書籍 9プリンシプルズ(Principles) 加速する未来で勝ち残るために/伊藤 穰一(著)

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9プリンシプルズ
加速する未来で勝ち残るために
Joi Ito & Jeff Howe, Whiplash: How to Survive Our Faster (Grand Central Publishing, 2016)

伊藤 穰一(著)、ジェフ・ ハウ(著)、山形 浩生(翻訳)
出版社:早川書房(2017/7/6)
Amazon.co.jp:9プリンシプルズ 加速する未来で勝ち残るために

 

9principles

めまぐるしく変化する現代を生き抜くための、「9つの原理(ナイン・プリンシプルズ)」とは?

MITメディアラボ所長が贈る、21世紀のユーザーズマニュアル

 

 

本書は、ベンチャーキャピタリストとして世界的に知られ、MITメディアラボの所長でもある著者が、MITメディアラボなどでの経験を通じて得た、人類の未来に対する数多くの知見と示唆が含まれた一冊です。

本書には、ビジネスの「ゲームのルール」が激変し、イノベーションのペースの速さについていくために不可欠な原理が記述されていますので、ビジネスリーダー方々にとって、新たな論理を考える際の強力なガイドとなります。

 

本書は、著者がMITメディアラボなどでの経験を通じて得た、新しい時代に通用する理念、哲学、行動原理などについて、9つの原理として整理しています。

これらの原理は、世界の新しいオペレーションシステム(OS)を使うにあたっての有益なヒントだと思って欲しい。

この新しいOSは、過去数世紀に使ってきたものを少しバージョンアップしたようなものじゃない。新しいメジャーリリースだ。

そしてまったく新しいOSはすべてそうだけれど、みんな慣れるまでに時間がかかる。

ちがう論理にしたがって動くし、説明マニュアルもない。
というのも、開発者たちがマニュアルを作ったとしても、それを手に入れる頃にはもう古くなってしまっているはずだから。

 

時代を定義づける3つの条件

絶え間なく変化する現代の特徴は、「非対称性」「複雑性」「不確実性」の3つで定義することができる。

非対称性

  • ・アナログ時代には、ある種の粗野なニュートン物理学が人間活動の領域で力を持っていた。
    歴史的な力は、同じ規模と強さを持つ力で対抗するしかなかった。
  • ・インターネットと急速に改善するデジタル技術が、善いことのためにも怪しげなことのためにも使える形で戦いの場を均等化した。
  • ・もはや費用と便益が規模に比例するとは想定できないどころか、その正反対が事実である。

複雑性

  • ・経済は、複雑性の古典的な印を全て備えている。
    少数の単純なルールに従う、大量の個人パーツで構成されている。
  • ・複雑性の量又は水準は、4つの要素で左右される。
    異質性、ネットワーク、相互依存性、適応性

不確実性

  • ・人類史上の大半では、人類の成功は正確な予測を創り出す能力と直結していた。
  • ・しかし複雑性の時代では、予測外の発展がほんの数日でゲームのルールを変えてしまう。

単に「非対称性」や「不確実性」、「複雑性」という条件を観察するだけではなく、「それについてどうするか」という処方箋を出していかなければならない。

無知を認めることが、将来の出来事を予測するという無駄な目標のために資源を支出するより、戦略的な優位性を持つ時代に突入してきている。

しかし、軍事、生命科学、技術、ニュースメディアといった広範な分野の人々が先駆者として、複雑性と予測不能性を組み込んだ組織を創り上げ始めており、そこには共通点は多い。

 

現代を生き抜くための「9つの原理」

原理1.権威よりも創発(Emergence over authority)

自然発生的な動きを大切にする。

かつては、知識が生産され拡散されるプロセスは、きわめて線形的であった。
しかし現在は、そのようなシステムは退場しつつあり、新しいシステムの「創発」が台頭しつつある。

創発とは、大量の小さいものが単純な選択をおこなうだけで、部分の総計をはるかに上回る能力や知性を発揮する現象のことである。

合成生物学の台頭が示すのは、やがてそれが標準的な活動手順と呼ばれるようになることである。
権威に対する創発の勝利は、知識が生産され広まる方法に関する地殻変動的なシフトとなる。

創発的なシステムは、そのシステム内のあらゆる個人がグループに役立つ独自の知性を持っている。
その情報は、人々がどんなアイデアやプロジェクトを支持するかを選択するとき、あるいはそうした情報を得てイノベーションに使うときに共有される。

新しいツールが広く提供されたことにより、イノベーションのための費用は激減した。
かつては大企業や学術研究機関でしか手に入らなかった情報も、今やオンライン講義や市民コミュニティで見つけられるようになった。

クラウドファンディングサービスが、資金調達のためのプラットフォームを構築したことも大きい。

 

原理2.プッシュよりプル(Pull over push)

自主性と柔軟性に任せる。

人的資源の最高の使い道は、必要なものだけを、必要とされるときにだけ使って、人々をプロジェクトに引き込むことであり、タイミングが鍵となる。
プルは、必要なものを、まさに必要とされるときにだけ使うことである。

引き込む戦略は、透明性と組織から出入りする双方向の情報流を必要とする。

広範な弱い絆を持つ人々は、ネットワークから資源をプルする機会も多く、インスピレーションを引き出す。
一方、強い絆は、人々のパフォーマンスに大きな影響を与えるため、複雑な問題解決に取り組むチームにおいては重要である。

資源や情報をため込んで、全てをコントロールし、全てを計画し、メッセージや命令を中心から周縁にプッシュするかわりに、イノベーションは周縁で起こるようになっており、資源は必要に応じてプルされる。

「プッシュよりプル」では、意識を開き、その場にいて探究と好奇心を通じた広いネットワークを開拓できなければならない。
様々な関心事のポートフォリオを持ち、機会や脅威に対して都度素早く対応できる能力を持つ必要がある。

 

原理3.地図よりコンパス(Compasses over maps)

先のことはわからないので、おおざっぱな方向性で動く。

地図は、その土地の詳細な知識と最適経路を示してくれるが、コンパスは柔軟性の高いツールで、利用者が創造性と自主性とで自分の道を見つけなければならない。
急速に変化し、予測不能な世界では、高いコストをかけて地図を作るよりは、コンパスを重視することで、別の道を探求したり、回り道を有効に使ったり、予想外の宝物を見つけたりすることができる。

成功への鍵は、ルールや戦略ではなく文化である。
コンパスをセットするのは、自分たちがつくり出した文化を伝えることである。

 

原理4.安全よりリスク(Risk over safety)

ルールは変わるものだから、過度に縛られないようにする。

イノベーションの費用が下がるにつれて、リスクの性質が変わり、安全よりもリスクを取りやすくなった。
損失を減らそうとするよりも、勝ちを増幅するためにチャレンジしやすくなっている。

アジャイルであり続け、回復力を維持できるように、リスクを活用し、環境の変化に応じて自分たちの戦略や製品の力点を変える。

イノベーションの費用が下がり、多くの人々が新製品や新ビジネスを取り入れるようになると、イノベーションの中心は周縁にシフトする。

リスクのないものはない。
必要なのは、何がリスクで、その確率がどの程度なのかを理解することである。

 

原理5.従うよりも不服従(Disobedience over compliance)

敢えてルールから外れてみることも重要である。

不服従は、しばしばルール準拠よりも大きな見返りをもたらす。
イノベーションには創造性が必要で、創造性は制約からの自由を必要とする。

創造性を要求する環境で成功する人々は、疑問を述べ、直感を信じ、ルールが邪魔なときにはルールに従うのを拒否する。

成功する組織は、不服従を奨励し受け入れ、外れ者や批判を必要なものとし、不可欠なものと見る文化がある。
不服従は、批判とは違うものと認識することが重要である。

 

原理6.理論より実践(Practice over theory)

あれこれ考えるよりも、まずやってみる。

変化の激しい状況においては、実際にやって即興するのに比べ、待って計画することの方が費用がかかる。

「教育より学習」が、「プッシュよりプル」と出会うところで、費用に応じてネットワークから必要なものをプルする力を与える。

金銭的報酬や圧力は、漸進的又は線形の問題を解く速度は高めるが、創造的な解決策を思いついたり、非線形な未来を創造したりするときには足を引っ張る。

 

原理7.能力より多様性(Diversity over ability)

ピンポイントで総力戦をしても外れるので、取り組みもメンバーも多様性を持たせる。

才能と仕事とをマッチングさせる方法は、より能力があるものを難しい仕事に割り振ることではなく、その仕事に必要とされる認知技能に適性を示すものを見つけることである。

伝統的な企業は、生産者と消費者との間に境界を持っているが、新たな企業は、アイデアや創造性や戦略決定といった部分において協働的に活動する。

 

原理8.強さより回復力(Resilience over strength)

ガチガチに防御を固めるよりも、回復力を重視する。

強さより回復力を示す古典的な例は、葦と樫の物語である。

  • 伝統的な大企業は樫の木のように、失敗に対して自分たちを強固にしてきた。
  • リスクより安全を重視し、プルよりプッシュ、創発より権威、不服従よりルール従属、コンパスより地図、システムより物体を重視した。

長期では、強さよりも回復力を重視することで、組織がもっと活気ある、堅牢で、ダイナミックなシステムを発達させる。

防衛的なゲームをプレイするときの重要な要因は、攻撃者よりも素早く動き、予測不能になることである。

 

原理9.モノよりシステム(Systems over objects)

単純な製品よりは、もっと広い社会的な影響を考える。

責任あるイノベーションは、速度と効率性以上のものを必要とする。
新技術の総合的な影響についての絶え間ない検討を求め、コミュニティや環境のつながりの理解も要求する。

顧客の体験から出発して、そこから技術にさかのぼらなければならない。

 

世界は根本的な構造改革のただ中にある。

われわれは、古い条件付けにあてはまらないから見逃しかねないものを、見て適用する能力をしっかり身につけなければならない。

われわれは、世界が完全に変わり、そして人工知能により存命中にまたも完全に変わるかもしれないフェーズを通過しつつあるのだ。

人類は根本的に適用できる。われわれは、適応性よりも生産性に注目した社会を創り上げた。

本書の原理は、柔軟になって、新しい役割を学び、それがもう機能しなくなったら捨てられるようになるよう手伝ってくれる。

 

まとめ(私見)

本書は、個人や組織が、課題の多い不確実な未来を乗り切るための9つの原理を解き明かしています。

根底にある信念は、時間をかけて発達するものであり、なかなか目に見えてこないものですが、現在激しい転換期がやってきているのは事実だと思います。

本書では、ムーアの法則とインターネットという二つの還元不能な事実に基づいて、根底レベルから世の中が変わっていることを指摘し、それらに対応していくための原理を示してくれています。

現在の状況を、「激変の革新社会」と見るのか、「あまり生産性成長の起きていない停滞した時代」と見るのか、どちらの視点で物事を考えるかによって変わってきます。

そのためにも、技術や社会変化のもたらす可能性への感度を磨き、変化の可能性を常に考え、可能性実現に向けて自分も関わっていくことの重要性を提言しています。

「多様な可能性をどのようにして生み出し、育てるか」、「新たな変化を見出し、いかに参加していくか」、様々な変化に潜む可能性を感じ取り、それらに関わっていくことの大切さを気付かせてくれます。

MITメディアラボの原理は、教育よりも学習を重視することにあるようです。

「教育は他の人にしてもらう」ことであり、「学習は自分が自分にやる」こと

本書の中にも、その主張が随所に見えてきますが、「学習は自分でやること」として、これからの時代を生き抜いていくためのガイドとなる一冊でした。

 

目次

はじめに

1.権威よりも創発(Emergence over authority)

2.プッシュよりプル(Pull over push)

3.地図よりコンパス(Compasses over maps)

4.安全よりリスク(Risk over safety)

5.従うよりも不服従(Disobedience over compliance)

6.理論より実践(Practice over theory)

7.能力より多様性(Diversity over ability)

8.強さより回復力(Resilience over strength)

9.モノよりシステム(Systems over objects)

結論

 

参考

MIT Media Lab

Joi Ito
著者のブログ

山形浩生伊藤穰一「面白いものは探しに行くのではなくて、フィルターを外すと見えてくる
2017年8月1日 WIRED.jp

 

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