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年収は「住むところ」で決まる
雇用とイノベーションの都市経済学
エンリコ・モレッティ(著)、安田洋祐(解説)、池村千秋(翻訳)
出版社:プレジデント社(2014/4/23)
Amazon.co.jp:年収は「住むところ」で決まる
「イノベーション都市」の高卒者は、「旧来型製造業都市」の大卒者より稼いでいる!?
新しい仕事はどこで生まれているか?
「ものづくり」大国にとっての不都合な真実。
著者は、労働経済学、都市経済学、地域経済学を専門とするカリフォルニア大学バークレー校経済学部教授、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)国際成長センター・都市化プログラムディレクターであり、現実のデータを用いた実証研究のスペシャリストであり、経済学界を代表する若手注目株の一人です。
その著者が、アメリカ経済の新たな成長エンジンであるイノベーション産業が、なぜシリコンバレーのような限られた地域に集積し、それがアメリカの暮らしをどのように変えてきたのかを、ミクロとマクロの両面から分析した一冊です。
本書の分析は、世界経済の変化が仕事の世界をどのように様変わりさせつつあるのかを明らかにしており、アメリカで変わりつつあることが日本の未来を見通すうえで参考になります。
タイトル「年収は『住むところ』で決まる」からは想像することは難しいかもしてませんが、本書は労働経済学や都市経済学などの視点から事実データを基にイノベーションやハイテク産業の実態を分析した書籍です。
- ・都市にハイテク関連の雇用が1つ創出されると、最終的にその都市の非ハイテク部門(サービス関連)で5つの雇用が創出される。
これに対して、伝統的な製造業の場合は、1件の雇用増が生み出す新規雇用は1.6件で、ハイテク産業の3分の1にも満たない。
- ・アウトソーシングは、イノベーション産業では雇用を生み出す場合が多いが、逆に従来型の製造業のほとんどでは雇用を消失させる。
良質な雇用と高い給料の供給源は、次第に、新しいアイデア、新しい知識、新しいテクノロジーを創出する活動に移ってきている。そうした変化は今後も続き、さらに加速するだろう。
それにともない、イノベーション能力に富んだ人的資本と企業を引き付けようとする国際競争が激化する。そして、人的資本がどこに集まるかは、地理と集積効果の影響をいっそう強く受けるようになる。
その結果、国が繁栄するか衰退するかは、その国の頭脳集積地の数と実力にますます大きく左右されはじめる。物理的な工場の重要性は低下し続け、その代わりに、互いにつながり合った高学歴層が大勢いる都市が、アイデアと知識を生む「工場」として台頭するだろう。
イノベーションを生み出すには、「高度な知識を持った人と人との交流」が鍵を握る。
- ・イノベーション産業では、誰と誰をマッチングするか、どのようなチームを組むかが大きく左右し、お互いの適性やニーズをきめ細かく把握する必要がある。
- ・インターネットの時代では世界中どこにいても仕事ができ、知識集約型産業もグローバルに分散すると言われているが、実際は特定の都市に集中している。
それは、イノベーションに必要なものは、創造的な人達との出会いにあるからである。
- ・イノベーション産業の中核は、工場ではなく都市である。
成功している都市は、イノベーション能力に富んだ企業と人材が集まり続け、いっそう強みを発揮するようになる。
- ・教育レベルの高い住民が多いと、地域経済のあり方が変わる。
住民が就くことのできる仕事の種類が増え、労働者全体の生産性も向上し、その結果、高学歴の働き手だけでなく、学歴の低い人の給料も高くなる。
マーケットデザインを成功させる3要素
スタンフォード大学 アルビン・ロス教授
- ・マーケットの厚み
- ・安全性
- ・混雑の解消
重要なのは、形ある製品をつくっているか、形ないものをつくっているかではない。
- ・大事なのは、製品にせよサービスにせよ、革新的で、ほかに類がなく、簡単には模倣されないものをつくっているかである。
- ・厳しいグローバル競争の中で高給の雇用を生み出す方法は、それ以外にはない。
イノベーション産業の「乗数効果」
アメリカ経済の産業構造は50年かけて少しずつ、従来型の製造業から、知識、アイデア、イノベーションに関わる産業へと転換してきた。
- ・1980年代から90年代前半にかけて、世界全体で生み出されるイノベーションの数は、毎年ほとんど変わらなかった。
- ・例えば、全世界で取得される新規の特許は、年間40万件程度で推移していたが、1990年代に入ると研究開発への投資が増え始め、2010年には80万件を突破している。
- ・2010年のアメリカでの特許取得件数の上位は、製薬、IT、化学・素材、科学機器、通信と続き、古いタイプの製造業は37位の陸上運送業と38位の金属加工と、下位になっている。
イノベーション産業は雇用を創出する。
インターネット産業の雇用数は、過去10年間で7.43倍に増加した。
- ・雇用の増加率は、同じ期間のアメリカ経済全体の数字の200倍以上
- ・2004年~08年のアメリカ経済の成長の20%を創出
ソフトウェア産業の雇用数は、この20年間で6.62倍に増加した。
- ・アメリカ経済全体の33倍
しかし、アメリカの全雇用数にイノベーション産業が占める割合は10%程度で、過半数を占める時代は来ない。
- ・最盛期の製造業ですら、30%以上を占めたことはない。
雇用の3分の2が「貿易不可能」な地産地消型のサービスであり、残りの3分の1が「貿易可能」なイノベーション産業である。
- ・雇用の大半は非貿易部門であるが国の経済的繁栄の牽引役にはなり得ず、経済が繁栄できるかどうかは貿易部門のイノベーションにかかっている。
貿易部門の産業で労働者の生産性が高まると、他の産業でも労働者の賃金水準が高まる傾向がある。
- ・ある都市でイノベーション産業の新たな雇用が生まれると、同じ都市で非貿易部門の雇用もつくり出される。
ハイテク産業の乗数効果
ハイテク産業で働いている人は非常に高給取りであり、地元のサービス産業に落とす金が多く、地域への雇用創出への貢献も大きい。
ハイテク産業は互いに寄り集まる傾向が強く、都市にハイテク産業が1社生まれると、将来さらに多くのハイテク産業が生まれる可能性が高い。
中小企業は小売業などの非貿易部門の企業が多くを占めており、その雇用が存続できるかどうかは、貿易部門に活力があるかどうかにかかっている面が多い。
雇用の創出に関しても、高所得層と低所得層の利害が完全に相容れないことはなく、経済を構成する要素は互いに結びついているため、あるグループにとって好ましいことは、他のグループにも好ましい影響をもたらす。
イノベーション産業は、労働集約的性格が強い。
- ・工場の場合は主役が機械であるが、研究所やソフトウェア企業で重要な役割を担っているのは人間である。
- ・インターネットが創出した雇用は、消滅させた雇用の約2.5倍
雇用の消滅が広い地域で起きているのに対し、雇用の創出はいくつかの地域に集中している。
教育か移民政策か
20世紀に人的資本が経済的繁栄の鍵を握っていたとすれば、21世紀にはその傾向が一層強まっており、創造的な起業家を引き付け育てる社会をつくりあげることが繁栄の鍵である。
イノベーションに取り組む企業に技能レベルの高い人材を供給し、しかも技能レベルの違いによる経済格差を縮小する方法は二通りがあり、どちらを歓迎するべきかは企業や個人の立場によって変わってくる。
方法1.教育を充実させることによる人的資本の増強
国内の子供や若者に対する教育を充実させることにより、社会の人的資本を増強する。
- ・短期的には、納税者に莫大な負担が及ぶ。
教育の質を向上させ、幅を拡大させるためには、相応の資金が必要となる。
- ・長期的には、国民の教育レベルが向上し、良質な職に就ける可能性が高くなる。
- ・アメリカでは、階級意識は強くなく「中流」意識が多いなどの自己意識はどうあれ、所得格差が拡大しており、それは地理的要因が大きく作用しているが、教育面の要因もある。
- 平均的な大卒者と平均的な高卒者の格差、特に普通の人達の間で取得格差が広がっている。
- 大卒者の働き手に対する需要が増える一方で、働き手の供給ベースが減速しているために、大卒者の賃金が押し上げられている。
方法2.政策を劇的に転換することによる移民を優遇
移民政策を劇的に転換し、大学卒と大学院卒の移民を優遇する。
- ・アメリカでは外国出身者は労働力全体の15%にすぎないが、アメリカで働くエンジニアの3分の1、博士号保有者の半分を占めている。
- ・すでにカナダやオーストラリアなどが同様の政策を採用している。
- ・税金をほとんど使うことなく、社会の人的資本を増強できる。
国民を教育して一人前に育てるのではなく、高度な人材を移民として受け入れれば、その人物を教育するための税金を使うことなしに人材を活用できる。
- ・移民をどれだけ受け入れるかではなく、どのような移民を受け入れるか。
- アメリカの場合、高技能の移民の流入は好材料といえる。
- 自国民と直接的に職を奪い合う関係ではなく、補完関係にある。
- 高技能の移民が加わると企業はしばしば投資を増やすので、技能レベルの低い人達の生産性も高まる可能性がある。
- 高技能の移民は、地域経済に大きな波及効果を生む場合が多い。
20世紀の大半の時期、よい仕事と高い給料は、目に見える製品をつくることによって生み出されてきた。地域間の競争は、工場の建設や機械の導入のための投資をどれだけ集められるかをめぐるものだった。
(略)
しかし、21世紀は違う。
よい仕事は、新しいアイデア、新しい製品、新しいテクノロジーを創出してこそ生み出せる。
工場や機械のような物的資本ではなく、人的資本をどれだけ引きつけられるかをめぐって、競争がおこなわれるようになるだろう。そのような時代には、場所の重要性がかつてなく強まる。人は互いにコラボレーションするとき、最も創造性を発揮できるからだ。
まとめ(私見)
著者は、アメリカや日本のような国は、イノベーション産業に非常に強い比較優位を持っていて、何十年先まで先頭を走り続けるだろうと語っています。
本書では、イノベーション産業は、コンピュータとソフトウェアが深く関係している分野だけではなく、「新しいアイデアと新しい製品を生み出していればイノベーション産業である」としています。
イノベーション産業
= 他の人がまだつくっていない製品やサービスを創出
このような産業にお金が流れ込み、それは企業の収益や国の誇りにとって大きな意味を持つだけではなく、良質な雇用を生み出す効果もあります。
一方、旧来の製造業の都市が衰退し、地域間の経済格差が拡大していく可能性もあります。
日本国内においても、様々な産業集積が各地でにありますが、歴史の過程から生まれた集積地も、行政機関が主導した場合もあります。
そこは、かつて高度成長期時代を担ってきた地域も近年生まれた地域もありますが、独自のコミュニティを形成し、時代の変化に対応して進化してきています。
21世紀を迎え、日本は少子高齢化が進展する中で、復活に向けたイノベーション創出の必要性が叫ばれています。
本書で、世界経済の変化が仕事の世界をどのように様変わりさせつつあるのかを確認することにより、地域社会にとって、企業にとって、そして個人(キャリヤや生き方)にとっての今後のあり方について考えていくうえで参考になります。
本書に関係する情報
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