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模倣の経営学 偉大なる会社はマネから生まれる
GOOD IMITATION to GREAT INNOVATION
井上 達彦(著)
出版社:日経BP社(2012/3/8)
Amazon.co.jp:模倣の経営学
本質的に優れた経営は、時代を超え、業界を超え、伝承され、発展していく。
手本を超えるためのモデリング
模倣は独創の母である。
ピカソも、最初は真似る、見倣うというところから出発した。
クロネコヤマトの宅急便のアイデアは、牛丼の吉野家から生まれ、
トヨタ生産管理システムは、スーパーマーケットからヒントを得て生まれ、
スターバックスはイタリアのエスプレッソ・バーを、ドトールはフランスのカフェをモデルにした。
しかし、本質的な部分を倣いつつ、自らの脈絡に合わせて変更を加えていき、独自性を生み出した。
「学ぶ」の語源は「真似ぶ」にあり、模倣によってはじめて実現する。
しかし、見せかけの模倣ではなく、徹底的に根本から始める。
本書は、早稲田大学商学学術院の井上達彦教授が、現在の成功企業の創業経緯を紹介しながら、創造性が生まれるロジックにまで立ち入り、模倣からイノベーションを起こすための作法と心得について提言した一冊です。
単なる「モデルをパターンとして学ぶ」「形式論理的に逆転させる」「各種の発想法で組み合わせる」などいった手順を解説しているのではなく、
「イノベーションのための模倣」と「競争への対応のための模倣」とを区別して、企業のモデリング及びその実践方法について解説しています。
・製品レベルの模倣ではなく、仕組みに焦点を当てている点
・ビジネスモデル分析の枠組みとなる「P-VAR」を用いて、事業創造や変革を成功さ
せるための5ステップを解説している点
・モデリングを4要素(模範教師か反面教師か、社外か社内か)に分けて、留意する
ポイントを解説している点
など、先行理論との比較、多くの事例で検証しながら、著者の論点の有効性を解説しているところに本書の特徴があります。
起業や事業を変革しようとしているリーダーはもとより、ビジネスモデルやイノベーションについて網羅的に学習したい方々には、ケーススタディを通して論理を整理するのにお薦めの一冊です。
本書からの引用
良くできた仕組みを目のあたりにすると、「うちもあんな風にできたらな」と思うものだ。
逆に、ひどいビジネスに対しては、「あんな風になりたくない」と感じてしまう。しかし、大切なのは、そこから何を学ぶかである。
漠然と「あんな風」と感じていても話は前には進まない。
そのお手本の「何を」倣おうとしているのかを明確にしなければならない。
事業の仕組みにおいて、「あんな風」というのが、一体どこからどこまでを指すのかを考えなければならない。
そもそもの目的(Why)によって、
この(Where)、誰の(Who)、何を(What)、いつ(When)、どのように(How)模倣すべきか
模倣には、何を「お手本」にするかが重要
参照すべきは同業他社ばかりではない。
異業種、海外、過去など、内容的にも地理的にも時間的にも、自らの事業から遠いところからもモデルを見つけることができる。
そのためには、選び方が大切である。
仕組みをモデリングして自分のものにするための工夫
正転模倣:遠い世界からそのままモデリングする戦略
①単純にそのまま持ち込む、②状況に合わせて作り替える、③新しい発想を得る
反転模倣:近い世界から反転させてモデリングする戦略
ビジネスモデル分析の枠組みとなる「P-VAR」
・Position:競合ポジション、顧客セグメント
[仕組みのピラミッド]
・Value:価値提案
・Activity:鍵となる活動、成長エンジン(投資活動)、収益エンジン(回収活動)
・Resource:鍵となる経営資源、チャネル、顧客との関係性、パートナーシップ
事業創造や変革の5ステップ
①自社の現状を分析する → SWOT分析
②参照モデルを選ぶ → 広い範囲で探す
③あるべき姿の青写真を描く → 理想と現実とのギャップ解消がイノベーション
④現状とのギャップを逆算する → 青写真を描き直し、必達目標と実行プラン
⑤変革を実行する → 実行メンバーの納得
モデリングの4要素と留意点
正転模倣(肯定) 反転模倣(否定)
社外(他社) 単純模倣 反面教師
→脈絡の共通性 →同業他社(失敗)に学ぶ
社内(自己) 横展開 自己否定
→心理的抵抗 →自己の失敗と向き合う
青写真を生み出すモデリング
・複眼モデリング:模範教師と反面教師の両面から考察することで確信が持てる。
・守破離モデリング:徹底的に倣い、その上で「お手本」の教えを破り、後に自らの
モデルを確立する。
守破離:師が守を教え、弟子がこれを破り、両者がこれを離れて新たに合わせ合う
→ 参照モデルとの矛盾を明らかにし、解消する。
①参照事業を選んでP-VARで分析、②正転か反転かして価値を提案、
③理想的活動と必要資源を描写、④理想と現状の矛盾を確認、⑤高次元で統合
模倣の目的に合わせたモデリング戦略
・業界:大きな潮流を見極めて対象を選ぶ
・対象:対象に棲み込むことで模倣すべき部分がわかる
・自分:経験を積み、常に意識していれば、一部を見て全体がわかる
1.競争への対応:製品・サービス
①迅速追随:同業他社を対象に、周到に分析(リバースエンジニアリング能力)
②後発優位:豊富な経営資源を有し、成長期のタイミングで参入
③同質化:負けないための模倣、横並び、守りの姿勢
2.イノベーション:製品・サービスとビジネスモデル
①正転模倣、②反転模倣
P-VARを用いた逆転のモデリング
=「前後(統合か分離か)、左右(競争か協調か)、上下」に喩える逆転の方法
・前後:開発からアフターサービスに至る垂直チェーンにおける逆転の発想
・左右:競争相手や補完的生産者における逆転の発想
・上下:新市場創造か低価格破壊による競争における逆転の発想
ビジネスモデルの捉え方:先行理論との比較
・狭義(ジョアン・マグレッタ):収益の上げ方のみに注目
・広義(ヘンリー・チェスブロウ):取り囲む生態系や競争戦略までも包括
これに対し、本書で紹介されているP-VARは中間的な範囲
P-VARと同じ範囲でも、『ビジネスモデル・ジェレーション』では9要素に、
『ホワイトスペース戦略』では4要素に、さらに『プランB』では5要素に
分解しています。
私はMBA授業の中には、ケーススタディの有効性について懐疑的に思う授業もありました。
企業の過去の取り組み(成功事例や失敗事例)をひも解いても、これからの事業戦略に役立つのか?
第三者的に考察していては、分類論や分析論に留まり、何の学習にもなりません。
「そこから何を考え、自分だったらどうしたか。
それは、今の自分が担当している事業で、どう役立てられるのか」を考え抜く。
疑似体験の中心人物が自分であり、当事者意識に棲み込む。
疑似体験的な学習の重要性も気付かせて頂いた一冊でした。
参考
・著者の研究論文:早稲田大学アジア・サービス・ビジネス研究所
ビジネスモデルに関係する書籍
・アレックス・オスターワルダー、イヴ・ピニュール(2012.2.10)
『ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書』 当サイトで紹介
・ジョン・マリンズ、ランディ・コミサー(2011.8.25)
『プランB 破壊的イノベーションの戦略』 当サイトで紹介
・マーク・ジョンソン(2011.3.29)『ホワイトスペース戦略』
・ブランドにおける差別化(POD)と同質化(POP) 当サイト(2005.5.10)
「お~いお茶」「ヘルシア緑茶」「伊右衛門」の3ブランドで比較
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