書籍 パラノイアだけが生き残る(PARANOID SURVIVE)/アンドリュー・S・グローブ(著)

書籍 パラノイアだけが生き残る(PARANOID SURVIVE)/アンドリュー・S・グローブ(著)

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パラノイアだけが生き残る
時代の転換点をきみはどう見極め、乗り切るのか
ONLY THE PARANOID SURVIVE

アンドリュー・S・グローブ(著)、小澤 隆生(その他)、佐々木 かをり(翻訳)
出版社:日経BP社 (2017/9/14)
Amazon.co.jp:パラノイアだけが生き残る

  • 予測不可能な今こそ、読んでおくべきシリコンバレーの名著、待望の復刊!

    時代の転換期を、きみはどう見極め、乗り切るのか

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 2023年10月15日 リタ・マグレイス『ディスカバリー・ドリブン戦略』東洋経済新報社 (2023/8/23)

本書は、元インテルコーポレーション会長兼CEOで、修羅場を乗り越えた「パラノイア」(超心配性)である著者が、「戦略転換点」を見極め、予測不可能な世界でしぶとく生き残るための方法を、著者の体験をさらけ出して語ってくれている一冊です。

どんな企業もいずれ「戦略転換点」に遭遇するという。

これは「10X(桁違いの巨大な)の変化が起き、ゲームのルールが根本的に変わる」ことによって生じる。

バグで4億7,500万ドルの損失を計上し、日本メーカーの攻勢で決断した主力メモリー事業からの撤退したことなど、当時の著者の行動、そこに行き着くまでの葛藤と判断が綴られています。

ビジネスにおいてもプライベートにおいても、「10Xの変化」を乗り切るべき時が誰にもあるでしょうし、そのためには「転換点」を見極め、意志を持って行動するためのパラノイア気質が必要であることを教えてくれています。

企業経営者や企業のビジネスリーダーなどの経営に携わっている方々だけではなく個人に対しても、思考をシフトさせるのに大いに役立ちます。

本書は10章で構成されており、1997年に出版された『インテル戦略転換 』の復刻版ですが、日本語版序文と第10章が新たに追加された内容となっています。

ハイテク業界の技術トレンドや著者の回想録ではなく、当時の業界変化の中で経営者として意志決定した背景や想いなど、経営者の重要な責務という本質的な部分について、新ためて気づかせてくれます。

中でも、第9章では、インターネットに対する著者の考え方が記述されていますが、執筆当時で既にインターネットの本質を見抜いていたようです。

「パラノイア(病的なまでの心配性)だけが生き残る」

これは私のモットーとしてよく取り上げられることばだ。

初めてこのことばを口にしたのがいつだったのかは覚えていないが、ビジネスの世界において、パラノイアでいることには十分な価値があると私は信じている。

事業の成功の陰には、必ず崩壊の種が存在する。
成功すればするほどその事業のうま味を味わおうとする人びとが群がり、次々に食い荒らし、そして最後には何も残らない。

だからこそ、経営者の最も重要な責務は、常に外部からの攻撃に備えることであり、そうした防御の姿勢を自分の部下に繰り返し教え込むことだと思う。

戦略転換点

企業の生涯において、根本的な変化が起こるタイミングのことである。
その変化は、企業が新たなレベルへとステップアップするチャンスであるかもしれないし、終焉に向けての第一歩ということも多分にありうる。

事業のあり方を全面的に変えてしまうので、それまでのように新技術を導入するとか、競合との争いを激化するといった方策だけでは対応できない。

事業の手法が変化すれば、新しい方法に精通している者にはチャンスが生まれる。

この変化を食い止めることもできなければ、そこから逃げ出すこともできない。
できることは、その変化に万全の構えで備えることである。

風向きが変わったことを察知し、適切に対処する能力こそが、企業の将来には不可欠である。

特に外部との接触する機会のある人は、風向きの変化を肌で感じる可能性が高い。

誰でも、変化という風に、自分自身をさらさねばならない。

変化の始まりと終わりは明らかであるが、その間の移行は徐々に進み、混乱を招く。
移行期が企業に及ぼす影響は大きく、この時期をどう乗り切るかで将来は決まる。

戦略転換点の段階

以下の段階を経て戦略転換点が明らかになっていくが、経営者の務めは、「かすかに見える目的地へ向かえ」と犠牲を承知で号令をかけながら進むことであり、中間管理職の責務は経営者の決定を支持することである。

  • ・何かが違うという不安感がある。
  • ・企業が取り組んでいることと、実際に内部で起きていることとのズレが、次第に大きくなっていく。
  • ・新しい枠組み、新しい考え方、新しい動きが生まれてくる。
  • ・新しい経営方針が生まれるが、それを生むのは新たな経営陣であることが多い。

戦略的転換点を乗り切るためには、直感と判断しかないので、自分の直感を磨き、様々なシグナルを感知できるようにする。

戦略転換点における企業の教訓

1.変化に立ち向かえるかどうか、自社の企業規模や経営力を見つめる。

2.従来の構造の中で成功している企業ほど変化に脅かされる度合いが大きく、変化に適用することをためらう度合いも大きくなる。

3.どんな業界に参入するにも、確固たる地位を築いている企業の向こうを張って参入する場合は膨大なコストがかかるが、業界構造が崩れると参入コストは小さくなる。

ビジネスに影響を与える力

ポーター教授が定義した「企業の競争状態を決定する5つの力」に、「補完関係にある企業の力」を加えた6つの力が、ビジネスに影響する。

6つの力のいずれか一つが大きく変化することを「10X」の変化と呼び、力の大きさがそれまでの10倍になった状態をいう。

戦略転換点では、様々な力のバランスが変化し、これまでの構造、これまでの経営手法、これまでの競争の方法が、新たなものへと移行していく。

1.既存の競合企業の体力・活力・能力

2.供給業者の体力・活力・能力

3.顧客の体力・活力・能力

4.潜在的競合企業の体力・活力・能力

5.事業を別の方法でできる可能性

6.補完企業の体力・活力・能力

戦略転換点の引き金は「10X」の変化

事業に影響を与える競争力のひとつに「10X」の変化が起きることが、戦略転換点の引き金になる場合が多い。

どの戦略転換点も「10X」の変化を特徴としており、どの「10X」の変化も戦略転換点につながる。

戦略転換点が訪れると、必ず勝者と敗者が生まれる。
勝者となるか、敗者となるかは、企業の適応能力にかかっている。

戦略転換点は根本的な変化の時であり、脅威であるとともに将来の成功を約束するものでもある。

1.「10X」の変化:競争
自分よりはるかに優秀な競争相手が登場すれば、否応なく変化せざるを得なく、以前は十分通用していたやり方を続けようとしても、うまくいかない。

2.「10X」の変化:テクノロジー
競争相手が次の改良品を出すと、それに応えて自分たちも改良品を出すというように続いていき、時としてテクノロジーは飛躍的に変化することがある。

3.「10X」の変化:顧客
戦略転換点はゆっくりと進行するため、顧客の購買習慣が変わっていくのが見えにくく、その態度は微妙な変化でありながら決定的である。

4.「10X」の変化:供給業者
事業者は供給業者を軽視しがちであるが、テクノロジーや業界構造が変化した場合などには、供給業者の力は増大し、業界そのものに影響を与えることもある。

5.「10X」の変化:補完企業
自社製品と依存関係にある補完企業のビジネスが、テクノロジーの変化によって影響を受けると、自社にも深刻な影響が及ぶ。

6.「10X」の変化:規制
実際のビジネスにおいては、法的規制の施行と撤廃は、他の変化に劣らず深刻な変化をもたらすことがある。

戦略転換点への対応

戦略転換点におけるマネジメント

厳しい変化の中で集団を導いていくためには、決断することが必要である。
その瞬間に、リーダーは何があっても前に進もうと決意するものである。

必要なのは、客観性と、自分の信念を実現するためには何でもするという前向きな気持ちと、周囲の人たちがその信念を支持する気になるような情熱を持つことである。

ビジネスの基盤が根底から覆される状況で、その時の経営者が引き続き経営に関わっていきたいと望むならば、知的で客観的な部外者の目を持たなくてはならない。

戦略転換点の場合の感情の動きは、否定、逃避又は回避、受容と適切な行動、という過程をたどるケースが多い。

成功の惰性
今までのキャリアでうまくいった戦略的、戦術的な方法を、今後も実行し続けようとするもので、環境が変化し、今までの技術や強みが適用しなくなっても、本能的に過去にしがみついてしまう。

事業の勢いが旺盛で、資金繰りがうまくいき、組織が健全なうちに行動する。

通過する際、経営陣は業界の戦略地図に絶えず目を向け、必要に応じて描き直す。
また、市場の趨勢に素早く反応できるかどうかは、中間管理職の自主的な行動にかかっている。

組織が変貌する際に必要とされる重要な行動とは、旧来の考え方で配置されていた経営資源を、新しい考え方に合わせて根本的に再配置することである。

変化の渦中にいるとき、経営者は自分の進むべき方向をたいていは心得ているが、行動に移すことが遅すぎたり不十分だったりする。
これを正すには、行動のペースを早め、より大きく動くことである。

進むべき方向を明確にすること、どうしたいかを明らかにすると同時に、どうしたくないかも明らかにする。

戦略転換点のシグナルとノイズを区別

1.主要なライバル企業の入れ替わりがありそうか。

2.今まで補完企業とみなしてきた相手が入れ替わろうとしていないか。

3.周囲に「ずれてきた」人はいないか。

戦略転換点のシグナルは、明確ではないケースがほとんどである。
戦略転換点は、通常音もなく忍び寄ってくる。

組織の中にカサンドラがいれば、戦略転換点を認識する上で頼もしい存在となる。
社内のどこにも存在するが、中間管理職で、営業部門で働く人間であることが多い。

カサンドラの話に耳を貸し、情報を得て、彼らがそうした行動をとるに至った理由を理解するように最善を尽くす。

「初期バージョンの罠」を避ける。
最初は当てにならない話だと思っても、何でも耳を傾けてみる。

物事をよく考え抜くこと、初期バージョンの質に惑わされることなく新製品の長期的な可能性や重要性を見抜くことを、自らの課題としなければならない。

あらゆる関係者の知恵を動員し、広く意見を集めて集中的にディベートする。
難しい問題について建設的なディベートを行い、何らかの結論を得るためには、結果を恐れずに自分の考えを自由に話せる環境が不可欠である。

データが示すのは過去の話で、戦略転換点は将来の話である。
データに基づく合理的推論に対抗して、事例に基づいた観察や自分の直感に頼る必要がある。

知識力を持つ者と組織の力を持つ者が、両者の利益となる一番良い解決法を見出すために、協力的なやり取りを活発に行い、そういった社風を維持していく。

主張していることと異なることを実践するという落とし穴を「戦略上の不調和」と呼び、戦略転換点で必ず見られる反応である。

キャリアの転換点

環境変化が起きたときに、自分のキャリアにダメージがないように守るのも、その変化を活用して良いポジションに自分を動かしていくのも、自分自身の責任である。

自らの環境変化に敏感でいること。
自分への警告の感度を上げて、自分のビジネスに起きる可能性のある戦略転換点に気付くようにし、本当に災難に見舞われた事態を想定して、頭の中で避難訓練をしておく。

キャリアの転換点をうまく切り抜けることができるかどうかは、タイミングを感じ取る力にかかっており、それは物事がまだ順調に進んでいて、気分よく刺激的な仕事をしている間に変化を起こす方が良い。

キャリアの谷を越えていくのに役立つものは2つある。
明確さと信念である。

明確さとは、自分のキャリアで何を目指すのかを数値も含めて具体的に正確に把握することである。

自分のキャリアがどうなっているといいのか、そして、どうなっていたら嫌なのかを知っておくということだ。

信念とは、このキャリアの谷を渡って向う側にたどり着き、自分で決めた条件の仕事に就くという強い決意のことだ。

(略)

ひとりの人間には、キャリアはひとつだけだ。

キャリア転換点において成功する絶好のチャンスは、渾身の力で、ためらうことなく、その手綱を握ることだ。

まとめ(私見)

本書が書かれた当時は、日本経済が好調であった一方で、アメリカが伸び悩んでいた時で、経営学者でない著者の「構造的な危機を乗り切るためのノウハウや哲学」を述べた本書は、十分理解されたとは言えなかったようです。

また当時は、半導体・メモリーやマイクロプロセッサーをはじめとするコンピューターを取り巻く環境がめまぐるしく変わっていた時代でもありました。

その業界の中心企業の経営者として、著者が「10X」の変化をどのように察知して対応してきたかが如実に語られたのが本書です。

経営者として難局を打破してきた著者の経験こそが、環境変化が激しい現在こそ学ぶべきものが多くあるのではないかと思います。

さらに、今回追加された第10章「キャリア転換点」では、「環境変化による転換点は誰にでもやってくること」として、多くのアドバイスをしてくれていますので、一読をお薦めします。

「パラノイア」とは「病的なまでの心配性」と訳され、ネガティブな言葉のように感じるかもしれませんが、本書を読んでいくと能動的な経営スタイルであると感じました。

ビジネスでもプライベートでも、変化は必ず起こります。

転換点を的確に見極め、信念を持って決断し、適切なタイミングで行動する。

そのためには、常に危機感を持ち、変化を察知する感性を養い、いつでも行動できるように準備しておくことが必要となります。

これから参加する新しい世界についての理解、自分のキャリアは自分で決めるものだという決意、自分のスキルを新しい世界に合わせる能力、変化に対する恐怖や不安に対処する意志の強さが必要です。

ルールの変化がもたらす影響、未知の領域で進むべき道を探していく方法、自分自身のキャリアを積上げていくためのアイデアなど、「転換点」という大きな変革に対し、どのように乗り切っていくかを考えていくうえで役立つ一冊でした。

目次

序章

― 遅かれ早かれ、あなたのビジネス周辺に根本的な変化が訪れる

第1章 何かが変わった

― 新しいルールが敷かれ、われわれは5億ドル近くの損失を被った

われわれに何が起きたのか

「あの人が知るのはいつも最後」

第2章 「10X」の変化

― 移行期のビジネスの影響は深刻で、その時のマネジメントいかんで企業の将来が決まる

ビジネスに影響を与える6つの力

「10X」の力

戦略転換点

第3章 コンピューター業界の変貌

― コンピューティングの基盤だけでなく、競争の基盤も変化した

戦略転換点の前に

戦略転換点の後

勝者と敗者

横割り型業界の新ルール

第4章 それは、どこにでも起こる

― 戦略転換点は、IT業界特有の現象ではなく、誰の身にも降りかかる

「10X」の変化 ― 競争

「10X」の変化 ― テクノロジー

「10X」の変化 ― 顧客

「10X」の変化 ― 供給業者

「10X」の変化 ― 規制

第5章 われわれの手でやろうじゃないか?

― メモリー事業の危機を克服し、われわれは戦略転換点の何たるかを学んだ

転換点を抑える

生き残りへの道

振り返って

第6章 「シングル」か、「ノイズ」か

― シングルを見分ける唯一の方法は、広く深く議論することである

X線技師は「10X」の力か

RISC対CISC

今がそうなのか? いや、違うのか

頼もしいカサンドラ

初期バージョンの罠を避ける

ディベート

データを用いて議論する

恐れ

第7章 カオスに支配させよう

― 解決は、実験から生まれる。殻を破ることから新たな発想が生まれる

感覚的な問題

成功の慢性

戦略上の不調和

試み

ビジネスのバブル

新しい業界地図

第8章 カオスの手綱をとる

― 何を追求するかだけでなく、何を追求しないかを明確にすることが重要だ

死の谷を超える

資源の配置転換

戦略的な行動で導く

明確な命令

新たなものへの適用

動的な相互作用

谷の向こう側

第9章 インターネットはノイズか、シグナルか

― 数千億ドル規模の市場を左右するものは、それが何であろうと見逃せない

インターネットとは一体何なのか

ビットの集まりと奪われる目

わが社はどうするか

脅威か、それとも希望のしるしか

われわれは何をすべきか

第10章 キャリア転換点

― 環境変化によるキャリア転換点は、人の資質にかかわらず、誰にでもやってくる

あなたのキャリアはあなたのビジネス

避難訓練をしてみる

タイミングがすべて

変化に向けて調子を整える

新しい世界

パラノイアだけが生き残る
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