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個人の意味形成から組織レベルの変化

意味ズレ統合モデル(MGIM:Meaning Gap Integration Model)は、マイクロ - メゾ - 組織レベルを循環的に接続する理論モデルです。
- ・個人が形成する意味の差異が組織内で「意味のズレ」として顕在化する過程を捉え、そのズレを検出・対話・翻訳・統合することによって、複数主体が協働可能な新たな共有意味を形成します。
- ・その意味が協働行動・組織学習・組織アイデンティティの更新を通じて、次の新たな意味形成に連動します。
組織における変革や経営上の問題は、単に「情報が共有されていない」ことによって生じるとは限りません。
同じ情報を受け取っていても、人によって認知、解釈、意味形成、感情、意図が異なるためです。
例えば、経営者が「DXによる業務改革」を「顧客価値を高めるための変革」と捉えていても、現場社員が「業務量が増える」「自分の仕事がなくなる」と捉えていれば、同じDXという言葉を共有していても、その意味は一致していません。
このように、同じ出来事に対して、組織内の主体が異なる意味を形成している状態を、意味ズレ統合モデル(MGIM)では「意味のズレ」として捉えます。
意味ズレは、なくすべきものなのか
最初に明確にしておきたいことは、「意味ズレは、必ずしも解消すべきものではない。」ということです。
組織には、経営者、管理職、現場、営業、技術、顧客など、それぞれ異なる立場があります。
立場が異なれば、同じ出来事に対する見方や価値判断が異なることは自然です。
むしろ、異なる意味が存在することは、多様な視点や新しい可能性を生み出す源泉にもなります。
問題となるのは、意味の違いが認識されないまま、意図や行動の違いとして表れ、組織の協働を阻害する場合です。
したがって、MGIMが目指すのは、組織内の意味を一つにすることではありません。
異なる意味を認識し、その違いを活かしながら、協働可能な新しい意味を形成することです。
人はどのように意味を形成し、行動するのか
人は、外部から与えられた情報をそのまま受け取って行動するわけではありません。
情報を認知し、自らの経験や知識、価値観などをもとに解釈し、「自分にとって何を意味するのか」を形成します。
MGIMでは、この個人レベルの主要なプロセスを、以下のように整理します。
- ・認知:対象や出来事について情報を取り込み、処理する心理的過程
- ・解釈:認知した情報を既存の知識や経験などと関連づけて理解する過程
- ・意味形成:出来事が自分や組織にとって「何を意味するのか」を構成する過程
- ・感情:出来事やその意味に対する評価などに伴って生じる情動的反応
- ・意図:特定の行動を実行しようとする主体の意思
- ・行動:主体が実際に実行する活動
- ・経験:行動とその結果を主体が経験すること
- ・学習:経験を振り返り、知識、行動、前提や意味づけを変化させる過程
- ・アイデンティティ:組織が「私たちは何者なのか」と理解する自己定義
これらは単純な一方向の因果関係ではなく、相互作用とフィードバックを伴います。
そのため、「認知 → 解釈 → 意味形成 → 感情・意図 → 行動 → 経験 → 学習 → アイデンティティ」を、MGIMでは「個人の意味形成から組織レベルの変化を考えるための主要な分析経路」として捉えます。
そして、学習やアイデンティティの変化は、再び次の認知、解釈、意味形成に影響します。
同じ出来事でも、意味は異なる
例えば、企業がDX推進に取り組むとします。
経営者は、「生産性を高め、顧客価値を向上させるための改革である」と意味づけるかもしれません。
一方、現場社員は、「業務を覚え直さなければならず、仕事の負担が増える」と意味づけるかもしれません。
さらに管理職は、「DX推進のための教育や運用責任が増える」と捉えるかもしれません。
同じ「DX推進」という出来事であっても、それぞれの意味は異なります。
その結果、期待、不安、警戒、積極性などの感情が異なり、行動意図も異なります。
そして最終的には、導入に積極的に協力する人、様子を見る人、抵抗する人など、行動の違いとして表れる可能性があります。
つまり、「意味の違い → 感情・意図の違い → 行動の違い」が生じる可能性があります。
ここに、組織における「意味ズレ」の重要性があります。
既存理論は何を説明してきたのか
心理学、組織行動論、経営学などでは、これらの現象について多くの研究が蓄積されています。

これらの理論は、それぞれ異なる重要な現象を説明しています。
しかし、MGIMが注目するのは、これらの理論そのものではなく、それらの理論によって説明される現象と現象の「間」です。
既存理論の「間」にある問題
個人が意味を形成することについては、センスメイキング理論(Sensemaking, Karl Weick)などによって説明されています。
個人の認知・行動・環境の相互作用については、社会認知理論(Social Cognitive Theory, Albert Bandura)によって説明されています。
感情については認知評価理論(Appraisal Theory, Richard Lazarus)、意図と行動については計画的行動理論(Theory of Planned Behavior, Icek Ajzen)、経験と学習については経験学習理論(Experiential Learning, David Kolb)、組織学習については組織学習理論(Organizational Learning, Argyris & Schon)、組織アイデンティティについては組織アイデンティティ理論(Organizational Identity, Gioia et al.)の研究があります。
しかし、組織内に異なる意味を持つ複数の主体が存在する場合、その意味の違いがどのように顕在化し、どのように相互理解され、どのように協働可能な意味へ変換されるのかというプロセスは、これらの理論を個別に見るだけでは十分に捉えにくい領域です。
MGIMは、この理論間の接続部分に着目します。
そこで、意味ズレ統合モデル(MGIM)
MGIMでは、異なる主体の意味形成の違いによって生じる「意味のズレ」を、組織変革における重要な現象として捉えます。
そして、その意味ズレを「検出 → 対話 → 翻訳 → 統合」の4つのプロセスによって扱います。
検出
- 組織内に存在する意味のズレを発見します。
- 単なる意見の違いだけではなく、認知、解釈、価値、感情、意図、役割認識などの違いを把握します。
対話
- 異なる意味を持つ主体が、自らの解釈や前提を表出し、相互に問い直します。
- 対話によって、これまで認識されていなかった意味のズレを明らかにします。
翻訳
- 異なる立場の人が持つ意味を、それぞれの背景や前提を踏まえ、相互に理解可能な形へ変換します。
- ここでいう翻訳は、単なる言葉の置き換えではありません。
「なぜ、その人はそのように考えるのか」という意味体系を相互に理解することを意味します。
統合
- 異なる意味を単純にどちらかへ合わせるのではなく、それぞれの意味を踏まえながら、協働可能な新しい共有意味を形成します。
- したがって、MGIMにおける統合とは、全員を同じ考えにすることではありません。
「違いを残しながら、共通して行動できる意味を形成すること」です。
意味の再創出(統合された意味)
意味統合から協働行動へ
意味が統合されても、それだけで組織変革が実現するわけではありません。
統合された意味を具体的な役割、責任、行動へ変換する必要があります。
意味統合 → 意図 → 協働行動 → 経験
例えば、「顧客中心の経営」という意味を共有しても、各部門が従来と同じ行動を続ければ、意味は行動へ転換されません。
そのためMGIMでは、意味統合と協働行動の間に、役割の翻訳、行動への意図形成、実行可能性などの条件が存在すると考えます。
これは、「意味が共有されたから必ず行動する」という単純なモデルではありません。
協働行動から組織学習へ
協働行動が実行されると、成功、失敗、想定外の結果など、新しい経験が生まれます。
その経験を振り返り、意味と行動の関係を再解釈することで、組織学習につながります。
協働行動 → 経験 → 振り返り → 組織学習
ただし、経験しただけでは組織学習になりません。
経験を記録し、共有し、標準化し、教育や制度に組み込むことで、個人やチームの経験を組織の知識へ転換する必要があります。
組織学習からアイデンティティ更新へ
組織学習が蓄積されると、「何をするか」だけではなく、「私たちは何者なのか」という組織の自己理解にも変化が生じる可能性があります。
組織学習 → 自己理解の再構成 → アイデンティティ更新
例えば、業務改善を継続することによって、組織が「指示された業務を遂行する組織」から、「自ら継続的に業務を改善する組織」へ自己認識を変化させることがあります。
一方で、学習が生じてもアイデンティティが必ず更新されるとは限りません。
過去の成功体験が固定化され、異論や外部情報が排除されると、組織学習がアイデンティティ更新につながらず、組織の意味が停滞する可能性があります。
MGIMは循環する
MGIMの特徴は、意味統合を一度行って終わるモデルではないことです。
意味統合 → 協働行動 → 経験 → 組織学習 → アイデンティティ更新 → 新たな意味形成 → (新たな意味のズレ → 検出 → 対話 → 翻訳 → 統合)
組織を取り巻く環境、戦略、人材、顧客、技術などが変化すれば、再び異なる意味が形成され、新たな意味ズレが生じます。
したがって、MGIMが目指すのは、意味ズレのない組織ではありません。
意味ズレを検出し、対話し、異なる意味を翻訳を通じて新たな共有意味へ統合し、その意味を協働行動、組織学習、アイデンティティ更新へつなげ続ける組織です。
意味ズレが停滞を生む場合
一方で、意味ズレが適切に扱われなければ、次のような失敗ループに陥る可能性があります。
意味のズレ → 協働行動の不成立 → 経験・学習の不足 → 過去の意味への依存 → アイデンティティの固定化 → 意味の停滞
この状態では、組織は新しい環境変化を十分に意味づけることができず、過去の成功体験や既存の前提に依存する可能性があります。
そこでMGIMでは、停滞が生じた場合にも、「停滞の検出 → 意味の再対話 → 役割の再翻訳 → 再統合」という回復プロセスによって、再び意味形成と協働の循環へ戻すことを想定します。
MGIMが目指す理論的貢献
MGIMは、既存の心理学、組織行動論、経営学の理論を単純に組み合わせることを目的とするものではありません。
個人の認知や意味形成、感情、意図、行動、経験学習、組織学習、組織アイデンティティについて蓄積された既存研究を基盤としながら、それらの現象を「意味ズレ」という視点から接続することを目指します。
その理論的特徴は、主に以下の3点に整理できます。
- 1.意味ズレの概念化
個人・部門・階層などの意味形成の違いを、組織における重要な現象として捉える。
- 2.意味ズレ統合プロセスの提示
「検出 → 対話 → 翻訳 → 統合」によって、異なる意味を協働可能な新しい意味へ変換するプロセスを説明する。
- 3.マルチレベル循環の提示
個人の意味形成から集団の意味統合、協働行動、組織学習、組織アイデンティティの更新までを接続し、それが再び次の意味形成へ影響する循環を説明する。
「意味ズレをなくす」のではなく、「意味ズレを活かす」
MGIMの基本的な考え方は、意味ズレをなくすことではありません。
組織において異なる意味が存在することは、自然なことであり、新しい発想や変革の契機となります。
重要なのは、意味の違いを放置して対立や非協働につなげるのではなく、意味の違いを検出し、相互に対話し、翻訳し、新たな共有意味へ統合することです。
そして、その新しい意味を協働行動へ転換し、経験から学習し、組織のアイデンティティを更新することで、組織は次の環境変化に対応することができます。
意味ズレ → 検出 → 対話 → 翻訳 → 統合
→ 協働行動 → 経験 → 組織学習 → アイデンティティ更新 → 次の新たな意味形成
この循環こそが、意味ズレ統合モデル(MGIM)が説明しようとする「意味ズレを起点とした組織進化」です。
MGIMは、意味ズレを解消するためだけの経営モデルではありません。
意味ズレを組織進化の契機へ変換するための理論モデルです。
参考
意味を共に創る「意味ズレ統合モデル(MGIM)」
-
意味の停滞を招く原因と対応策 | 失敗ループに陥らないためのMGIM循環プロセスを活用した回復モデル
-
意味ズレ統合モデル(MGIM)から意味の再創出(統合された意味) | プロセス循環で組織を累積的に進化
-
意味ズレ統合モデル成熟度尺度(MGIM-MS) | 意味の進化を測定して組織進化を再現可能にするモデル
-
意味ズレ統合モデル(MGIM) | 意味を創る出発点として、組織を累積的に進化させる循環プロセス
-
リーダーシップの本質的概念は意味のマネジメント | リーダーシップは意味づけのズレを統合するプロセス
-
社内政治と意味のマネジメント | 意味のマネジメントがすべて社内政治とは限らないが重要な要素
-
経営学における政治的視点 | 組織の政治的行動の理論から政治の建設的側面、構造変化対応へと変化
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