Ⅸ.ファイナンス理論を超える「人間くさい」M&Aの研究

Ⅸ.ファイナンス理論を超える「人間くさい」M&Aの研究

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Ⅸ.ファイナンス理論を超える「人間くさい」M&Aの研究

なぜ経営者は買収額を払い過ぎてしまうのか

  • ・ファイナンス分野では、ディスカウント・キャッシュフロー法やマルチブルといったバリューチェーンの手法を使って企業価値を算出し、買収後の相乗効果や発生コストなどの条件を組み込んだ「買収全体の価値」を決めていく。
  • ・しかし経営者は、経営上の説明とは別の理由で、非合理の買収額を払ってしまうこともある。
    それは、経営者たちの「思い上がり」「あせり」「プライド」からくる。
  • ・M&Aの局面においても、経営者の意思決定には「人間くさい」部分がある。
1.買収プレミアム

(1)買収企業がターゲット企業に支払う価格が、それ以前のターゲット企業の市場価値をどれくらい上回っていたかを表す。

(2)例:グーグルのモトローラー・モビリティの買収
買収前の市場価値総額:約78億ドル
買収総額:125億ドル(約1.6倍)=60%のプレミアムをつけて買収

2.「思い上がり」のプレミアム

(1)買収企業の経営者たちは、「自分たちが買収すれば、価値をもっと高められる」と思っているから買収する。

(2)経営者の思い上がりに影響を与える要因に注目
マシュー・ヘイワード教授とドナルド・ハンブック教授(1997年)

  • ①過去に買収で成功した経験のある経営者が率いる企業は、その後の買収で高いプレミアムを支払う傾向がある。
  • ②メディアが賞賛している経営者が率いている企業ほど、高いプレミアムを払う傾向がある。
  • ③報酬高い経営者ほど、その後の買収プレミアムが高くなる。
  • ④取締役会で、買収企業の経営者が議長を兼ねている場合や社外取締役が少ない場合、「思い上がり」が買収プレミアムを高める効果が強くなる。
3.「あせり」のプレミアム

(1)企業規模を手っ取り早く大きくする手段として、企業を買収することもある。
競争上、「自社を成長させたい」という「あせり」がある場合もある。

(2)米国商業銀行で起きたM&Aデータで統計分析
ジェイ・キム教授とジョン・ハレブリアン教授及びシドニー・フィンケルシュタイソン教授

  • ①買収企業の過去3年間の成長率が業界平均を下回っているほど、買収の時に支払うプレミアムが高くなる。
  • ②買収企業の過去の成長率が低いほど、高いプレミアムを支払う傾向がある。
4.「国家のプライド」プレミアム

(1)特に新興国の経営者には、「母国の代表」というプライドが高揚する傾向がある。

(2)クロス・ボーダーM&Aについての研究
オレ・クリステァン・ホープ教授とダシャントゥクマール・ヴィァス教授及びウェイン・トーマス教授(2011年)

新興国の企業が先進国の企業を買収するとき、他と比べて平均16%も高いプレミアムを支払っている。

参考

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