ビジネスと経営理論、ビジネスを説明できる理論はないが「ビジネスの目的は何か」を考え続ける

ビジネスと経営理論、ビジネスを説明できる理論はないが「ビジネスの目的は何か」を考え続ける

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ビジネスプランニング・ビジネスモデル・ビジネス

入山 章栄『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社(2019年)を参考にしてATY-Japanで作成

『世界標準の経営理論』(入山 章栄、ダイヤモンド社、2019年)では、複雑なビジネス・経営・組織のメカニズムを解き明かすために発展してきた「経営理論」を、可能なかぎり網羅・体系的に整理しています。

そして本書では、「ビジネス現象と理論のマトリックス」について整理しており、「ビジネスと経営理論」についても焦点を当てています。

その中で、経営理論が光を当てる対象として「ビジネス」ほどやっかいなものはない、「現代の経営理論はビジネスを説明できない」とさえ述べています。

そこで、ビジネスプランニング・ビジネスモデル・ビジネスについての経営学視点からの定義や近年の動向、ビジネス現象の「戦略・イノベーション領域」に「ビジネス領域」を加えて経営理論とのマトリックスを整理します。

ビジネスプランニング・ビジネスモデル・ビジネス

新しい事業やビジネスを始める時にはプランニング(計画)が必要と考えることが多い。

プランニングの前提には目指すべきビジネスモデルがなくてはならないし、ビジネスモデルを構築するにはビジネスそのものの目的が明確でなければならない。

ビジネスプランニング

ケース・ウェスタン・リザーブ大学のスコット・シェーンらによる定義(2003年)

ビジネスプランニングとは、(新しい事業のために)情報を集めて分析し、必要なタスクを評価し、リスクや戦略を見つけ、ファイナンスの道筋をつけ、そしてそれらを書面に書き示すことである。

戦略領域では、経営戦略を戦略コンテンツと戦略プランニングとに分けられる。

  • ・戦略コンテンツは、戦略意思決定の中身そのものを検討する分野
  • ・戦略プランニングは、戦略の中身ではなく、戦略の立て方・立案プロセスを検討する分野

ビジネスプランニングは、戦略プランニングを新規事業策定やスタートアップ企業の事業策定に適用したものである。

プランニングは、1970年代までの戦略領域の主要研究テーマであったが、1980年代に入ってマイケル・ポーターやジェイ・バーニーなどの経営学者がSCP理論やRBV理論などのコンテンツ側の理論を提示したことで大転換を迎え、1990年代以降の経営学者はの大部分はコンテンツ研究を行うようになった。

近年のビジネスプランニング(戦略プランニング)の論争は、計画派と行動派に分かれている。

計画派

  • ・企業は事前にしっかりと計画を立て、それを行動に起こし、その結果を厳密に評価し、そして次の計画・行動にフィードバックする。
  • ・代表的な研究者:イゴール・アンゾフ、ロバート・アンソニー
  • ・親和性の高い経営理論:リアル・オプション理論

行動派

  • ・事前の厳密な計画は意味がなく、それよりはまずは行動を起こすことで周囲の事業環境を学び、その結果として徐々に「どのような戦略が望ましいか」が湧き上がってくる。
  • ・代表的な研究者:ジェームズ・クィン、ヘンリー・ミンツバーグ
  • ・親和性の高い経営理論:センスメイキング理論

目まぐるしく変化する現代において、計画派と行動派のどちらが望ましいかは必ずしも意味しないが、創業者が事前にビジネスプランニングを行っていたスタートアップ企業の方が、製品を開発するスピードが速く、その生存率も高いという結果もある。

そかし、「そもそもビジネスプランニングが目指すべき成果」が経営理論で説明しにくいこともあって、現代の経営理論はビジネスプランニングを十分に説明できない。

ビジネスモデル

ペンシルベニア大学のラファエル・アミット、スペインIESEのクリストフ・ゾットによる定義(2001年)

ビジネスモデルとは、事業機会を活かすことを通じて、価値を創造するためにデザインされた諸処の取引群についての内容・構造・ガバナンスの総体である。

カルフォルニア大学バークレー校のヘンリー・チェスブローによる定義(2002年)

成功するビジネスモデルとは、技術の可能性と経済価値の実現を結び付ける経験則的なロジックのことである。

ハーバード大学のクレイトン・クリステンセンによる定義(2008年)

我々の観点から見ると、ビジネスモデルとは4つの互いを拘束し合う要素からなり、それらが組み合わさって価値を生み出すものである。

※4つの要素:顧客への価値提案、利益を生み出す方程式、カギとなる経営資源、カギとなるプロセス

ビジネスモデルが「価値を生み出す」ことを目指すものであることは共通している。

ビジネスモデルとは、ビジネスにおける部分部分の要素ではなく、それらをつなぎ合わせた「全体像・デザイン」を示すものである。

しかし実際には、経済学や社会学といった異なるディシプリンの理論が組み合わさって一つのビジネスモデルになっているし、そもそも関係性が複雑になっていることは経営理論の目的にそぐわないため、経営理論では「全体像」を描くことが難しい。

参考:アミット・ゾットがSMJに発表(2001年)

アマゾン・ドットコム、イーベイ、マップクエスト、プライスライン・ドットコムなど、当時世界で注目されているeビジネス企業59社のケーススタディを行った結果、ビジネスモデル・デザインの4条件を機能的に導出

eビジネスにおける価値創造のためのビジネスモデル

入山 章栄『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社(2019年)を参考にしてATY-Japanで作成

ビジネス(ビジネスの目的は何か?)

「現代社会におけるビジネスの目的は何か」についての問いに対して、世界共通のコンセンサスは得られていない。

ビジネスとは「生活の手段のために行う(多くの場合)商業的な活動である」と定義されることもあるかもしれないが、現代のビジネスでは必ずしも経済的な収益を上げることだけが目的ではない。

経営理論は、あくまでも、企業・組織・人、人と人の関係のメカニズムを解き明かす理論であって、ビジネスそのものの理論ではない。

ミシガン大学のジェームズ・ウォルシュ(2015年)

ビジネスの目的とは何か?

法は正義のために、医学は健康のために、そしてビジネスは「  」のために。

ウォルシュはコレクティブ・バリュー(collective value)という概念を提示し、「それを最適化することこそがビジネスの目指すべきものではないか」という問題を提起し、コレクティブ・バリューに近い概念がウェル・ビーイング(well-being)であると認めている。

ウェル・ビーイングとは、「精神的・身体的・社会的に良好な状態」のことであり、「我々ひとり一人がよりよく生きる」ことであり、「幸せである」ことである。

近年は多くの経営者は、「ビジネスの目的は、社会の様々な人々や従業員、ステークホルダーの幸せを追求することである」と主張し始めている。

「戦略・イノベーション」「ビジネス」と経営理論

ビジネスと経営理論のマトリックス(経済学とマクロ心理学)

入山 章栄『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社(2019年)を参考にしてATY-Japanで作成

ビジネスと経営理論のマトリックス(ミクロ心理学と社会学)

入山 章栄『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社(2019年)を参考にしてATY-Japanで作成

参考

戦略・イノベーションと経営理論(当サイト)
関係する書籍(当サイト)

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