書籍 世界トップ投資家の共通言語 大化けする人と企業を見いだすために何を見ているのか

書籍 世界トップ投資家の共通言語 大化けする人と企業を見いだすために何を見ているのか

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世界トップ投資家の共通言語 大化けする人と企業を見いだすために何を見ているのか
understanding global business the language of world class investors

髙岡 美緒(著)、曽我 有希(著)
出版社:日経BP (2024/2/8)
Amazon.co.jp:世界トップ投資家の共通言語

  • 資本市場のエッセンスを最短で学べる!

    必要なのは英語力ではなく、『経営』の共通言語だ

    実践的フレーズを豊富な事例で、『投資家思考』が身につく

本書は、国内外の金融機関で、ファンド、運用側として投資キャリアを積んできた二人の著者が、世界トップのファンドマネジャーやベンチャー投資家が発する「フレーズ」を通して、資本主義のエッセンスを伝えた一冊です。

著者の一人はフィンテックVCのパートナーで上場企業の社外取締役を兼任し、もう一人は日本企業とグローバル投資家および事業をつなぐコンサルティング業務に従事し上場ファンドの社外取締役を兼任しており、お二人とも豊富な経験の持ち主です。

本書では投資家がフレーズに込めた意図を詳細に説明していますので、スタートアップの方々だけでなく、既存の企業内で新規事業の立ち上げやスタートアップとの連携を担う方々が、共通言語を理解することで思考を調整し、グローバルなビジネスの場で成功を勝ち取る可能性を高めるうえで大変参考になります。

本書は5章で構成しており、第1章と第2章はベンチャーキャピタル、第3章と第4章は上場株式投資家、第5章はガバナンスに関する「フレーズ」について解説しています。

  • ・第1章は「スタートアップ VCへのピッチ」で、新規事業が成功するために必要な要素について解説しています。
  • ・第2章は「スタートアップ ベンチャー投資家同士の会話」で、ベンチャー投資の生態系、ベンチャー投資家特有の「判断」の背景について解説しています。
  • ・第3章は「上場企業 IR面談」で、グローバル投資家がIR面談で資本に関する質問について解説しています。
  • ・第4章は「上場株式投資 ファンド投資会議」で、投資対象を精査する過程において、グローバル投資家の着眼点について解説しています。
  • ・第5章は「ガバナンス」で、株主の権利を守る制度(コーポレートガバナンス)がなぜ必要なのかを、投資家の視点から解説しています。

経営の世界では、市場経済の原理、つまりグローバル投資家の視点を理解することが成功をもたらす大きな要因になります。

良質な投資家との対話を通じて得られる洞察は、価値構造における新たなアプローチを見つけるヒントになります。

この本では、金融の専門知識がない人々でも投資家との対話が簡単にできる「共通言語」について説明をしています。

いわば、投資家との対話のハードルを下げるための指南書です。

世界トップ投資家の共通言語

世界トップ投資家の共通言語

『世界トップ投資家の共通言語』を参考にしてATY-Japanで作成

日本には良い技術、ブランド、高度な教育を受けた人材など、多くの資産があり、近年はガバナンスを改善しているため、世界の投資家から見て魅力的な企業がたくさんある。

しかし、日本の経営者は、世界の投資家と「共通言語」で話していないため、相手の意図が伝わらず、要領を得ない答えをするため、事業を適正に評価されない。

投資家が発する「フレーズ」には、投資を検討する際、投資対象に対して投げかける質問、投資対象の財務状況や信用を精査するときに使っているもので、資本主義的価値に基づいたものである。

資本主義に基づいた思考を理解することは、ビジネスの相手が何を考えているのかを知ることにつながる。

1-7 Your technology is not your moat! / 持続性こそ価値の源泉

直訳すれば「テクノロジーはモートではない」であるが、そこに込められいる投資家の意図は「持続性こそ価値の源泉」である。

ビジネスにおける「モート」とは事業を守る「堀」の概念で、競合他社が容易に侵入できないような独自の競争優位や高い参入障壁を築き、事業を保護することである。

「堀」が広く、長期にわたって続くものであればあるほど、企業は魅力的であるということになる。

ただの防衛策ではなく、事業を守り育てるための根本的な要素であり、企業の持続的な成功への重要なカギを握る。

たとえ革新的なアイデアで市場に参入しても、強固な競争優位を構築できなければ、市場シェアを失い、事業が脅かされるリスクがある。

プロダクト・マーケット・フィットを見つけ、市場への進出戦略(Go-To-Market)を探索しながらスケールアップし、自ら築いたビジネスモデルを守るための「モート」を構築する戦略が不可欠である。

日本企業は、既得権益や変化を嫌う文化的傾向による「スイッチングコスト」がモートとして機能する場合が多いが、それに頼ってばかりいると、価値創造しておらず健全な持続性とはいえない。

競争優位を保つための7つの要因(ハミルトン・ヘルマー『7Powers 最強企業を生む7つの戦略』2022年、ダイヤモンド社)

  • ・1.規模の経済:規模が大きくなるほどユーザー当りのコストが削減
  • ・2.ネットワーク効果:利用者が多ければ多いほど価値が増大
  • ・3.カウンターポジション:既存企業が直面する自己食いつぶしの問題を戦略的に利用
  • ・4.乗り換えコスト:顧客がサービスを変更する際のコスト
  • ・5.ブランディング:消費者が最初に思い浮かぶブランド
  • ・6.競合なきリソース:特定の資源へのアクセス
  • ・7.プロセスパワー:長年にわたる経験やノウハウ

日本企業の「もったいない」を解消するのに必要なのは、「投資家目線=ファイナンスリテラシー」だと思います。

これを理解するには伝統的なファイナンスの教科書より、実際の投資家との対話が有効と考えます。

この対話を通じて、一般社員から経営陣までがファイナンスを理解するための共通言語を確立することが最善の方法だと考えます。

本書を通じて投資家の思考と生態の理解が深まったのであればうれしいです。

まとめ(私見)

本書は、世界のトップ投資家は、多くの日本人ビジネスパーソンが知らない「共通言語」でコミュニケーションしているとして、数多くの企業との接触を通じて得た企業評価のセオリーを標準化した一冊です。

著者たちの豊富な経験をもとに、世界のトップ投資家はどのような「問い」を発するのか、その「問い」に込められている投資家の意図は何なのかを紐解き、それらへの対応策を示していますので、スタートアップの方々だけでなく、企業リーダーの方々にとっても、新たな発見があります。

  • ・スタートアップの方々にとっては、投資家の信頼を得て、持続的に成長するためのヒントを得ることができます。
  • ・既存企業で新規事業の立ち上げを担う方々にとっては、投資家を経営トップに置き換えて考えると、新規事業の立ち上げから拡大に向けて取り組んでいくうえで有効な支援を得るための参考になります。
  • ・また海外展開に取り組んでいる方々には、海外投資に関わる留意事項や対応策を学べます。
  • ・スタートアップ企業への投資やM&Aを担う方々にとっては、本書のフレーズを対象企業へ発することで、スタートアップ企業を理解し、ステージに応じた適切な支援を実施することができます。

なお、本書には英語や専門用語が多く出てきますが、特に専門用語に関しては注釈で丁寧に説明していますので、内容の理解を深めるのに役立ちます。

さらに、自分自身に置き換えて考えると、自分に投資してもらえる、継続して応援・支援してもらえるようになるために、本書のフレーズにどのように応えるべきかを考えていくと、キャリアップの参考になるのではないかと思います。

本書は、起業家と投資家がどのようにユーザーや顧客に価値を提供し、価値を創造してくかを「投資家の視点」から解説していますが、続編も期待しています。

おそらく本書では、多くのフレーズの中から厳選して紹介されていると想像しますが、著者の経験からすると他に解説したい「共通言語」が多くあるのではないかと思います。

例えば、対象者やテーマを絞って、投資家視点から詳細に掘り下げていけるのではないかと思います。

  • ・スタートアップ企業に対しては、
    スタートアップのステージ別では投資家はどんなことを求めているのか、またはどんなスタートアップに投資したいと考えるのか
  • ・起業家(個人)に対しては、
    どんな起業家に投資したいと考えるのか、どんなリーダーシップスタイルであって欲しいのか
  • ・既存企業のリーダーに対しては、
    新規事業を立ち上げ拡大するため、スタートアップと連携またはM&Aするためには、どんなことに留意すべきか、経営陣(投資家)に納得して投資してもらうためにはどのように取り組むべきか
  • ・さらには、
    投資したいイノベーションのあり方、投資したいリーダーとはどんな人なのか、など

世界のトップ投資家を知る、著者たちならではのグローバル視点で示唆に富んだ内容になると期待できます。

本書は、投資家思考は企業評価の世界基準として「世界の共通感覚」を習得でき、29のフレーズ(共通言語)に込められた投資家の「意図」を学ぶことができます。

成功する企業や人を見究めるポイント、コーポレートファイナンスのエッセンス、ビジネスリスクへの向き合い方などのビジネス面だけでなく、自分のキャリアアップについて考えるうえでも、新たな発見が得られる一冊です。

目次

はじめに

第1章 スタートアップ VCへのピッチ
 1-1 Your idea is not part of my investment thesis / まず、仮説ありき
 1-2 Who has already invested? / 良質な投資家は信用を補完する
 1-3 What’s the why now factor? / 明確な成長ドライバーは必須要件
 1-4 What’s your playbook for success? / 上達の近道は良い「型」を学ぶこと
 1-5 What’s your Go-To-Market strategy? / いい商品も売れなければ価値はない
 1-6 What does good look like? / 今のヒーローが未来の自分
 1-7 Your technology is not your moat! / 持続性こそ価値の源泉

第2章 スタートアップ ベンチャー投資家同士の会話
 2-1 Is there Founder market fit? / 「何をやるか」と同じくらい「誰がやるか」が大事
 2-2 What’s the opportunity cost here? / これは考え得る選択肢の中で最適な判断か?
 2-3 Do you really understand the underlying market dynamics? / 業界の特性の本質を見抜いているか?
 2-4 FOMO has got into him! / 人気銘柄だからといって成功するスタートアップとは限らない
 2-5 It’s a VC-backed startup / 本当にVCから調達すべきか?
 2-6 The VC Power Law and Staging / VCのリスクとリターンの考え方

第3章 上場企業 IR面談
 3-1 This company went public too early / 上場は必ずしも正しい選択ではない
 3-2 How do you allocate operating cash flow? / 適切なキャッシュ配分が経営者の仕事
 3-3 How did you set the MTP? / 中期経営計画はどのように策定しましたか?
 3-4 How do you identify your investment targets? / 投資をする準備はできている?
 3-5 What’s your shareholder return policy? / 適切な株主還元と成長のバランスを考える
 3-6 We propose a share buyback / 投資家と対話することが大事

第4章 上場株式投資 ファンド投資会議
 4-1 Be a contrarian / 人と違った思考を持つことがアルファの源泉となる
 4-2 Which analyst wrote the report? / 証券会社の推奨や目標株価は気にする必要はない
 4-3 What’s the time horizon? / 時間の価値
 4-4 What is the risk-reward of this investment target? / 魅力的な投資案件は、リターンがリスクを大幅に上回る
 4-5 Does it have high operating leverage? / オペレーティングレバレッジの力
 4-6 This is a value trap / バリュートラップにご注意

第5章 ガバナンス
 5-1 They have high agency risk / 株主フレンドリーではない経営者だ
 5-2 Who takes the upside? / 計画を達成するための最適なインセンティブスキームになっているか?
 5-3 We can’t see your commitment to Diversity / 持続的な成長を実現するための人財戦略になっているか?
 5-4 What’s the value creation factor? / M&Aの成否も仮説と実行精度にかかっている

おわりに

参考

世界トップ投資家の共通言語 大化けする人と企業を見いだすために何を見ているのか | 日経BOOKプラス

DNX Ventures | B2Bスタートアップ特化の日米VCファンド

Penrose Japan

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