書籍 ディスカバリー・ドリブン戦略 かつてないほど不確実な世界で「成長を最大化」する方法

書籍 ディスカバリー・ドリブン戦略 かつてないほど不確実な世界で「成長を最大化」する方法

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ディスカバリー・ドリブン戦略―かつてないほど不確実な世界で「成長を最大化」する方法
Seeing Around Corners: How to Spot Inflection Points in Business Before They Happen

リタ・マグレイス (著)、入山 章栄 (翻訳)、大浦 千鶴子 (翻訳)
出版社:東洋経済新報社 (2023/8/23)
Amazon.co.jp:ディスカバリー・ドリブン戦略

  • これは「変化」に対する最善・最高のアプローチ

    世界最高峰の経営思想家による「仮説指向計画法」の全プロセス

    ChatGPT以後の時代、新たな繁栄をつくる決定版

本書は、コロンビア大学ビジネススクール教授の著者が、「転換点(Inflection Point=自社のビジネスの根本が変わる局面)」を迎えた成熟企業が取るべきアクションを詳細に解説した一冊です。

著者の専門はイノベーションと戦略、特に「不確実性の高い環境下での成長戦略」で、「世界の経営思想家トップ50」に選出された世界的に著名なビジネス思想家であり、経営学者です。

その著者が、多くの実際の企業事例を紹介しながら、不確実性の高い状況下におけるイノベーションの創出に関して実践的な考え方を示していますので、ビジネスリーダーの方々が、戦略転換点という好機を見逃すことなく、チームや組織にとって絶好のチャンスをして活かすうえで大変参考になります。

本書は序と8章で構成しており、第5章で著者の考えの中心となっているディスカバリー・ドリブン戦略を詳細に解説しています。

なお、前半の1章から4章は、不確実性の高い状況下で未来志向になるための心構えやテクニックを論じ、後半の6章から8章は、ディスカバリー・ドリブンのアプローチを実行するうえで必要な組織やリーダーシップについて論じています。

  • ・第1章では、転換点の持つ真の意味を見抜くジレンマを説明し、重大なシグナルを簡単に、早期に、察知する方法を検討しています。
  • ・第2章では、物事が変わりかけていることを示す弱いシグナルを見つけ、その意味を解釈する方法を紹介し、どうすればシグナルをいち早く察知できるかを解説しています。
  • ・第3章では、変化がもたらす弱いシグナルをどのようにして見つけるか、優位性低下の傾向を示す兆候を見直す方法を示し、転換点によってビジネスが変化して新たな機会が開放され得る仮説について検討しています。
  • ・第4章では、企業がチャンスを活かして他社よりもサービスを提供し、主力事業で収益力を確保しながら次のビジネスへ推移させる事例を示し、顧客を不快にさせたり怒らせたりする業務形態が新プレイヤーを市場に呼び込み、顧客を離れさせる原因を紐解いています。
  • ・第5章では、迫り来る転換点の弱いシグナルが次第に強くなるにつれて何をすべきかを探るため、判断の大半が単なる予測に頼っている段階だとして、仮説指向計画法を紹介し、それに沿って予測を知識に変える方法を示しています。
  • ・第6章では、転換点の到来に気づくだけでは不十分であるとして、組織メンバーが一致した見解のもとに集結して、効果的に対応するための方法を示しています。
  • ・第7章では、転換点を切り抜けるためには、主力事業の競争力を高めることと、将来に役立つ新たな能力を獲得することの同時進行が必要であるとして、組織の効果的なイノベーションを実現する方法を8つの段階に分けて示しています。
  • ・第8章では、リーダーは、どの方向に進むかを見極め、組織を集結する必要があるとして、リーダーシップの新たな様式や姿勢、大切にすべき事項、戦時のリーダーシップとして成功する要素を示しています。

この日本語版を通じてお伝えしたいのは、迫りくる転換点は不確かな状況をつくり出すが、それには反復可能な対処法があるということだ。

それは、実験とイノベーションを介して推測から知識への転換を徹底して行うということである。

将来の好機に向けて幾度も小さな賭け(選択)を行い、無益なものを取りやめ、有益となりそうなものに注力するということだ。

組織の末端部から意思決定者への情報の流れを豊かにし、末端部へ向かう情報の流れも等しく豊かで透明なものにするということだ。

変わりゆく状況に対処できるよう、資源を柔軟に割り当てるということである。

ディスカバリー・ドリブン戦略

ディスカバリー・ドリブン戦略

『ディスカバリー・ドリブン戦略』を参考にしてATY-Japanで作成

最初に着手するのは、不確実な取り組みにおいて、何が「成功」なのかを明確にし、それを逆算していく。

不確実性が高いときに、その不確実性の源泉となる要素を洗い出し、それらの未来を「仮定」のものと設定したうえで、まず行動する。

一定の計画を持ちつつ、仮定を意識しながらアジャイル型で進めていく。

あくまでも、「仮定」を意図的に置いて、計画を立てる。

人為的「業界」ではなく、包括的「アリーナ」

「業界」というコンセプトは人為的なカテゴリー化に過ぎず、「アリーナ」という観点で考えれば、市場は製品カテゴリーによってではなく、人々が完了させようとしている仕事(ジョブ)や課題によって定義づけられることになる。

人為的につくり上げられた「業界」より、包括的なアリーナという観点で考える方が視野を広げることに役立ち、常に外部にフォーカスして顧客に注意を払っていれば窮地に陥ることはない。

アリーナは、従来の業界とは違って分析レベルを決定づけるもので、主要なステークホルダーのジョブを快適に遂行させない負の要因こそが転換の扉を開く。

アリーナは、常に転換が起きる寸前の状態にある。

  • ・ひとたび転換が起きれば、それが既存ビジネスの主要な評価基準の一つを移行させる。
  • ・あるいは、全く異なる評価基準を伴う新たなカテゴリーをつくり出す。

たいていの場合、重要なトレンドを特定するのはそれほど難しくはなく、大変なのは、いつ動くべきかを知ること、行動を起こすと決めたときに組織と足並みを揃えることである。

アリーナの分析でフォーカスすべき問題は、自社ビジネス展開における日常的な制約に何らかの変化が起きた場合、その変化が競合他社にとって、顧客の感じる難点に対処する助けとなる可能性があるかどうかである。

転換点

転換点とは、この地点を過ぎると仕事のパラダイムシフトが起きて、取り返しがつかなくなるタイミングのことをいう。

ビジネス環境における変化であり、何らかの活動要因が劇的にシフトせざるを得ない状況を指すと同時に、それまで当たり前だと思っていた前提に疑いの目が向けられる。

既存のビジネスを打ち砕く破壊者として描かれることも多いが、時代遅れのテクノロジーやビジネスモデルを排除して、新たな余地を創出するものでもある。

現在機能しているシステムの競争パラダイムに劇的な変化をもたらし、市場に急激な変化をもたらすパワーがある。

ビジネスが拠って立つ基本的な前提を「10X変化」が覆したときに発生するが、転換点の早い段階では、その潜在的なインパクトを知るのは難しい。

転換点をナビゲートするカギは、組織の上層部だけではなく、メンバー全員が転換点に気づき、それを最大限に利用する何らかのアクションを起こすことにある。

転換点の特徴

さまざまな組織の土台や前提そのものを変える力を持っている。

  • ・組織の内部や周囲の環境変化が、新たな企業チャンスを創出することもあり、その結果、古いビジネスモデルや創業の継続を止める可能性もある。
  • ・転換点が間違った方向へ進むと、組織全体の崩壊または経営破綻を招くこともある。

転換点の動きは直線的ではなく、多くは間欠的に進行する。

  • ・道理をわきまえた人たちでも、その重要性や潜在的なインパクトについて否定的な見方をしてしまう。
  • ・優れた起業家やイノベーターは、単に転換点を自身に引き寄せるだけでなく、その可能性を結合させ、顧客洞察力を深め、そのうえで新たなテクノロジーを開発し、それによって自らを頂点へと押し上げる。

速いペースで周囲が変化するなか、「何が変わりそうにないか」を見極めることは大切であり、長い目で見て正しいと思えるのであれば、それを維持するために全力で努力する。

  • ・迫りくる転換点がインパクトをもつのには長い時間がかかる。
  • ・観察者がたびたび大変動を予測する一方で、現状を根本的に破壊するエコシステムが完成されるまでには一定の期間を要する。
  • ・あまりにも早く動き出すと悲惨な結末になる場合が多いため、どれほど魅力的に見えても決断を急いではいけない。
転換点の発展(4つの段階)

転換点の展開には、ハイプ(過度な期待)期、幻滅期、黎明期、円熟期の4つの段階がある。

転換点の発展(4つの段階)

『ディスカバリー・ドリブン戦略』を参考にしてATY-Japanで作成

『ディスカバリー・ドリブン戦略』では、「テクノロジーを商品化する方法を探るために使われるガートナーのハイプ・サイクル方法論にある5つの時期と似ている。」と記述しています。
上記の図は、イメージしやすいように、ATY-Japanがハイプ・サイクルの曲線に当てはめていますので、本書の解釈とは異なるかもしれません。

これからのリーダーは、今まで以上に戦時を想定した準備を整えておく必要がある。

そこから先の試練は、周囲の人々を1つにまとめ上げ、新たな転換点に対応できる組織を確立することだ。

また、人々を先行指標に注目させることが、将来的な成功への確かなアプローチであることはすでに述べたとおりである。/p>

転換点通過後には、組織自体も変わっていなければならない。

組織としてイノベーションの技量を高めることは、自滅や競合他社による制圧を防ぐ意味でとてつもなく大きな助けとなるだろう。

まとめ(私見)

本書は、不確実性の高い状況下において、その不確実性の源泉となる要素を洗い出し、それらの未来を仮定のものと意識しながらアジャイル型で行動することを説いた一冊です。

そして、以下の考えに基づいて展開しています。

  • ・状況が劇的に変わる大転換は必ずといっていほど、しばらく前から徐々に起き始め、これによって好機が生まれる。
  • ・転換点をいち早く見抜くことができれば、それは戦略上のとても有益なものになる。
  • ・その時々の好機を最大化するためには、「仮説指向型成長」を利用することが有効である。

理論中心ではなく、多くの事例を紹介しながら、その行動の根底にある考え方を整理していますので、ビジネスリーダーの方々が、自身の事業を不確実性に対応していくうえで大変参考になります。

本書では、例えば以下のような、多くの実際の企業の取り組み事例を紹介し、その行動から得た教訓を読み取ったうえで著者の理論を展開し、部分的には他の理論を紹介して捕捉しています。

  • ・フィルム現像処理を主要事業としていた富士フィルムが、リーダーが率先して難題に立ち向かい、断固たる決断で会社をどのように変革させたのか。
  • ・Facebookをはじめとするソーシャルメディア・プラットフォームが、フェイク増大やプライバシー強化という変化の中で、諸々の苦悩に対してどのように取り組んでいるのか。
  • ・マイクロソフトCEOサティア・ナデラがどのようにして先行指標にフォーカスした指導力を発揮したのか、そして周囲の人々が持つ能力や影響力を活用しながら職場の団結力をどのようにしてつくり出してきたいのか。
  • ・太陽光と風力テクノロジーにおけるゼロ時間の出来事、デジタル革命によって破壊されそうな教育(高等教育)はどうなるのか。
  • ・DVDの商品化に転換点を見出したネットフリックスが、ストリーミングモデルの出現を予見してどのように対応していったのか、一方、転換点の到来に際して早く動き過ぎたブロックバスターはどのような失態を犯したのか。
  • ・デジタル革命による転換点がどのような影響をもたらしてきたのか、マーケティング領域で密かに始まり、ビジネスの基本的な操業スタイルへ、そしてビジネスモデルを制限するパラメータに影響を及ぼしていきたのか。
  • ・マイクロソフトの新型スマートフォンシリーズ「キン」は、戦略が知的で、優秀なチームであったのにも関わらず、なぜ失敗したのか。

また、以下の他、非常に参考となる考えやガイドを随所に紹介しています。

  • ・上層部が潜在的に重要な転換点を知るための「行動への8つの提言」
  • ・ビジネスにおける3種類の指標(ファクト:遅行指標・現行指標・先行指標)、先行指標を獲得するうえで有効なモデル
  • ・会社の危機を予見する「14のサイン」(詳細は、前著『競争優位の終焉』日本経済新聞出版社(2014年)で示した早期警告サイン)
  • ・「硬直マインドセット(fixed mindset)」ではなく、「しなやかマインドセット(growth mindset)」による転換点の察知と対応
  • ・イノベーションを阻むリスト、イノベーションが発展する「8つの段階」と各段階での対応策
  • ・「共働」というものの基本理念、CEOが最も大切にすべき「SPARK」

なお、著者は、ペンシルバニア大学ウォートンスクールのイアン・マクミラン教授とともに「仮説指向計画法(DDP:Discovery Driven Planning)」を考案しています。

これは計画立案と実行に関する手法で、計画通りに進まないことが考えの根底にあり、実行時に仮説の検証と、必要に応じた計画修正を求めていることを特徴としています。

そして、仮説指向計画法(DDP)に基づいた、「逆損益計算法」と「マイルストン計画法」の二つの考え方で構成されています。

「逆損益計算法」で仮説分解して洗い出し、「マイルストン計画法」で検証をいつどうやって行うかということになります。

  • ・「逆損益計算法」は、利益からスタートして、利益を因数分解することによって利益を生み出す要素を洗い出す手法です。
  • ・「マイルストン計画法」は、仮説は外れると認識して検証タイミングと方法をを計画する手法で、時間軸に沿ってマイルストンを考えることで事業の理解が深まり、リスクへの備えが可能となるというもので、各マイルストンでの仮説検証と学習に重きを置いています。

「仮説指向計画法(DDP)」は、「気づき・学び」に基づいて計画を実行する、学習に重点を置いているため、自社の強みを強化するためにも有効であると考えています。

注意を怠らない先見の明を持ったリーダーであれば、行動を起こすべきことを「見極める」ことができます。

そして、どのような想定の下で活動すべきかを決め、わかっていることとそうでないことを明確にし、知的な失敗から学びを得られる土台をつくっていくことが重要となります。

転換点の到来を素早く見抜く。

そのためには、末端部に身を置くことが重要で、現場から正確な情報が入手できる流れをつくったり、自らが現場に出向いてメッセージを聴いたりする。

素直に情報を聴き、不愉快な情報にも進んで対峙する姿勢を貫く。

個々に異なるシナリオを描き、それぞれのシナリオがどういう段階を経て展開するのかを知るために未来から現在へと遡る。

転換点が何を意味するかを理解し、その方向に自社が向かうべきかを決断し、転換点を生き延びられる組織をつくる。

そのためには、日頃から組織の潜在能力を見抜き、状況に応じたて迅速に動ける組織をつくり、決断する際は組織(集団的)として行う。

組織を方針のもとに結集させる、共通の目標のもとに組織を結集させるためには、普段からメンバーとコミュニケーションをとり、信頼関係を築いておく。

誠意を持って方針を説明し、理解を得ることとに努め、リスクを共有し、メンバーの実行を支援する。

仮説をたて、小さく賭けて、素早く実行して都度検証し、必要に応じて計画を修正する。

現在は、デジタル技術によって、業界内での競争だけではなく、さまざまな企業と競争していかなければならない可能性もあります。

本書では、人為的につくり上げられた「業界」ではなく、包括的なアリーナという観点で考える方が、視野を広げるのに役立つとしています。

常に外部の動きに目を光らせ、顧客に注意を払い、仮説指向アプローチを実行することが有効策といえます。

経営環境が目まぐるしく変化する現代においては、未来を予測して計画することは難しいとして、遭遇した状況に対する「レジリエンス(resilience):回復力」や「アジリティ(agility):俊敏性」を、組織として高めることが重要であるという意見もあります。

しかし、計画するのではなく仮説することは重要であると考えています。

しかも、ある程度先を読んだ従来型の計画ではなく、想定できる状況に対して仮説し、必要によってオプションを設定して、小さく賭けていくことです。

その仮説の範囲や深さ、対象とする期間やサイクル、そして他社に先駆けて転換点を察知して、組織として「アジャイル(agile)型」で行動することが重要です。

本書は、不確実性の高い時代、仮定をきちんと認識して行動していかなければならないこと、そのためのリーダーのあるべき姿を、多くの企業事例や理論を紹介しながら解説しています。

戦略転換点を見逃すことなく、自分自身とチームや組織にとって絶好のチャンスとして活かす方法を学べる一冊です。

参考(当サイト)
変化の激しい時代に勝つためには、複数の「競争の型と経営戦略の組み合せ」を内包させることが重要

目次

監訳者のことば
不確実な世界で戦略計画を立て、遂行するには
――今、世界でもっとも注目される経営学者の“決定版”

まえがき
今後10年の「ゲームチェンジャー」になる本

日本語版の刊行にあたって 徐々に、そして突然に……戦略転換点はやってくる

序 「創造的破壊の音」が近づいている

1 まるで雪が先端から溶け始めるように

2 「早期のアラート」を見逃さない

3 変化がもたらす「弱いシグナル」をとらえる

4 顧客は我慢してくれない

5 何が真実か――手早く学ぶ計画

6 「硬直した組織」を活性化させる方法

7 「小さなイノベーション」で制約を壊せ

8 「先見性」はリーダーの財産

参考

ディスカバリー・ドリブン戦略 | 東洋経済STORE

Rita McGrath Group

Valize

Seeing Around Corners: Rita McGrath(YouTube)

Discovery Driven Planning Explained: Rita McGrath(YouTube)

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