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イノベーションのための超・直感力
津田 真吾 (著)、津嶋 辰郎 (著)
出版社:ハーパーコリンズ・ジャパン (2024/6/21)
Amazon.co.jp:イノベーションのための超・直感力
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思考の枠を超えるだけで、ビジネスはアップデートできる
スタートアップ・新規事業開発の実践的解説書
アイデアを自由に募る → ×
早めに権限委譲する → ×
競合の多い市場は避ける → ×
本書は、イノベーションコンサルティングやスタートアップへの投資・支援などを行う株式会社インディージャパン(INDEE Japan)の共同創業者であり、テクニカルディレクターとマネージングディレクターのお二人が、実際のスタートアップ・プロセスに沿って「直感の罠」を徹底解剖し、イノベーションという超難問への実践的な取り組み方を紹介した一冊です。
著者らは、ハーバード・ビジネス・スクール教授で、破壊的イノベーション論の提唱者のクレイトン・M・クリステンセンが営むイノサイト社(Innosight LLC)と提携したコンサルティングの他、『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』や『イノベーションの経済学 「繁栄のパラドクス」に学ぶ巨大市場の創り方』の日本語版解説を手がけるなど、豊富な実績の持ち主です。
直感や常識、本能を超える力を「超・直感力」と呼び、成功への道のり、直感に潜む罠を回避するための行動や思考を提示していますので、スタートアップや企業内で新規事業を担うリーダーの方々がイノベーションを成功させるうえでの実践的ガイドになります。
本書は8章で構成しており、新規事業のアイデアが生まれてから事業として成功するまでのスタートアップ・プロセスを中心に章を独立して詳細に解説し、イノベーションという超難問への実践的な取り組み方を紹介しています。
- ・第1章では、成功者と失敗者の根本的な違いは何かを示し、一般的な直感の罠と採るべきカウンターな行動を整理したうえで、スタートアップ・プロセスの全体像を紹介しています。
- ・第2章はスタートアップ・プロセスの「アイデア」で、アイデアを形にするプロセスを解説しています。
- ・第3章は「PSF(プロブレム・ソリューション・フィット)」で、発案したアイデアが顧客課題にマッチしているかどうかの妥当性を検証するプロセスを解説しています。
- ・第4章は「ビジネスモデル開発」で、ビジネス全体を一旦設計し、必要となる戦略を整理するプロセスを検証しています。
- ・第5章は「PMF(プロダクト・マーケット・フィット)」で、新製品や新サービスが市場に受け入れられ、再現性の高い事業が行える状態を目指すための方法を解説しています。
- ・第6章はスタートアップ・プロセス最後の「出口戦略」で、スタートアップや企業内新規事業の出口戦略について掘り下げています。
- ・第7章では、新規事業の推進を見守る支援は実行よりも難しい点があるとして、支援部隊が陥る罠とカウンターな実践法を示しています。
- ・第8章では、直感の枠を超えて日頃からイノベーティブになるよう、新規事業が無意識に行えるようにするためのヒントを紹介しています。
持続的な事業を営んでいる多くの企業には、再現性の高い他のプロセスがすでに構築されているかもしれないが、同じ「ビジネスプロセス」ではあっても、スタートアップ・プロセスとそれ以外には、料理本のレシピどおりに調理をするのと新しい料理を生み出すほどの違いがある。
そう考えれば、直感のままの普段の手順どおりでは、新しい料理は生み出すことができないことをわかっていただけるのではないだろうか。
スタートアップ・プロセス
『イノベーションのための超・直感力』を参考にしてATY-Japanで作成
スタートアップ・プロセスとは、「事業の再現性そのものを生み出すプロセス」である。
- ・ゴールは、イノベーションにつきものの3つの不確実性(需要の不確実性・技術や価値提案の不確実性・収益性の不確実性)を低減することである。
- ・そして、再現可能なビジネスモデルを生み出すことである。
大企業での新規事業開発においては、スタートアップ・プロセスを既存事業と独立して実行すれば「イノベーションのジレンマ」を避けられる。
イノベーションを成功させるには、それまでの常識や経験に反する行動が求められることが多い。
成功したイノベーションは、いずれインフラへと成熟するか、もしくはコモディティとしてありふれる。
イノベーションをアイデアだけで評価する「アイデア至上主義」は、料理の味をメニューだけで予想するようなものである。
企業内新規事業におけるイノベーションは、ボトムアップだけでは難しい。
目指すべきはボトムアップではなく「創発」である。
企業として、どのようなイノベーションを期待しているのか、どのようなプロセスや支援を行っていくのかをオープンにすることが「創発」を促す秘訣である。
イノベーションも、序盤の打ち手は定跡に従うべきであり、序盤や中盤こそスタートアップ・プロセスの手順が役立つ。
直感の罠(直感的行動)、とるべきカウンターな行動
1.一般的な問題解決策のあてはめ
- ・通常の問題解決手法を、難しい問題にも当てはめてしまう。
- ・カウンターな行動
すぐに社内で会議したり、スローガンを練ったりせず、実際に現地現場に足を運んだり、社外の知人を頼って相談したりする。
- ・リサーチそのものも試行錯誤しながら市場を見つけていく必要があるが、調査を安易に外注すると市場を見つける機会を失う。
- ・プロトタイプの完成度にこだわることは、成功へのヒントを見落とす悪手となる。
2.希望的観測
- ・技術的な大発見をしたのだから、商品化や事業化は向こうから勝手にやってくるといった期待は裏切られる。
- ・カウンターな行動
商品をつくる前から顧客が喜ぶシーンを具体的にイメージし、検証する。(直感的な行動では、商品をつくってから売り方を考える)
- ・常にポジティブに仮説検証を繰り返し、顧客から断られたら必要な修正を行って挽回をはかる。
3.多数決を採る
- ・過去の事例や前例があるからといって、それまでのやり方を参考にするのは残念なパターンである。
- ・カウンターな行動
分が悪い状況においてこそ、多数派からは奇策と呼ばれるような手を打つ。
- ・重要なマイルストーンなどでは冷静に直感の罠を避けられたとしても、特段重要でない意思決定は多数派の意見に流されやすいので注意が必要である。
4.短期視点
- ・新規事業立ち上げ時は目先のイベントが発生するため、なるべく短時間で簡単な方法で片付けたくなる。
- ・カウンターな行動
やるべきことが多過ぎる時ほど、いったん立ち止まって課題を整理する。
- ・新規事業やスタートアップが成功するということは、5~10年後に繁栄する事業を創り上げることを意味する。
5.計画過多(過度な具体化)
- ・どのような事業をするのか決まる前から計画できることなどほぼない。
- ・カウンターな行動
「動きながらその意味や成果を言葉にして振り返る」というアプローチによって、机上では生まれないアイデアが生まれ、そのアイデアの結果得られた小さな反応や成果も漏らさずとらえて次に活かす。
- ・行動しながら言語化し、言語化しながら行動していく。
セロからイチを生み出す局面ではアートに近く、イチを再現し拡張するに従って科学に近くなり、10-100にするには科学が必要になる。
人気に推される商品は価値が上がり、価値が上がることで人気に拍車がかかるというメカニズムは、インターネットの普及によって加速している。
誰もが「常識的」な行動を取ればとるほど、バブルが発生し、弾けるサイクルが短くなることが予想される。
こうした栄枯盛衰のサイクルは、抗うことができない宇宙の法則のように思われるが、人々や組織が生み出した人工的な常識、そして、それらが根付いた「直感」の産物であると考えるほうが理にかなっている。
そのサイクルから抜けだしたいと考えるならば、これまでとは異なる考え方が必要になってくる。
要するに、ビジネスの「直感」が役に立つ領域と「直感」が役に立たない領域を見究めて、流されない行動である。
これはとりもなおさず、ここまで述べてきたスタートアップにおける実践解としての「カウンター行動」である。
まとめ(私見)
本書は、イノベーションを成功させるのに最も見落されている要因のひとつが「直感的な行動」であるとして、スタートアップや新規事業を担う方々が自らの直感に従って罠にはまるのを避ける方法を詳細に解説した一冊です。
直感や常識、さらには本能を超えた力を「超・直感力」と呼んで、成功への道筋だけでなく、直感に潜む罠を回避するための「カウンター」な行動や思考を具体的に提示していますので、スタートアップや新規事業を担うリーダーの方々がイノベーションを成功させるうえでの実践的ガイドになります。
また、各章の終わりには「コラム」がありますが、各章のテーマに関係する理論や問いかけに対する解説を詳細に紹介していますので、各テーマ内容の理解を深めていくうえで役立ちます。
本書の中心は新規事業のアイデアが生まれてから事業として成功するまでのスタートアップ・プロセスですが、各プロセスを実行する際に陥りがちな直感的行動や直感を超えるアプローチを詳細に解説しています。
各プロセスの解説では、著者らの豊富な経験に加え、関連する理論をていねいに解説していますので、スタートアップや新規事業を担っているリーダーの方々にとっては実践的ノウハウを得ることができます。
特に、スタートアップや企業内の新規事業におてイノベーションを成功させるには、すでに持っている特性が罠となるケースがいくつもあると警告し、その罠から抜け出す方法を惜しみなく紹介しています。
- ・重要な意思決定とは思わずに無意識で行ったことが、罠への誘導であることも少なくない。
- ・無意識の意思決定とは、習慣や経験による行動である直感と言い換えることもでき、その意思決定が悪手になることが多い。
なお本書では、新規事業開発について座学中心で学ぶのは非常に遠回りであり、全く同じ道を通った先人はいないので、知識でカバーしようとしても無理があるとしています。
新規事業開発は一種のスキルであり、実践していくことでしか上達しないと主張しています。
- ・やってみて、それぞれの動作について疑問を持ち、磨いていく。
- ・そのうえで、改善中において、先人の知識は役に立つ。
イノベーションは、知性や発想力、ひらめきといった認知的なスキルの違いではなく、課題を発見する「発見力」という「行動特性」がカギとなることが解明されているようです。
イノベーション・プロセスの各フェーズにおいて陥りがちな行動をあげて、著者らの豊富な経験に裏づけられた対応策を提示していますので、新規事事業開発に当たって「壁打ち」ができ、スキルを蓄積するうえで大変役立ちます。
スタートアップのゴールは、再現性の高いビジネスモデルをつくること、顧客にジョブが解決されたことを自慢してもらうこと、としています。
そのうえで、スタートアップの各プロセスにおいて発生しうる課題に対する解決策をを示していますが、その際のリーダーのあり方も具体的に教えてくれています。
- ・全員で目指すゴールを共有しつつ、お互いの役割を臨機応変に対応させながら、仮説検証を進めるチームをつくる。
- ・規模よりも、参入しやすさでビジネスを成立させることを優先し、そこから大胆な成長戦略を立案する。
- ・仮説を提示したうえで、実験・検証を行うマネジメントは、いくら細かくてもリーダーが加わってもよい。(権限委譲は、PMF後で問題ない)
- ・出口戦略を描き、国内外の拠点数や組織の規模、既存事業のリソース活用の見通しを明確にする。
- ・社内新規事業の場合は、PMFを達成して関係者が増えていくと「危ないメンバー」も加入してくるが、その事態を長く放置しない。
- ・知識不足を恥じることなく、知らないことを素直に「知ろう」とし、未知や未経験を「恥」ではなくポジティブなこととして捉える。
スタートアップや新規事業が成功するには、数々の活動を行い、顧客開発を成功させ、製品やサービスの開発も成功させなければなりません。
そして、大きな事業になるかどうかは、PSF後のビジネスモデル次第であり、MVPを開発し、PMFするまでの全活動の掛け算が結果として評価されることになります。
但し、スタートアップや新規事業開発は失敗する確率が高いことも事実です。
しかし、失敗する確率が高いからと言って何もしないことは最大のリスクですし、チャレンジした経験は次の活動のスキルとなって蓄積されると信じています。
本書は、日頃からイノベーティブになるよう直感を磨き、直感そのものをイノベーション向けに高めていくための実践的なヒントを得ることができる一冊です。
目次
はじめに
第1章 出発点
― 成功者と失敗者の根本的な違い
第2章 アイデア
― アイデアは「自分の中」と「会議室の外」にある
第3章 PSF(プロブレム・ソリューション・フィット)
― 顧客は「やりたい事、やらなければならない事」にしかお金を払わない
第4章 ビジネスモデル開発
― 勝ちパターンと価値パターンを描く
第5章 PMF(プロダクト・マーケット・フィット)
― 顧客がお金を払い続ける理由をつかむ
第6章 出口戦略
― 市場と組織をハックする
第7章 支援部隊
― 新規事業の毒にも薬にもなり得る役割
第8章 直感を超える
― 起業家マインドをつくる小さな積み重ね
おわりに
参考
イノベーションのための超・直感力|ハーパーコリンズ・ジャパン
新規事業・スタートアップの実践書『イノベーションのための超・直感力』を発刊|株式会社インディージャパン
株式会社インディージャパン|イノベーションコンサルティング・実行支援
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