変化の激しい時代に勝つためには、複数の「競争の型と経営戦略の組み合せ」を内包させることが重要

変化の激しい時代に勝つためには、複数の「競争の型と経営戦略の組み合せ」を内包させることが重要

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競争の型と戦略の関係

入山 章栄『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社(2019年)を参考にしてATY-Japanで作成

関連情報
 2024年04月06日 関連情報:戦略とイノベーションは同義 | 競争優位を連鎖して獲得することが必要
 2020年02月15日

『世界標準の経営理論』(入山 章栄、ダイヤモンド社、2019年)では、複雑なビジネス・経営・組織のメカニズムを解き明かすために発展してきた「経営理論」を、可能なかぎり網羅・体系的に整理しています。

そして本書では、「戦略」「イノベーション」というビジネス現象と相性の良い経営理論について整理しています。

その中で、企業の競争には3つの型があり、その「競争の型」を理解して適応する「戦略タイプ」を講じる重要性、特に変化の激しい時代に勝つ企業は「複数の『競争の型と経営戦略の組み合せ』を内包し、そこで勝つ事業と資金を循環させる」ことの重要性を提言しています。

そこで、「競争の型」の概要と求められる「戦略のタイプ」、「競争の型」に適合する経営理論について整理します。

相反する理論を高次に内包する戦略

競争の型と戦略の関係

入山 章栄『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社(2019年)を参考にしてATY-Japanで作成

変化の激しい時代に勝つためには、複数の「競争の型と経営戦略の組み合せ」を内包し、そこで事業と資金を循環させることが重要であるとしています。

現在のグローバル市場で期待値が高い企業は、以下のサイクルを内部で循環させている。
独占による圧倒的な収益化(SCP) → リスクを恐れない未来への大胆な投資(心理学ディシプリンの理論) → 独占による圧倒的な収益化(SCP)

そのため、これからの時代に勝つ企業は、経済学ディシプリンのSCPが主張する戦略をさらに先鋭化させて圧倒的な結果を出し、一方で心理学ディシプリンが主張する変化のためのイノベーション投資を大胆なスケールで行い、市場の心理期待を高め続ける企業である。

  • ・IO型の競争環境ではSCP戦略をとり、そこで稼ぎ出した資金を新規分野に投資する。(左下から右上に移行)
  • ・新規分野は新しい技術であるため、不確実性の高いシュンペーター型事業で、ここで必要となるのは、「ダイナミック・ケイパビリティ」や「知の探索」などの「認知心理学ベース」の理論視点である。
  • ・そして、ここで果敢に投資をしたビジネスのいくつかがやがて花開き、ネットワーク効果でプラットフォームとなり、再び独占状態を生み、巨額の収益を上げていく。(右上から左下に還流)

企業の競争における3つの型

1986年にバーニーがAMRに発表した論文『Types of Competition and the Theory of Strategy』では、企業の競争には3つの種類の型があるとしています。

違う型の環境では違う戦略が求められ、それらは違う経営理論で説明される。

そして、各業界がきれいに3つの型のどれかに区分されるとは限らないし、実際には複数の「型」を内包する場合も多い。

業界がどの型の競争が中心なのかを知るうえでの一つの方法は、大規模統計から定量予測するこも有効である。

自分のいる業界だけではなく、より多くの他業界を幅広く俯瞰して、自社を取り巻く環境はどの型の競争に近いかを比較検討・予測することである。

IO型の競争(industrial organization competition)

経済学の産業組織論(industrial organization)に基づく競争の概念を「IO型の競争」と呼び、産業・競争環境の構造要因が競争に影響を及ぼす状況を指す。

IO型の競争では、競争環境が完全競争から乖離するほど、そこにいる企業の収益性が高まる。

ここでの戦略は、環境そのものを変えることであり、そのために参入障壁を築いたり、差別化で企業グループ間の移動障壁を高めたりすることが有効である。

チェンバレン型の競争(chamberlainian competition)

1930~1950年代に活躍したハーバード大学の経済学者エドワード・チェンバレンが提示した、独占競争(monopolistic competition)モデルに基づいた競争の考え方で、製品・サービスが企業ごとに差別化されている状況を所与として組み込んでいる。

産業への参入障壁はないため新規参入企業も差別化された製品・サービスを持って参入でき、企業同士は差別化されながらも激しい競争をすることになり、結果として各企業は超過利潤がゼロにはならないものの完全独占よりもはるかに収益性が低くなる。

「ある程度事業環境が安定しており、将来がそれなりに見通せる」という視点に立つうえではIO型の競争と共通点が多いが、両者は「強調するポイント」が違う。

  • ・IO型の競争は、差別化を手段として市場環境・競争構造に障壁をつくって「ライバルとの激しい競争避ける」ことに主眼を置いている。
  • ・これに対してチェンバレン型は、そもそも全ての企業がある程度差別化されているのは前提で、問題は「その厳しい競争の中でどのように『勝つ差別化』をするか」ということであり、そのためには企業の持っている技術、知識、ブランド、人材などが重要である。
シュンペーター型の競争(schumpeterian competition)

IO型の競争やチェンバレン型の競争は、将来の事業環境や自社の長期的な強みはある程度予測が立つという視点に基づいているが、シュンペーター型は、「不確実性の高さ」あるいはそれに基づく「予測のしにくさ」に視点を置いている。

人間には完全な予測は不可能で、だからこそ、その不確実な将来の道標として、戦略、計画、経営者のビジョンが必要となる。

予想しにくい事業環境では、事前に練られた精微な戦略や計画よりも、「試行錯誤をして、色々なアイデアを試し、環境の変化に柔軟に対応する」ことが必要となる。

関連する主な経営理論

SCP理論(structure conduct performance:構造・遂行・業績)

完全競争と完全独占のスペクトラム

入山 章栄『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社(2019年)を参考にしてATY-Japanで作成

完全競争から離れている業界ほど(独占に近い業界ほど)、安定して収益性が高い。

自社の周りの競争環境を少しでも完全競争から引き離し独占に近づけた企業が、安定して高い超過利潤をあげられ、差別化やネットワーク効果はその手段にすぎない。

  • ・完全競争では、企業が何とか事業を続けていけるギリギリの儲けを上回る「超過利潤」がゼロになる。
  • ・完全独占では、業界の1社の企業だけが存在して価格をコントロールし、他の企業が参入できない、差別化も必要ない状態であるため、超過利潤が高まる。
  • ・なお「独占に近い」とは、少数の企業に売上が集中しているということで、このような状況を「寡占」と呼ぶ。

経済学のSCPと経営学のSCPの根底は「いかにして競争環境を完全競争から乖離させるか」にあるが、両者の違いは出発点にある。

  • ・経済学のSCPは、儲かる競争環境の仕組みを、「産業の高い参入障壁(条件1の逆) → 少数企業による産業支配(条件2の逆)」というロジックに求めた。
  • ・経営学のSCPは、「企業レベルでの戦略的な差別化(条件3の逆) → 企業グループ間の高い移動障壁(条件2の逆) → 少数の企業がグループを支配(条件1の逆)」というロジックを提示した。
知の探索・知の深化の理論(exploration and exploitation)

サクセストラップ

『両利きの経営 「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』を参考にしてATY-Japanで作成

両利きの経営 = 知の探索 + 知の深化

知の探索

  • ・自社の既存の認知の範囲を超えて、遠くに認知を広げていこうとする行為
  • ・検索、スピード、自治、柔軟性、発見、バラツキのある環境

知の深化

  • ・自社の持つ一定分野の知を継続して深掘りし、磨き込んでいく行為
  • ・予測可能性、安定性、効率性、コントロール、確実性、バラツキの縮小

両利きの経営とは、知の探索と知の深化が高いレベルでバランスよくできる経営である。

  • ・人や組織は認知に限界があるので、知の探索をして認知の範囲に出て、知と知を新しく組み合わせる必要がある。
  • ・一方、そこで生まれた新しい知は徹底的に深掘りされて、収益化につなげる必要もある。
ダイナミック・ケイパビリティ理論(dynamic capabilities)

ダイナミック・ケイパビリティ

入山 章栄『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社(2019年)を参考にしてATY-Japanで作成

ダイナミック・ケイパビリティは、「急速に変化するビジネス環境の中で、変化に対応するために内外の様々なリソースを組み合せ直し続ける、企業固有の能力・ルーティン」の総称である。

SCPやRBV(rsource based view)は「持続的な競争優位」の獲得に適した理論であるのに対し、ダイナミック・ケイパビリティはハイパーコンペティションの時代における「環境に合わせて変化する力」を明らかにしようとする試みである。

事業環境の変化スピードが格段に速くなり、競争の型がシュンペーター型に移りつつある環境を「ハイパーコンペティション(hypercompetition)」と呼び、この時代においては「持続的な競争優位」という前提は成立しない。

そこで企業に求められるのは、「業績が落ちかけても、すぐに新しい対応策を打って業績を回復できる力(変化する力)であり、「一時的な競争優位を連鎖して獲得する」ことである。

ダイナミック・ケイパビリティは、「RBV」と「ルーティン(進化理論)」の二つの理論基盤から成立している。

ケイパビリティは複数のリソースを組み合せ直す企業の能力でリソースの上位概念であり、それがダイナミック(動的)であることが重要になる。

「企業が絶えずリソースを組み合せ直すプロセス」なので、それが組織内でルーティン化されなければならない。

  • ・オペレーションのルーティン:現場レベルの漸進的な進化
  • ・ダイナミック・ケイパビリティ:ルーティンを変化させて組み合せ直し続ける「高次のルーティン」

ダイナミック・ケイパビリティには、「センシングとサイジング(ティース型)」と「シンプル・ルール(アイゼンハート型)」という二つの異なる考え方がある。

「センシング(sensing)」は事業機会や脅威を感知する力で、「サイジング(seizing)」はセンシングによって感知した事業機会を実際に「とらえる」ことである。

「シンプル・ルール」は、「変化が激しい環境下で企業がダイナミック・ケイパビリティを発揮するには、数を絞ったシンプルなルールだけを組織に徹底させ、後は状況に合わせて柔軟に意思決定すべき」という考えに基づいている。

  • ・細かいルーティン化は、事業環境がそれなりに安定している環境では有効であるが、環境変化の激しい時にはむしろ組織の硬直化を呼ぶ。
  • ・そのため、行動規範や優先順位などを限られた大枠だけにして(シンプル化)、それだけをルーティン化しておけば、意思決定者やマネジャーは大きな環境変化があっても本質的な部分は足並みを揃え、他の様々な予想外の事象には各自が柔軟に対応できる。
レッドクイーン理論(red queen theory)

「組織エコロジー理論(organization ecology theory)」「エコロジーベースの進化理論(evolutionary theory)」と同様に、生態学・進化生物学の視点を応用する「エコロジーベースの経営理論」に分類される。

この理論は企業の「共進化メカニズム」を解き明かそうとするもので、日本では「切磋琢磨」という言葉が使われるが、他方では「ガラパゴス化」という「共進化の罠」のメカニズムを提示している。

共進化とは、「他生態系のダイナミックな変化を自身の生態系に取り込み、一方で自身の生態系を他生態系が取り込むことで多様性などの幅を広げ、両生態系がともに進化する」というメカニズムである。

共進化は、二つの生態系が互いに交流することで進化する「手を携えた共進化」と、「生存競争による共進化」がある。

「相手の進化が自身を進化させる」という、生き残りを賭けて互いに競い続け、共進化の循環は永久に止まらないといった、キツネとウサギの生存競争に比喩することができる。

捕食関係にある生物種同士が競い合って進化し合う循環を、生物進化学では「レッドクイーン効果」と呼び、この生物進化のレッドクイーンを経営学では組織学習の視点を取り込んでいる。

「企業はライバルとの競争が激しいほど、自身を進化させること(サーチ)を怠らないので、結果として生き延びやすくなる」というのが基本理論となる。

  • ・古典的な経済学ベースのSCPは「静的」な理論であり、進化が前提となっていない。
  • ・レッドクイーン理論は、自社も他社も進化しうるという「動的」な理論で、企業の進化には学習が欠かせない。
    企業が継続的に学習して進化し続けるためには、競合他社と互いに刺激し合って、サーチを継続させることが不可欠である。

一方、激しい競争にさらされ過ぎると、やがて競争そのものが自己目的化してしまい、競合相手だけをベンチマークする(知の深化型の共進化)ようになり、結果として別の競争環境で生存できる力を失うことになる。

企業は当該領域で生き残れても、他領域に進出した時、あるいは大きな環境変化に見舞われた時、そこでは生き残れなくなる。

新レッドクイーン理論では、サーチを洗練化させた概念として「知の探索」と「知の深化」に立脚点を求めており、知の深化だけを進めてきた企業は認知の範囲が狭く、対応力が失われるという「コンピテンシー・トラップ(競争力の罠)」に陥ることになる。

競合相手を過度にベンチマークした細かなスペック競争や過度の品質競争(ガラパゴス競争)などは、「知の深化型の共進化」のスパイラスに陥ることになる。

ポイントは、競争環境が今後どのようになっていくかで異なる。

  • ・チェンバレン型競争に踏みとどまれている企業であれば、ライバルをベンチマークして切磋琢磨することは重要である。
  • ・環境変化が激化し、シュンペーター型に移っていく可能性が高ければ、企業の目的は「競争」ではなく「自身のビジョン」に置くべきである。

参考

戦略・イノベーションと経営理論(当サイト)
関係する書籍(当サイト)

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