書籍 PLG プロダクト・レッド・グロース/ウェス・ブッシュ(著)

書籍 PLG プロダクト・レッド・グロース/ウェス・ブッシュ(著)

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PLG プロダクト・レッド・グロース(Product-Led Growth)
「セールスがプロダクトを売る時代」から「プロダクトでプロダクトを売る時代」へ

ウェス・ブッシュ (著)、UB Ventures (監修)
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン (2021/10/22)
Amazon.co.jp:PLG プロダクト・レッド・グロース

  • プロダクトでプロダクトを売る時代がはじまった。

    SaaSビジネスの新時代到来

    Zoom、Slackの圧倒的成長のカギはPLGにあった!
    シリコンバレーで今注目の全く新しい成長戦略

本書は、プロダクト・レッド・インスティチュートの創業者・学長である著者が、PLG(プロダクト・レッド・グロース)戦略を取り入れるための市場分析や自社プロダクトの価値を正しく理解するためのプロセスを解説した一冊です。

様々なフレームワークを駆使しながら、新たに到来したプロダクトの時代を生きるための術を具体的かつ実践的に解説していますので、ソフトウェアを扱っている企業だけではなく、すべての企業のリーダーの方々にとって、自社のプロダクトの成長戦略を立案するうえで参考となります。

本書は3部(16章)で構成し、新たに到来したプロダクトの時代を生きるための様々なフレームワークを具体的かつ実践的に解説しています。

第1部では、PLG(プロダクト・レッド・グロース)を説明し、独自に開発したMOATフレームワーク(マーケット戦略、オーシャン状況、オーディエンス、タイム・トゥ・バリュー)を解説しています。

  • ・第1章では、SaaS企業のサブスクリプションビジネスに迫っている3つの変化を示し、どうすればその変化に対応することができるかを解説しています。
  • ・第2章では、MOATフレームワークの全体像を紹介して、一つ目の「マーケット戦略」における最適なGTM戦略(ターゲット顧客へのアプローチプラン)の選択方法を解説しています。
  • ・第3章では、MOATフレームワークの「オーシャン状況」、レッド・オーシャンとブルー・オーシャンに応じた戦略について、PLGとの関係について解説しています。
  • ・第4章では、MOATフレームワークの「オーディエンス」について、トップダウン型とボトムアップ型の販売戦略のメリット・デメリットを示しながら、PLGとの相性を解説しています。
  • ・第5章では、MOATフレームワークの「タイム・トゥ・バリュー」について、モチベーションの高低と使いこなす能力とのマトリクスで4つのユーザーの特徴を示し、それぞれへの対応策を解説しています。
  • ・第6章では、これまでの章でセールス主導型とプロダクト主導型を絞り込めていると想定して、フリートライアルかフリーミアムのモデルを決める際のクイズサイトを紹介し、一般的な3つのハイブリッド型モデルを解説しています。

第2部では、プロダクト主導型ビジネスを立ち上げる際の基盤(UCDフレームワーク)の築き方について解説しています。

  • ・第7章では、プロダクト主導型ビジネスの基盤を構築するための手法として、UCDフレームワーク(理解する、伝える、提供する)の全体像を紹介しています。
  • ・第8章では、、UCDフレームワークの「プロダクトの価値を理解する」について、プロダクトを購入する3つのモチベーションを整理し、プロダクトの利用パターンを常に監視し、ユーザーが有意義な対価を得ているかを確認する「バリューメトリクス」について詳細に解説しています。
  • ・第9章では、UCDフレームワークの「プロダクトの価値を伝える」ことこそがPLG戦略の核心であるとして、4つの主なプライシング戦略、プロダクトの価格を決める方法を詳細に解説しています。
  • ・第10章では、UCDフレームワークの「価値を提供する」について、プロダクトでうたっている価値を実際に約束通り提供できなかった場合に起こるバリュー・ギャップ(知覚価値と体験価値の乖離)への対応策を示し、プロダクト主導型戦略を立ち上げる方法について解説しています。
  • ・第11章では、プロダクト主導型ビジネスにおいてよくある過ちを紹介し、エンジンを動かすチームの人選について具体的に示しています。

第3部では、継続的な最適化プロセスを構築するため、プロセスモデルの「トリプルA」スプリントに加え、「顧客数を増やす」「顧客平均単価(ARPU)を増やす」「解約率を減らす」という3つの主要レバーを解説しています。

  • ・第12章では、ビジネスを継続的に成長させることができる「トリプルA」スプリントという、問題点を迅速に特定し、解決策を立て、効果を測定するプロセスモデルを紹介しています。
  • ・第13章では、ユーザーを優良顧客に変えるための「ボーリングレーン・フレームワーク」を紹介し、ストレートラインに引き戻すための迂回ルートとしての「プロダクトバンパー」と「コミュニケーションバンパー」について、2つのバンパー内の取り組み一つひとつの具体例を示しながら詳細に解説しています。
  • ・第14章では、ユーザーが有料版にアップグレードした後の取り組みとして、ユーザー平均単価(ARPU)を高めるためのユーザー定義とARPU最適化の方法を解説しています。
  • ・第15章では、ARPUを上げる方法の一つは解約率改善することとして、解約(チャーン)を測定する3つの側面を解説し、特に解約リスクがあるとされるユーザー数(アクティビティチャーン)への対応策を具体的に示しています。
  • ・第16章では、セールス主導型とプロダクト主導型のソフトウェア購入方法を再度整理しながら、成功している企業はプロダクト主導型であり、「どのように」ものを売るかの決断を迫っています。

今の時代、強いブランドと社会的信用だけでは、消費者からの信頼を勝ち取ることはできない。

購入してもらう前に、プロダクトを試せる権限を与える必要がある。

PLGは、まさに、それを実践可能なビジネス戦略に落とし込んだ手法だ。

現代の消費者に自社のプロダクトを購入してもらえるよう、プロダクト主導型モデルに方向転換するか、それともなにもせず新しいトレンドに押しつぶされるか、いま、私たちは決断を迫られている。

SaaS市場の進化に伴う企業のタイプ

セールス主導型カンパニー

  • ・従来の売り方を実践する。
  • ・売る商品は複雑で、必ずしも必要とは限らず、効果である。
  • ・購入してもらえるかどうかは、消費者をいかに説得できるかにかかっている。
  • ・このタイプに当てはまる企業は、消費者を独自のセールスサイクルに乗せようとする。

プロダクト主導型カンパニー

  • ・旧来の営業モデルを逆にしたものである。
  • ・見込み顧客を長く決まったセールスサイクルに乗せようとするのではなく、代わりにプロダクトを自分で試せる「鍵」を与える。
  • ・いかに有料プランへのアップグレードを促すかといったことに頭を悩ませる必要はなくなり、ユーザーにより便利なサービスを提供するための改善に注力することができる。
ソフトウェアの歴史

プロダクト導入の意思決定者は、経営者から部門責任者、そしてエンドユーザーへと変化してきた。

セールスがプロダクトを売る時代は終わり、プロダクトでプロダクトを売る時代へとパラダイムシフトが起きている。

2000年以前の営業主導の時代

  • ・インストール型のソフトウェアを長い時間をかけて顧客の経営層に提案する。
  • ・トップ営業が製品導入の意思決定に不可欠である。

2000年以降のマーケティング主導の時代

  • ・オンプレミスからクラウドへとソフトウェアの主流が変わり、プロダクト導入コストが大幅に低下した。
  • ・ソフトウェア購入の意思決定者層のすそ野が広がり、ベンダー側もトップ営業からインバウンドマーケティングを主軸に据える戦略に変化した。
  • ・インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセス、分業化により、効率的に商談を進めることが求められる。

2020年ごろからのプロダクト主導の時代

  • ・テクノロジーの進化でユーザーは自由にプロダクトを選び、試すことができるようになった。
  • ・営業担当者がコンタクトする前に、ユーザーはプロダクトにアクセスし、プロダクトの価値を見定めてしまう。

プロダクト・レッド・グロース(PLG)

フリーミアムを駆使してユーザーを獲得し、バイラル効果でユーザーベースを広げ、ユーザーがもっと機能を使いたいと思う絶妙なタイミングで課金を促す。

GTM(Go To Market)戦略の一つで、ユーザー獲得、アクティベーション、リテンションをプロダクトそのものが担うという手法である。

GTM戦略とは、その企業が競争相手より優位に立つために、どのようにターゲット顧客にアプローチするのかを具体的に示したアクション・プランである。

PLGを取り入れるということは、事業に関わるすべてのチームがプロダクトに影響を与えるということで、各チームがプロダクトにフォーカスした活動をすることにより、カスタマーエクスペリエンスの強化を中心とした企業文化が形成されるようになる。

PLGは、SaaS企業がプロダクトをどう売るかだけではなく、市場でどのように生き残るかというビジネスの根底から見直しを迫る。

MOATフレームワーク

M:マーケット戦略(Market Strategy)

  • ・競争優位性(優位)&プロダクト価格(安価):ドミナント戦略
    全タイプの顧客を狙う差別化戦略で、フリーミアムやフリートライアルの効果がある。
  • ・競争優位性(優位)&プロダクト価格(高価):差別化型戦略
    既存のサービスが不十分だと感じている顧客を狙う。
  • ・競争優位性(劣位)&プロダクト価格(安価):ディスラプティブ戦略
    既存のサービスが過剰だと感じている顧客を狙う。
  • ・競争優位性(劣位)&プロダクト価格(高価):廃業
    倒産は時間の問題である。

O:オーシャン状況(Ocean Conditions)

  • ・ブルー・オーシャン戦略
    ユーザーがプロダクトの価値を体験するのに時間がかからない場合はPLGモデルを取り入れ、プロダクトが複雑なものならセールス主導型GTM戦略でユーザーを啓蒙しながらニーズを生み出す。
  • ・レッド・オーシャン戦略
    ファネルを広げ、CAC(顧客獲得コスト)を引き下げ、グローバル展開を目指すためにPLGモデルを取り入れる。

A:オーディエンス(Audience)

  • ・トップダウン型販売戦略
    セールスチームは企業のキーマンとなる意思決定者やマネジメント層にターゲットを絞りアプローチし、セールス主導型GTM戦略に適する。
  • ・ボトムアップ型販売戦略
    フリートライアルかフリーミアムモデルを採用しているビジネスで、プロダクトそのものがビジネス成長のエンジンであり、導入の早さとシンプルさが求められ、プロダクト主導型GTM戦略に適する。

T:タイム・トゥ・バリュー(Time-to-value)

  • ・モチベーション(高い)&使いこなす能力(簡単):スポイルド
    購入モチベーションが高く、真っ先にプロダクトを使おうとする層で、この層の獲得を目指してプロダクトの最適化を図る。
  • ・モチベーション(高い)&使いこなす能力(難しい):ルーキー
    プロダクトを使いこなそうと学ぶ努力をしている。(プロダクトを使うよう強いられているか、他に代替ソリューションがない場合に顕在化)
  • ・モチベーション(低い)&使いこなす能力(簡単):ベテラン
    プロダクトを使いやすいが、代替可能と捉えている。(ふらりと他のプロダクトに乗り換えてしまいやすい)
  • ・モチベーション(低い)&使いこなす能力(難しい):ミッション・インポッシブル
    プロダクトを使うことを諦め、去ってしまった。(プロダクトを使ってもらうことがかなり難しいユーザー層)

日々使うサービスが、その価値を体験する前にいちいちひと手間かかるとしたら、いずれの企業も今ほどの成功は収めていなかったことだろう。

グーグル、ウーバー、スラックといった巨人がすべてを変えた。

特にB2B業界においては、ビジネスのやりかたそのものが大きく変わった。

「どのように」ものを売るかは、「何を」売るかと同じくらい重要だと歴史は教えてくれる。

同じデジタルコンテンツを売るのに、ブロックバスターはネットフリックスに勝つことができなかった。

あなたも決断を迫られている。

プロダクト主導型の道を選ぶか、それとも、このまま留まるのか。

まとめ(私見)

本書は、様々なフレームワークを駆使しながら、新たに到来したプロダクトの時代を生きるための術を具体的かつ実践的に解説した一冊です。

紹介しているフレームワークを活用しながらPLGに適しているかを見極めることができますので、特にソフトウェアを扱っている企業のリーダーの方々にとって、自社のプロダクトの成長戦略を立案するうえで参考となります。

本書では、SaaSビジネスを中心に成長エンジンを解説していますが、ソフトウェア以外のプロダクトを扱っている企業においても、旧来の営業手法を改革していくためのヒントを得ることができます。

例えば、機器や装置などの製品を扱っている企業では、これまでは導入型一括販売の形式をとっていましたが、最近では使用量に応じた従量課金などのサービスビジネスに転換している企業もあります。

そういった企業においては、本書のPLGメソッドを活用することで、自らのビジネスモデルを変革することができそうです。

なお、PLGは完成された成長戦略ではなく未だ進化し続けているもので、すべてのプロダクトに当てはまるわけではないとしています。

PLGのボトムアップ・アプローチは、フリーミアムやフリートライアルなどから爆発的なユーザー獲得につながりますが、全社の根幹に関わるプロダクトに関しては、従来の法人営業のトップダウン・アプローチも融合する必要があると考えています。

その視点では、PLGは成長戦略の一つとしてとらえ、自社のプロダクトはPLGに適するかを見極めて、適切な戦略を立案していかなければなりません。

そのためには、本書で紹介しているMOATフレームワークに基づいて考えていけば、最適な戦略を立案することができます。

ソフトウェアの時代は大きく3つに別れ、現在はプロダクト主導の時代へと転換しつつあるとしています。

セールスがプロダクトを売る時代は終わり、プロダクトでプロダクトを売る時代へと一気にパラダイムシフトが起きているようです。

従来は、ベンダーからのプロダクトの説明を聞いたりデモを見たりして機能を確認し、時間をかけてプロダクト(ベンダー)を選定していました。

それがクラウド(SaaS)に移行し、短時間で導入でき、使用した分だけ支払う形式になり、プロダクトの導入型から利用(サービス)型へと移行してきました。

そしてこれからは、プロダクトを使用して気に入ったら有料版にアップデートする形式に変わってきていると言っています。

しかし、プロダクトの利用目的や範囲、プロダクト導入の意思決定者や決定プロセスによって、プロダクト主導型モデルだけとは限りません。

本書で紹介している成長エンジンは、自社の成長戦略を考えるうえで、そしてプロダクトが継続的に提供する価値を体験してもらえるようにするうえで参考になりますし、「どのように」売るかは「何を」売るかと同じくらい重要であることは理解できます。

当然、「何を」というプロダクトそのものは、「ユーザーにとってプロダクトを使うことで得られる対価がある」ことが前提となります。

PLGを実際に導入することは、簡単なことではないように感じます。

単に、プロダクト導入前に試せるオプションを設ければいいということではなく、組織全体のアプローチを変えることが必要となります。

プロダクト主導型の組織は、すべての部署においてプロダクトを軸に組織を率い、各部署が一体となって顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)を生み出していくことになります。

本書は、PLGを導入した成長戦略を考えるだけではなく、カスタマーエクスペリエンス強化を中心とした企業文化の形成が必要であることを気づかせてくれる一冊です。

目次

はじめに

監訳によせて

Part I 戦略をデザインしよう

第1章 PLGの重要性が急速に増しているのはなぜ?

第2章 武器を選ぼう ―― フリートライアル、フリーミアム、デモ、どれが最適?

第3章 海(オーシャン)のコンディションを調べる ―― あなたのビジネスはレッド・オーシャン? それともブルー・オーシャン?

第4章 オーディエンス ―― 販売戦略はトップダウン型とボトムアップ型のどちらか?

第5章 タイム・トゥ・バリュー ―― いかに早く価値を示すことができるか?

第6章 MOATフレームワークでPLGモデルを選ぶ

Part II 自社ビジネスの基盤を築こう

第7章 プロダクト主導型ビジネスの基盤を築く

第8章 プロダクトの価値を理解する

第9章 プロダクトの価値を伝える

第10章 価値を提供する

第11章 プロダクト主導型ビジネスにおける最もよくある過ち

Part III 成長エンジンに火をつけよう

第12章 最適化プロセスを開発する

第13章 ボウリングレーン・フレームワーク

第14章 ユーザーごとの平均収益(ARPU)を上げる

第15章 チャーンビーストをやっつける

第16章 真に成功している企業はなぜプロダクト主導型なのか?

御礼

用語集

参考文献

参考

PLG プロダクト・レッド・グロース | ディスカヴァー・トゥエンティワン

Get Product-Led Growth Certified | ProductLed

Free Trial or Freemium Quiz | ProductLed

Product Led Growth: An In-Depth Guide by Wes Bush | ProductLed

Product-Led Growth Archives

SaaS Benchmarks: The 2020 SaaS Product Benchmarks Report

Product Led Growth Framework Masterclass - ProductLed
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