノロジーの進化
- ・要因2.グローバル化の進展
- ・要因3.人口構成の変化と長寿化
- ・要因4.社会の変化
- ・要因5.エネルギー・環境問題の深刻化
そして、リンダ・グラットン教授は続編として2014年に執筆した『未来企業 レジリエンスの経営とリーダーシップ』(プレジデント社)で、変わりつつある企業の位置付けや役割、そこで働く人たちの存在の重要性を解いています。
そこでは、企業は、企業内、地域社会、世界のそれぞれのレジリエンスを高めることが必要であるとしています。
さらに、2018年9月7日に経済産業省が発表した「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート ~ ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開 ~」を考慮して、「要因1.テクノロジーの進化」に注視するだけではなく、総合的な視点から「本来あるべき、未来に向かう手段としてのDX」への取り組みを提言しています。
SAPは、1972年にドイツで創業し、多くの業種と規模の企業に対して、基幹業務ソフトウェアパッケージを核としたビジネスソフトウェアを提供しているグローバル企業です。
国内外の特に大企業や大手団体の多くのがSAPのERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム)を利用していますが、現在はSAP ERP Central Component(ECC)6.0からSAP S/4HANAへの移行を促進しています。
他にも、SCM(supply chain management:供給連鎖管理)やCRM(Customer Relationship Management:顧客情報管理)などのエンドツーエンドの企業活動をサポートするビジネススートもあります。
経済産業省の「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート ~ ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開 ~」の中でも、SAP ERPのサポートが2025年に終えることによるシステム全体の見直しが必要であるとして警告していますが、国内においても大企業への導入率が高いことから、その影響の大きさが懸念されています。
なお、SAPは、ビジネスソフトウェアを提供するだけではなく、2016年に社会貢献活動として「One Billion Lives - 10憶人の生活をよくするアイデア」への参画募集を開始し、社会貢献への取り組みも積極的に行っています。
本書は、SAPジャパンの「業界スペシャリスト」の方々が、世界や日本における先進的取り組みを紹介するとともに、それらを日本に適用していくための考察(提言)を加えています。
紹介している取り組みは、業界、企業や団体、規模、組織の歴史の長さなど、多岐にわたっていますが、未来を見据えた取り組みばかりです。
しかし、SAPジャパンのビジネスや本書のテーマから、大きな組織の取り組み紹介の傾向はありますので、自身のビジネス規模に置き換えて読んでいくことも必要かもしれません。
テクノロジーの技術的な記述ではなく、それぞれの取り組みを決断し実行したのは人であることとして、取り組みに至った背景や志、実践していくうえでの進め方や体制などを簡潔に紹介していますので、自身のDXへの取り組みを考えていくうえで参考になる一冊です。
目次
序章 改めて2025年を考察する
第1章 地球へのまなざし
~エネルギー・環境問題へのテクノロジーを活用した取り組み
第2章/トップランナーは業界を超えて
~業界トップランナーによる、業界を超えてインスピレーションを与える取り組み
第3章 「透明性」という企業価値
~不確実で変化の多い時代における、企業のレジリエンスを高めるための取り組み
第4章/進化としてのビジネスモデル創造
~従来型ビジネスの成果を踏まえ、未来を見据えたデジタルテクノロジーを活用した ビジネスモデルの創出
第5章/人が人らしくあるために
~テクノロジーが人の仕事を奪うのではなく、人が人らしく働き、生きるために活用している取り組み
あとがき
参考
SAPジャパン ビジネス書籍 「Beyond 2025 進化するデジタルトランスフォーメーション」 をプレジデント社より出版 - SAP Japan プレスルーム
SAPジャパン公式ブログ | 超リアルタイムビジネスが変える常識
Beyond 2025 | PRESIDENT STORE (プレジデントストア)
デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会、METI/経済産業省
DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~
2018年9月7日 中間取りまとめ、METI/経済産業省
デジタルトランスフォーメーションに向けた課題の検討(PDF)
2018年5月11日 第1回 配布資料
関係する書籍
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リンダ・グラットン(著)、吉田晋治(翻訳)
出版社:プレジデント社(2014/8/7)
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