書籍 経営学を「使える武器」にする/高山 信彦(著)

書籍 経営学を「使える武器」にする/高山 信彦(著)

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経営学を「使える武器」にする

高山 信彦(著)
出版社:新潮社(2012/5/18)

Amazon.co.jp:経営学を「使える武器」にする

定石を極めてこそ革新がある。

東レ、みずほ、JR西日本など、数多の大企業を蘇らせた「伝説の研修」を初公開!

競争戦略を考え抜き、事業に魂を!

本書は、富士ゼロックス(株)に入社後、慶応義塾大学経営管理研究科に派遣され経営学修士号(MBA)を取得し、91年に(株)イナトクを設立以来、選抜人材を対象にした企業内ビジネススクールを企画・運営している著者が、経営学の基本概念の習得、経営戦略の策定から実践に至るまでの研修スタイルを紹介した一冊です。

本書で紹介されている著者の研修スタイルは、「経営コンサルタント」と「人材育成の講師」の中間あたりで、手法は「人材研修」にあるようです。

そして、その狙いは「経営改革」「事業革新」です。

以前、当サイトでご紹介した書籍「『雇われ社長』のプロの仕事術~企業再生請負人が実証してきた~」(2012年3月、ぱる出版)の著者である山田修氏も、自らの社長経験から導き出した実践的な経営改革方法を紹介されています。

経営戦略フレームワークというと、過去の成功(失敗)事例から、事象をパターン化、分類しただけ、利用者側もそのフレークワークを埋めるが目的化し、実践まで至らない場合も少なくありません。

著者の研修(授業)は、

  • 経営書を、受講者の事業に置き換えて綿密に読みこなすことを事前課題とし、
  • 授業における議論を通じて、「How」から「What」に問題意識を変え、市場を「魚群探知機」でセグメント化して、VOCの「何故」を繰り返す中で「真の顧客のニーズ」を見つけ、
  • 受講者と一緒に「正解の戦略」を探り、その成果を検証する。

というスタイルで、
受講者が策定した戦略案を実際に実行し、業績にどこまで貢献できたかをまとめた「卒業発表」で終わる
ところまで徹底しています。

全社及び事業の経営を担っているビジネスリーダー、さらには支援する方々にとって、「戦略」を自分たちの手で摘み取り、「使える武器」としての経営学を身に着けるきっかけとなります。

本書で紹介されている研修スタイルのポイントは、授業を通して「著者と受講者がとことん議論することで成果を生み出す」というプロセスにもありますので、本書を読んだだけでは自分で実践することは難しいかもしれません。

しかし、本書最後の「授業を乗り切るための虎の巻」で、戦略提言のたたき台としての「目次案」や各資料作成時の要点がも整理されていますので、戦略を策定する際の参考になります。

「おわりに」からの引用

私の研修の「What」は何なのでしょうか。
結論を言うと、戦略・論理(ロジック)と組織・人間・思い(パッション)のアンビバレッジ(二律背反)と乗り越えることだと思っています。

(略)

現実の経営の「場」からかけ離れた無菌状態のケーススタディで「ロジック」か「パッション」かという議論を繰り返しても、現実に応用可能な方法論が導き出されません。

本書は、大きく以下のような構成になっています。
経営理論を語るだけではなく、それを現場に落とし込み、実践し、成果をあげるまでの研修(指導)プロセスと要点が、事例を交えて紹介されています。

  • 準備編:経営学の基本を頭に入れる
    主な経営戦略論について、企業事例を紹介しながら解説
    戦略論の4つのアプローチ、経営戦略の体系、研修で成果を出しているSTP+4PとVOCの原則など
  • 実践編:経営学を使って、造船会社を変革する
    ツネイシホールディングス株式会社(本社:広島県福山市)への研修事例をもとに、著者の研修スタイルやポイント、受講者の取組みや成果などを詳細に紹介
  • 補 講:東レ、IR西日本、みずほの挑戦
    従業員が「n+2」の発想を持つことで何が起き、従業員が経営戦略を実践すると企業がどのように変わるのかを著者の研修事例から紹介
  • 授業を乗り切るための虎の巻
    戦略提言のたたき台としての「目次案」、各資料作成時の要点などを解説

「n」と「n+1」の違いは抽象化、概念化の差

  • 「n(一般従業員)」「n+1(係長)」「n+2(課長)」とマネジメントの階層が高くなるほど、具体的な事実を抽象化、概念化する能力が必要になる。
  • より大きな視点で「n」が気づかない視座を与える。それが「n+1」に求められる役割である。
  • 経営戦略とは経営の概念図であり、抽象図。
    トップが持つべき概念図や抽象図を「n+1」が理解すれば、解決できる問題の幅が広がる。

経営戦略論の4つのアプローチ

ポジショニングアプローチ、資源アプローチ、ゲームアプローチ、学習アプローチ

  • 利益の源泉が外重視か内重視か」「要因に注目するかプロセスに焦点を当てるか」という2つの切り口で分けられる。
    外重視:ライバルや消費者の変化に合わせて商品などを変える。
    内重視:競争優位に立てるように、自社内の組織や資源を変える。
    要因:勝つための成功要因を論理的、演繹的に積み重ねてきたもの。
    プロセス:要因がどのように形成されるか、その過程に注目する考え方。
  • 著者が重要視しているのは「ポジショニングアプローチ」、次に「学習アプローチ」
  • 魅力的なセグメントを設定して、そこでどう勝つかは戦略策定の初歩。
    5つの競争要因分析、バリューチェーン分析、3つの基本戦略の選択など

経営戦略の体系

本書では以下①~⑥の相関関係や内容について解説されていますが、ここでは各要素を列記しておきます。

特に、①ミッションでは花王や小林製薬、②全社戦略では大塚製薬及びソニーやキャノン、④外部環境では電気自動車、⑤経営資源ではキッコーマンなどを事例にあげて、簡潔に解説されています。

戦略策定=コンテクスト系

①広義のミッション:狭義のミッション、ビジョン、行動指針

②全社戦略

  • 要因・外部:プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)
  • 要因・内部:資源シナジー
  • プロセス・外部:戦略シナジー
  • プロセス・内部:資源のダイナミクスシナジー

③事業戦略 ⇒ 経営戦略論の4つのアプローチ

  • 要因・外部:ポジショニングアプローチ
  • 要因・内部:資源アプローチ
  • プロセス・外部:ゲームアプローチ
  • プロセス・内部:学習アプローチ

④外部環境:需要、競争、技術、法律、規制、グルーバル化など
 ①広義のミッションと②全社戦略、③事業戦略、それぞれに影響するものあり

⑤(内部環境)経営資源:人、もの、金、情報
 ①広義のミッションと②全社戦略、③事業戦略、それぞれに影響するものあり

戦略実行=コンテンツ系

⑥重点方針 ←→ 方針目標、数値計画
   ↓           ↓
 アクションプラン ←→ 進捗モニター

競争戦略のセオリー

経営資源の質と量によって競争戦略は変わり、それぞれについて市場目標、戦略方針、ドメインと市場ターゲット、政策帝石について整理されています。

経営資源   量:大       量:小

 質:高   リーダー      ニッチャー

 質:低   チャレンジャー   フォロワー

STP+4P:マーケティングのイロハの「イ」

組織全体がマーケティングの考えを身につけることで組織の戦闘力は大きく変わる。

  • S(Segmentation):狙う市場を決めるために市場を細分化する
  • T(Targeting):細分化した市場のどこを狙うか
     ⇒ 無差別型、差別化型、集中型
  • P(Positioning):狙った市場でブランドをどう位置付けるか
     ⇒ 重要性、独自性、優越性
     +
  • 4P:製品(Product)、価格(Price)、チャネル(Place)、販促(Promotion)

VOC(Voice of Customer:顧客の声)

  • 実際に顧客が何を必要とし、何を考えているのか、VOCを一つでも多く取る。
  • 学んだ経営学という武器が、自身のものになるためには「100人から話を聞いた」という事実がもたらす「自信」が必要である。
  • VOCの「何故」を何度も繰り返し、深く掘っていくうちに、真の顧客ニーズが見えてくる。

始めに「How」ありきでは駄目。「What」を探せ。

  • 「How」は「どのように~するか」という発想。
  • 重要なのは「そもそも何をするのか」を考えること。
  • 与えられた目的を達成するための「方法」を考えるより、「目的」自体を自分自身で摘み取る

業界セグメントという「魚群探知機」

「商品」と「買い手」のマトリクス

  • ポーターの「業界細分化」とその魅力度分析としての「5つの競争要因分析」を改良したもの。
    業界を自社が有利に戦えるカタマリ毎にセグメント(断片)化し、区分した「小さな業界」について分析する。
  • 宇宙からの目線、飛行機からの目線、鳥からの目線、ヒトの目線と、目線の高さを変えれば見える市場も変わる。
    「目線」を変えることで、どこを主戦場(市場)とするか、「競合は誰なのか」が明確になってくる。
  • セグメントを小さく切って「小さな島のガリバー」を目指す。

私も数年前にMBAを修得しました。
その授業の大部分が、基本理論の学習に加え、受講生各自が担当する事業に置き換えて応用することを課題として課せられていました。

ケーススタディによる学習も否定はしませんが、様々な理論を学び、自分が担当する事業の変革と遂行に応用するために、自分が考え抜いた成果物を発表し、受講者全員で議論していくスタイルは、真に実践可能なものになったと実感しました。

私は、個別の企業向けにITを切り口に同様の研修を実施していますので、著者の「企業内ビジネススクール」の研修スタイルに共感しました。

「理論」と「想い」、実践を通して得た「経験知を累積的に進化」させる。

「実践編」14時間目からの引用

小賢しい理屈や論理はいらないんです。大事なのは、地に足のついた数字。「この市場が有望だ」と生徒が言えば、私は尋ねます。
「有望というのなら、全体の市場規模はどれだけあって、どれだけの受注が見込めるのか」
それでも答えて来たら、重ねてこう尋ねます。「具体的には、どこが買ってくれるのか」。
企業名を答えて来たら、さらに突っ込みます。「誰が買ってくれるのか。君はその決裁権のある人の名刺を持っているのか」。

本書で紹介されている経営理論は既知のものばかりかもしれませんが、研修を通じた著者の取り組みへの志を垣間見ることができました。

  • 数多くある経営戦略に血を通わせ、市場の実態に即した事実を自らの足で集め、仮説と検証を繰り返して、戦略に落とし込む。
  • その結果として、本当に使える経営戦略の策定と実行能力が身に着く。

参考

著者の会社:株式会社イナクト(ENACT)のサイト

本書「実践編」で紹介された企業:ツネイシホールディングス株式会社

 

著者が研修課題として使用されている書籍
なお、本書では書籍名と著者が紹介されていますが、改版などがある書籍につきましては、私の判断で変更しております。

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