書籍 グローバル・エリートの時代 個人が国家を超え、日本の未来をつくる/倉本 由香里(著)

書籍 グローバル・エリートの時代 個人が国家を超え、日本の未来をつくる/倉本 由香里(著)

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グローバル・エリートの時代 個人が国家を超え、日本の未来をつくる

倉本 由香里(著)
出版社:講談社(2012/6/19)

Amazon.co.jp:グローバル・エリートの時代

2013年、先進国と新興国の経済規模が逆転。

日本人の強みを活かして「失われた20年」を終焉させる新しいグローバル化とは何か?

日本企業の現場でグローバル化をリードする著者が示す、グローバル人材を育成し、組織を変革するためのバイブル。

本書は、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院にてMBAを取得後、コンサルティングファームで企業のグローバル化を支援するかたわら、グローバル化、技術経営、イノベーションについて研究を続けている著者が、日本人だからこそできるグローバル化、「組織のグローバル化」とそれを牽引する「グローバル・エリート」について提言した一冊です。

現在は「グローバル化の第三の波」の中にあり、その対応策として

  • 経営判断に必要なセンスや判断力を持つ各国出身の人材を活用し、各国のニーズに合わせてイノベーションを起こせるような組織を作ることの必要性を解いています。
  • 2025年の組織のグローバル化を実施した架空企業を著者が想定し、その企業の特徴を整理しながら、グローバル組織が存在するための日本社会について考察し、加えてグローバル組織を構築するパターンを2つに分類して成功要因を整理しています。
  • 組織のグローバル化に伴い「個人のグローバル化」に着目し、「グローバル・エリート」の必要性、その資質やスキルを解説し、輩出するのは日本は有利な国であることを提言しています。

グローバル化に直面している企業のリーダーに加え、グローバル環境の中で業務を遂行している方々にとって、事業のグローバル展開に当たっての組織作り、その中で活躍していくための人材像について考える際のヒントとなります。

また、「グローバル化の第三の波」であることの要因、企業のグローバル化とその中での日本人の役割や取り組みの方向性などが繰り返し記述されていて、少しくどいところもありますが、グローバル化の概念を整理する上でも役立ちます。

本書「第七章」からの引用

私は「グローバル・エリート」という名称の「エリート」の部分に、日本企業のグローバル化を進め、日本の社会を変えて、経済が再度成長に転じるために必要な人々という意味合いを込めた。

グローバル化の波

第一の波:1880~1979年、先進国への展開が中心
  • 営業やマーケティングなど、販売に関わる機能のグローバル化
  • 海外に販売、マーケティング、物流機能を設け、自ら顧客を直接獲得して販売
第二の波:1980~1999年、先進国・新興国への展開
  • 生産など労働集約的な機能のグローバル化
  • 生産機能を海外消費地に移転し、現地雇用を確保することにより貿易摩擦を回避
第三の波:2000年~、新興国への展開が中心
  • 経営や研究開発なども含む企業活動全体と組織のグローバル化
  • 新興国を中心とした人材を組織内の中核で活躍させる「質」の変化、組織内に日本人以外の人材が増加する「量」の変化

世界市場の中心は新興国

経済規模(IMF予想)
  • 2010年:G7は新興国トップ7の約2.5倍
  • 2030年:新興国トップ7がG7を逆転
  • 2050年:新興国トップ7がG7の2倍以上
新興国向け製品の共通した特徴
  • 不必要な機能や性能を削ぎ、コストを圧倒的に安くする。
  • 先進国の過去の技術を経由せず、より便利で最新の技術を導入する。
  • インフラが整備されていないことを前提とした製品やサービスを開発する。
  • エネルギーを使わずCO2を出さない「持続的な」製品開発を行う。

グローバルな組織の要件

  • グローバルに成長の基軸をおくことを覚悟し、戦略を構築する。
  • グローバル化のための手段を明確にし、意思決定(割り切り)する。
  • グローバル成長をローカル部門と別立てにし、グローバル化を優先する組織体制にする。
  • グローバル化を促進する組織運営の仕組みを構築する。
  • グローバル人材を登用し、育成の仕組みを構築する。
  • 企業理念などの共通価値観を全社員に浸透させる仕組み
  • コミュニケーション手段(パターン)をグローバルで統一する。
  • 研究開発のグローバル化(製造業)
    最先端の技術開発は先進国、新興国ではアプロケーションイノベーションに特化(フルーガルイノベーション)、新興国で生まれた製品を先進国へ展開
  • 経営組織のグローバル化
    多国籍の人材市場から、業界と地域に詳しい人材を登用する。

グローバルな組織になるための組織構築パターン

自力による成長型(GEやコマツ)

自社の持つ人材や技術などを他国に送り込み、自力で事業を構築し、拡大するのが成長の中心である。

  • 企業理念の明確化、社員に徹底する仕組みの確立
  • 現地人材を育てて活用、企業理念の統制の利いた現地化の仕組み確立
  • 不足する経営資源獲得のための戦略的な買収案件の見極め
  • 新興国発イノベーションの確立と先進国への展開
買収による拡大型(JT)

規模の大きな企業を買収することで拡大するなど、グローバル成長のベースを他力に置いている。

  • 経営幹部による素早い意思決定
  • 社内でのスキルを持った人材の集結とスキル展開
  • 企業理念や企業文化の意識的な醸成と価値観の徹底
  • 過度なほどのコミュニケーションによる戦略共有
  • 適切なガバナンスと権限委譲

グローバル・エリート

  • 経営判断に必要なセンスや判断力を持つ新興国出身の人材を活用し、新興国のニーズに合わせてイノベーションを起こせる組織を作り、日本と新興国とを結びつける橋渡しの働きができる。
  • 英語を話し、グローバル化した多国籍企業の中で、様々な文化的背景を持つ人材の異なる価値観や考え方を受容しながら、彼らを活躍させられる運営能力を持つ。
  • グローバル環境で集団のリーダーとなる人材「グローバル・リーダー」層に加え、より幅広くグローバル環境で仕事をして活躍できる。

グローバル・エリートに必要なスキル

質なるものを理解し、受け入れる力
  • 1.文化的背景や価値観の違いを感じる「感受性」
  • 2.異なる価値観や行動への「理解力」
  • 3.多様性を受け入れ、やり方を変えられる「柔軟性」
  • 4.異質な環境で自分が貢献する「オーナーシップ」
物事を組み立てて、前に進ませる力
  • 5.ゼロからトップダウンで作る「ゼロベースの構築力」
  • 6.違いを乗り越えて問題解決を行う「問題解決型思考」
適切なコミュニケーションにより人を動かす力
  • 7.積極的かつ論理的な「説明力」
  • 8.しつこくコミュニケーションをする「粘り強さ」

・日本人が得意とするスキル:感受性、理解力、柔軟性、問題解決型思考
・日本人が不得意:オーナーシップ、ゼロベース構築力、説明力、粘り強さ

日本がグローバル・エリートを輩出するのに有利な国

グローバル化の形
  • プッシュ型:欧米 = 自分たちのやり方を相手に採用させる
  • プル型:日本 = 「和」を重視しチームワークを尊重する
  • 効果的な方法 = プル型(スキル:理解力、柔軟性、問題解決思考)
    新興国の消費者ニーズを取り込み、そこからイノベーションが生じる仕組みにして、優秀な新興国の人材が能力を活かせるようにする。
    そのために、文化的背景や商習慣などの条件を相手から引き出し理解し、双方にとって良い方法を模索する。
日本独自の強みを活かしたグローバル化の可能性
  • 製造技術を活かしたグローバル化
    高いチームワーク、目標達成に向けた問題解決能力、細部へのこだわり、完璧主義的な考え方、時間の正確性や約束を守る文化
  • サービス業における「おもてなし」のグローバル化
    生まれ育った文化、理解した者にしかできないマニュアル作りと指導

本書「第六章」からの引用

日本には世界的に必要とされる分野で、トップを走る技術がひじょうに多い。
これらの技術を普及させることで、世界で起こっている水不足やエネルギーなどの課題、貧困や病気などの問題を解決することができるだろう。
新しい技術を普及させるには、世界で技術を標準化し、その周りに産業を立ち上げていく必要がある。
そのために、世界中の企業や政府に働きかけて、技術の高さをアピールすると同時に、多様な分野のグローバルな企業を動かして事業開発をすることが必要となる。
これらを可能とするのは、さまざまなバックグラウンドの人々の架け橋として活躍できるグローバル・エリートと、彼らを十分に活用できる組織である。
彼らが日本企業で活躍することで、単に日本企業が経済的にメリットを得るだけでなく、日本発の技術により、世界中の人々の暮らしを豊かにしていくことができるだろう。

本書のテーマであるグローバル化、それを推進する人材像については、それらの専門分野の方々にとっては新たな気づきはないかもしれません。

  • 現在グローバル展開されている企業にとっては、経営及び組織やマネジメントはもとより、本書では語られてはいないサプライチェーンに至るまで、本書で提言されていることは既に実践または想定されていると考えています。
  • また、「グローバル・エリート」という言葉を使ってはいますが、必要な資質やスキルの本質はマネジメント分野では既に言われていることであると感じる部分もありました。

しかし、グローバル展開している国内外企業の成功要因、海外企業のマネジメントスタイル、グローバル化の今までと今後のとの違いなどわかりやすく整理されています。
さらに、今後新興国へのグローバル化にとっては、「プル型」展開の有効性、日本の強みである「製造技術」や「おもてなし」を活かしたグローバル化の可能性は興味深いものがありました。

グローバル化を日本企業の現場でリードしている著者の経験と多大な調査に基づいた本質究明の成果であり、日本企業のグローバル展開を成功させ、さらには日本発の技術で世界中の人々の暮らしを豊かにしたいという強い想いを感じました。

参考

・著者のブログ:My Life After MIT Sloan

・本書のfacebookページ

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