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2014年5月6日のOECD会議において、アベノミクスの第三の矢「成長戦略」の柱の一つとして、「ロボットによる産業革命」を安部首相が発表しました。
また、2014年6月24日に公表された「日本再興戦略(改訂版)」では、ロボット技術をイノベーションの象徴の一つと捉え、製造業、医療、介護、農業、交通などの様々な産業に変革を起こすことが提言されました。
そして、2020年までにロボット市場を製造分野で2倍、サービスなどの非製造分野で20倍に拡大するという定量目標も掲げられました。
そこで、ロボットの定義と「ロボット新戦略」、そして国及び関係団体が発表している主な資料から第四次産業革命下でのロボットの重要性について整理します。
ロボットの定義と「ロボット新戦略」
ロボット政策研究会(2006年、経済産業省)では、「センサー、知能・制御系、駆動系の3つの要素技術を有する、知能化した機械システム」と定義し、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「NEDOロボット白書2014」(2014年3月)の第2部第1節においても引用しています。
その上で、ロボットの役割を、産業用ロボットのような「生産環境における人の作業の代替」、無人システムのような「危機環境下での作業代行」、それに日常生活の中での家事支援や介護支援等の「日常生活支援」に大別しています。
一方、「ロボット新戦略」(2015年1月23日)では、ロボットは劇的に変化しているとしています。
- ・自ら学習し行動するロボットへと「自律化」
- ・様々なデータを自ら蓄積・活用する「情報端末化」
- ・相互に結びつき連携するロボットへ「ネットワーク化」
ロボット新戦略(2015年1月23日)
ロボット新戦略に基づき、産官学がそれぞれの取組を着実に実施し、更に発展させていくことにより、我が国において必ずやロボット革命を実現し、ロボット大国日本としてロボットを活用した新たな経済社会を世界に向けて発信していく。
- ■現状は、産業用ロボットの年間出荷額、国内稼働台数ともに世界一の「ロボット大国」であり、少子高齢化や老朽インフラ等、ロボットが期待される「課題先進国」である。
・2012年時点の出荷額は約3,400億円(世界シェアの約50%)
・稼働台数(ストックベース)は約30万台(同23%)
- ■しかし、欧米は、デジタル化・ネットワーク化を用いた新たな生産システムを成長の鍵として巻き返し、中国などの新興国もロボット投資を加速(年間導入台数で日中逆転)している状況である。
・中国政府は「智能製造装置産業発展計画(2012年)」において、産業用ロボットの国内売上を2020年までに10倍(3兆元)にする目標
・2005年には4,000台であった年間ロボット導入台数(フロー)は、2013年には37,000台となり日本を逆転し世界一
- ■そこで、ロボットの徹底活用により、データ駆動型の時代も世界をリードする。
「ロボット革命」の定義
- ・センサー、AIなどの技術進歩により、従来はロボットと位置づけられてこなかったモノまでもロボット化し(例えば、自動車、家電、携帯電話や住居 までもがロボットの一つとなる。)、
- ・製造現場から日常生活の様々な場面でロボットが活用されることにより、
- ・社会課題の解決やものづくり・サービスの国際競争力の強化を通じて、新たな付加価値を生み出し利便性と富をもたらす社会を実現する。
このロボット革命を実現するためには、日本のロボットを変えなければなら ないとしています。
- ・誰もが使いこなせる「Easy to use」を実現し、多様な分野の要請に柔
軟に対応できるロボットに変えていく。
「誰もが使える柔軟なロボット」へと転換する上では、共通プラットフォームの下、モジュールを組み合わせて多様なニーズに応えていくモジュール型のロボットが主流となるよう変えていくことも必要である。
- ・ITと融合したロボットへと変えていく。
「自律化」、「データ端末化」、「ネットワーク化」といった世界的な潮流をリードするロボットを創り、活かしていく必要がある。
- ・ロボットの概念も変えていく。
新たなイノベーションの潮流や発展の可能性を活かしていく上で、ロボットの概念を柔軟に捉えていくべきである。
- ・ロボットを活かすことができるような社会、制度に変えていく。
日常的に人とロボットが共存・協同する社会を実現するために必要な前提条件を整えることこそが、ロボットの能力を最大限活かす上で重要である。
このような「ロボットバリアフリー社会」を実現することも重要である。
ロボット革命で目指す三つの柱
- ・1.世界のロボットイノベーション拠点-ロボット創出力の抜本的強化
産学官の連携やユーザーとメーカーのマッチング等の機会を増やし、イノベーションを誘発させていく体制の構築や、人材育成、次世代技術開発、国際展開を見据えた規格化・標準化等を推進する。
- ・2.世界一のロボット利活用社会-ショーケース(ロボットがある日常の実現)
中堅・中小を含めたものづくり、サービス、介護・医療、インフラ・災害対応・建設、農業など幅広い分野で、真に使えるロボットを創り活かすために、ロボットの開発、導入を戦略的に進める。
- ・3.世界をリードするロボット新時代への戦略
ロボットが相互に接続しデータを自律的に蓄積・活用することを前提としたビジネスを推進するためのルールや国際標準の獲得を進める。
その際には、ロボット新時代の可能性を生かしていく上で基盤となるセキュリティや安全に係るルール・標準化などが不可欠である。
第四次産業革命におけるロボットの重要性
近年のロボットを取り巻く状況の変化は、従来からの製造現場で稼働するロボットに加え、物流施設や介護・医療、農林水産業、インフラや災害対応、建設など、幅広い分野でロボットの活用が進んでいます。
さらに最近では、IoTやAIとロボット技術が融合した先進的な取り組みが進んでいます。
産業用ロボット白書2017年版(一般社団法人 次世代社会システム研究開発機構)では、以下の通り述べています。
- ・産業用ロボットは日本の成長戦略を支える柱である。
- ・中国・新興国を中心に産業用ロボットの急速な需要拡大が見込まれる一方で、次世代ICT技術を活用した先進的な産業用ロボット、人口知能を搭載した次世代産業用ロボットの開発が国際的に活発な動きを見せている。
- ・また、これらは、デジタルファブリケーション技術、加工技術/微細加工技術、完全自動化生産システム、人間との協調技術、運搬・物流技術、IoTプラットフォーム、スマートファクトリー、産業用ドローンなど、隣接する領域・業界・技術にも大きな影響を与え、これらの相乗効果によって産業用ロボットの定義も更新・拡張されつつある。
また、2017年版ものづくり白書(2017年6月)では、「人手不足対策として最も重視する今後の取組」として、以下の記述があります。
- ・「ITの活用等による効率化」「ロボット等の導入による省力化」が1位、2位で計4割超となっている。
- ・現在は、定年延長等によるベテラン人材の活用の取組が中心であるが、今後は、ITやロボット等を活用した合理化・省力化に取組の重点が移ることが見込まれる。
- ・10年後現場力が低下すると答えた企業は、引き続きシニア・ベテラン人材の活用が最多なのに対し、現場力が向上すると答えた企業の今後の取組は、IT活用やロボットの導入等が最も多い。
10年後に現場力が向上するとする企業は、特にITの活用等による効率化を重視する傾向にある。
一方、2018年版ものづくり白書においては、第四次産業革命が到来する中、我が国のものづくり企業が直面する課題はより本質的で深刻であることを指摘しています。
そうした大規模な環境変化の中で変革に対応するに当たっては、企業経営者が下記の4つの危機感を持つことが重要であると述べています。
- ・1.人材の量的不足に加え、質的な抜本変化に対応できていないおそれ
- ・2.従来『強み』と考えてきたものが、成長や変革の足かせになるおそれ
- ・3.経済社会のデジタル化等の大きな変革期の本質的なインパクトを、経営者が認識できていないおそれ
- ・4.非連続的な変革が必要であることを、経営者が認識できていないおそれ
2019年版ものづくり白書(2019年6月)
2019年版ものづくり白書(2019年6月)においては、以下の通り指摘しています。
製造業においては、AIやロボット、IoTといった第四次産業革命の技術を活用し、製造工程の見える化やカイゼンの取組が広がりつつある。
さらに、「第四次産業革命下における我が国製造業の競争力強化につながる方策」として、以下の戦略をメッセージとして提起しています。
- ・1.世界シェアの強み、良質なデータを活かしたニーズ特化型サービスの提供
- ・2.第四次産業革命下の重要部素材における世界シェアの獲得
- ・3.新たな時代において必要となるスキル人材の確保と組織作り
- ・4.技能のデジタル化と徹底的な省力化の実施
特にロボット関係では、本文第2章第1節で、
AIやロボット、IoTなどの第四次産業革命下の技術の製造業への実装は、工場内の生産ライン合理化を中心に多くの企業に広がった一方で、今後は顧客や新たな市場、ニーズの開拓までを含む取組にデータを活用することが求められる第二段階を迎えている。
また、本文第2章第3節、第3章第1節では、
- ・我が国製造業の強みである熟練技能が現場に残っているうちに、デジタル化やAI化を進めることはまったなしである。
- ・製造技能のAI化の取組は、少しずつ進んでおり、一部実証、現実化されつつある。
さらに、本文第2章第3節では、
従前は人でしかできなかった作業について、AI・IoTをはじめとする第四次産業革命の技術革新により、それまでより効率的に実施できる事例が拡大し、ほぼ人のいないスマートな生産工程も増えつつある。
今後、クラウド化の進展によるネットワーク基盤の充実、多種多様な機器等へのセンサーが設置され、膨大なデジタル情報が収集・分析できるIoT社会の到来によって、ロボットは固有の制御系を持たなくとも「知能・制御系のみによって、社会の多様な場面で、多様なロボット機能が提供できるようになる可能性があります。
そうなると、「センサー、知能・制御系、駆動系」の3要素全てを兼ね備えた機械のみをロボットと定義することでは、実態を捉えきれなくなる可能性があります。
参考:ロボットに関係する主なサイト
ものづくり白書(METI/経済産業省)
「ロボット新戦略」関係
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
一般社団法人 日本ロボット工業会
ロボット革命イニシアティブ協議会
ロボット関係
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