このページ内の目次
IT業界にとってのクラウド事業-補足-
前述の「IT業界にとってのクラウド事業」では、IT業界側の視点で「いわゆる生き残りの選択肢」を考えました。
ここでは、IT業界にとっての脅威について、中長期視点で考えてみます。
IT業界では、過去「メイフレーム → クライアント・サーバー → オープン」と3つの大きな波があり、国内ITベンダーは波が来るたびに淘汰されてきました。
さらに今回の「クラウドの波」は、IT業界を根底から再編する可能性があり、既存のベンダーが淘汰され、新たなベンダーの出現が予期されます。
しかし、今回のクラウドの波を楽観視しているITベンダーもあるのではないでしょうか?
例えば
□国内のユーザー企業は、これまでと同様
- ・業務の特殊性を意識するあまり、標準化されたシステムには移行しない。
- ・過去からのシステム資産を尊重し、自社個別システムは残る。
(業務を標準化したり、システムを移行する投資余裕がない事情もある?)
- ・開発から運用までの信頼性を重視し、ベンダーの手厚いサポートに頼る。
という傾向は大きく変わらないので、「クラウドの波」が来ても、IT業界の構造には大きな影響はない。
□またクラウドは、「IT環境の最適化を実現するための手段のひとつ」
と考えると、IT業界のビジネスモデルまでを揺るがすものではない。
様々な意見がありそうです。
一方「クラウド」という新語で、IT投資の活性化を狙っている傾向もあるかもしれません。
しかし、これから「クラウドの波」が大きくなった時に、自分達の危機に気付くITベンダーも多く出る気がしています。
「クラウドの波」、IT業界にとっての脅威は、以下に整理できます。
IT業界にも「破壊的イノベーション」
脅威1:IT業界にも「破壊的イノベーション」が起こる。
- ・個人向けや基幹業務外システムで蓄積されたサービス基盤技術のサービスレベルが向上し、企業向け基幹業務システムへも展開される。
- ・モジュール化されたサービスを組み合わせることで、企業業務の大部分がシステム化できるようになる。
ベンダーは、もう囲い込みができない。
脅威2:ユーザー企業は賢くなった。ベンダーは、もう囲い込みができない。
- ・既存のサポートベンダーがよく言う「他社システムを利用すると、稼動を保証できない」脅しは通用しない。
- ・サービスの選択権がユーザー企業側に移り、業務単位でサービスを都度利用するようになる。(実質は難しいが、都度他のサービスに乗り換えることもできる)
所有から利用へ。利用した量だけ。
脅威3:ITサービスの収益モデルが変わる。所有から利用へ。利用した量だけ。
- ・これまでの「ハード+システム開発+保守」のビジネスは終焉する。
クラウド連携や強みの業務の個別開発は、ノウハウのあるベンダーに集約される。これまでの請負型ビジネスはなくなる。
- ・ユーザー企業のシステムの大部分が、使用量に応じた料金をクラウドプロバイダーに直接支払い、後はユーザー企業内のハードとシステム開発の支援ビジネスが一部残るのみ
新規参入が激しくなる。
脅威4:クラウドへの参入障壁が下がり、新規参入が激しくなる。その先は、生き残りをかけた消耗戦へと突入する。
- ・データーセンター集中管理形式のHaaSやPaaS上に、小規模ベンダーやユーザ企業もSaaSを構築し、外販するようになる。
- ・業務システムも一般ECサイト状態となる。しかもグローバル化する。
クラウドへの展開が遅れる。
脅威5:特に大手既存ベンダーは、クラウドへの展開が遅れる。
- ・既存の導入型パッケージはシングルテナント型では提供できるが、SaaSマルチテナント型にするには再構築が必要となる。
- ・既存の導入型顧客や販売チャネルを尊重するため、クラウドのダイレクトビジネスに踏み切れない。
全てが現実のものとはならないかもしれませんが、「クラウドの波」は大きく、対応が遅れたITベンダーは淘汰されることになるでしょう。
主要な基幹業務向けSaaS一覧 Part04【出典:IT Leaders】
主要ベンダーの国内展開概要
- ・クラウドのターゲットエリアやサービスを体系化
- ・大手企業を中心としたプライベートクラウドを展開
- ・データセンターでのアウトソーシングを核としたクラウドサービス体系
- ・「プライベートSaaS」も用意、個別対応重視
- ・サービス事業対応の人材育成への取組みも開始
- ・社会インフラと同等の信頼性確保を目指したクラウド構想
- ・これまでのシステム構築のノウハウを活かしてプライベートクラウドを推進
- ・独自の仮想化ソフトを使用して基盤の信頼性を向上
- ・基幹システムを中心とした「クラウド指向サービスプラットフォームソリューション」
- ・SAPをクラウド基盤で再構築し、基幹システム対応を推進
- ・業務プロセス改革を含め、クラウド利用の拡大を促進
株式会社NTTデータ
- ・SI事業の一環としてクラウドサービスの提供
- ・総合的なクラウドサービスブランド「BizCloud」を発表
日商エレクトロニクス株式会社
- ・M&Aやアライアンスによりサービス事業に進出
- ・パートナーとの協業により、海外のサービス展開も計画
日本ユニシス株式会社
- ・「ICTホスティング」を主体にクラウド事業を推進
- ・プラットフォームやマーケットプレイスを提供
- ・品質と価格の両面で、競争力のあるサービスを目指す
日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社
- ・自社構築の経験を元に、クラウド事業へ参入
- ・マルチテナントによる低コストとセキュリティを両立
- ・セールスフォース事業は日本郵政の事業を推進
富士ソフト株式会社
- ・Google Apps の大手ユーザにしてパートナー企業
- ・クラウド事業全体の中でのGoogle Apps事業
株式会社セールスフォース・ドットコム
- ・SaaSのトップベンダー
- ・PaaS事業を拡大 官公庁でも実績
グーグル株式会社
- ・Google Appsで企業向け市場攻略
- ・PaaS、Google App Engine
マイクロソフト株式会社
- ・「ソフトウェア+サービス」のハイブリッドモデルを推進
- ・クラウドOS「Windows Azure」
≫ 補足:クラウド IT業界再編の可能性あり
関連記事
前へ
クラウドのサプライヤーになる。中堅中小ベンダーが採るべき戦略
次へ
クラウド市場から撤退する(せざるを得ない) - 新たなビジネスモデルの創出を支援する