Ⅹ.コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)研究から得られる日本への示唆

Ⅹ.コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)研究から得られる日本への示唆

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Ⅹ.コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)研究から得られる日本への示唆

事業会社のベンチャー投資に求められること

  • ・新たな企業戦略として、アリカではすでに新たな潮流となっており、日本企業の間でも取り組みが始まっている。
  • ・CVC投資が多い事業会社ほど、イノベーション・パフォーマンスも高くなる。
  • ・スタートアップの技術を獲得するための買収に代わる手段となっている。
  • ・買収よりも柔軟な投資戦略として選ばれている。(リアル・オプション戦略
  • ・スタートアップが事業会社に技術をコピーされるリスクは、知的資産保護の強さに影響される。
  • ・CVC投資成功のためには、事業会社は長期的に業界内での信用を築き上げることが重要である。
1.コーポレートベンチャリングとコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC

(1)コーポレートベンチャリング
大企業の内部において、新しい事業部門を立上げ、あたかもスタートアップ企業のように自立性をもたせること。

(2)コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)投資
事業会社が、あたかもベンチャーキャピタルのように若いスタートアップ企業に投資すること。

2.コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)投資

(1)アメリカでは、最近の約20年の間にシスコやインテル、マイクロソフトなどの大手事業会社が、ベンチャーキャピタル企業と同じ方法でスタートアップに投資を行うようになっている。
その割合は、1990年代以降のベンチャーキャピタル投資総額の内15%。

(2)一部の企業を除けば、CVC投資額は研究開発(R&D)投資額の1~3%にすぎない。

(3)多くの企業が、投資したスタートアップ企業をその後買収している。

(4)CVC投資の事例を紹介
ヘンリー・チェスブロウ教授(2002年)
事業会社のCVCには、キャピタルゲインとは別に、CVCを通じてオープン・イノベーションを活性化する目的がある。

3.CVC投資とイノベーション・パフォーマンスとの関係を統計的に分析

ゲイリー・ドゥシュニツキー教授とマイケル・レノックス教授(2005年)

(1)アメリカの2,289社の30年間にわたるデータでは、CVC投資が多い事業会社ほどイノベーション・パフォーマンスも高くなる。

(2)理由

  • ①スタートアップが投資に値するかを調査する過程(デューディリジェンス)で、そのスタートアップの技術を知ることができる。
  • ②投資後に事業会社側の人材がスタートアップの取締役会メンバーやオブザーバーになることで、スタートアップの技術やビジネスモデルの深い情報を得ることができる。
  • ③投資先のスタートアップの業績そのものから、事業の将来性を判断することができる。

(3)スタートアップ側の理由
試験設備の貸与、顧客ネットワークや販売のための流通など、投資専門のベンチャーキャピタル企業にはない経営資源を提供してくれる可能性がある。

(4)CVCが事業会社がイノベーションを促す効果は、IT関連製品産業などに限られ、医薬・バイオ産業では効果が認められない。(知的資産保護の強さの違い

4.スタートアップ側のリスクに注目

ゲイリー・ドゥシュニツキー教授とマイケル・シェイバー教授(2009年)

(1)大手事業会社がCVC投資先のスタートアップの許可なく、似たような技術を開発している事例もある。

(2)スタートアップが事業会社に技術をコピーされるリスクは、知的資産保護の強さに影響される。

5.アメリカのIT産業の事業会社がCVC投資先のスタートアップを買収したときの市場の反応を分析

デビット・ベンソン教授とローズマリー・ジエドニス教授(2009年)

より継続的に安定してCVC投資を行うことで業界から信頼を得ている事業会社の方が、投資先スタートアップを買収したときに市場から高い評価を得られる。

参考

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    ≫ Ⅹ.コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)研究

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