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『DXの思考法 日本経済復活への最強戦略』を参考にしてATY-Japanで作成
『DXの思考法 日本経済復活への最強戦略』(文藝春秋 、2021年4月)では、産業構造全体を大きく変容させる「インダスリアル・トランスフォーメーション(IX:Industrial Transformation)」時代において、自らの地図を描くことを提言した一冊です。
今日の社会にデジタル化がもたらしているインパクトは、産業全体を大きく変容させる力を持っていることであるとして、そのメカニズムやロジックを解き明かしています。
デジタル化の進展を通じてレイヤー構造のかたちをとったエコシステムが生まれ、サイバー・フィジカル融合を経てあらゆる企業が関わるようになり、企業がそれらと向き合うには、「本棚にない本を探す」ような感覚で臨み、アーキテクチャという手法を使ってアプローチすべきであると提言しています。
そこでここでは、「レイヤー構造」や「本棚にない本を探す」とはどういうことなのかを整理します。
なお本書には、IX時代における自らの地図の描き方、アーキテクチャ認識力・思考力を持つ人材、身に着けるべき発想について詳細に解説していますので、IX時代を勝ち抜いていくための対応策を考えていくうえで大変参考になります。
トランスフォーメーション
デジタル化の進展を通じてレイヤー構造のかたちをとったエコシステムが生まれ、サイバー・フィジカル融合を経てあらゆる企業が関わるようになった。
企業がそれらと向き合うには、「本棚にない本を探す」ような感覚で臨み、アーキテクチャという手法を使ってアプローチすべきである。
そのためには、デジタル化の世界がどうなっているかを示す白地図に、自らを位置付けて書き込み、地図を描き替えていくことが必要である。
レイヤー構造
『DXの思考法 日本経済復活への最強戦略』を参考にしてATY-Japanで作成
レイヤー構造の下段は処理能力を支える層であり、上段は大量のデータを分析する解析の層で、一般的にクラウドサービスはこのかたちになっている。
その二つの層を合わせることで、ソフトウェアのアウトプットが、人間がどのような経験をしたいかという実課題と直接接するようになっていきている。
二つの層は並行して成長し、その水位が閾値を超えて、ソフトウェアが生み出すのもが我々の経験の多くを構成し始めている。
レイヤーが重なって臨界点を超え、二つの波及が合わさった状態をサイバー・フィジカル融合とよばれ、第4次産業革命やソサイエティー5.0の中核をなしている。
- ・産業、社会がレイヤー構造になる。
コンピュータ・ソフトウェアが担う範囲、あるいは、サイバー空間が、これまでのようにインターネットを利用するパソコンやスマホの中だけに閉じ込めることができなくなってきた。
- ・人間のつくったシステムが、その生命体に近いメカニズムを体現し始めている。
IoTと機械学習、そしてその最先端であるディープラーニングとの組み合わせ。
今後あらゆるビジネスは、データを活用し、それをソリューションに結びつけるようになる。
その際、多数の顧客との接点や製造現場からデータを収集し、それをつなぎ合わせ、決まった場所に収納し、そこから取り出して解析に適したフォーマットにデータを転換し、それに具体的な解析を施すというような手順が必要になる。
各社は、独自のシステムをつくって一部を共有化するという発想から、共通のレイヤー構造を提供する仕組みが産業や社会の中にあって、それをベースに各社の取捨選択を考え、真に自分で手をかけてつくる価値があるものだけを自前でつくるという発想に変わっていく。
IX時代の白地図
デジタル化には、サプライヤ軸とユーザー軸の二つの軸があり、いずれもがレイヤー構造をしていて、このレイヤー構造がデジタル化の白地図である。
- ・サプライヤ軸(ビット・ソリューション軸)
ゼロイチで表現できるコンピュータの基本的な機能と人間の実課題とを埋めるためのもので、サービスを提供する側から見た軸である。
- ・ユーザー軸(UX-UI軸)
人がどう関わるのかという軸で、UIはデジタルシステムを利用するときに必要なインターフェースに現れるレイヤー構造で、もう一つはデジタルなシステムに人間や社会が解かせたい課題、提供させたい経験であるUXがもつ構造である。
IX時代の経営のロジックとデジタル化のロジックを、個人と組織の身体に刻み込む。
IX時代の地図のようなものを描く。
企業がDXに成功してIX時代に勝ち抜くということは、IXの地図の一部になって地図を書き換えることを意味する。
経営者は、本棚にない本を探す
『DXの思考法 日本経済復活への最強戦略』を参考にしてATY-Japanで作成
DXのスタートラインは、まず本屋の本棚の前に立って、本棚を見渡して、それで自社ビジネスをどう組み立てるかを考えるべきで、自社システム構成を先に理解することではない。
「本棚にない本を探す」ことがビジネスが価値とソリューションを生むための一手であり、企業がプラットフォームになるきっかけでもあり、業種という考え方から卒業することにもつながる。
縦軸は、上がより顧客の実課題に近く、下がゼロイチで処理される物理層に近い。
横軸は、左が開発段階にあるもので、開発が進むにつれて、カスタマイズされたサービスの段階からプロダクトの段階へと右側に移っていく。(本棚は、右側だけを取り出したものを指す)
本棚に並んでいる本を見て外部環境を棚卸する。
- ・世界をベンチマークすることになる。
デジタル化が進む世界では、業種の垣根に関係なく、多様な企業がデジタルの力を使って新分野に参入する。
- ・本棚にない本がわかる。
本棚を見ることによって、自社が真に集中すべきポイントが明らかになる。
- ・本棚にない本を見つけて開発すること、それ自体が他社に売れるプロダクトになる。
本棚にない本を探し、自らつくり、SaaSなどのかたちで世界に提供し、それで本棚を次第に埋めていき、さらに本棚のかたち自体を変えていく。
本書は、政策立案と遂行の経験に加え、不良債権処理、産業革新機構での事業再編や東京電力の再建という実務に関わった経験を持つ著者ならではの視点から、デジタル化の本質を掘り下げていますので、全てのビジネスパーソンがIX時代を勝ち抜くための対応策を考えるうえで参考になる一冊です。
デジタル化の本質的な意味合い、IXの衝撃を理解するうえでも、一読をお薦めします。
関連する書籍
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西山 圭太(著)、解説・冨山和彦(解説)
出版社:文藝春秋 (2021/4/13)
Amazon.co.jp:DXの思考法
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