ハイプ・サイクル(ガートナー)2020年版、新型コロナのパンデミック関連やAI関連テクノロジが初登場

ハイプ・サイクル(ガートナー)2020年版、新型コロナのパンデミック関連やAI関連テクノロジが初登場

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ハイプ・サイクル(2019年版と2020年版の比較)

出典:Gartner『Hype Cycle for Emerging Technologies』

関連情報
 2021年08月25日 ハイプ・サイクル(ガートナー)2021年版の概要整理
 2020年09月30日 ガートナー「世界におけるRPAソフトウェアの売上高の見通し」発表
 2020年09月10日 ガートナー「日本における未来志向型インフラ・テクノロジ」発表

現地時間2020年8月18日、米国の調査会社Gartner(ガートナー)から「先進技術におけるハイプ・サイクル2020年版」が公開されました。

ここでは、ハイプ・サイクル(Hype Cycle)の2019年版と2020年版を比較しながら、変化の概要を整理します。

2020年版の概要

「先進技術におけるハイプ・サイクル2020年版」も、2018年版に比べて方針を見直した2019年版と同様、過去の同ハイプ・サイクルでは取り上げていなかった最新テクノロジを紹介しています。

そのため、「幻滅期(Trough of Disillusionment)」「啓蒙活動期(Slope of Enlightenment)」「生産の安定期(Plateau of Productivity)」の技術が少なくなっています。

今回の「先進テクノロジのハイプ・サイクル」は、1,700を超えるテクノロジを分析した上で知見を抽出し、注目すべき30の先進テクノロジ及び5つのトレンドとして簡潔にまとめ、提示しています。

この30の先進テクノロジには、コンポーザブル・エンタプライズを実現するもの、テクノロジに対する社会の信頼回復を目指すもの、人間の脳の状態を変化させるものが含まれています。

また、5つの先進テクノロジ・トレンドには、「デジタル・ミー」「コンポジット・アーキテクチャ」「フォーマティブAI」「アルゴリズムによる信頼」「シリコンの先へ」をあげています。

なお、2019年版では、「センシングとモビリティ」「オーグメンテッド・ヒューマン」「ポストクラシカルなコンピューティングとコミュニケーション」「デジタル・エコシステム」「高度なAI/アナリティクス」をあげており、基本的には注目されている「自律走行」「AI」「量子コンピュータ」「5G」「デジタル変革」「IoT」などのトレンドが継続するという見方を示していました。

2020年版、5つの先進テクノロジ・トレンド

デジタル・ミー(Digital me)

  • ・テクノロジと人の統合が進みつつあり、デジタル・パスポートやソーシャル・ディスタンシング・テクノロジなど、人をデジタルで表現する新たな機会が生まれている。
  • ・人がデジタル世界とやりとりする方法も、画面やキーボードにとどまらず、インタラクション・モード (音声、視線、ジェスチャなど) の組み合わせを使用したり、場合によっては人間の脳を直接変えたりするようになっている。
  • ・テクノロジ例
    ソーシャル・ディスタンシング・テクノロジ、ヘルス・パスポート、人のデジタル・ツイン、シチズン・ツイン、マルチエクスペリエンス、双方向ブレイン・マシン・インタフェース (BMI)

コンポジット・アーキテクチャ(Composite architectures)

  • ・コンポーザブル・エンタプライズは、柔軟なデータ・ファブリックに基づくビジネス・ケイパビリティ・パッケージによって、急速に変化するビジネス・ニーズに対応できるよう設計されている。
  • ・コンポジット・アーキテクチャは、ビジネス・ケイパビリティ・パッケージで構成されるソリューションによって実装され、組み込みのインテリジェンスは分散されており、エッジ・デバイスやエンドユーザーなどの外部にまで拡張されている。
  • ・テクノロジ例
    コンポーザブル・エンタプライズ、ビジネス・ケイパビリティ・パッケージ、データ・ファブリック、プライベート5G、組み込み型人工知能 (AI)、エッジにおける低コストのシングル・ボード・コンピュータなどのテクノロジ

フォーマティブAI(Formative AI)

  • ・状況の変動に応じて動的に変化できる、一連の先進的なAIと関連テクノロジを指し、こうしたテクノロジの一部は、AI対応の開発ツールを用いて新規ソリューションを生み出しているアプリケーション開発者やユーザー・エクスペリエンス (UX) 設計者に利用されている。
  • ・長期的に適応するために動的に進化できるAIモデルの開発に利用されるテクノロジもあり、最も高度なテクノロジは、具体的な問題の解決を目的として、まったく新しいモデルを生成することができる。
  • ・テクノロジ例
    AI拡張型設計、AI拡張型開発、オントロジ/グラフ、スモール・データ、コンポジットAI、アダプティブな機械学習、自己教師あり学習、生成的AI、敵対的生成ネットワーク

アルゴリズムによる信頼(Algorithmic trust)

  • ・データ、資産ソース、個人とモノのアイデンティティについてのプライバシーとセキュリティを確保するために、アルゴリズムによる信頼モデルに転換しつつある。
  • ・アルゴリズムによる信頼は、組織が顧客、従業員、パートナーの信頼を失うリスクとコストにさらされないよう保証する上で役立つ。
  • ・テクノロジ例
    セキュア・アクセス・サービス・エッジ (SASE)、差分プライバシー、来歴の認証、個人所有アイデンティティの業務利用 (BYOI)、責任あるAI、説明可能なAI

シリコンの先へ(Beyond silicon)

  • ・40年以上にわたってIT業界を導いてきたのは、高密度集積回路(IC)のトランジスタ数は約2年ごとに2倍になるという「ムーアの法則」である。
  • ・テクノロジがシリコンの物理的な限界に近づく中、新たな先端素材が、テクノロジの加速と小型化を可能にする画期的な機会をもたらしている。
  • ・テクノロジ例
    DNAコンピューティング/ストレージ、生物分解性センサ、カーボン・ベースのトランジスタ
2020年版の概要(2019年版からの変化)

ハイプ・サイクル(2020年版)

ハイプ・サイクル(2020年版)

出典:Gartner『Hype Cycle for Emerging Technologies, 2020』(2020年)

ハイプ・サイクル(2019年版)

ハイプ・サイクル(2019年版)

出典:Gartner『Hype Cycle for Emerging Technologies, 2019』(2019年)

2020年版では、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) のパンデミックに関連する「ヘルス・パスポート(Health Passport)」と「ソーシャル・ディスタンシング・テクノロジ(Social Distancing Technologies)」が新たに登場し、ハイプ・サイクル上を急速に推移し、2年未満で生産性の安定期に達するものと見込まれいます。

  • ・「ヘルス・パスポート」は、市場への浸透度が対象ユーザーの5~20%のテクノロジであるのもかかわらず登場するのは稀で、中国 (Health Code) とインド (Aarogya Setu) では公共の場所や交通機関を利用するために必須であり、何億もの人々に利用されているとしています。
  • ・「ソーシャル・ディスタンシング・テクノロジ」は、「過度な期待のピーク(Peak of Inflated Expectations)」から初登場した稀なテクノロジで、主にプライバシー上の懸念からメディアで大きな注目を集めているとしています。

また、2020年版の「黎明期(Innovation Trigger)」には、これまでは大きな枠組みで位置付けられていたテクノロジが細分化して新たに登場しています。

それらはAI関連テクノロジで、「AI拡張型開発(AI-Augmented Development)」「責任なるAI(Responsible AI)」「生成的AI(Generative AI)」「コンポジットAI(Composite AI)」「アダプティブな機械学習(Adaptive ML)」「自己教師あり学習(Self-Supervised Learning)」「AI拡張型設計(AI-Augmented Design)」などがあります。

一方、2019年版で「過度な期待のピーク(Peak of Inflated Expectations)」に新たに登場した「5G」、「黎明期(Innovation Trigger)」から「過度な期待のピーク」に移行した「レベル5自律走行(Automous Driving Level5)」「エッジAI(Edge AI)」などは、2020年版では姿を消しています。

なお、2019年版でも「黎明期」に位置していた「敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Metworks)」は以前として「黎明期」に留まり、「説明可能なAI(Explainable AI)」は「過度な期待のピーク」を過ぎて「幻滅期(Trough of Disillusionment)」に近づいています。

参考

ハイプ・サイクル(Hype Cycle)は、2,000を超えるテクノロジの中から、注目すべき先進テクノロジ及びトレンドとして簡潔にまとめたものとして、米国調査会社のガートナー(Gartner)が1995年からグローバル版を毎年発表しています。

縦軸に期待度、横軸に時間をとって曲線で表し、多くの技術がこの曲線上を動くという主張で、IT業界の最新動向や今後のトレンドを見ていく上で参考になります。

横軸の時間の流れは、技術(テクノロジ)を5段階に分類しています。

黎明期(Innovation Trigger)

  • ・新しい技術が発表され、注目度が一気に上がる時期です。

過度な期待のピーク(Peak of Inflated Expectations)

  • ・注目度が上がるにつれて、新しい技術に対する期待が高まる時期です。
  • ・「過度な期待」によって理想と現実にギャップがある状態で、例えば「コスト削減ができると思っている」「儲かると思っている」「すぐに使えると思っている」といった点が挙げられます。

幻滅期(Trough of Disillusionment)

  • ・新しい技術に対する実装が追いついていなかったり、周辺の技術が整っていなかったりして、期待外れを感じる時期です。
  • ・「冷静な判断」を行う時期でもあり、短期的には幻滅したとしても、中長期で見ると重要なテクノロジや考え方が存在する状態で、「本物と偽物の区別」が行われる時期でもあります。
  • ・また、需要側と供給側が歩み寄る現象が起こる時期でもあり、テクノロジが具体的な商品やサービスになり、市場が形成されていく時期でもあります。

啓蒙活動期(Slope of Enlightenment)

  • ・実装や周辺技術が追い付いてきた技術は、徐々に現実のビジネスで採用されていく時期です。

生産の安定期(Plateau of Productivity)

  • ・技術が安定し、広く普及していく時期です。
Hype Cycle:Gartner

Gartner Identifies Five Emerging Trends That Will Drive Technology Innovation for the Next Decade
August 18, 2020 Gartner

ガートナー、「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2020年」を発表
2019年8月19日 ガートナー ジャパン株式会社

Gartner Identifies Five Emerging Technology Trends With Transformational Impact
August 29, 2019 Gartner

関連情報(当サイト)

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