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インサイド・アップル Inside Apple
アダム・ラシンスキー(著)、依田 卓巳(翻訳)
出版社: 早川書房(2012/3/23)
Amazon.co.jp:インサイド・アップル
ジョブス最大の遺産は「究極の組織」だった。
元幹部・社員ら数十人の証言で明かされる驚異の社内システム!
・社員も知らなかった「幹部組織図」
・クック新CEO、および各幹部の役割と人物像
・ジョブス自ら指揮した極秘研修「トップ100」
・全タスクの責任者を明確に定める「DRI」制
・幹部教育プログラム「アップル大学」
・最小のアイテム数で最大の利益を出すビジネスモデル
・次期CEO最有力候補、スコット・フォーストールの野心
初めて明かされる「組織としてのアップル」の全貌が明らかにされた一冊です。
本書は、「フォーチュン」誌シニアエディターの著者が、秘密主義で知られるアップルの組織図や内部システムを明らかにした2011年5月のスクープ記事『INSIDE APPLE』に、その後のインタビューを加筆したアップル研究本です。
- 1997年スティーブ・ジョブスが復帰した時、90日で破産するところだったと語っていたアップルを、2011年8月9日に時価総額3,420億ドルでエクソンモービルを抜いて世界1位となるまでに復活させたアップルの経営プロセスや習慣について
- そして2011年10月5日のスティーブ・ジョブス死去後、IBM出身でMBAホルダー、さらにオペレーションの魔術師といわれた現在のCEOティム・クック率いるアップル組織体制や今後の課題について
アップルの経営手法を自社や自分のチーム運営の参考にしたいと考えているリーダーの方々、アップルという企業自体に興味のある方々にとって、過去何度となく奇跡を起こしてきた要因及び今後の動向を想像する上で参考となる一冊です。
企業のリスクの一つには、トップ交代もあると考えています。
特に強力なリーダーシップを発揮して企業を牽引してきたトップの交代となると、経営の承継はリスクは更に大きくなるはずです。
本書では、過去スティーブ・ジョブスに関連した書籍には語られていないことを知ることができました。
スティーブ・ジョブス亡き後の現経営陣の人物像から、これまで通り魅力的な製品やサービスを生み出していくのか、それとも一般的な大企業となるのか、
アップルの今後の動向、いかに経営を承継していくのか、さらに興味が湧いてきた一冊でした。
「とんでもなくすばらしい」職場
魅力的な特典や手厚い福利厚生ではなく、社員がそれまでの人生で体験したことがないほど長時間、懸命に働く環境を作る。
厳しい仕事でもかまわないような環境を作る。
それが好きになり、やがて仕事と責任と厳しい締切なしでは生きられなくなる。
胸がわくわくし、自分にとって大切で、親しみさえ覚えるような感情を働いていた時に味わう。
元マーケティング担当:フレデリック・バン・ジョンソン
「あのような会社で働くこと、かっこいいものを作ろうと情熱を傾けること、
それがかっこいい。」
アップルの組織
トップダウン企業であるが、経営チームという形態が下からの意見を吸い上げている。
- 経営チーム:CEOに助言する少数の幹部の諮問機関が、会社を経営している。
- 副社長:経営チームを補佐する100名足らずの層
- DEST(特別に優秀なエンジニア/サイエンティスト・テクノロジスト)
称号を与えられた少数のエンジニアは、会社に貢献し影響力もあるが、マネジメントの責務は負わない。 - 他の社員は、担当製品の成功度合いによって社内でのステータスが変わる。
- 縦割りの業務が当たり前。縦割りの中に、さらに縦割りがある。
- 職種の華やかさの点では、営業、人事、顧客サービス等の機能はランク入りしない。
- DRI(直接責任のある個人)
ある仕事で何かがうまくいかなったときに、呼び出されて叱られる社員のこと。 - CFO(最高財務責任者):収支管理を握る幹部はただ一人
- 機能ごとに組織のラインを作る。
本書で紹介されているアップルの企業文化を表す主な言葉
- 社内の議論では、個人と個人が正面からぶつかり合う。
- スティーブ・ジョブスが望んでいることを誰かに尋ねると、必ず答えが返ってくる。
たとえ彼らの9割が本人に会ったことがなくても - やるか、やらないかだ。試してみる、はない
- あからさまな政治活動がないせいで、職場環境は総じて協力的。
- グーグルとは対極で、出社した社員はだいたい仕事だけをしている。
- 最高の製品を作るためなら、誰かをこてんぱんにしてもいいというメンタリティ。
- デザインが優れた製品は、内部的、外部的にうらやましいほどのベネフィットをもたらす。
- 企業家精神は常にユニークさにあり、細部へのこだわりはその精神の一部。
- デザインが製品の出発点
計画を立て、マーケティングやポジショニングを終えて、デザイナーに引き渡す。
アップルはそのプロセスが逆で、あらゆる部門はデザイナーのビジョンに従う。 - アップルの最大の特徴は統合
ハードウェアだけでなくOSもコントロールする。そしてガラスを切るカッターまで。 - 完璧な仕事が見つかったと社員を喜ばせる。昇進しなくても職業的な満足感が得られる。
スティーブ・ジョブスは「生産的なナルシスト」
「エロティック人格」でも「脅迫型人格」でもない。(2000年、心理療法士マイケル・マコビー氏)
ビジネスの歴史に名を残すのは、「生産的なナルシスト」
「世界を変えたい」という熱い願望とビジョンを持ち、リスクを恐れず前進する。
企業家のナルシストは手段を選ばず、好かれることをなど気にしないカリスマ的リーダーとなる。
アップルの規律はどのようにして生まれたか
(プロダクト・マーケティングの元マネージャー:マイケル・ヘイリー氏)
ビジョンを持ったリーダーがいて、そのビジョンを実現する力があるとリーダーが信頼している部下たちがいる。
リーダーが最初から最後までプロセスに加わって、全てを自分のビジョンに合わせる。
どんな細かいことも疎かにせずにチャックする。
アップルにおける2つの秘密主義
①対外的:製品を発表する直前まで秘密にする。
- ・とてつもなく価値の高い報道や評判が生まれる。
- ・既にある製品への興味を失わさせない。
- ・競合他社に対応の準備を与えてしまう。
②対内的:チーム同士はわざと切り離される。最初から社員には知らせない。
- ・お互いに知らないうちに競争させられる。
- ・自分の仕事に専念させる。
- ・結果として、アップル社員と彼らのプロジェクトは、パズルのピースになる。
- パズルの完成図は、組織のトップレベルにいる人間にしかわからない。
ポスト・ジョブス時代のアップルの見方
1.楽観的な見方:より親切でやさしい会社になる可能性がある。
- ・現代の財務管理を取り入れ、投資家ともよく話すようになる。
- ・慈善活動へも参加する。
- ・マイクロソフトに伍する表計算ソフトを開発する。
2.悲観的な見方:ダイナミックさを失い、消費者に待ち望まれる製品が作れなくなる。
「数学」志向のグーグルに対し、「デザイン」志向のアップル。
その全てを決めていたジョブスの次の柱は、もう現れてこない。
3.もう一つの楽観論:ジョブスが徹底的にDNAを植え付けたので、ひな鳥も自分で羽ばたけるようになっている。
社員全体をリーダーと同化させ、リーダーと同じように考えさせ、会社の生きた化身にする。アップルはすでにその状態になっている。
1966年ウォルト・ディズニーが亡くなった後、ディズニーの経営陣は「ウォルトならどうする?」と自問した。しかし、会社は急激に傾いた。
アップルの経営陣は「スティーブならどうする?」と自問することをやめて、自分たちが最善と考えることをしなければならない。
アップルが直面する問題は、
- ・ジョブスの世界観がアップルの経営陣に充分刷り込まれているかどうか、
- ・そしてジョブスの威光を借りずに自ら事業を遂行できるかどうか
大企業にとっての最大の問題は「停滞」
つい慣れた見方で世界をとらえ、それに満足してしまう。
変化の一番近くにいる現場社員と、大きな意思決定をおこなう経営層との間に効率的なコミュニケーション経路がなくなる。
ジョブスは、ここぞという場面で巨大な組織の中に新興企業の雰囲気を作り出すことができ、製品のデザインから開発、そしてマーケティングや広報戦略に至るまでの全てを担ってきました。
最初は会社の全てがマック中心に動いていましたが、
2011年では、デスクトップとノードを合わせても売上の20%(iPhoneが44%、iPadが19%、iPodが7%)となっています。
そして業界の流れから、iCloudというクラウドサービスへの移行も始まってきています。
端末からサービスに至るまでの全てを垂直統合し、社内外を完全にコントロールしてきたアップル、今や6万人規模の企業となったアップル、
- スティーブ・ジョブスという桁外れの起業家が約35年かけて醸成してきた企業文化は一朝一夕にまねできるのもではないこと、
- そして、はっきりとした指示、個人の説明責任、緊急性、恒常的なフォードバック、ミッションの明確性といったアップルの文化が、現在の経営陣の下で今後も継承されるのかは疑問が残ること
感じるところがあるのではないかと思います。
また本書を読み進めていくうちに個人的に重なってきたのは、「創業理念を承継し、時代に応じて製品を生み出してきた」日本の伝統企業です。
京都を例えると100年以上続く多くの企業があり、その特徴は以下があげられます。
IT業界のアップルに対して京都の伝統産業、シリコンバレーに対して京都、業種も地域性も違いますが、比較してみる価値はあると思います。
①オンリーワンと棲み分け
長年蓄積された高い技術などにより他企業が追随不可能な商品や市場領域を創り出してきている京都ならではの「ニッチ指向」
②拠点志向と都市文化
世界的に知られている京都という都市ブランド。
従業員の創造性や文化力にも大きな影響を及ぼすとも言われている都市文化特性。
③本物と高質を求め、顧客に応えるグローバル市場指向
長年、政治、経済、文化の中心地であったことから、高質の商品を求める最終消費地として本物の価値を理解できる顧客を相手に商売をしてきた。
今や世界的規模の中でも優れた本物追求、高質追求、高価値追求の産業拠点として認められ、グローバル市場への京都企業の経営展開につながっている。
④開放性と閉鎖性
伝統産業の中から伝統のみに固執することなく、常に新しい技術やアイディアを積極的に採り入れ、それを自分流に加工することにより、新たな先端領域に進出する企業が数多く輩出されてきた。
参考
本書の概要が紹介されている連載記事:Business Media 誠(IT media)
・インサイド・アップル(1) 2012年03月15日
アップルの新入社員が、初出社日に“学ぶ”こと
・インサイド・アップル(2) 2012年03月16日
アップルは発売日まで新製品を隠そうとする……なぜ
「京都産業・知恵の発信」報告書-知恵産業研究会報告書
京都商工会議所,平成21年3月
当サイトでの紹介記事
・2011.11. 4 書籍 スティーブ・ジョブズⅡ
・2011.10.25 書籍 スティーブ・ジョブズⅠ
・2011. 8.25 Appleスティーブ・ジョブズ氏のCEO退任 2~3年後に影響が出そう
・2010. 7.25 書籍 スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン
インサイド・アップル Inside Apple
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出版社: 早川書房(2012/3/23)
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