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日立製作所、東芝、三菱電機から2017年度通期決算(2017年4月1日~2018年3月31日)と通期予想が発表されましたので、概況を整理します。
日立製作所と三菱電機ともに主力事業が好調で、前年同期に対して増収増益となりました。
東芝は、売上高と営業利益は減収減益となりましたが、純損益は4期ぶりの黒字となり、2011年3月期の1,583億円を上回り7期ぶりの過去最高益を更新しています。
この純損益の増益は、傘下にあった米原発大手ウェスチングハウス関連の債権売却益などによるものです。
また、課題となっていた債務超過に関しても、2018年3月末の株主資本が7,831億円のプラスとなり、東京証券取引所への上場が維持されることになりました。
電機とITの決算 ≫ 日立、東芝、三菱電機の2017年度通期決算
2017年度通期(2017年4月1日~2018年3月31日)の各社の決算概況は、以下の通りです。
日立製作所
2017年度通期累計
売上高は、前年同期比2.3%増の9兆3,686億円となっています。
日立物流、日立キャピタル、日立工機の事業ポートフォリオ再編影響があったものの、事業の進捗が上回って前年同期比2.3%増加したとしています。
なお、事業再編及び為替の影響を除くと、同4%の増加となったとしています。
国内の売上高は前年比2%減の4兆6,430億円、海外の売上高は同7%増の4兆7,255億円(海外売上比率:50%)でした。
- ・海外事業が好調で、前期は48%だった海外の売上比率は50%まで高まり、国内と同等の売上規模になっています。
- ・特に増加したのがアジアで、中国が前年比12%増、中国を除くアジアも同12%増と成長しています。
- ・北米も同3%増となり、欧州は同1%の減少となったものの日立工機の再編影響を除くと同13%の増加になったとしています。
営業利益は、前年同期比1,273億円(21.7%)増の7,146億円となり、過去最高益となっています。
再編影響と為替影響を除くと、前年同期比1,363億円の増加となり、情報・通信システム、社会・産業システム、建設機械の3部門が、営業利益の増益に大きく貢献しています。
また、当期純利益についても、同1,317億円(57.0%)増の3,629億円で過去最高益となっています。
セグメント別の結果は、以下の通りです。
情報・通信システムは増収増益
- ・売上高は、前年同期比1%増の2兆89億円(営業利益:同362億円増の1,892億円)
- ・システムインテグレーションを中心としたフロントビジネスの売上高は、同2%増の1兆4,172億円(営業利益:同242億円増の1429億円)
ITプラットフォーム&プロダクツの売上高は、同1%増の7,442億円(営業利益:同191億円増の484億円)
- ・ITプラットフォーム&プロダクツにおいて、製品の絞り込みなど事業構造改革を実施したことによる減収要因があったものの、フロントビジネスの国内システムインテグレーションが増加したことにより増収しています。
特に、以前から取り組んできたプロジェクトマネジメントが事業部門全体に定着したことが増収・増益につながり、収益の安定化に寄与したとしています。
- ・一方、ITプラットフォーム&プロダクツでは、中国のフラッシュストレージが堅調で、計画を上回るスピードで新製品を投入しており、売上規模は低いが収益性は改善してきているとしています。
社会・産業システムは増収増益
- ・売上高は、前年同期比2%増の2兆3,750億円(営業利益:同385億円増の1,155億円)
- ・電力・エネルギー事業の売上減少や産業・流通分野における低収益事業縮小の影響があったものの、鉄道システム事業の英国売上増加やサルエアー事業買収による産業機器事業の売上増加などにより、全体では増収となっています。
- ・営業利益は、中国の昇降機事業における平均売価の下落及び資材高騰があったものの、事業の収益性改善などにより、全体では増益となっています。
建設機械は増収増益
- ・売上高は、前年同期比27%増の9,591億円(営業利益:同662億円増の925億円)
- ・売上高は、中国を中心とした海外での販売増加、ブラッドケン社及びH-Eパーツ社の連結子会社化、為替影響により、増収となっています。
- ・営業利益は、売上高の増加に加え、為替の影響で、増益となっています。
電子装置・システムは減収増益
売上高は前年同期比7%減の1兆865億円(営業利益:同53億円増の869億円)
高機能材料は増収増益
売上高は同13%増の1兆6,575億円(営業利益:同19億円増の1,218億円)
オートモーティブシステムは増収増益
売上高は同1%増の1兆10億円(営業利益:同67億円減の495億円)
生活・エコシステムは減収増益
売上高は同3%減の5,401億円(営業利益:26億円増の251億円)
その他部門は減収減益
売上高は同15%減の5,577億円(営業利益:同9億円減の214億円)
IoT中心の基盤サービス「Lumada」関連の事業も順調
- ・売上高は、当初計画の9,500億円に対し実績は1兆60億円となり、実績の内Lumadaコア事業が2,300億円(当初計画:1,900億円)、Lumada SI事業が7,760億円(当初計画:7,600億円)となったとしています。
- ・2017年度は、社会インフラ、産業・流通分野のLumada事業拡大により当初計画を達成し、特に製造業向けデジタルソリューション(生産状況の可視化、生産性・品質向上など)、鉄道車両・産業設備向け予兆保全ソリューションの好調が貢献しています。
- ・2018年度は、当初計画を200億円上方修正して1兆700億円を見込む
社会インフラ、産業・流通分野のLumada事業が拡大するとして、各分野のリーディングカンパニーとの協創で蓄積したLumadaコア事業のユースケース・ソリューションコアの活用、日立ヴァンタラ社・日立コンサルティング社を通じた海外でのLumada事業拡大が加速する見通しです。
事業ポートフォリオの主な改革状況
- ・2017年7月買収完了
アキュダイン社の空気圧縮機事業(サルエアー事業)を買収完了
- ・2017年12月買付け終了
HKEホールディングスによる日立国際電気の公開買い付けを終了
- ・2018年1月買収完了
画像診断のデータ分析などを行う米VidiStarを買収完了
- ・2018年3月譲渡完了
ネットワーク機器の開発などを手掛けるアラクサラネットワークスの株式を日本産業パートナーズに譲渡完了
- ・2018年4月譲渡契約締結
ITプロダクツ分野のモノづくり強化に向けた日立情報通信マニュファクチャリング株式及び関連資産のUMCエレクトロニクスへの譲渡契約締結
- ・2018年6月買収予定
ヘルスケア事業において、三菱電機の粒子線治療システム事業を買収予定
2018年度の通期決算予想
2018年度の通期決算予想は、増収増益を見込んでいます。
電子装置・システムを除く全ての事業部門で増益を計画しており、電子装置・システムは大きく減収・減益となる見通しですが、これは日立国際電気の非連結化によるもので、この影響を除けば実質的には増収増益となる見込みとしています。
売上高は、前年同期比0.3%増の9兆4,000億円
営業利益は、同4.9%増の7,500億円
純利益は、同10.2%増の4,000億円
なお、2018年度は中期経営計画の最終年度となり、営業利益率8%、純利益4,000億円の目標に対して、「十分に狙えるベースができたものの、さらなる収益アップを目指す」としています。
しかし、南アフリカでの石炭火力発電プロジェクトをめぐって三菱重工業から支払いを求められている費用(約7,743億円)の負担問題、英国で進める原子力発電プロジェクト・ホライズンの非連結化、という2つの解題解決の動向次第では、今後の業績に影響がありそうです。
東芝
2017年度通期累計
売上高と営業利益は減収減益となりましたが、純損益は傘下にあった米原発大手ウェスチングハウス関連の債権売却益などにより、前年同期の9,657億円の赤字から今期8,040億円の黒字に回復しました。
特に純損益は4期ぶりの黒字となり、2011年3月期の1,583億円を上回り7期ぶりの過去最高益を更新しています。
米原発大手ウェスチングハウス関連の債権売却益及び映像事業の売却益、税負担の減少などの一時的な要素に加え、半導体子会社「東芝メモリ」の好業績が全体を押し上げています。
なお、課題となっていた債務超過に関しても、2017年12月に実施した新株発行による6,000億円の増資で解消し、2018年3月末の株主資本が7,831億円のプラスとなり、東京証券取引所への上場が維持されることになりました。
また、「東芝メモリ」の動向につきましては、2018年5月17日に中国の独禁審査当局が日米韓連合による東芝の半導体子会社「東芝メモリ」の買収を認めたことが明らかになりました。
これにより東芝は、売却により2兆円を得ることになり、財務基盤が大きく改善し、経営危機からの再建がひとまず完了すると言えそうです。
売上高は、前年同期比2%減の3兆9,476億円となっています。
ストレージ&デバイスソリューションなどが増収したものの、エネルギーシステムソリューションがランディス・ギア・グループの株式上場による連結除外の影響で減収、インフラシステムソリューションも減収したことにより、全体で減収となっています。
営業利益は、緊急対策の規模縮小の影響もあり、前年同期比179億円減の641億円となっています。
純損益は、前年同期比1兆7,697億円増の8,040億円となっています。
セグメント別の結果は、以下の通りです。
エネルギーシステムソリューションは減収増益
- ・売上高は、前年同期比3%減の8,447億円(営業利益:同269億円改善の△148億円)
- ・売上高は、火力・水力発電システムが増収となったものの、原子力発電システム、送電・配電システムなどが減収、ランディス・ギア・グループの株式上場による連結除外の影響により、全体で減収となっています。
- ・営業利益は、火力・水力発電システム、送電・配電システムなどが減益、ランディス・ギア・グループの株式上場による連結除外の影響があったものの、原子力発電システムが増益となったことにより、全体では増益となっています。
インフラシステムソリューションは減収減益
- ・売上高は、前年同期比1%減の1兆2,468億円(営業利益:同104億円減の480億円)
- ・売上高は、産業システムが増収となったものの、公共インフラ、ビル・施設が減収したことにより、全体では減収となっています。
- ・営業利益は、産業システムが増益したものの、公共インフラ、ビル・施設が減益となり、全体では減益となっています。
リテール&プリンティングソリューションは増収増益
- ・売上高は、前年同期比3%増の5,228億円(営業利益:同107億円増の270億円)
- ・売上高は、プリンティング事業とも堅調に推移したことが貢献しています。
- ・営業利益は、リテール事業とプリンティング事業ともに増益となったことにより、全体で増益となっています。
ストレージ&デバイスソリューションは増収減益
- ・売上高は、前年同期比5%増の8,796億円(営業利益:同103億円減の473億円)
- ・HDDが減収となったものの、デバイス他が増収となり、全体では増収となっています。
- ・営業利益は、HDD、デバイス他とも減益となったことが影響しています。
インダストリアルICTソリューションは増収減益
- ・売上高は、前年同期比8%増の2,589億円(営業利益:同58億円減の13億円)
- ・売上高は、官公庁向けシステム案件、製造業向けシステム案件及びIOT・AI案件他の受注により、全体で増収となっています。
- ・営業利益は、構造改革や一部の国内向け情報システム案件の影響により、全体で減益となっています。
財務体質も改善しており、2018年3月末の株主資本比率は17.6%と2017年3月末から30.6ポイント改善しています。
総資産は4兆4,582億円で2017年3月末に対して1,887億円増加し、株主資本は7,831億円で同1兆3,360増加しています。
「危機的状況からの脱却のために諸施策を実行してきたことにより、2017年度は正常な財務体質レベルへ回帰できた」とコメントし、WHの破綻で大幅に悪化した財務の改善に一定の目途がついたとの認識を示しています。
また、4月に代表執行役に就任した車谷CEO(三井住友銀行出身)は、「就任後、約600名の従業員と対話しをし、大変厳しい時期を乗り越えてきた従業員の再生への強い意志、仕事への誇りを感じた。東芝ブランドは再び輝きを取り戻せると確信した。」と述べています。
2018年度の通期決算予想
2018年度の通期決算予想は、減収増益を見込んでいます。
メモリ事業に係る経営成績については、第1四半期については非継続事業損益、第2四半期以降につては持分法損益と仮設して策定されています。
また、2018年度業績見通しを策定するために便宜的に設定したもので、メモリ事業売却の時期を示したものではないとしています。
売上高は、前年同期比8.8%減の3兆6,000億円
営業利益は、同9.3%増の7,000億円
純利益は、同33.1%増の1兆700億円
今回の決算発表に続き、5年間の中期経営計画を年内に策定る方針であることが発表されています。
事業ごとに数値目標を設定して収益力向上を図る他、コスト削減に向け「間接部門やグループ会社も含め聖域を設けず見直し、2年くらいで結果を出したい。」としています。
収益力の強化に向けた中期的な計画の基本方針は、以下の通りです。
- ・今後の収益の柱として社会インフラやエネルギーなど4つの事業を位置づけるとともに、グループ全体の事業を聖域を設けずに見直す。
- ・さらに、ビジネスモデルについて、従来のいわゆる「売り切り型」から、サービスやメンテナンスで継続して利益を得る「リカーリング型」への転換を目指す。
三菱電機
2017年度通期累計
売上高は、重電システム部門、産業メカトロニクス部門、電子デバイス部門及び家庭電器部門の増収などにより、全体では前年同期比1,925億円(5%)増の4兆4,311億円となっています。
国内外の景気としては、中国は横ばい、米国では堅調な拡大、日本や欧州では緩やかな回復基調で推移したとしています。
営業利益は、重電システム部門、産業メカトロニクス部門、電子デバイス部門の増益により、全体では前年同期比485億円(18%)増の3,186億円となっています。
税引前純利益は、営業利益の増加に加え、ルネサス エレクトロニクス株式売却益の計上などにより、前年同期比683億円(23%)増の3,645億円となっています。
純利益は、前年同期比613億円(29%)増の2,718億円となっています。
セグメント別の結果は、以下の通りです。
重電システム部門は増収増益
- ・売上高は、前年同期比1%増の1兆2,419億円(営業利益:同73億円増の517億円)
- ・社会インフラ事業は、海外の電力事業や国内の交通事業の減少などにより、受注は前年同期を下回っています。
- ・ビルシステム事業は、受注は前年同期並みとなったものの、国内のリニューアル事業及び海外の昇降機新設事業等が堅調に推移したことにより、売上は前年同期を上回っています。
産業メカトロニクス部門は増収増益
- ・売上高は、前年同期比10%増の1兆4,449億円(営業利益:同507億円増の1,908億円)
- ・FAシステム事業は、韓国などでの有機EL関連や中国でのスマートフォン・電気自動車関連の設備投資の増加に加え、国内の機械メーカーによる輸出が堅調に推移したことが貢献しています。
- ・自動車関連事業は、北米における新車販売台数の減少があったものの、中国での日系自動車メーカーの販売増加や円安の影響によるものとしています。
情報通信システム部門は減収減益
- ・売上高は、前年同期比3%減の4,360億円(営業利益:同7億円減の119億円)
- ・通信システム事業は、通信インフラ機器の需要減少などにより、受注・売上ともに前年同期を下回っています。
- ・情報システム・サービス事業は、システムインテグレーション事業等の増加により、売上は前年同期を上回っています。
- ・電子システム事業は、防衛システム事業の案件増加などにより、受注は前年同期を上回ったものの、防衛・宇宙システム事業の大口案件の変動などにより、売上は前年同期を下回っています。
電子デバイス部門は増収増益
- ・売上高は、前年同期比8%増の2,022億円(営業利益:同61億円増の145億円)
- ・通信用光デバイスの需要減少はあったものの、民生用・産業用パワー半導体の需要増加などが貢献しています。
家庭電器は増収減益
- ・売上高は、前年同期比4%増の1兆493億円(営業利益:同136億円減の560億円)
- ・欧州・中国・米国向け空調機器の増加に加え、円安の影響が貢献しています。
- ・営業利益は、素材価格の上昇や販売費用の増加などが影響しています。
2018年度の通期決算予想
2018年度は、国際会計基準(IFRS)に移行する予定で、IFRSベースの前年同期に対して増収減益を見込んでいます。
総じて緩やかな景気拡大が続くことを見込んでおり、成長牽引事業を中心としたグローバル展開を推進するとともに、各事業における収益性改善・強化・全社横断的な経営改善施策に継続的に取り組み、業績及び財務体質の改善を図るとしています。
売上高は、前年同期比1%増の4兆5,000億円
営業利益は、同4%減の3,150億円
純利益は、同5%減の2,450億円
2017年度(2018年3月期)通期決算と2018年度通期予想
電機各社の決算発表
2018.5.21 2017年度通期決算:日立、東芝、三菱電機
2018.5.17 2017年度通期決算:ソニー、パナソニック、シャープ
2018.5.07 2017年度通期決算:富士通
2018.5.04 2017年度通期決算:NEC
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