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戦略実行(EXECUTING YOUR STRATEGY)
マーク・モーガン、レイモンド・E・レビット、ウィリアム・マレク(著)、A.T.カーニー(翻訳)、後藤 治、小林 暢子(翻訳)
出版社: 東洋経済新報社(2012/3/2)
Amazon.co.jp:戦略実行
立案から結果につなげるフレームワーク
企業の90%は、絶えず戦略の実行で失敗している。
従来の戦略論、組織論、オペレーション論に横串を刺し、具体的な解決策を体系立てて提示するる類稀な研究書。
各章末「自己診断シート」で自社現状がチェックできる。
本書は、著述者、教育者、コンサルタントでもあるマーク・モーガン氏、レイモンド・E・レビット氏、ウィリアム・マレク氏の3氏が、組織に整合して立案した戦略を実行に移す方策、従来の戦略論や組織論及びオペレーション論を統合して具体的な解決策を提示した研究書です。
原書は『EXECUTING YOUR STRATEGY』(2007年11月)で、紹介されている事例も、
- ・トヨタ、IBM、HP、アップル、サウスウエスト航空、ロッキード、エアバス、イリジウムなど、これまで多くの研究書や書籍で紹介されてきた大企業ですが、
- ・他にツール・ド・フランスで7年連続優勝したランス・アームストロング氏とそのチーム、シンガポール国立図書委員会と、
企業に限らず個人や公共団体にも、本書のフレームワークが広く適用できることを示しています。
本書では、
- ・戦略実行フレームワーク(SEF:Strategic Execution Framework)、組織アイデンティティの類型、文化のタマゴ(組織文化の類型)、プロジェクト・ポートフォリオなどのフレームワークを適用しています。
- ・肯定的探求(appreciative inquiry)という考え方を通じて、これまでの伝統的な問題解決アプローチでは必ずしも問題は解決しないことを提言しています。
- ・戦略構想の実行のためには、一連の「取り組み」や「プロジェクト」が不可欠とし、プロジェクトを3つの類型に分け、プロジェクトとそのポートフォリオ・マネジメントの要諦を示しています。
戦略論では、様々なフレームワークを策定することが目的化し、実行に至らない場合が多いことは、当グログ及びご紹介した書籍でも指摘されています。
本書は、戦略の策定方法というよりも、
戦略に込める「思い」、「ビジョン」の組み立てから組織の「風土」を整合させ、「協働」「統合」「移行」を通じて組織全体へ、可視化された結果へ結び付けるまでを、
戦略実行フレームワーク(SEF)として解説し、戦略実行に焦点を絞った一冊です。
また、各章末の「自己診断シート」は汎用的な質問ですが、自社なりに具体的に補足することで現状評価に役立ちそうです。
まずは、以下の質問に自己診断すると、戦略実行フレームワーク(SEF)のどこから手を付けていくべきかを特定することができます。
さらに詳細に自己診断したり、対応策を考える上では、各章の解説が参考になります。
1.「思い」の強さ
- 組織の存在理由、内部向け外部向けブランディング、「未来への意思」は適切な人材を引き付け、日々の仕事でベストをつくす意欲をわかせるだけの明確さと魅力を備えているか?
2.ビジョンの明確さ
- 「到達目標」や評価方法、報酬体系は、あらゆるレベルの社員が自身及び組織の「到達目標」と「指標」を達成するための行動指針を導き出せるように設計されているか?
3.「構造」と「文化」の整合
- 企業の「構造」は、仕事の達成をより容易にする構造になっているか?
- また企業の「文化」は、「戦略」が要求する協働関係を支えているか?
4.「協働」の有効性
- 組織は、「プロジェクト」投資の「ポートフォリオ」と、それらの投資を通じて達成を意図されている「戦略」上の「到達目標」との間の関係性を追跡できているか?
5.「統合」の有効性
- 「プロジェクト」や「プログラム」への各投資は、互いが支え合っているか?
- また、それらは組織が採用した「戦略」を本当に反映しているか?
6.「移行」の有効性
- 「プロジェクト」のアウトプットは、迅速かつシームレスに現行の「オペレーション」に具体的な便益をもたらしているか?
戦略実行フレームワーク(SEF:Strategic Execution Framework)
- ・戦略立案から結果につなげるため、「思い」「ビジョン」「風土」「協働」「統合」「移行」の6つのドメインからなり、その頭文字をとって「INVEST」という。
- ・6つのドメインが、全て互いに適合し合って(互いに絡み合って)いなければならない。
ドメイン同士が整合され協働していれば、組織は膨大なエネルギーを得ることができる。
それぞれが協働し、整合されることが、組織を「到達目標」に向けて先進させる。
- ・戦略の立案には、「思い」「ビジョン」「風土」相互の整合と外部環境との整合が必要である。
実行の統率には、「統合」「移行」相互の整合とプロジェクト・ポートフォリオとの整合が必要である。
戦略の立案と実行をつなげるのが「協働」である。
Ideation(思い)
「アイデンティティ」「目的」「未来への意思」を明らかにする。
- ・要素:アイデンティティ、目的、未来への意思
- ・集団の「誰、何、なぜ」を表すもので、組織の指針となる。
- ・組織のビジョンを共有する有能な人材を雇用し、社員に生き生きと情熱を持って仕事をする理由を与える。
Nature(風土)
「戦略」と「文化」と「構造」を整合させる。
- ・要素:戦略、文化、構造
- ・3要素を整合させるためのプロジェクトを選択し、それに資源を投入する。
- ・組織の構成員が、どれに相対的に重きを置いているかに基づいて組織の文化を分類し、戦略との整合を評価する。
- ・組織構造が戦略や文化と整合していない場合は、構造調整レバーで調整する。
Vision(ビジョン)
未来への意思を「戦略」「到達目標」「指標」に変換する。
- ・要素:戦略、到達目標、指標
- ・到達目標を設定する際のアプローチ:SMART
Specific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Resourced(資源がある)、Time bound(期限がある) - ・到達目標を視点、対象、論点、目的といった要素に分ける。
- ・到達目標と指標が設定されれば期限のあるプロジェクトに翻訳でき、資源を割り当て、「協働」ドメインの戦略的ポートフォリオの一部として適用する。
Engagement(協働)
「プロジェクト」を介して「戦略」を現実のものにする。
- ・要素:戦略、ポートフォリオ
- ・戦略立案者は、戦略実行レベルのプロジェクト・リーダーと協働して、整合させる。
- ・適切な戦略成果をもたらす具体的なプロジェクトアウトプットを特定し、継続的に整合する。
- ・達成のステップ
①ポートフォリオ・ガバナンス環境の確立
②プロジェクトネットワークの優先順位の決定(判断基準の確立)
②資源キャパシティの決定(システムと実現性チェック)
③ポートフォリオ最適化(プロジェクトと組織資源の釣り合わせ)
④ポートフォリオの体得(見直し、変更、再整合)
Synthesis(統合)
複数のプロジェクトをポートフォリオとして管理する。
- ・要素:ポートフォリオ、プロジェクト、プログラム
- ・「協働」ドメインで計画されたポートフォーリオと、現在進行中の「プロジェクト」や「プログラム」からなる実行ポートフォリオとを、絶えず双方から統合し、整合させる。
- ・戦略的プロジェクトを持つ組織は、外部環境と内部活動の両方をモニターする。
- ・プロジェクトとは、資源と時間を割り当てられた一連のタスクによって完遂される、一連の成果である。
プログラムは、相互に依存し合うプロジェクトの魂をいう。
相互依存関係:プール型、序列型、相反型、手戻り型 - ・現実のポートフォリオと計画されたポートフォリオとの整合の鍵は、頻繁な再プランニングから信頼される予測を得ることである。
Transition(移行)
「プロジェクト」成果をメインストリームへ移す。
- ・要素:プロジェクト、プログラム、現場
- ・強固なスポンサーシップ、大規模な中央集中的作業、現場からのフィードバックが必要である。
- ・プロジェクト・ベネフィット(便益)・マネジメント:閉じたループ
戦略立案 ⇒ 目標、物差し、ターゲットの設定 ⇒ 実行 ⇒ 適用 ⇒ 生み出されたパフォーマンスを評価 ⇒ 戦略立案
戦略的アイデンティティ
自分の会社の種類(特徴)
- ・マイケル・ポーター:コストリーダー、差別化された価値の提供者
- ・ジェフリー・ムーアの価値体系:経営の効率性、顧客との近接性、製品のリーダーシップ、飛躍的な技術革新
→ 提供価値の優位性、顧客の優位性、業界の優位性、カテゴリーの優位性とのマトリクスで企業の思いを16分類できる。
文化のタマゴ(組織文化の類型)
- ・自社文化の概観を、最も重要な価値が置かれている場所を示し、自社戦略との整合を評価する。
- ・組織文化の4類型のマトリックスに対し、対角上に戦略的アイデンティティの価値体系の度合いをつけて、その点を結ぶと楕円形(タマゴ型)で表現できる。
<組織文化の類型> <価値体系> <組織構造>
コンピタンス(能力) 製品のリーダーシップ 弱いマトリクス
コントロール(統制) 効率的な経営 ヒエラルキー
コラボレーション(協調) 顧客との密接な関係 強いマトリクス
カルティベーション(養成) 飛躍的な技術革新 バランスのマトリクス
戦略実行
- ・戦略を実現するには、戦略を立案する者が戦略を実行する者とともに作業しなければならない。
- ・組織内の様々な階層における様々な責務の中で、プロジェクト・ポートフォリオの統率がコア・コンピタンシーとなる。
経営者は、
- ・組織の「構造」や「文化」の創出に責任を持つ。
- ・「戦略」の意図を具体的な「到達目標」や「指標」に変換し、達成するために必要な投資をプロジェクト・リーダーと共同で決定する。
- ・プロジェクト・リーダーが、プロジェクトの適切な実施に必要な資源が得られるよう、スポンサーシップ・システムを構築する。
- ・絶えず互いが相互コミットメントのもとに、正しい事を正しく行うような取り組み姿勢を作る。
プロジェクト・リーダーは、
- ・プロジェクトの実施のみに焦点を絞るのではなく、広い範囲に目を配る。
- ・必要な資源を特定、調達し、必要に応じて助力を求める。
- ・コミュニケーション・スキルを磨く。
終章からの引用
戦略計画者とプロジェクト統率者が真に協働して戦略を行動に変えれば、他を上回る業績を出す組織が生まれ、社員が生産的エネルギーを投入しようとするだけの魅力を持つ職場となる。
そうした優れた企業では、CEOの役割は「Chief Executive Officer(最高執行責任者)」というより、「Chief Execution Officer(最高実行責任者)」と表現したほうがいいだろう。
当サイトでは、本書の中の主なフレームワークの要点のみをご紹介しています。
記述の中には理論先行の部分もありますが、各フレームワークの要素間の関係やつながりを図や表を使って詳細に解説しています。
また、「本書はあくまでも出発点であり、ここですべてが終わるわけではない」と本文中にも記述があるように、フレームワークや自己診断シートなどを自社や自分のチームに当てはめてアレンジし、実践と検証を積み重ねていけば実用的なツールになると感じました。
参考:当グログでご紹介した関連書籍
超実践的 経営戦略メソッド 6社を再生させたプロ経営者が教える
戦略実行(EXECUTING YOUR STRATEGY)
マーク・モーガン、レイモンド・E・レビット、ウィリアム・マレク(著)、A.T.カーニー(翻訳)、後藤 治、小林 暢子(翻訳)
出版社: 東洋経済新報社(2012/3/2)
Amazon.co.jp:戦略実行
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