VRやARの本格的なビジネス活用は5~10年後、ガートナーのハイプ・サイクルとIDCレポートから想定

VRやARの本格的なビジネス活用は5~10年後、ガートナーのハイプ・サイクルとIDCレポートから想定

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2020年08月25日 関連情報:ガートナー「ハイプ・サイクル2020年版」の概要を整理
2019年11月04日 関連情報:ガートナー ジャパンが「日本におけるハイプ・サイクル:2019年」を発表
2019年09月05日 関連情報:ガートナーが「ハイプ・サイクル2019年」を発表

VR(仮想現実)AR(拡張現実)、さらにはMR(複合現実)と、その存在は以前からありましたが、いよいよ現実的な活用段階に入ってきています。

今後、ヘッドセットに関する技術、コンテンツやサービスなどが発展していくことにより、その活用分野は拡大していくことが想像できます。

そこで、米国調査会社のガートナー(Gartner)とIDCが発表しているレポート資料を参考に、VRやARのビジネス分野での拡大の可能性を考えていきます。

ガートナーのハイプ・サイクル

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ハイプ・サイクル(Hype Cycle)は、2,000を超えるテクノロジの中から、注目すべき先進テクノロジ及びトレンドとして簡潔にまとめたものとして、米国調査会社のガートナー(Gartner)が毎年発表しています。

縦軸に期待度、横軸に時間をとって曲線で表し、多くの技術がこの曲線上を動くという主張で、IT業界の最新動向や今後のトレンドを見ていく上で参考になります。

横軸の時間の流れは、技術(テクノロジ)を5段階に分類しています。

黎明期(Innovation Trigger)

  • ・新しい技術が発表され、注目度が一気に上がる時期です。

過度な期待のピーク(Peak of Inflated Expectations)

  • ・注目度が上がるにつれて、新しい技術に対する期待が高まる時期です。
  • ・「過度な期待」によって理想と現実にギャップがある状態で、例えば「コスト削減ができると思っている」「儲かると思っている」「すぐに使えると思っている」といった点が挙げられます。

幻滅期(Trough of Disillusionment)

  • ・新しい技術に対する実装が追いついていなかったり、周辺の技術が整っていなかったりして、期待外れを感じる時期です。
  • ・「冷静な判断」を行う時期でもあり、短期的には幻滅したとしても、中長期で見ると重要なテクノロジや考え方が存在する状態で、「本物と偽物の区別」が行われる時期でもあります。
  • ・また、需要側と供給側が歩み寄る現象が起こる時期でもあり、テクノロジが具体的な商品やサービスになり、市場が形成されていく時期でもあります。

啓蒙活動期(Slope of Enlightenment)

  • ・実装や周辺技術が追い付いてきた技術は、徐々に現実のビジネスで採用されていく時期です。

生産の安定期(Plateau of Productivity)

  • ・技術が安定し、広く普及していく時期です。
2017年版の概要(2016年版からの変化)

現地時間2017年8月15日、ガートナー(Gartner)がハイプ・サイクル(Hype Cycle)の2017年版を発表しており、その主なテクノロジの状態は以下の通りです。

「機械学習(Machine Learning)」は、2016年に続き2年連続でピークとなり、2016年には黎明期にもなかった「ディープラーニング(Deep Learning)」もピークに新たに現れました。

「ブロックチェーン(Blockchain)」は、2016年は黎明期でしたが、2017年ではピークを過ぎつつあります。

「IoTプラットフォーム」はピークへ向けて期待値を上げており、今回新たに「サーバレスPaaS(Serverless PaaS)」が現れました。

「仮想現実(AR)」は幻滅期の最低部、「仮想現実(VR)」は啓蒙活動期で、2016年から変化はありません。

一方、日本においては、VRは「過度な期待」のピーク期の上り坂、ARは下り坂に位置しており、現時点ではVRよりもARのほうが進んでいるとしています。

日本では、ビジネス活用は試行錯誤の段階で、VRやARがビジネスに浸透するテクノロジになるまでには、5年から10年かかるとしています。

なお、2017年版のハイプ・サイクルでは、今後5~10年で重要になる3つのメガトレンドとして、「どこでもAIとなる世界(AI everyware)」「透過的なイマーシブ・エクスペリエンス(没入型の体験:Transparently Immersive Experiences)」「デジタルプラットフォーム(Digital Platform)」を挙げています。

特に、GartnerがメガトレンドとしてARやVRなどによる「透過的な没入体験」を選んでいるのは、今後安定期に入り、本格的な実用化が始まるとみているからだと思います。

IDC、2017年の国内/世界出荷台数及び世界市場予測

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IDCが現地時間2018年3月19日に、IDC Japanが3月29日に、AR/VRヘッドセット市場 2017年の国内/世界出荷台数および世界市場予測を発表しています。

発表されたレポートでは、AR/VRヘッドセット出荷台数につて、2017年実績と2018年~2022年の予想をしています。

レポートによると、AR/VRヘッドセットの世界出荷台数の概要は、以下の通りです。

  • ・2017年の世界出荷台数は836万台(前年比9.1%減)
  • ・2018年は再度成長に転じ、出荷台数は1,242万台(前年比48.5%増)
  • ・2022年の出荷台数は6,894万台
  • ・2017年~2021年の年間平均成長率は52.5%

2017年の世界AR/VRヘッドセット市場が前年比マイナスとなった主な要因は、スマートフォンを装着して使用するスクリーレンスタイプのVRヘッドセットが減少したことによるものとしています。

2017年第4四半期(2017年10月~12月)は、LenovoがStar Wars:Jedi Challenges(Lenovo Mirage ARヘッドセット)を投入し、Acer、ASUS、Dell、富士通、HP、Lenovoなどから、Windows Mixed Reality VRヘッドセット(ケーブル型)が市場に投入されました。

様々なベンダーが参入してコンテンツと配信の成熟が続き、「ハードウェアとソフトウェアを組み合わせることにより、消費者や企業にとってAR/VRがより利用しやすいものにしている」としています。

一方、2018年については、VRヘッドセット市場を中心に回復すると予測しています。

その要因は、フェイスブックのOculus Go、HTCのVive Pro、Daydreamを搭載したLenovoのMirage Soloなどが、新しい機能と新しい価格帯で市場に出荷されるためとしています。

そして、ARヘッドセットは、2022年までビジネス利用が中心になる可能性が高いと予想しています。

その要因は、スマートフォンを使用することで比較的安価に製造可能なスクリーンレスタイプを除き、製造時で要求される技術の複雑さと高コストであるためとしています。

国内での出荷台数は、2017年年は合計で約34万台、2016年比では187.7%増の大幅増となったとしています。

その要因は、エンターテインメントや不動産、観光等でのVRの活用において、比較的安価に環境を構築できるスクリーンレスARヘッドセットが大きく伸びたことによるとしています。

「明らかに世界の流れから遅れを取ってはいるものの、スクリーンレス型ヘッドセットを活用したVRの利用がようやく日本でも広がりつつある」とコメントしています。

AR/VRヘッドセット市場、タイプ別構成比予測
タイプ2018年構成比2022年構成比
世界日本世界日本
AR スクリーンレス 6.7% 3.6% 1.1% 1.3%
スタンドアロン 2.4% 6.0% 19.1% 6.7%
ケーブル 1.0% 0.3% 17.9% 2.0%
VR スクリーンレス 34.9% 24.2% 8.8% 15.2%
スタンドアロン 11.7% 2.2% 29.8% 3.3%
ケーブル 43.3% 63.8% 23.3% 71.5%
1,242万台 6,894万台

AR/VRヘッドセットの傾向は、以下の通りです。

ARヘッドセット

  • ・2022年までに、ケーブルタイプとスタンドアロンタイプデバイスがAR/VR市場の35%以上を占めるようになり、今後5年間市場成長が見込まれる。
  • ・2017年の市場リーダーであったスクリーンレスタイプは、2019年にピークを迎えるものの、出荷量は減少に転じる。
    スタンドアロンタイプの製品が、低価格帯でより広く利用できるようになるためとしています。

VRヘッドセット

  • ・これまでトップであったスクリーンレスタイプは、他のタイプによってシェアを奪われる。
  • ・一方、スタンドアロンタイプとケーブルタイプは、2022年までにAR/VR合計出荷台数の過半数を占める。
  • ・ヘッドセット出荷台数は、当初は消費者向けが大半を占めるが、ビジネスユーザー向けもゆっくりとシェアを拡大し、2022年にはビジネス利用の比率が半数近くに達する。

VRやARが今後ビジネス領域に拡大

米国調査会社のガートナー(Gartner)とIDCが発表しているレポートを確認しても、VRやARが今後も拡大していくことが見て取れます。

一般向けやビジネス向けでは、一部の分野ではすでに実用化されていますが、ヘッドセットの処理能力向上や軽量小型化などにより、活用分野はさらに広がっていくと予想できます。

さらに、2020~2021年にかけて5Gの商用化により、VR/ARサービスが高度化することとなり、その後VRとARとが融合するMRへと展開していくと思います。

5Gは、下り通信速度1~10Gbpsという高速/大容量で低遅延を実現する次世代移動通信技術であり、2017年12月に標準仕様が策定されたことで、今後商用化に向けた動きが加速していくと予想されます。

NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクといった国内の通信事業者は2020年の商用化を目標としており、自動運転やIoT、ドローンなどの様々な分野で活用が期待されていますし、VR/ARも有望な分野一つとなります。

ヘッドセットの処理能力向上と軽量小型化、それらと接続するネットワークの高速/大容量化により、コンテンツも充実し、様々なサービスも展開されていくことになります。

特に、ビジネス向けでは、既に活用が進んでいる小売業、サービスにおける宣伝・販促・マーケティング分野での活用に加え、製造、建設、医療、観光など様々な産業において、活用が加速すると想定できます。

導入する企業にとっては、VR/AR/MRに関する技術動向を見極め、ビジネスモデルや事業戦略・業務変革の構想策定からシステム構想、PoC実施、導入・展開に至るまで、総合的に対応していくことが必要になります。

そのためには、デジタル関連の投資規模や優先順位、セキュリティ対策、連携するベンダー、全体を管理する社内体制など、新たな視点で準備していかなければなりません。

参考

Gartner Identifies Three Megatrends That Will Drive Digital Business Into the Next Decade
August 15, 2017 Gartner

Demand for Augmented Reality/Virtual Reality Headsets Expected to Rebound in 2018, Says IDC
19 3 2018 IDC

AR/VRヘッドセット市場 2017年の国内/世界出荷台数および世界市場予測を発表
2018年3月29日、IDC Japan株式会社

当サイト

ARやVRが本格的に拡大する兆し

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