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デザイン思考と経営戦略
奥出 直人(著)
出版社:エヌティティ出版(2012/5/10)
Amazon.co.jp:デザイン思考と経営戦略
日本のものつくり再生のために
イノベーションを生み出し、経営戦略に組み込む方法としての「デザイン思考」を、豊富な実践に基づき解説する。
本書は、慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)教授であり、株式会社オプティマ代表取締役の奥山直人氏が、「デザイン思考」のエッセンス、近代デザイン史を振り返りながら「デザイン思考」の意味を整理し、イノベーションを生み出す「デザイン思考」について解説した一冊です。
最近、注目されている「デザイン思考」ですが、「『デザイン思考』に基づく経営戦略」を、日本の多くの企業でなぜ実践できていないのかを明らかにし、実践していくための「デザイン思考ワークショップ」を詳細に解説しています。
このワークショップは、著者の15年にわたるコンサルティング経験に基づいおり、IDEOのデザイン思考とは違って技術の専門家、企業内の開発者や研究者にも有効なものに構成されています。
新たな市場を創造したい「企業家精神」旺盛な人、企業内でイノベーションを担っているリーダーや開発エンジニア、さらには「デザイン思考」について学びたいという人にとって、理論と実践を同時に理解することができる一冊です。
デザイン思考
創造の方法。
- ・顧客を発見し、顧客を満足させるために何を作ればいいか。
- ・コンセプトを生み出し、そのコンセプトをどうのように作るか、さらに顧客にどのように販売するのかまでを考えるビジネス志向の方法。
アイデアを生み出す方法でなく、アイデアをビジネスとして成功させる方法。
イノベーションを可能にするマネジメントの一つの方法。
日常世界を観察し、人々の工夫を発見し、そこにワクワクするファンタジーを持ったモノやサービスを創造し、それを再び日常生活に戻し、社会を幸せにする行為。
3つのプロセスが揃い、かつ融合した活動。
①フィールドワークに行き、人を観察し、その経験をもとにアイデアを作る。
②何を作ればいいかを考えたら、実際に工作をして簡単なプロトタイプを作る。
そして、人に使ってもらいながら有効性を確認して何度も作り直す。
③人間にとってよいことを実現するという意志をもって、その実現を必要な分野の人が複数でコラボレーションを行い、答えを得る。
イノベーションの課題に対するデザイン思考の適用
イノベーションの課題(榊原清則『イノベーションの収益化』)
「プロセスイノベーション」から「製品イノベーション」へ
「連続的イノベーション」から「不連続のイノベーション」へ
事業構造そのものを変化させるアーキテクチャーのイノベーションへ
デザイン思考の適用
製品イノベーションを超えて、プロトタイプ主義が破壊的イノベーションを生み出す。
破壊的テクノロジーからイノベーションを起こすためには、優れたリーダーが必要である。
リーダーは社会と技術と製品の問題を総合的に理解し、アーキテクチャーイノベーションを行う必要がある。
①顧客主導の製品コンセプトをデザインし、
②ビジネスモデルを考慮したアーキテクチャーを決定し、
③コアとなる部分を自ら設計して競争力を高める。
デザイン思考ワークショップ
行動原則
全プロセスを全メンバーで行う。
リーダーは、各メンバーの自由な発想が担保できるように工夫する。
日常と経験に同化する。
生活の現場に出かけ、仔細に日常生活を観察し、想定していなかったニーズを発見する。
作りながら考える。
スケッチを作りながらアイデアの手ごたえを確認して、作業を進める。
フィールドワークから「濃い記述」
顧客の気づいていないニーズを見当つける。
現実の生活が与えている制約を見つけ、民族誌を書き、分析する。
調査される人(インフォーマント)と調査者とが合意関係を築く(ラポール)
そのためには、調査者は相手を尊敬し、弟子入りする。
フィールドワークで観察したメモをもとに、覚えている全てを書き出す。
行動を客観的に記述するだけでなく、行動の意味や背景まで書き込んだ濃厚な民族誌。
解釈学的民族誌:真実であるかどうかではなく、自分が現象を解釈した主観的な記述。
5モデル分析
フローモデル
現場でだれが何をしているかを描く
時系列(シークエンス)モデル
注目するところについて、どのような順番で起こっているか詳細に描く。
アーティファクトモデル
どんな道具や装置を、どのように使用しているか描く。
物理(フィジカル)モデル
どのような場所、空間で作業をしているか描く。
文化モデル
行動の目的、人間関係、職場の環境など、観察から解釈してモデル化する。
ブレーンストーミング
たくさんのアイデアを出す。
ポストイットなどに書き出し、整理し眺め、皆で共有する。組み合せる。
メンタルモデルを作る。
何を目的として行動しているのかを、自分で解釈してモデルを作る。
コンセプトを形にする。
時間の流れに焦点を当ててプロトタイプを作る(ペルソナ・シナリオ法)
デザイン思考ワークショップ(中級編)
第1回 チームを作る
ステップ1.自己紹介
ステップ2.哲学とビジョンを作る
第2回 誰のために作るのかを考える
ステップ3.ステークホルダーを決める
ステップ4.技術の棚卸しを行う
ステップ5.フィールドワーク計画を立てる
第3回 解釈学的民族誌
ステップ6.フィールドワークの準備をする
ステップ7.濃い記述を書く
ステップ8.フィールドワーク・マスターの記述をする
ステップ9.フローモデルを描く
ステップ10.シークエンスモデルを描く
ステップ11.アーティファクトモデルを描く
ステップ12.物理モデルを描く
ステップ13.文化モデルを描く
第4回 メンタルモデルを作る
ステップ14.ターゲット・ペルソナを作る
ステップ15.メンタルモデルを作る
第5回 創造性のジャンプ ― アイディエーション
ステップ16.ポスト・イットによるブレーンストーミング
ステップ17.紙粘土によるブレーンストーミング
ステップ18.実物大モデルによるブレーンストーミング
第6回 コンセプトを作る
ステップ19.コンセプトを作る
ステップ20.コンセプト・チャックリスト
第7回 ペルソナを作る
ステップ21.コンセプトが利用されるコンテキストに関係する人々を明確にする
ステップ22.コンセプトを利用する具体的なユーザーを明らかにする
ステップ23.複数のペルソナを作る
ステップ24.スキットを行う
第8回 スケッチからプロトタイプへ
ステップ25.コンセプトの詳細化
ステップ26.ビデオスケッチ
第9回 フレームワークを作る
ステップ27.コンセプトを詳細化する
『まえがき』からの引用
市場で人気もなく、そろそろ生産も打ち切られるかもしれない日本のガラパゴス携帯電話や液晶テレビを開発している人たちは、実は凄い技術もセンスも持っている。
ハードだけではなくてソフトも同じだと思う。
だが、それを束ねる方法、これをメタエンジニアリングと呼ぶが、それを評価するというか尊敬する枠組みが、会社の内部にない。
メタエンジニアリングを提供していたかつてのイノベーションの神様たちはどこに行ったのだろう。
著者は、これまでのコンサルティングの中で、「デザイン思考」を戦略として採用されなかった経験もあったそうです。
私にも、私自身がプロジェクトリーダーとして活動した時、またコンサルティングとしてお客様をご支援していた時、偶然ですが本書のワークショップを部分的に取り組みましたが、経営層の理解が得られなかったこともありました。
私の場合は、承認するに値する提案ができていなかったということかもしれません。
かつての成長期時代やその延長線上できた経営層の多くは、オペレーションには強く、その方が結果予測もある程度定量的に示すことができますので、経営判断しやすいのも事実かと思います。
しかし、
市場ニーズは多種多様で変化も激しく、グローバル化が進展し、新興国が台頭するなど、現在の日本企業を取り巻く環境は厳しくなる中、
企業内での社内政治やセクショナリズムの横行、失敗を許さない風土など、未だに様々な問題を抱えている企業も少なくありません。
これまでのように、机上で作成した仕様書で協力会社に発注(アウトソーシング)して外部技術に依存していたり、既存のマーケティング基準で判断していたりするのではなく、もう一度「モノづくり」の原点を見直し、全体プロセスをマネジメントする「イノベーションの新しい手法と実践体制」を確立すべきです。
「デザイン思考」が全てではないと思いますし、そのプロセスを企業内で定着させるには時間もかかり、実践していくにはリスクも伴いますが、イノベーションを行う方法のひとつとして取り組んでいく価値はあると思います。
参考
著者の前著
『デザイン思考の道具箱 イノベーションを生む会社のつくり方』
奥出 直人、早川書房 (2007/02)
・スタンフォード大学d.schoolによる公式ガイドブック(翻訳版)
・「デザイン思考」を取り入れたビジネスモデルガイドブック(書籍)
『ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書』
アレックス・オスターワルダー、イヴ・ピニュール(著)、翔泳社 (2012/2/10)
その他
『リーン・スタートアップ(Lean Startup)』
エリック・リース(著)、日経BP社 (2012/4/16)
『Think Simple アップルを生みだす熱狂的哲学』
ケン・シーガル(著)、NHK出版 (2012/5/23)
デザイン思考と経営戦略
奥出 直人(著)
出版社:エヌティティ出版(2012/5/10)
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