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USERS 顧客主義の終焉と企業の命運を左右する7つの戦略
アーロン・シャピロ(著)、萩原 雅之(監修)、梶原 健司、伊藤 富雄(翻訳)
出版社: 翔泳社(2013/9/3)
Amazon.co.jp:USERS 顧客主義の終焉と企業の命運を左右する7つの戦略
デジタル時代を生き抜くための最も重要なコンセプト
ユーザー・ファーストな企業になるための「7つのフレームワーク」を解説
本書は、グーグルやサムソンなど、グローバル企業の再創造を援助するデジタルマーケティング会社HUGEのCEOアーロン・シャビロ氏が、ユーザー・ファースト企業になるための「社内に必要な対応(3つの視点)」と「ユーザーとの接点(4つの視点)」について、豊富かつ詳細な事例をあげながら解説した一冊です。
インターネットやソーシャルメディアなどが普及した現在のデジタル時代において、関わる人々とデジタルなチャネルを通じて交流し、ニーズや関心を最優先することも必要となっています。
そのための対応策は、単にデジタル技術を有効活用することだけではなく、ユーザーとの接点、さらには経営方針から社内体制にいたるまでを改革することの重要性を示しており、企業の経営者やリーダー、マーケティング部門や第一線で活躍されている方々にとって参考となる一冊です。
本書の特徴は、「ユーザー」を商品やサービスの購入及び利用者だけではなく、見込み客やファンなどに広げて定義し、デジタル時代に卓越した企業になるための社内外7つのフレームワークを提示していることです。
私たちは通常、コンシューマー(消費者)とカスタマー(顧客)という概念で市場やマーケティングを考えている。本書が示しているものはそのどちらでもない。
普段なにげなく使っている「ユーザー」という言葉を、メディアとテクノロジーを利用して企業とやりとりをするすべての人々と定義し、経営戦略にとって重要なコンセプトの中核に据える。
そこには商品やサービスを購入している顧客だけではなく、見込み客やブランドのファン、インフルエンサーから求職者まで含まれる。
ユーザーファーストな企業
社内を動かす力
- ・ユーザー中心の経営
- ・同心円型の組織体制
- ・使い捨てテクノロジー
社外とのタッチポイント
- ・社会的使命に基づいた製品
- ・ユーティリティ・マーケティング
- ・TCPF(信用、利便性、価格、楽しさ)セールス
- ・ハイブリッド・カスタマーサービス
社会のデジタル化により、消費者の購買行動、コミュニケーション、情報収集のやり方は変化しており、企業はユーザーの周りにビジネスを構築し、ユーザーの満足度を上げる「ユーザーファースト」であることが必要となる。
個別の関心や目的を持って、デジタルツールを利用して企業とやりとりをするユーザーをたきつけるためには、「シンプル」であることが重要であり、企業は新しい戦略を採用すべきである。
社内に必要な対応
経営方針、組織体制、テクノロジー
企業全体の業務を統治する「社内を動かす力」(社内推進力)は、社外とのタッチポイントをさらに目立たせ、企業としての成長を推進する方向に作用する。
ビジョンとリーダーシップを明確にし、成功するための企業構造として同心円の組織を構築する。
そして、使い捨てテクノロジーを使うことで、時代遅れになることを防ぎ、同心円型の組織体制とユーザー中心の経営を推進することができる。
ユーザー中心の経営
ユーザーを満足させるためには、「ユーザビリティ」が重要であり、それを実現する安定した組織力が必要である。
ユーザビリティ
製品などの使い勝手が簡単/直感的であり、同時にユーザーに満足感や喜びを与えるもの
経営者に求められる資質
- ・本当に大事なもの以外を切り捨てる。
- ・地道なプロセスを軽視しない。
- ・専門分野以外の勉強を欠かさない。
- ・実現可能なビジョンを持ち、それをきちんと伝えていく。
成功している企業は、経営陣が関与して、組織全体にユーザーを中心とした経営哲学を企業全体の文化と思考様式に浸透させている。
同心円型の組織体制
ネット時代には、ユーザーと対話できる仕組み構築が必要であり、そのためには「同心円型の組織体制」が有効である。
同心円型の組織体制(中心から順に)
- ・デジタル・コア:社員が利用できるツールを開発する。
- ・コミュニケーター:ツールを使って、社外のユーザーとやりとりをする。
- ・オーディエンス:デジタル空間を通じて企業と交流する社外のユーザー。
この組織体制は、主に以下のメリットがあり、開発→配分→統合のプロセスで組織を作っていく。
同心円型の組織体制のメリット
- ・スケールメリットがある。
- ・重複した作業の解消できる。
- ・機動的な組織となる。
- ・各専門家が職務に専念できる。
- ・リソース不足を解消できる。
デジタル・コアの構築には、優秀な技術者が必要であり、さらに企業のコミットメント、デジタルコアチームへの権限移譲、物理的な環境、昇進パス(キャリアパス)の整備、納期、継続した投資も必要でる。
使い捨てテクノロジー
ユーザーのニーズや動向が目まぐるしく変化する現代においては、常に迅速な調整や変更がシステムに求められ、容易に修正、更新、入替えができるオープンソースなどの使い捨てテクノロジーを採用することが有効である。
使い捨てテクノロジーに求められる要件
- ・置き換えられること
- ・相互運用が簡単であること
- ・自社でメンテナンスできること
- ・更新が簡単であること
- ・拡張性が確保できること
- ・スピードが速いこと
ユーザーとの接点
製品、マーケティング、セールス、サポート
外の世界と繋がるための「社外とのタッチポイント」(外部との接点)の中心には、ユーザーを位置付ける。
社会的使命に基づいた製品
インターネットはユーザーの購買方法を劇的に変え、ユーザーは価格や製品に関する膨大な情報をほしいままにしており、無限の選択肢を持っている。
そのような状況の中で、企業はコモデティ化の拡大に悩まされており、以下の課題を抱えている。
- ・競争における地理的制約の撤廃
- ・商品やサービスの民主化
- ・完全な価格透明性
- ・品質のごまかしが効かない
この課題を解決するためには、製品に価値を持たせるしかなく、
「企業の社会的責任(ミッション)に基づいて消費者の生活の質を改善するためには何ができるか?」
を製品周辺のサービス含め、価値提供を徹底して行うことが必要である。
社会的使命を実現する手法
- ・「意思決定サービス」を作っている。
- ・主に提供しているものを補完するサービスを開発している。
- ・全く新しい提案をするために、アナログ製品とデジタル製品を組み合わせる。
- ・差別化のためにデータを使っている。
ユーティリティ・マーケティング
ユーザーがデジタル上で求めるものは、有効性とユーザー重視の姿勢、そして交流することであり、現代のマーケティングはユーザー体験を最優先し、ユーザーのニーズや課題を解決しようとする過程にデジタル体験を用意することである。
ユーザーがインターネットを利用する主な理由は、「何かを見つけたい」と「最新情報を知りたい」であり、利用に当たっては統合されたトラフィック・フレームワークを経由する。
トラフィック・フレームワーク
- ・フィルタ
検索エンジンなど、ネット上の膨大な情報からユーザーが求める情報へ導く。
フィルタになることは一般的には難しいため、検索結果の上位を目指すか、関連リンクを得るように心掛ける。
- ・デスティネーション(目的地)サイト
自社サイトやSNSページなど、提供するユーザーにとって有益なコンテンツを提供するサイト
- ・インボックス
メールやSNSなど、企業や個人から情報を受け取る場所
TCPF(信用、利便性、価格、楽しさ)セールス
ユーザーを顧客に変えるためには、
「競合と比べて、なぜその企業で買わなければいけないのか?」
を明確にすべきである。
そのためには、TCPF全てに関連する説得力のあるストーリーを生み出すか、TCPFの特定の要素を優先させて、ニーズの合うユーザーに決断してもらうことが必要である。
TCPF
- ・Trust:信用 → 標準化、単純化、拡大化
- ・Convenient:利便性 → ユーザーのリアル体験、ユーザーフレンドリー
- ・Price:価格 → できる限り価格競争は避ける
- ・Fun:楽しさ → Webで購入することの楽しさを納得してもらう
ハイブリッド・カスタマーサービス
デジタル時代には、「顧客対応」と「コミュニケーションチャンネル」に対するユーザーの期待が高まっている。
そこで企業には、「セルフ・サービス」と「フル・サービス」の二つを同時に展開することが求められる。
セルフ・サービス
- ・FAQ
- ・サポート・フォーラムと掲示板
- ・ナレッジ・センター
フル・サービス
- ・マルチチャンネル
- ・電話番号などの連絡先を目立たせる
- ・ソーシャルメディア
デジタル時代は、ユーザーの持つ力は大きいため、
- ・ユーザーの不満が高まった場合は、「即座に」「社内で」「詳しい」人間が対応すべきであり、
- ・不満の声が高まらないようにするためには、コミュニティを作り、常にメンテナンスすることが必要である。
企業はメッセージを伝えるだけではなく、相手を優先し、要望を受けとめ、経営戦略につなげていく。
それもまた「ユーザー・ファースト」という言葉の持つメッセージなのである。
「ユーザー・ファースト」というと「顧客第一主義」
これは古くから言われてきたことですが、現在のデジタル時代では、それ以前と比べて対象となる「ユーザー」の範囲も広がっていますし、膨大な情報が瞬時に伝わります。
企業及び最前線にいるリーダーの方々は、デジタル技術を有効活用するだけではなく、「ユーザー」と繋がるあらゆる接点(タッチポイント)を中心に位置付け、それらを機能させる企業内の業務全体をマネジメントすることが必要であることを、改めて気付かせてくれた一冊でした。
なお本書の原著は2011年に発売されています。
現在は本書で解説されている対応策を実践されている方々もいらしゃるかもしれませんが、内容はデジタルの技術論だけではありませんので古臭さは感じません。
また、7つのフレームワークが独立した章で記述されており、章末には「まとめ」として整理されていますので、興味のあるフレームワークから読み、他は「まとめ」で確認していくこともできます。
参考
著者関係のサイト
本書の紹介記事(HUGE社サイト)
Keen On… Aaron Shapiro: Innovating Customers Into Users (TCTV)
2011.12.5
著者のブログ
Users Not Customers
Lesson 1: Embrace User-Centric Management.
Lesson 2: Do More With Less Using Concentric Organization.
Lesson 3: Be Nimble with Disposable Technology.
Lesson 4: Fight Commoditization with Higher Calling Products
Lesson 5: Get Attention the User-First Way with Utility Marketing
Lesson 6: Trust. Convenience. Price. & Fun.
Lesson 7: Keep Customers Happy with Bilateral Customer Service
本書に関係する書籍紹介(当サイト)
デジタル時代において、変革の必要性を指摘した書籍には以下もあります。
以下の3冊は、どちらかと言えばユーザー側の変化に対して社会や企業がどのように取り組むべきかを指摘しているのに対し、本書は企業側から積極的にユーザーと交流していくための対応策について解説しているのが特徴です。
書籍 DIGITAL DISRUPTION(デジタル・ディスラプション)破壊的イノベーションの次世代戦略/ジェイムズ・マキヴェイ(著)
2013年11月20日
書籍 MAKERS 21世紀の産業革命が始まる/クリス・アンダーソン(著)
2012年11月30日
書籍 ワーク・シフト(WORK SHIFT) 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>/リンダ・グラットン(著)
2012年9月24日
USERS 顧客主義の終焉と企業の命運を左右する7つの戦略
アーロン・シャピロ(著)、萩原 雅之(監修)、梶原 健司、伊藤 富雄(翻訳)
出版社: 翔泳社(2013/9/3)
Amazon.co.jp:USERS 顧客主義の終焉と企業の命運を左右する7つの戦略
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