書籍 デジタルエコノミーと経営の未来(Economy of Wisdom)/三品 和広、山口 重樹(著)

書籍 デジタルエコノミーと経営の未来(Economy of Wisdom)/三品 和広、山口 重樹(著)

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デジタルエコノミーと経営の未来(Economy of Wisdom)

三品 和広、山口 重樹(著)
出版社:東洋経済新報社(2019/6/28)
Amazon.co.jp:デジタルエコノミーと経営の未来

  • 企業成長における明暗を分ける本質的要因は何か

    データを価値に変換する者が勝ち取るEconomy of Wisdomの時代
    戦略の真髄を豊かな展望と洞察のもとに描き出す。

関連書籍
 2022年06月02日 太田 裕朗『イノベーションの不確定性原理』幻冬舎 (2022/5/6)

本書は、神戸大学大学院経営学研究科の三品教授と株式会社NTTデータ代表取締役副社長執行役員の山口氏が、企業成長における本質要因を解明し、データを価値に転換する者が生き残る「エコノミー・オブ・ウィズダム」時代の戦略の真髄を豊かな展望と洞察のもとに描き出した一冊です。

三品教授からは、「第四次産業革命」について冷静に捉え直し、産業革命を例に、それが戦略と不可分の関係にあることを明示し、これを受けて山口氏は、デジタルが創り出す仕組みとデータを活用するウィズダムを合わせ持ち、新たなテクノロジーをいかにビジネスに適用していくべきかを示しています。

何が企業盛衰を決めるのか、近い将来における経済を動かす新たな原理と、それに伴う第四次産業革命の展望を俯瞰し、企業がデジタル技術を活用して新しい価値をどのように提供していくべきかを考えていくうえで大変参考になります。

本書は5章で構成されており、前半の2章が神戸大学大学院経営学研究科の三品教授が挑戦の「必要性」をマクロ視点から説き、後半の2章を㈱NTTデータ代表取締役副社長執行役員の山口氏が「実現性」をミクロ視点から説き、最後の5章で両者の対談として全体をまとめています。

前半の2章では、過去の「革命」を整理するとともに、それと絡めて経営戦略における「事業立地」の概念を深く説明しています。

  • ・第1章は、産業の革命史を俯瞰しています。
    ここでは、経営戦略に関する研究者たちが蓄積してきた知識を、論点別に要旨をまとめています。
  • ・第2章は、革命に時機を見出した事例を検証しています。
    ここでは、事業立地の沈下が起きるメカニズムを整理し、沈下の予兆を事前に察知し、対策の打ち方について論じています。

後半の2章は、激変する環境の中で、企業成長における本質要因を解明し、データを価値に転換する者が生き残る「エコノミー・オブ・ウィズダム」時代の戦略の真髄を展望・洞察しています。

  • ・第3章は、挑戦の構想を立てる際の切り口を列挙しています。
    ここでは、現在進行形のデジタル化は、ビジネスや経済にいかなる変化をもたらすのか、その原理を読み解きながら、4つの構成要素のデジタル化と「デジタルウィズダム」というコンセプトを掲げて、必要な3つのドライバーの活用ポイントを考察しています。
  • ・第4章は、IT技術の流れを俯瞰し、経済・社会にインパクトを与えるに至るまでの4ステップを抽出しています。
    ここでは、本当の勝者が確定するのはまだ先のことであるという指摘から、より時間軸を広げ、情報技術の発展の歴史と、ビジネスや経済に与えた影響について考察しています。

中期経営計画を入念に立てて、基幹事業の改善改良に勤しむのも、海外展開に賭けるのも、決して悪くはないのですが、それで本当に時代に伍していくだけの成長シナリオが描けるのでしょうか。

いまこそ発想を入れ替えて、基幹事業のリ・イノベンションを狙うべきではないのでしょうか。

挑戦を成り立たせるだけの素地は着々と熱しつつあります。

産業の革命史(第一から三次産業革命)と次の産業革命

産業の革命史

三品 和広、山口 重樹『デジタルエコノミーと経営の未来』東洋経済新報社(2019年)を参考にしてATY-Japanで作成

第一次から第三次の産業革命には、ステルス性、非線形性、連鎖反応性という特徴がある。

産業の革命が人知れず静かに始まるのは、当初のインパクトが小さいからという面もある。

それでも、革命と呼ばれるに至るのは、意図せざる転生を経ることでインパクトが大きくなるからで、この転生が革命に非線形性をもたらす。

デビュー直後はパッとしなくても、転じて化ける可能性を秘めた技術は安易に切り捨ててはいけない。

革命の進展を見据えたうえで、どこで賭けるかを判断することが必要である。

産業の革命が持続するのは、「地理的な波及効果」と「産業間波及効果」の二つの独立した側面があるからで、一旦革命が始まると終わらなくなってしまう。(革命の連鎖反応性)

革命を「動力」「通信」「制御」ごとに分けて考えるのは、競争優位の源泉がシフトするところから発生し、そのシフトはゲームをプレイしている最中にルールが変わることを意味し、危険である。

この競争優位の源泉で考えると、動力革命では「規模の経済」、通信革命では「範囲の経済」、制御革命では「ネットワーク経済」が浮上してくる。

産業革命を技術革新の歴史として捉えるだけでは不十分で、技術革新と分業の進展という二つの流れが絡み合い、スパイラルに進化を遂げていくプロセスとして捉える必要がある。

直近で急成長を遂げ、衆目を集めているビジネスの多くは、第四次産業革命というよりも、第一次から第二次、第三次産業革命のインタラクションの効果として捉えるべきである。

現在進行形中の第三次産業革命によって起きているのは、第一次と第二次産業革命によって創出されたマスマーケットの「パーソナライゼーション」で、第三次産業革命の進展とともに「パーソナライゼーション」の流れがあらゆる業界で加速度的に進行していくはずである。

第一次産業革命:動力革命(1776年から)

起点となった水蒸気機関は、炭鉱から排水を簡便にするという実利のために発明家たちが改善改良を重ねてきた。

水蒸気機関が革命を引き起こしたのは、出力が上下運動から回転運動に転じた時点の先のことであり、この転生を経て紡績機械多数を駆動するようになり、吸引力に仕事をさせるワットなどの方式から水蒸気そのものに仕事をさせる方式に転じて機関車が実現した。

機関車は鉄道へのつながり、安全な運行管理のための駅間コミュニケーションのための電信が必要となり、第二次産業革命の呼び水となった。

また、鉄道を敷設、その後の農業機械や建設機械、そして自動車の普及へとつながり、そのための資金が必要となり金融業につながった。

補完した人間の機能は、牛馬と同様の仕事をしていた人間の手足を解放して、レバーを操作するといった類の軽作業に振り向け直したことである。

第二次産業革命:通信革命(1844年から)

起点となった電信は、電磁気学の急速な進展を背景として、長距離の情報伝達を高速化するために生まれた。

モールスが成し遂げた通信線の単純化が、白熱球の開発を刺激し、白熱球が真空管に化け、無線通信を可能にし、通信が一対一から一対多のブロードキャストに転じた結果、大量生産を支える技術というよりも大量消費を促す広告へ辿り着いた。

大量消費の条件が整い、自動車社会に移ったことにより、課題は小売りへと移行した。

補完した人間の機能は、人間の耳目の実行能力を飛躍的に引き上げたことである。

第三次産業革命:制御革命(1947年から)

起点となったトランジスタは、無線に使われる真空管の電力使用量を引き下げる開発競争から生まれた。

トランジスタは、当初はラジオやテレビに搭載されて信頼性向上に寄与したが、電子部品が集積回路に化け、この転生を経て本格的な汎用コンピュータに置き換わった。

汎用コンピュータは、メインフレームやパソコンに発展し、そこに通信革命からのインターネットが絡んでクラウドが実現し、ビッグデータに移っている。

一方、トランジスタは集積回路(IC)、さらにはCPUに転生し、工作機械を制御するNCを牽引した。

そして、端末の数が増えるとルーターの存在が重要となり、スイッチングはシステムのフレキシビリティを引き上げ、その可能性を引き出すためのソフトウェアが進化してきた。

補完した人間の機能は、自律神経を介して生命維持活動を制御する広義の脳幹である。

次の革命:第四次産業革命?

次の革命は、人間の記憶容量を補完する技術が起点となり、大量の情報や知識から必要に応じて意味を見出し、適材適所で教えてくれて、より良い判断ができるようになる。

すでに情報のデジタル化は終わっているため、次は異なる組織が持つ情報間の相互コネクションであり、法的、経済的なハードルで、それをクリアする技術や仕組みが登場すると、次の革命に火が付く。

補完効果により、革命は仕込みから刈り取りまでには約一世紀かかるため、次の革命で大騒ぎするにはまだ早い。

現役世代にとって重要となるのは、成熟期に入った第二次産業革命の展開と、それから山場を迎える第二次産業革命に向けた打ち手である。

なお、それぞれの革命で勝者となる業界は、革命の中心地から遠く離れて存在するのが通例である。

個人情報の取得競争でGAFAに後れを取ったからといって、悲観する必要もない。

革命が非線形に連鎖することの視点から、GAFAが抱えるであろう困りごとに先回りして、彼らを助ける側に回ることも悪くはない。

転生を経て飛翔することの視点からでは、GAFAの次を狙う手もある。

産業革命が起こす非可逆的な沈下、時機を的確に捉えて浮上した戦略

企業に致命傷となるのは時代の移り変わりで、超長期で健全性を確保したいと願うのであれば、経営戦略が向こうに回すべきは「時流時勢」である。

事業が依って立つ地盤のことを「事業立地」と呼び、売り物と売り先の組み合わせで定義される概念で、双方を共有する企業は狭義の競争相手となる。

経営戦略の問題の多くは、手掛ける事業の範囲を規定する用語の曖昧さに起因しているため、精緻な線引きを可能にする「事業立地」の概念が役に立つ。

精緻化するためには、売り物と売り先を分けて考えて、その後で相互の整合性を確認する。

産業革命は旧技術を新技術に置き換えるため、旧技術に依存する事業立地は軒並み沈下することは避けられない。

しかし問題は、一過性の不調と決定的な退潮をどう見分けるかであり、新技術の脅威にさらされた現行事業を、どのタイミングで、または何を条件に見限るべきなのかである。

なお、技術代替が起きると代替される側の売上高は落ちるが、技術拡散が引き起こす供給過剰により、売上高を維持していても利益が減って事業継続が困難になる地盤沈下もある。

事業継続を困難にする地盤沈下は、取得水準に連動して起きることもあり、人々の所得水準が上昇するにつれて劣等財の需要が減り、上級財の需要が増える。

「事業立地」沈下の予兆を早期に捉えられれば十分に戦略を練ることできるがそれは難しいため、「技術代替」「技術拡散」「所得効果」に警戒しておく。

「事業立地」の沈下に見舞われた業界において、生き延びた企業はほぼ例外なく「転地」している。

「転地」とは、企業の大黒柱に相当する事業の立地を入れ替える戦略を指しており、業界や市場の境界をまたぐ歩幅の大きな転地と、業界や市場の中で完結する歩幅の小さな転地に分かれる。

そこで重要となるのは転地先の取捨選択であるが、すでに他社が進出している事業立地は避け、新たに切り開くことが有効である。

見向きもされなかった荒野の事業立地に転地する「立地開拓」が理想であり、そのためには他社の不意を突くことが絶対条件となる。

また、昨日と今日の間に起きる変化を読み取る作業のことを「時機読解」と呼び、経営戦略の奥義はこの作業にあると言っても過言ではない。

攻撃は最大の防御であり、自らが依って立つ事業の立地が沈下し始める前に、時機を拒むか、独自視点を入れるか、いずれかの方法で新生立地を開拓しないと、企業は安寧を保てない。

まずは時機をどこに見出すか、もしくは世の中の不足や不備をどこに見出すか、そこに勝負所があることを忘れてはならない。

デジタルウィズダム

デジタルは始まったばかりであるため、有効な事業立地を開拓していくためには、デジタルエコノミーの本質、つまり経営や経済、社会に中長期にもたらすインパクトを正確に見極めることが必要である。

デジタルがつくり出す仕組みとデータを活用する知恵の「デジタルウィズダム」の力を高めていけるかどうかにかかっている。

デジタル技術は、経営の基本的な4つの構成要素「財・サービス」「プロセス」「認識領域」「意思決定領域」のそれぞれを変革することができる。

そして、個々の構成要素を変革することにより、企業が抱えている様々なボトルネック(制約条件)を低減あるいは解消、マネジメントやオペレーションを最適化し、新たな事業立地で勝つための仕組み、実現するための体制を再構築することに役立つ。

4つの構成要素の内、「財・サービス」「プロセス」のデジタル化は顧客に対する価値提供の形態に関わっているのに対し、「認識領域」「意思決定領域」のデジタル化はオペレーションを取り巻く状況の「見える化」「予測」に関わっている。

4つの構成要素のデジタル化を進め、デジタルがつくり出す仕組みとデータを活用するウィズダムを持った企業だけが勝ち残る。

デジタル技術の発展と浸透によって到来する新たな時代の流れを正確に捉え、時代の変化の方向性を的確につかむ(時機を読む)ことが重要である。

1.財・サービスのデジタル化

  • ・企業と消費者/利用者の間でやりとりされる価値が、物理的なモノや具体的なコトから、デジタル技術によって処理された情報に置き換えられる。
  • ・限界費用がほぼゼロになり、物理的/時間的なボリュームの制約に縛られることなく価値を提供できるようになる。
  • ・顧客に対して新たな体験(カスタマー・エクスペリエンス)や価値を提供するだけでなく、市場取引の対象にならなかったモノやコトを、財やサービスとして取引き可能にして、新たな市場をつくり出す。

2.プロセスのデジタル化

  • ・財やサービスの生産から提供に至るバリューチェーンにおける個々のプロセス、取引先との受発注などの他社を含めたプロセスについて、デジタル技術を活用して時間や距離に制約されない新たなビジネスプロセスをつくり上げ、バリューチェーンのボトルネックや業務の不効率を解消する。
  • ・バリューチェーン間の情報の伝達を、リアルタイムで行うことが可能になる。

3.認識領域のデジタル化

  • ・バリューチェーンを構成する各業務プロセスから、膨大かつ多様なデータを収集/集約し、統計的な処理を加えたうえで視覚化することで、状況をタイムリーかつリアルタイムで「見える化」する。
  • ・プロセスから発生するデータを収集する仕組みを一度構築すれば、データが急増しても限界費用はほぼゼロであり、タイムリーかつ低価格で「見える化」できるようになる。

4.意思決定のデジタル化

  • ・「3.認識領域のデジタル化」によって得られたデータをもとに、AIやアルゴリズムによって将来の状態を「予測」し、人間が日々行っている意思決定を支援したり、自動化したりする。
  • ・ビジネスを取り巻くリスクや不確実性を定量化し、ビジネスチャンスに変えることができる。
デジタルウィズダムがイノベーションのエンジン

デジタルを活用して新たな事業立地(誰にどんな価値を提供するか)を開拓し、価値提供の仕組みをつくった企業だけが成長できる、「デジタルウィズダム」がイノベーションの源泉になる。

デジタルエコノミーを駆動させるドライバーは主に3つあり、「デジタルウィズダム」はこの3つのドライバーをうまく活用することで成立する。

今後、3つのドライバーを高度化する主な技術としては、セキュア取引技術(ブロックチェーン)、通信技術(5G)、予測技術(ビッグデータ・AI)、認識技術(センサー・IoT・AR/VR)、物流・生産技術(3Dプリンタ/CAD・ロボット)がある

ドライバー1.デジタルがあらゆるところに市場をつくり出す。

  • ・「財・サービスのデジタル化」「プロセスのデジタル化」に加え、プラットフォームの登場やスマートフォンの普及により、リアルタイムに取引可能な環境が創出され、取引コストは低下する。
  • ・取引コストとともに参入コストも低下することにより、創意工夫次第であらゆるものが取引できるようになる。
  • ・デジタルの市場創出力は、消費者向けの財・サービスを対象とした市場だけではなく、企業が労働力などの経済資源を確保する場合にも活用できる。
  • ・社会イノベーションの方向性においては、社会全体の遊休資産や資源の最適活用につながる。

ドライバー2.デジタルが不確実性をビジネスチャンスに変える。

  • ・「認識領域のデジタル化」「意思決定領域のデジタル化」を進め、不確実な将来に対してヘッジをかける必要がなくなれば、ムダをなくし、より多くの利益を上げることが可能になる。
  • ・大量のデータを蓄積/分析するコストが大幅に低下し、付加価値を出す可能性が広がったことで、データの重要性はこれまで以上に高まっている。
  • ・データという情報資源には、適切な「意味づけ」を行い、他のデータと「掛け合わせ」ることで、単一のデータでは提供できなかった価値を創出できる。
  • ・社会イノベーションの方向性においては、不安や無駄のない安全かつ安心、快適な社会の実現につながる。

ドライバー3.デジタルが新たなサービス・製品の原材料となる。

  • ・顧客が製品を使えば使うほど、より多くのデータを収集できるようになり、データ+アルゴリズムを生かしながら、ソフトウェアのバージョンアップを行い、顧客のニーズにより合致したサービスが提供できる。
  • ・「財・サービスのデジタル化」と「プロセスのデジタル化」をうまく組み合わせながら、「サブスクリプションモデル」を展開し、顧客との直接的かつ継続的な関係を結ぶとともに、利用を通じて得られるデータを「認識領域」「意思決定領域」のデジタル化で活用しながら、製品やサービスを改善できる。
  • ・ハードウェアとデータ+アルゴリズムの結合により新たなサービスを創出する一方で、オープンデータと自社の保有するデータ+アルゴリズムを「結合」させて、顧客視点に寄り添った、新たな情報サービスが創出できる。
  • ・社会イノベーションの方向性においては、個々人のニーズに合った行政サービスや社会サービスの実現につながる。
ビジネス展開の4ステップ

新たなデジタル技術を組み込んだビジネスが成立し、新たな市場が立ち上がり、社会や経済にインパクトを与えるまでには、4つのステップを経る。

ステップ2とステップ3の間には、大きなギャップがある。

技術イノベーションによってプロセスやサービスが技術的に可能になるだけでは経済に対してインパクトは与えられなく、新しい技術のコストが低下することで技術が広範囲に普及し、ビジネスや経済にインパクトを与える可能性が生まれる。

デジタル技術を活用したビジネスを普及させるためには、リアルな世界のサポートを含めたエコシステムの構築が欠かせない。

マネジメントに求められるのは、ステップ1の段階にある技術の可能性とその射程について見極めたうえで、ステップ2以降へのステップアップを加速するために、社内外への積極的な働きかけを通じて変化を誘発していく。

ステップアップの時機を的確に読み解き、チャンスが来たときに、一気呵成に圧倒的な市場シェアを獲得する準備を整える。

  • ・ステップ1.新たな技術群によるプロセス・サービスの実現
  • ・ステップ2.一部高付加価値領域でのビジネス化
  • ・ステップ3.技術コストの低下による普及・拡大
  • ・ステップ4.エコシステムの確立
第四次産業革命に向けた取り組み

デジタルの力を生かして新たな市場を創出し、社会的分業を進化させていくことが、今後の経済成長を考えるうえで重要な課題である。

そして、パーソナライゼーションの進展で市場環境が大きく変わる中で、「誰に何を売るのか」という事業立地について熟考することが重要である。

一方、経済や社会にインパクトを与えるまでに経る4つのステップにおいては、技術コストの低下とともにバックオフィスや労働力を含めたエコシステムの確立などを考慮することが必要である。

また、共通のプラットフォーム上で共有する情報と、各企業が持っている固有情報を組み合せて新たな価値をつくり出していくという発想も重要である。

プラットフォームを構築し、顧客が「選択の自由」を行使できるように情報を整理した企業が、成長のチャンスをつかむことができ、そのためには流通する情報の「信頼性」を担保することが必要である。

デジタル技術を活用しながら、企業が抱える様々な課題を解決し、新しい価値を提供していくことが、企業の競争力を左右することになる。

そのためには、自分なりの未来像を描き出し、事業観や構想力を生かしながら、判断・決断を下していくことが、経営者に求められる。

この本の執筆にあたり、以下の点にチャレンジしました。

  • ・今起きている個々の事象、事例の紹介で終わるのではなく、それらの背景にある共通の原理を抽出し、その原理を活用して経営者が将来を展望する際の参考となること(三品教授に多大なご支援・ご指導をいただきました。)
  • ・実現場でのデジタルプロジェクトの知見やプロジェクトの責任者である経営者との実際の議論をベースにした視点と、経済・経営に関する歴史・理論の学術的視点を合わせ持つこと。
  • ・現在、デジタルに直接影響を受けていない、または影響が少ないと思われる企業の経営者の方にもデジタルのことを理解してもらえるように、経済・経営の言葉と理論で説明すること。
  • ・デジタルの技術的側面についても、個々の技術詳細は書かないが、技術内容については性格であること、そして原理がわかるようにすること。

まとめ(私見)

本書は、経済・経営に関する歴史・理論の学術視点と、実現場でのデジタルビジネスに携わっている経営者とが、「デジタルが経営、経済、社会に及ぼす影響、その原理」について考え、整理した一冊です。

その点においては、経済・経営、デジタル技術の詳細は言及はされていませんが、独自の考察が加えてあり、新たな発見を見出すことができます。

なお、現在を変化のスピードが速い時代と、一般的に言っているが、過去にも同様の技術革新があったとしています。

例えば、蒸気機関、石油精製、電気、無線など、インターネット以上に速い変化をもたらした技術の革新があったとして、その技術革新の関係を詳細に紐解いています。

そこで、第四次産業革命という概念の曖昧さを指摘したうえで、次の革命は人間の記憶容量を補完する技術が起点となり、大量の情報や知識から必要に応じて意味を見出し、適時教えてくれる時代が来ると予測をしています。

企業が次のステージの主役になっていくためには、デジタル技術を活用し、デジタルが作り出す仕組みやデータを創造的に駆使しながら、新たな「事業立地」を開拓していくことが必要となります。

本書では、事業が依って立つ地盤のことを「事業立地」という概念を示し、手掛ける事業の範囲を規定することに役立つとしています。

そして、「技術代替」「技術拡散」「所得効果」に警戒しておくことにより、「事業立地」沈下の予兆を早期に捉えて、事業の立地を入れ替える戦略として「転地」することを提言しています。

また、デジタルは始まったばかりであるため、有効な事業立地を開拓していくために、デジタルエコノミーの本質を正確に見極めることが必要としています。

そこで、デジタルがつくり出す仕組みとデータを活用する知恵である「デジタルウィズダム」の力を高めていけるかどうかにかかっているとして、そのための視点を提示しています。

  • ・自社を取り巻く市場環境や最新技術が自社事業にとって持つ意味、顧客に提供する価値、自社の強みや弱みを正しく認識する。
  • ・認識結果に基づいて、デジタル技術によって「何をどのように変えるのか」「それによってどのような効果が得られるのか」などの因果関係を把握する。
  • ・取り組むべき施策の優先順位を決定し、戦略を確実に実行する。

ビジネスの4つの構成要素のデジタル化と3つのドライバーの活用ポイントは、、適切な経営判断をする際のヒントとなります。

なお、本書の前半の第1章と第2章は、『モノ造りでもインターネットでも勝てない日本が、再び世界を驚かせる方法―センサーネット構想』(三品 和広、東洋経済新報社、2016年)の同系列の第二弾ともいえます。

同書は、プライバシーの問題を解消しつつ、インテリジェント・ソサエティの構築に貢献する1つの方法が「センサーネット」であり、日本独自の構想を打ち出していくことが日米再逆転の戦略であると提言しています。

目次

まえがき

第1章 誤解だらけの「革命」論

第2章 誤解だらけの「戦略」論

第3章 デジタルウィズダムが創る新たな経済

第4章 エコノミー・オブ・ウィズダム時代のビジネス進化

第5章 対談 未来を読む

あとがき

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